ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

スキャンダル

2020-02-21 00:44:17 | さ行

いま、大事な話!

 

「スキャンダル」71点★★★★

 

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2016年、全米NO.1の放送局「FOXニュース」に

激震が走る。

 

FOXニュースの人気キャスターだった

グレッチェン(ニコール・キッドマン)が

CEOから性的関係を強要され、

拒否したために降格され、結局解雇されたと告発したのだ。

 

現キャスターのメーガン・ケリー(シャーリーズ・セロン)は

その告発を聞いて、動揺を隠せない。

彼女もまた、キャリアと引き換えに

数々のいやな経験をしてきたのだ。

 

「同じ思いをしている人は状況を変えるために、名乗り出てほしい」――

 

そう訴えるグレッチェンに

メーガンは

自身の地位を捨てられるか? 正義とはなにか?を自問し、迷う――。

 

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2016年、全米ニュースで視聴率No.1だったFOXニュース。

その女性キャスターが

TV局のCEOをセクハラで訴えた――!という

実話に基づく物語です。

 

まずは

シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビー、と

主役級の女優たちが

題材の重要さに奮起されて参戦した、

その意義こそが素晴らしい!

 

キャスターという花形職業にあっても、

その命運を握るのは、上司のおっさん連中で

「有名になりたい? じゃあ、その見返りはわかってるよね?」と

当然のごとく、セクハラが行われていたわけで

しかも、拒んだ女性に、未来はなかったんですね。

 

だから、最初に告発をした

ニコール・キッドマン演じるグレッチェンは

「私も」と名乗り出てくれる女性がいることを期待して

勇気を出して、踏み出した。

 

でも、なかなか「私も」と言う人は現れないんです。

自分もそんなことをされてきた、ことを世間に知られる恥辱、屈辱もあるだろうし、

互いに競い合わされている、女同士の事情もある。

「あの人が降りたなら、私がその地位につけるかもしれない」って。

 

それに、自然と男子側=権力につくことを処世術に、

生き延びてきた女子もいるわけで。

 

そんななか、状況を動かすのは

「いまの状況を、下の世代につなげてはいけない」という思いなんですね。

素晴らしいな、と感じた。

 

ただ映画としては、少々地味で

正直なところ、

爽快な「巨悪をやっつけた感!」とは違うんです。

 

でも、これは大きな一歩。

 

いまの世の中は

同じ屈辱を味わいつつ、さまざまな理由で屈したり、

あるいは告発をつぶされた先人たちによって

少しずつ、開かれてきた道でもあるのだ、と思ったし

 

演じる女優たちもまた、

ハリウッドというシステムの中で同じ問題を共有しているのだろうと思うと

 

感慨深くもありました。

 

 

セクハラだけじゃなく、労働条件などにしても

「おかしい」と声をあげるには勇気もいるし、正直、うまくいくとは限らない。

でも、声をあげれば、きっと同じ人がいて

それが、後につながる可能性はある、と思えました。

 

そして

シャーリーズ・セロンを実在人物で全米に知られるメーガン・ケリーに作り上げた

カズ・ヒロさんがメイクアップ&スタイリングの

アカデミー賞を受賞してます!

 

当人であるメーガンさんはよく知らないのですが

「ロングショット」(19年)での好演も記憶に新しい

シャーリーズ・セロンの凛とした美しさ。

 

本作でもさらに

磨きかかりまくりでまぶしかったです。

 

★2/21(金)から全国で公開。

「スキャンダル」公式サイト

コメント (3)
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山の焚火

2020-02-20 00:06:49 | や行

自分映画史ベストワン作品。

 

「山の焚火」85点★★★★

 

******************************

 

ときはおそらく、1980年代。

 

人里離れたアルプスの山中に

父(ロルフ・イリック)と母(ドロテア・モリッツ)、

10代の娘ベッリ(ヨハンナ・リーア)と

その弟(トーマス・ノック)が暮らしている。

 

聾唖者の弟はときどき奇行を起こすが

無垢で、愛らしい存在であり

一家は彼を、やさしく見守っていた。

 

だが、夏の終わりに

ある出来事が起こりーー?!

 

******************************

 

スイスの巨匠、フレディ・M・ムーラー監督が

1985年に発表した作品。

 

といっても、ワシ

監督の名前もよく知らないまま(すみません・・・苦笑)

 

実はもう30年近く前、学生時代に

たまたま深夜にテレビで観て(たぶんミッドナイトアートシアター)

衝撃を受けて以来

自分映画史ベストワンにしていた作品なんですよね。

 

それが

デジタルリマスターで上映。

 

いや~懐かしい!

