ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

サマーフィーリング

2019-07-06 11:17:05 | さ行

「アマンダと僕」監督作品。

ワシ、こっちも好き。

 

「サマーフィーリング」80点★★★★

 

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ドイツ・ベルリンの、ある朝。

サシャは目覚めると

シャワーを浴び、コーヒーを飲み、身支度をする。

 

ベッドでは

ボーイフレンドのロレンス(アンデルシュ・ダニエルセン・リ-)が

まだ眠っていた。

 

サシャは緑溢れる公園を横切って

職場に出かけていく。

 

が、平穏な1日を終えて、家へ帰る途中、

サシャは突然、倒れて帰らぬ人となってしまう。

 

病院に集まったサシャの家族とロレンスは呆然とする。

ロレンスは、サシャの面影のある妹ゾエ(ジュディット・シュムラ)の顔を

しっかり見られない。

 

そして1年後。

ロレンスとゾエは、それぞれに喪失と向き合っていた――。

 

********************************

 

 

「アマンダと僕」監督がアマンダ~より前、

2015年に撮った作品です。

 

恋人を亡くした青年の喪失と回復を、穏やかに描き、

テーマも「アマンダ~」に重なる。

 

しっかし、ミカエル・アース監督はガチでうまいなあ。

 

日々のなんでもない世界の輝きを

緑と光いっぱいに描く。

そのなかで、突然の喪失がある。

 

それでも、世界は続き

残された人は、日々を生きていく。

 

喪失から時間がたっても、突然悲しみが「ぶわっ」と込み上げてきたり

突然、どうしようもない寂しさに襲われたり。

 

そんな人の心の動きを、繊細にやさしく描き、

誰の心にもあるだろう悲しみの傷や痛みに

そっと触れてくるんですよね。

 

目にする限り、インタビューなどでは明言していないようだけど

喪失、兄妹、子ども、人と人の距離――

同じテーマを繰り返すことには、

やはり自身の体験に、関係あるのだろうか、と思ってしまう。

 

そして「アマンダ~」の主人公ダヴィッドと同様、

常に手ぶらで、Tシャツにジーンズで

フラッと街を歩くロレンス。

 

スマホもいじらず、人と会話し、風に吹かれる彼は

なんだか「生きている」感じがするなあと、思う。

 

ロレンス役のアンデルシュ・ダニエルセン・リーは

ウトヤ島の事件を描いたNetflixドラマ、「7月22日」の記憶も新しい俳優。

この人、医者でもあるんだって!マジか。

ゾエ役のジュディット・シュムラは

「女の一生」(16年)の印象深いヒロイン。

 

同じ喪失を共有しつつ、別々に時間を進めていく。

この二人の距離感も、好きでした。

 

★7/6(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国で公開。

「サマーフィーリング」公式サイト

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田園の守り人たち

2019-07-05 23:49:03 | た行

ミレー絵画のような世界。

そして、すくっと立つ少女の登場シーンに、

なぜか宮崎駿世界を想起しました。

 

「田園の守り人たち」80点★★★★

 

*************************************

 

1915年、第一次世界大戦下の

フランスの田園地帯。

 

男たちは戦地へと赴き、

残された女たちが、家や畑を守っていた。

 

そんななか

農園の夫人オルタンス(ナタリー・バイ)は

長女(ローラ・スメット)と二人で馬で畑をすき、種をまき、収穫に備えている。

 

あるときオルタンスは孤児院出身のフランシーヌ(イリス・ブリー)を

手伝いに雇い入れる。

若く溌剌とし、なにより労を惜しまずに働く彼女は

みんなの人気者になる。

だが、ある出来事が起こり――?!

 

*************************************

 

「神々と男たち」(11年)の監督作品。

これもまた、名作になりにけり。

 

1915年から1920年のフランスの田舎が舞台。

男たちは戦地に行き、残された女たちが、畑と家を守っている。

 

彼女らは一様に、戦地にいる夫や息子を案じながら

不安のなか移りゆく季節を、凛と前を向き、1日1日、生きている。

畑仕事をする彼女らの姿は

まさにミレーの絵画「落ち穂拾い」「種をまく人」のように静謐で

 

繰り返される人の営みの尊さ、美しさが

胸に刻まれる。

 

そんな映像のなか

ヒロインの一人である、まっすぐな若き娘が、

農家に働きにやってくる。

 

その最初のシーンで、なぜか宮崎駿作品を強烈に想起しました。

フランスの田舎の話なのに(笑)。

 

映画は格別な起伏を作ることなく進むんですが

しかし戦地に行った男たちの訃報が舞い込み

女たちは静かに泣き崩れる。

 

そして農園の女主人オルタンスも

長男を失う、悲劇に見舞われる。

農園には、味方として闘うアメリカ兵が物資をもらいにやってくる。

 

そんななかで、少しずつ、なにかが変化し

ある出来事から

働き者の少女は農園を追われてしまうんですね。

 

「正しく、公平な人だと思っていたのに。あなたは怪物よ」

 

――振り絞るように少女が投げた言葉がつぶてのように、

女主人の大地に染みこんでいく。

 

少女はどうなるのだろう?

