ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

魂のゆくえ

2019-04-14 23:37:11 | た行

本年度アカデミー賞脚本賞ノミネート。

 

「魂のゆくえ」68点★★★☆

 

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ニューヨークにある小さな教会で

牧師を務めるトラー(イーサン・ホーク)。

 

信者に真摯に対応するトラーだが

実際、小さな教会は存続が難しく、

この教会も母体である大規模な教会団体と、

大口寄付をしてくれる企業ありきで成り立っていた。

 

そんなあるとき、トラーは礼拝にきていた

若く美しい女性メアリー(アマンダ・セイフライド)から

相談を持ちかけられる。

 

環境活動家の夫が、現状を憂い、

ふさぎこんでいるというのだ。

 

トラーは彼女の夫に会い、

相談にのってやるのだが――。

 

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「タクシードライバー」(76年)の脚本家として知られる

ポール・シュレイダー監督作品。

 

描かれるのは大きく「神の沈黙」であり

現代アメリカにおける、宗教の現状。

監督自身が、禁欲的な信者の両親のもとで育ったそうで

このテーマを50年近くも温めてきたんだって。

 

クラシカルなタイトルバックをはじめ

映像を構成する美術も茶や白、黒でミニマルに計算されつくしていて

内容も含めて

壁に品よくおさまり、しかし非常に印象的な絵画のような

「高潔」の美学を感じました。

 

 

初っぱな。主人公の牧師トラー(イーサン・ホーク)が

「1年間限定で」日記を書き始めるというところから始まり

どうやら、彼が病にかかり、

人生の終結を決断しているらしい、っていうのがわかる。

 

それにはさまざまな理由があった。

 

まず、彼の過去。

彼の家は代々「従軍牧師」であり、自分もそうだったし

息子も「従軍牧師」になった。

だが、そのことで悲劇が起こるんですね。

 

次に、相談を受けていた美人信者の夫で、

環境活動家である人物が

「変わらない世界」を憂えて自殺する。

 

さらに彼は自分の教会が

まさにその「環境破壊を引き起こしているブラック企業」の寄付に頼らなければ

存続できない、という現実にぶちあたる――。

 

「神はなぜ、苦しめる?」の問いのなか、

さまよう主人公の様子は

答えのない問いにハマるしんどさ、虚無さをよく表している。

 

イーサン・ホークも、なにか一歩抜けた!という感じの演技。

 

なのですが

やはり宗教内容なので、ちょっと取っつきにくいことと

さらに

最後、たまさか、のように起こる救いが

すごーくシンプルで、根源的で

「結局、それかい!」と拍子抜けだった・・・・・・かな。

まあ、たしかに

「愛がすべて」ですけどね。

 

そうそう、プレス資料によると監督は

「イーダ」(14年)の監督と食事したときに

「この映画を作らねば!」と思ったそうです。

「イーダ」、いい映画だったもんね~

 

★4/12(金)からヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿ほか全国で公開。

「魂のゆくえ」公式サイト

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芳華

2019-04-13 23:29:36 | は行

1970年代からの中国変動を織り込んだ

みずみずしい青春ドラマ!

 

「芳華」72点★★★★

 

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1976年、17歳の少女シャオピン(ミャオ・ミャオ)は

踊りの才能を認められ、

名誉ある軍の舞踊班「文芸工作団(文工団)」に入団する。

 

田舎出のシャオピンは、同級生たちのイジメにも遭うけれど

面倒見のよい“模範的”青年リウ・フォン(ホアン・シュエン)が

何かと世話を焼いてくれる。

 

シャオピンはリウ・フォンに淡い想いを抱くが、

彼は文工団のスター歌手、ディンディン(ヤン・ツァイユー)に想いを寄せていた。

 

そして同年、毛沢東が死去。

 

社会は騒然とし、文工団の公演も中止になる。

そして、ひたひたと近づく新たな時代の波に

団員の若者たちの運命も、翻弄されることになる――。

 

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1970年代からの中国近代史を描く一大叙事詩であり、

かつみずみずしい青春ドラマで

135分を飽きさせず、するすると見てしまいました。

 

 

文革時代、軍のなかで歌や踊りを担当する部署「文工団」に所属した

若き少年少女たちの日々。

その輝きのまぶしさ、すれ違う男女の想い、

そして壮絶な戦火のなかでの運命、さらにその後――が描かれます。

 

最初は登場人物の顔と名前がなかなか一致しなくて

苦労もしたんですが、

慣れてくると、激動の、しかもごく最近の歴史を生きた

 市井の人々のドラマチックな物語にハマるんですねえ。

(だって1976年から95年って、めちゃくちゃ同時代の話だけど

中国のこんな状況、当時は全然知らなかったもの!)