と感慨深く

 

同時に

自分の好きな世界、嗜好が変わってないんだなあと

驚きました。

 

人里離れたアルプスの山で

自然と静寂とともに、生きる家族。

 

その淡々とした日常には

人の暮らしの、たしかな息づかいがある。

 

そして外界から隔離されたその場所で起こる、ある出来事。

 

それは残酷でもあるけれど

なにか自然の摂理のようで

 

人間の根源を考えさせると同時に、

倫理を超えた神話的な美しさを持っていて

30年余を経ても、やっぱりぐっとくるんです。

 

いいなあ。

 

昨日の「名もなき生涯」の村も

ちょっとこんな感じだなあと

続けてアップしてみました(笑)

 

スイスの山岳地帯に生まれた

フレディ・M・ムーラー監督は現在79歳。

すでに映画制作からは引退しているそうですが

ほかにも「山三部作」とされる、山映画を撮っている。

 

今回はその

「われら山人たち われわれ山国の人間が山間に住むのは、われわれのせいではない」(1974年)と

「緑の山」(1990年)が

同時公開ということで

 

観に行きます!

 

★2/22(土)から渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。

「山の焚火」公式サイト

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名もなき生涯

2020-02-19 01:28:34 | な行

カンヌで大絶賛された

テレンス・マリック監督の新作です。

 

「名もなき生涯」75点★★★★

 

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1936年、オーストリアの山間の小さな村で

農業を営む、若き夫婦フランツ(アウグスト・ディール)と

ファニ(ヴァレリー・パフナー)。

 

出会った瞬間から惹かれ合った二人は

子にも恵まれ、

つつましいながらも、平和に暮らしていた。

 

だが、そんな村にも

ナチスドイツの影が少しずつ広がりはじめる。

 

「いったい、この国になにが起きているんだ?」

そしてフランツは、ある決意をするのだがーー?!

 

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ナチスへの忠誠を拒否した実在の農夫を描いた

3時間のテレンス・マリック・マジック。

 

監督は46年のキャリアのなかで

初めて実在人物を描いたそうで

うーむ、まずはその意味を噛みしめずにいられない。

 

 

めくるめく時間の流れや、人と人の触れ合いなど

「感触」を大事にするマリック節は

 

「ツリー・オブ・ライフ」(11年)とかハマると、とてつもなく良いんだけど

はずれると「男女が延々とイチャイチャしてる」となってしまい

少々用心が必要なのですが

(「トゥ・ザ・ワンダー」(13年)とか「聖杯たちの騎士」(16年)とかね・・・。苦笑)

 

 

でも今回は、そこに大きな意味があったので

アタリでした。

 

1936年、オーストリアの山あいの村。

めまいがするほど美しい風景と光、

そのなかで仲睦まじく暮らす若い夫婦の触れ合いが

平和の尊さをモリモリと伝えてくる。

 

やがて不穏な雲がわき始め、

夫フランツが、ナチスに従わず、兵役を拒否する決断をする。

 

その高潔な姿に感銘もするんですが、

まず、彼の行いを果たして「善」と言い切れるのか。

 

ほかの村人たちだって、いやいやながら従ってるんだぞと、

家族を守るために妥協もしてるんだぞと

お前のせいで、もしも村や家族に害が及んだらどうするんだ?となり

 

フランツと彼の妻、その姉、幼い娘たちは、

小さい村で村八分にされてしまうんですね。

 

それでも彼は、意志を貫くことを選ぶ。

彼の抵抗、その鉄の意志は凄まじい。

 

でも、決してフランツをヒーロー、聖人としてるわけでもなく

「なんで、この人、こんなに意固地なんだろう」とすら思えてくる。

そこがまたミソで

 

多勢に屈しないこと、なびかないことが

いかに難しいことかを体感しながら

 

結果、彼のその姿がいまの世に、これだけ響くことの意味を

受け止めずにいられない。

 

「暗い時代に人々は、よりズルくなる」

「不正を働くより、不正を働かれるほうがいい」

と映画のなかの言葉を聞きながら

 

ケン・ローチが描いてもおかしくない題材を

みんなが描く。

それほどに、世界の現状は本気でひっ迫しているんだと

感じるのでした。

 

★2/21(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「名もなき生涯」公式サイト

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1917 命をかけた伝令

2020-02-15 01:03:51 | あ行

祝・アカデミー賞撮影賞受賞!

戦争ものかあ、と最初は正直、思いました。

でも、

これを観ないのはモッタイナイ!

 

「1917 命をかけた伝令」75点★★★★

 

************************************

 

1917年。

第一次大戦のまっただ中にある、フランスの西部戦線では

ドイツ軍と連合軍が、にらみ合いを続けていた。

 

そんななか

連合軍に属する若きイギリス兵士スコフィールド(ジョージ・マッケイ)と

ブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)は

ある重要な任務を受ける。

 

それは、撤退したかと見せたドイツ軍が実はワナを張り、

先発した連合軍を待ち構えている、というもの。

翌朝の攻撃開始までに、その伝令を届けなければ、

味方全員が全滅する、というものだった。

 

二人の若き兵士は

ドイツ軍が築いたトラップのなか、

伝令を届けるべく、走り出すのだが――?!

