ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

レディ・プレイヤー1

2018-04-16 23:49:54 | ら行

 

たしかに別世界を体験した感はあり。

 

「レディ・プレイヤー1」69点★★★★

 

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いまから遠くない未来の、2045年。

環境は汚染され、貧富格差は広がり、世界は荒廃している。

 

だが、人々はVRゴーグルをつけ、

その内部の仮想世界「オアシス」で、理想の自分になって

人と交流したり、遊んだりすることで

人生をなんとかやりすごしていた。

 

17歳の青年ウェイド(タイ・シェリダン)も、そんな一人だ。

ある日、「オアシス」の創始者が亡くなり、その遺言に世界は騒然とする。

それは

「オアシスに隠された3つの謎を解いた者に、莫大な財産とオアシスの権利を渡す」というもの。

 

ウェイドは「オアシス」で出会った仲間たちと

謎を解くための戦いに挑むのだが――?!

 

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スティーブン・スピルバーグ監督が、

最先端のテクノロジーによるビジュアルで

新たな表現に挑んだ作品。

 

なんですが、まず、ワシ、これ

VRゴーグルつけて見る映画なのかと思ってた(笑)。全然、わかってませんでした。

 

そうではなく、

いま多くの人がやっている(の?知らないけど)

通信型のゲーム世界のなかが、もっとリアルになったような話。

 

ファイナルファンタジーと現実映像のミックスというか、

ゲーム世界はリアルなアニメで描かれ、

実世界は実写で描かれ、そのふたつが混じり合って、話が進んでいく。

 

 

うーん、別世界を体験した感は大きいけど、

ごめんね、おばあちゃんには話がよくわからんのよ(笑)

いや、なんとなくは分かるんだけど、この映画が伝える意味がわからん。

 

結局、「バーチャルよりリアルが大事」ってこと?

いや、いまとっくに起きている事態を、より美しい映像で描いてるだけなのかしらん。

 

ただ映像はすごくきれい。

80年代ヒットソングはじめ、コンピュータ黎明期からのゲームやサブカルネタも満載で

このへんはわかるものもあってオモシロイ。

 

ワシも明らかにターゲット世代……のはずなんだけど、いや、もうちょい上なのかなあ。

宮部みゆきさんとか好きそうだなあと、思うのでありました。

 

★4/20(金)から全国で公開。

「レディ・プレイヤー1」公式サイト

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さよなら、僕のマンハッタン

2018-04-13 23:52:27 | さ行

 

「ギフテッド」マーク・ウェブ監督が

「(500)日のサマー」以前に惚れ込んだ脚本だそうです。

 

「さよなら、僕のマンハッタン」68点★★★☆

 

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NYに生まれ育ったトーマス(カラム・ターナー)は

親元を離れ、自分探しの真っ最中だ。

 

出版社を営む父(ピアース・ブロスナン)は

「うちの会社で働け」と言うけれど、素直に受け入れることはできない。

 

そんなある日、トーマスは

アパートに越してきた中年男性(ジェフ・ブリッジス)に話しかけられる。

 

一見、妖しげだが、話を聞いてくれる彼に

トーマスは親にも言えない悩み――好きな女の子のこと、しかし彼女には彼氏がいること

ゆえに自分は人生が八方ふさがりなのだー―と、打ち明け始める。

 

そんなトーマスは、さらに驚くべきことを知ってしまい――?!

 

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ウディ・アレンを思わせる

ニューヨーク舞台の青春ドラマ。

 

かつてアート&カルチャーの発信地として盛り上がり、

しかしいまは、ちょっと“旬をはずした”感じのニューヨークの

もやっとした感がおもしろかった。

 

主演は「ファンタスティック・ビースト」続編出演のカラム・ターナーで

やわ~な感じのメガネ男子っぷりはなかなかいいし、

オチに向かって明らかになる、彼の秘密など

主軸の話は悪くない。

 

でも、なんというか

素材はよくある感じなんですよね。

不倫とか、父子の不仲とか。

 

だからもひとつ、響いてこなかったのかな……。

 

それに

いまどき、こんなに出版業界って羽振りがいい?とか

作家のステイタスって、こんなに高い?とか

そういう部分に、ちょっと懐古主義的な感じがしてしまった。

 

でも

NYが好きで、「いま」の現地の感覚を共有できる方、そして

音楽好きの方には、別に響くツボがあるんだと思います。

 

★4/14(土)から丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国順次公開。

「さよなら、僕のマンハッタン」公式サイト

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心と体と

2018-04-12 23:14:05 | か行

 

いい映画。見るべし。

 「心と体と」77点★★★★

 

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ハンガリー・ブダペストの食肉処理場に

代理の職員としてやってきた

若く美しい女性マーリア(アレクサンドラ・ボルベーイ)。

 

だが彼女はコミュニケーションが苦手で

周囲と決して交わらない。

 

上司のエンドレ(ゲーザ・モルチャーニ)は

彼女を気にかけ、会話を試みるが、どうもちぐはぐでうまくいかない。

 

だが、あるとき

エンドレは自分と彼女の、驚くべき共通点を知ることに――。

 

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本年度アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作。

 

なんというか、観たあとに

いたわりの気持ちのような、ほの温かい何かが、身体中に染み渡る。

不思議だけど、いい映画です。

 

まず冒頭、しんしんとした雪景色のなかにたたずむ

二頭の鹿のシーンで、グッと心を掴まれる。

 