 

1958年生まれのフォン・シャオガン監督は

自身も「文工団」に所属した経験を持っている。

その時代に想ったある人、ある出来事を

ずっと描きたいと思っていたそうで

 

うん、その甘酸っぱい想い、映像のみずみずしさが

ものすごく伝わってくる。

時代や状況は違っても、誰もにある青春の日を

懐かしく思い出させるだろうなと感じました。

 

★4/12(金)から新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。

「芳華」公式サイト

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マローボーン家の掟

2019-04-11 23:05:16 | ま行

「永遠の子どもたち」に通じる

これぞスパニッシュホラーの正統系譜!

 

「マローボーン家の掟」73点★★★★

 

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1960年代の米・メイン州の古い屋敷に

マローボーン一家が引っ越してきた。

 

シングルマザーである母ローズ(ニコラ・ハリソン)と

責任感の強い長男(ジョージ・マッケイ)、

妹、弟、そしてまだ幼い末の弟の5人家族は

祖国イギリスでのある過去を捨てて、新たな一歩を踏み出そうとしていた。

 

だが、ほどなくして母ローズが病に倒れ

亡くなってしまう。

 

力を合わせて生き抜くことを決意した

4人の子どもたち。

 

が、それ以来、

屋敷に不気味な現象が起こり――?!

 

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うわ、こっわ!

 

でも、こうして新しいものに出会えるから

ホラーは怖いけどやめられない!んですよねえ。

 

 

ギレルモ・デル・トロが製作総指揮した

「永遠の子どもたち」(07年)のJ・A・バヨナ監督が

今度は「永遠の~」の脚本家が監督した

この映画を製作総指揮している。

 

 

スペイン映画界の“ホラー&ダーク”の才能の系譜が

脈々と受け継がれている、って状況に

熱くなると同時に、鳥肌立つというか(なんなんじゃー!)

 

 

で、映画はというと

やっぱり単なる“脅かし”ではなく、

ラストもきちっと収束した、見応えある物語でした。

 

 

冒頭から恐怖をあおるようなことはせず、

どこか穏やかな「ことの後」のような雰囲気を漂わせるあたりが、実にうまいし

 

その穏やかさに

「これ、ホラーなの?」という疑問符を持ちながらスタートし、

のちに、そんな「ことの後」感さえも

伏線になっていた――とオチるんですよね。

 

白昼の光のなかで“怖さ”を演出する挑戦、

子ども使いの巧み、

根源にある“悲しみ”――

 

さらに、直接的ではなくとも

どこかにスペイン内戦という近い歴史と悲劇を

忘れずに内包し、血肉にしている感じは

昨今、国際的評価を得ている作家に共通しているものだと感じます。

 

 

それにね、途中まで、ある程度は想定できたけど

このラストは想像しなかったなあ!

 

ぜひ、劇場で

ヤラレタ!となってください。

それが楽しいんだと思うのです。

 

★4/12(金)から新宿バルト9ほか全国で公開。

「マローボーン家の掟」公式サイト

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ビューティフル・ボーイ

2019-04-09 23:18:50 | は行

ティモシー・シャラメ×スティーヴ・カレル。

ラストのブコウスキーの詩も、グッと効くなあ。

 

「ビューティフル・ボーイ」72点★★★★

 

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著名な音楽ライター、デヴィッド(スティーヴ・カレル)はいま

息子ニック(ティモシー・シャラメ)のことで

深刻な問題を抱えていた。

 

ニックは成績優秀で6つの大学に合格し、スポーツも万能。

デヴィッドと再婚相手との間に生まれた幼い弟たちの良き“兄”でもあった。

そんな“理想の息子”だったニックは

いまやドラッグ依存に陥っていたのだ。

 

ニックが何かをしでかすたび

警察に病院に迎えにいくデヴィッド。

 

そのたびに「もうやらない」と言う息子を信じてきたデヴィッドだったが――?!

 

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深刻なドラッグ依存症に苦しみながら

のちにNetflixのあの「13の理由」脚本家となった

ニックの実体験を基にした物語。

 

「君の名前で僕を呼んで」(18年)

ティモシー・シャラメがドラッグに墜ちていく息子を演じ、

ボロボロになりつつも、その根源の“美しさ”を感じさせる様が

大きなポイントになっとります。

彼じゃなきゃこの映画、辛すぎたかもしれない。

 

 

さらに大きな特徴は映画が、息子ニックの状態に苦悩する

父親の視点で描かれていること。

 

というのも実はこの話、

ニックと、父がそれぞれに当時を振り返った回顧録がベースになっているんです。

なるほど!と納得でした。

 

あんなに美しかった息子が、なんでこうなってしまったのか?