 

************************************

 

第一次大戦中に、ある伝令を託された

二人の若き兵士のミッションを

止まることなきワンカットの方式で追う作品。

 

ホントに一度も止まることなくカメラがまわってる!

・・・・・・ようにみせて、実際は巧みにつないでいるそうですが

いや、長回しには変わりなく

誰も失敗できない!という、その緊張感はハンパないす。

 

それを実現した、名匠ロジャー・ディーキンスの超絶カメラワーク!

「ファーゴ」(96年)に始まり、コーエン兄弟のほとんどの作品を手がけ、

「プリズナーズ」(13年)「ボーダーライン」(15年)

そして「ブレードランナー 2049」(17年)

についで、アカデミー賞撮影賞を受賞した"マスター”ですからね。

 

このアイデアを思いついたら

ワシだって絶対に、まず彼のスケジュールをおさえただろうなあと思う。

映画にカメラマンがどれだけ重要な存在かを

身にしみて感じさせたことも、また功績だと思うんです。

 

「レヴェナント 蘇りし者」(15年)

カメラマン、エマニュエル・ルベツキと、このロジャー・ディーキンスは

ワシだったら絶対おさえたいカメラマンNO.1、NO.2なのだ(笑)

 

それに

戦火の没入感200パーセントな感覚は

決してアトラクション的な体験に終わらず、

「戦争とはなにか?」を、我々に確実に残してくれるんです。

 

敵陣を横切る「正気か?」な作戦のもと

伝令を届けることになった二人の兵士。

 

一歩先がわからないスリルと、行く先々で彼らが見る光景を

観客も体感することになる。

 

屍を踏みながら、彼らと走り続けることで

いやでも

何のために戦っているのか? どれだけの犠牲を払って?と

戦争の無意味と、虚しさを感じるはず。

 

それは、大事な感覚だと思うのです。

 

サム・メンデス監督が祖父から聞いた体験がもとになっていると聞いて

なるほど!と納得しました。

 

 

最後の最後にたどり着いた先で出会うのが

あの人、という

あの存在感もたまらないですね(笑)。

 

★2/14(金)から全国で公開。

「1917 命をかけた伝令」公式サイト

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グッドライアー 偽りのゲーム

2020-02-06 23:24:23 | か行

 ヘレン・ミレン×イアン・マッケラン。

名優のガチンコ、たまりませんなあ!

 

「グッドライアー 偽りのゲーム」74点★★★★

 

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老紳士ロイ(イアン・マッケラン)は

出会い系チャットで夫を亡くした夫人ベティ(ヘレン・ミレン)と出会い、

初デートにこぎつける。

 

「お酒はたしなむ程度」「タバコは吸いません」など

出会い系サイトの項目にビミョーにウソをついていた二人だが

会ってみたら意気投合。

 

じゃ、まあ、お付き合いしてみましょうか、となるのだが

実はロイはベテラン詐欺師で

未亡人ベティの財産をいただこうと彼女に近づいていた。

 

だが、なにやらベティも

無邪気に欺されるようなタマではないらしく――?!

 

*********************************

 

チャットで出会った初老男女の「偽り」を描く

スリリングなドラマ。

 

ヘレン・ミレン×イアン・マッケラン、

大英帝国勲章サー&デイムの称号を持つ名優による

だましだまされのストーリーとくれば

そりゃあ、たまらんです!

 

単純にみると

手練手管な詐欺師に

従順で世間知らずのお金持ち未亡人がだまされるのかしら?

 

って思うけど

だってあのヘレン・ミレンですから。

まさか黙ってだまされてるとは

だれも思わない(笑)

 

思わないんだけど、それを承知で

彼女のピュアそうな演技にだまされてしまう、

この妙技!

 

でも相手だって、

いくらでも、腹に一物、いや三十物くらいはあるだろう

イアン・マッケランですからね!

 

ここまで横綱同士だと、もうどっちがだましてようが

完敗!という感じですが

 

それでも

果たして、二人のどっちが上手なのか?――の攻防に

たいそう見応えがありました。

 

 

ストーリーが進むとともに

ナチスドイツ時代の因縁なども明らかになり

なにより、女性が受け続け、そしていまも消えてはいない傷や苦しみ――という

大きな視点にシフトしていく様子もおもしろかったです。

 

ラスト、マッケランの壮絶な老け具合に圧倒されます。

 

まあ、なんといってもドンパチなしで、

人を叩きのめすのって、楽しいなあ!(嫌なヤツ?ええ、そうですけど?笑)

 

★2/7(金)から全国で公開。

「グッドライアー 偽りのゲーム」公式サイト

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