農園の行く末は?

 

真っ暗、ではなく未来がほんのり輝くラストもいいです。

 

農園の女主人と、その娘役は

実際の親子なんです。いいキャスティングですねえ。

 

それにしてもこの時代から、

もう100年の時が経っているのか!

ふと気付いてびっくりしました。

 

チラシにコメントを寄せさせていただきました。

畏れ多くも

加藤登紀子さん、池内紀先生に挟まれるという配置におののきましたが

ぜひお手にとって、劇場へGO!してくださいませ。

 

★7/6(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「田園の守り人たち」公式サイト

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ゴールデン・リバー

2019-07-04 23:55:28 | か行

ジェイク・ギレンホールつながり(笑)

いや、でも、マジで予想以上。

 

「ゴールデン・リバー」71点★★★★

 

********************************

 

1851年、西部開拓時代のアメリカに

最強と恐れられる殺し屋兄弟がいた。

兄(ジョン・C・ライリー)と

弟(ホアキン・フェニックス)。

 

彼らは

「化学者(リズ・アーメット)を始末せよ」との命令を受けて、彼を追う。

化学者は、その情報をもたらした

仲間の連絡係(ジェイク・ギレンホール)と一緒にいるはずだった。

 

しかし、情報の場所に彼らはいなかった。

「連絡係が裏切ったのか?」――

二人を追う兄弟に、思わぬ事態が待ち受けていた――。

 

********************************

 

正直、西部劇って、あんま得意じゃないんです。

 

この映画も

ゴールドラッシュの時代、殺し屋兄弟、無法者、血、馬――と

アイテムは完全に西部劇なんで

うーん、どうなんだろ、と思ったんですが

これはなんとも・・・・・・不思議な魅力を持ってた。

マジで想像以上のものをいただきました。

 

なんたって監督が

「預言者」(12年)「ディーパンの闘い」(16年)

ジャック・オーディアール。

フツーの西部劇をリスペクトしつつ、違うものを生み出そうとする

意欲と意思を強くリスペクトします!

 

 

冒頭、闇の中で火を噴く撃ち合いシーンから

「なんか、ちょっと違う?」なテイストを感じさせる。

 

それでも途中までは

ドンパチあり、馬や動物の扱いが気の毒だったり(これがやなんだよね、西部劇・・・)、

微妙な心持ちなんですけど

いや、がんばって続けて観た方がいい。

 

まず、「おとなのけんか」(12年)でワシ大好きなジョン・C・ライリー演じる

殺し屋の兄のキャラクター造形がうまいんですよね。

 

無骨な顔と裏腹に

新製品の歯ブラシをいち早く使ってみたり、馬への慈しみといい、

とにかく繊細なキャラで、

そのギャップ使いがうまーい。

 

その兄と

弟でキレがちな殺し屋(ホアキン・フェニックス)の対比もおもしろい。

 

で、彼らが追うのは

砂金のありかを見つける薬品を開発した化学者(リズ・アーメット)。

 

そして、この化学者が求めるのは

「金」ではなく

野蛮で不毛な殺し合いの続く「西部劇」の時代からの脱出なんですね。

 

そんな化学者のビジョンに

本当は殺し屋側でありつつも

次第に化学者の味方になっていく連絡係(ジェイク・ギレンホール)。

 

時代とともに、社会が変革する。

そんな時代の変わり目を

西部劇の登場人物たちが、どう過ごすのか。

みんな、ホントに殺し合いなんてしたいの?

 

そのへんにテーマが設定され

ラスト、

優しい日差しに揺れるカーテンに

さまざまを思うのでした。

 

★7/5(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「ゴールデン・リバー」公式サイト

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ワイルドライフ

2019-07-02 01:27:30 | わ行

ポール・ダノ初監督作。

やっぱセンスいいなあ!

 

「ワイルドライフ」74点★★★★

 

***********************************

 

1960年代、米モンタナ州の田舎町。

 

14歳のジョー(エド・オクセンボールド)は

ゴルフ場で働く父(ジェイク・ギレンホール)と

元教師でいまは専業主婦の母(キャリー・マリガン)のもとで

平穏に日々を送っていた。

 

が、ある日、父がゴルフ場の仕事を解雇されてしまう。

 

そして父はボランティアといっていいほど安月給なのに、めちゃ危険な

山火事消火の仕事に行くと言い出した。

 

ずっと父をたてていた母だが

「あなたは逃げているだけよ!」と

仲良しだった夫婦に、口論が増えていく。

 

やがて母は生活のために働きに出るといい

濃い化粧をして出かけるようになった。

 

次第に、噛み合わなくなっていく夫婦。

そんななかでジョーは、自立せねばと

地元の写真館でアルバイトを始めるのだが――?

 

***********************************

 

いや~、マジ、びっくりしました。

ポール・ダノ、初監督とは思えないセンス!このクオリティ!