――と、息子同様に苦しむ父親の苦悩が、あまりにリアルで

しかも、演じるスティーヴ・カレルがこれまでにないほどよかった!

 

カメレオン役者で、演技派なのは重々承知だけど

どうも「声がでかい」「人物造形法が大きい」印象があったんですが

いや~今回は心震えました。

 

 

それにしても

「もうドラッグはやめる」と言いながら

延々と立ち直れず、何度も同じ過ちを繰り返す若者を見るのは

やはり観客にとっても辛いもの。

 

でも、次第に、問題が「ドラッグ」にあるのではなく

「問題」のほうが先にあるんだ、とわかってくる。

 

ガス・ヴァン・サント監督の新作「ドント・ウォーリー」(5/3公開)では

主人公が抱えるアルコール依存の原因が

ある「問題」にあるのだ、とわかるし、

 

ルーカス・ヘッジズがやはり薬物依存の若者を演じる

「ベン・イズ・バック」(5/24公開)でも、同じ。

 

 

こうした作品が教えるのは

根源にある「問題」と本人が向き合い、周囲はそれをいかに理解し、支えるか、ということ。

 

そのプロセスこそが

重要だ、ということなんだと思います。

 

 

エンドロールに被さる

チャールズ・ブコウスキーの詩の朗読が、また沁みるんですよねえ。

 

結局、解決の術は、当人しかない。

でも「それ」が訪れるときは、必ず来る。

そう信じたくなりました。

 

そして、映画.comさんにもレビュー掲載されております。

ぜひ、映画とあわせてご一読くださいませ~

 

★4/12(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「ビューティフル・ボーイ」公式サイト

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荒野にて

2019-04-08 23:25:25 | か行

 

「さざなみ」(16年)監督の新作。

ものすごくよかった。

 

「荒野にて」81点★★★★

 

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米オレゴン州のポートランド。

15歳のチャーリー(チャーリー・プラマー)は

父(トラヴィス・フィメル)と二人暮らし。

 

母は幼いころに家を出てしまい、

チャーリーは学校へも行かず、孤独で所在ない日々を送っていた。

 

そんなある日、彼は家の近くの競馬場で

厩舎のオーナー、デル(スティーヴ・ブシュミ)と出会う。

 

素直に仕事をこなすチャーリーを気に入ったデルは

彼に競走馬リーン・オン・ピートの世話を託した。

 

だが、ある事件が起き、チャーリーは本当に独りぼっちになってしまう。

さらに、年老いたピートが競走馬としてお役御免になると聞き

チャーリーはある行動を起こすのだが――。

 

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1973年、英国生まれのアンドリュー・ヘイ監督

この人は、なかなかすごいですぞ。

 

お役御免になった競走馬と、孤独な少年の逃避行。

特に動物好きには最初から、悲しい予感しかしないけど、

で、実際悲しいんだけど

込み上げる鑑賞後感が、絶対に観てよかったと言っている。

 

 

父亡き後、独りぼっちになった少年は

疎遠になっている叔母という、あまりにも細い糸を頼り、希望をつないで、

馬と旅に出る。

 

馬にも少年にもめでたし、めでたし、なんて起こらない。

 

ドラマチックをあおらず、

全てが淡々と残酷で、

しかし、だからこそドラマが際立つんですねえ。

 

 

そして彼の、そして物語の、たどり着く先に涙。

 

少年のか細い首を、

何度も何度も、抱きしめてあげたくなる瞬間がありました。

 

ブルーな悲しみと愁いをたたえた色調は「さざなみ」っぽく、

テーマや人物設計には

どこかダルデンヌ兄弟の「少年と自転車」(12年)

も感じる。

 

逃避行のあいだ、

決して馬に乗ることなく、馬と並んで歩き続ける少年チャーリーの

善なる心と、誠実な働きぶりが、

彼の未来がきっと正しきものになる、と感じさせてくれるのがいい。

 

そんな少年をセンシティブに演じ切ったのは

「ゲティ家の身代金」(17年)で人質にされた少年を演じた

チャーリー・プラマー。

次世代のスター誕生に、喝采!です。

 

★4/12(金)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。

「荒野にて」公式サイト

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