 

名作「リトル・ミス・サンシャイン」(06年)で

超ナイーブな青年を演じ

その後「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(07年)で

ヤバい宣教師を快演し

私生活でもパートナーであるゾーイ・カザンとの「ルビー・スパークス」(12年)などなど

センスよし&個性派の筆頭であるポール・ダノ。

 

本作はゾーイ・カザンとの共同脚本だそうで

うん、この人、本物だった!

 

なによりまず

主演二人がキャリー・マリガン×ジェイク・ギレンホールって

おいしすぎでしょ(笑)

 

で、内容は

1960年代のモンタナ州の田舎町を舞台に、

すこしセピアがかった懐かしい雰囲気のホームドラマで

1シーン、1カットが

写真集の1ページのように大切に作り込まれてる。

 

もちろん、お話のほうも、ちゃんとしてます。

 

平凡ながら幸せな30代の夫婦と、おとなしめで優しい雰囲気の息子。

そんな優良家族が、父親の失業で少しずつ、ほころびを見せていく。

 

「心を燃やすなにか」を探し、

いまだ大人になりきれない30代の父と母。

そりゃそうですよね、30代なんてそんなもんですよ。

 

でも、子から見れば、父と母は絶対的な大人なわけで。

 

本作は少年が

「父と母」が絶対ではなく、「それぞれ、ひとりの男と、女なのだ」と気づき

嫌悪し、失望しながらも

それを認めることで

大人になっていくプロセスを

やさしく、繊細に描いているんです。

 

それが、まあ、いい感じなのですわ。

 

そしてジョー役のエド・オクセンボールド君がまた

ポール・ダノの分身か?!ってほどに

そっくりなのも興味深いのであります。

横顔から鼻のラインとか、似すぎよ(笑)

いいねえ。

 

おなじみ映画.comさんで

本作のレビューを書かせていただいております。

併せてご参考くださいませー。

 

★7/5(金)YEBISU GARDEN CINEMA、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「ワイルドライフ」公式サイト

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Girl/ガール

2019-07-01 22:59:46 | か行

この主演の子は誰?と釘付け。

 

「Girl/ガール」75点★★★★

 

**********************************

 

ベルギーに暮らすララ(ビクトール・ポルスター)は

バレリーナを目指す15歳。

 

その才能から

国内有数のバレエ学校への入学を認められ、

理解ある父(アリエ・ワルトアルテ)と6歳の弟(オリバー・ポダル)と

バレエ学校に通える地へと引っ越してきた。

 

シングルファザーである父のもと

母親代わりに弟の面倒を見るララは

まさにお母さんであり、よきお姉さん。

 

が、実はララは男性の体をもって生まれてきた

トランスジェンダーだった。

 

手術を受けるにはまだ年若すぎる彼女は

まずはホルモン療法で

女性らしい体になるステップを踏もうとしている。

 

家でもバレエ学校でも

どこから見ても完ぺきに「女の子」なララだが

実は毎朝、入念に股間をテーピングし、

レッスンの間にトイレにも行けず

人一倍の苦しみを抱えていた。

 

が、そんなことをおくびにも出さず

ララは夢に向かって

努力を重ねていたのだが――?

 

**********************************

 

この主演の子は誰なのだろう?

どうやって見つけてきたのだろう?と、

まずはそればかりに心を奪われてしまった。

 

実在のトランスジェンダーのバレリーナがモデルと聞いていたので

ドキュメンタリー?いや

本人が自身の人生を振り返って演じているのかなあと

信じ切って105分を観ましたw

 

で、見終わって、男性ダンサーの挑戦だったと知り、

いまだ信じられません!

それほどに、主人公ララが素晴らしい。

 

そのたたずまいも、ありようも

身を切るほどに痛ましく、美しいのだ。

 

不在の母に変わり、まだ幼い6歳の弟の面倒をみる

その横顔には母性が溢れ出ているし

日々、丁寧に美しく身を整える彼女に

背筋が伸びる思いがする。

 

心と相容れない身体は

どんなにか憎くいまいましいだろうに、

彼女はそんな身体を大切にし、

ホルモン治療での少しの変化を期待しながら、愛しんでもいる。

彼女のそんな丁寧な所作に、

自分の体をあまりに雑に扱っている自分を恥じてしまうほどです。

 

そして念願のバレエ学校に通い、

文字通り血のにじむようなレッスンに耐え

同級生たちの、受け入れているようで微妙な視線やいじめにも耐える。

 

全てを内に隠し、秘め、

外に出そうとしない彼女の身を切る想いが伝わり、

張り裂けそうになりながら、見守ってしまうんですねえ!

 

本物のダンサーが演じているだけあって

バレエのレッスンシーンも丹念だし

 

 

そして

これだけ理解ある父や周囲に囲まれていても、

なお、彼女は苦しむんです。

その痛みが我が身のことのように苦しい・・・。

衝撃的なラスト、そして、その先の光、と

ぜひ見極めていただきたいです!

 

★7/5(金)から新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマほか全国で公開。

「Girl/ガール」公式サイト

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