その静謐な美しさに、息を止めると同時に

いまにも銃声がとどろきそうな不安にドキドキしますが

しかし、全編通じて、鹿には危険は起こらないので、ご安心を。

 

舞台となるのは食肉加工場で、

そこで運命を待つ牛たちの目や様子は悲しいけれど

なぜ、この場が舞台になっているかにも、ちゃんと意味がある。

 

鹿のいる清らかな風景と、血の流れる現実。

生々しい生の手触りと、目に見えない、人と人の隔たり。

すべてが対をなし、物語を織り上げているんですねえ。

 

 

ヒロインのマーリアは

「あいまいさ」が苦手で、予定の変更に対応できない。

異様に片づいた自宅に一人で暮らし、

明日するかもしれない会話をシミュレーションして、練習する。

見ている観客は

すぐに彼女がアスペルガー症候群かな、と感じ取れるんですが

 しかし、彼女を気にかける上司エンドレは、そのことになかなか気づけない。

 

そんななか、ある出来事から

彼らの思いがけない共通点が明らかになる。

 

それは「同じ夢を見ている」こと。

そう、冒頭から繰り返し挟まれる「雪の中の二頭の鹿」は

二人の見ている夢なのです。

 

なんだかファンタジー方面にいきそうですが

この映画は、その不思議もしっかり「現実」に巻き込んでいく。

 

そこがおもしろい。

 

で、夢のことを知った二人は、お互いをいっそう意識し始める。

同じ波長や、想いを感じとりつつも、

しかしエンドレはまだマーリアの「特徴」に気づけないので、

その展開は異様なほどもどかしい(苦笑)。

 

そんな不器用な二人に、周囲の人々が、ものすごーくささやかに、

小さなエールを送ったりしてるのも、なにげにいいんですけどね。

 

描かれているのは

人と人が本当の意味でコミュニケーションを取ることの難しさ。

映画の二人だって、これからどうなるか、別にすごく明るいわけじゃない。

 

でも

パーッと明るい光が刺すことはないけれど

ここには、たしかにかすかな、ぬくもりがある。

 

それは薄い陽の光をいとおしむ、

東欧の人の想いに、触れたような感覚でもありました。

 

★4/14(土)から新宿シネマカリテ、池袋シネ・ロサほか全国順次公開。

「心と体と」公式サイト

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女は二度決断する

2018-04-11 23:29:19 | あ行

 

ファティ・アキン監督が

攻めてきた。

 

「女は二度決断する」72点★★★★

 

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ドイツ、ハンブルグに暮らす

生粋ドイツ人のカティヤ(ダイアン・クルーガー)は

トルコ系移民の夫と、6歳の息子と暮らしている。

 

かつて麻薬売買で捕まったこともある夫だが

いまはまっとうに働いている。

 

その日も、カティヤは息子を夫の事務所に預け、友人と出かけた。

 

だが夕方帰ってくると、事務所の前の道路が封鎖されている。

そしてカティヤは、夫の事務所の目の前で

爆破テロが起こったことを知る――。

 

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ドイツ・ハンブルグで、トルコ移民の両親のもとで生まれ、

「ソウル・キッチン」(09年)などユーモラスな作品や

「そして、私たちは愛に帰る」(07年)「消えた声が、その名を呼ぶ」(14年)などハードめの作品などを発表する

ファティ・アキン監督。

 

どんなタッチにあっても

常にルーツや、民族の問題にその根っこがあることがよくわかり

すごく好きな監督なのですが

今回は、より“攻めてきた”感じがありました。

 

 

突然、愛する家族を奪われた主人公カティヤ(ダイアン・クルーガー)。

被害者である彼女に、警察がまず聞くのは

夫がイスラム信者だったか、クルド人か、政治活動をしていたか?

それゆえに、狙われたんじゃないか?といったことで

 

彼女は、想像できない悲しみのなかで

そうした試練を受けなければならない。

 

でも結局、テロを起こしたのは

ネオナチの夫婦だったことがわかる。

 

そしてカティヤは“弔い合戦”のごとく

自分なりの落とし前をつけようと行動する――というのが映画の大筋。

 

 

彼女の行為には賛否両論があると聞きましたが

いやいや、疑問の余地なく、まったくありでしょ(笑)

 

敵討ち的な思想では負の連鎖を止められない、との非難もあるのは承知だけど

ワシは、これはありだと思う。ワシも同じことをすると思う。

 

なにより

卑劣なテロの犠牲者が後を絶たない現在、

カティヤと同じ苦しみを抱える遺族が山ほどいるのだと、

この映画は痛烈に教えてくれました。

 

★4/14(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国で公開。

「女は二度決断する」公式サイト

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ラッカは静かに虐殺されている

2018-04-10 23:57:03 | ら行

 

とてもうまいドキュメンタリー。

 

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「ラッカは静かに虐殺されている」74点★★★★

 

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2014年、イスラム国(IS)に占領されたシリア・ラッカで

彼らの蛮行や現地の状況を

スマホを武器に発信し続ける市民ジャーナリスト集団

「ラッカは静かに虐殺されている」=RBSS。

 

その活動を「カルテル・ランド」(15年)のアメリカ人監督が追ったドキュメンタリー。

緊迫の現実とともに、改めてシリア状況が一からわかるようになっていて

非常にうまくまとめられていると感じます。

 

実のところ「シリア・モナムール」(16年)がけっこうなトラウマになり、

背けてはいけないと知りつつも、

爆音やがれきの惨状を直視することにおよび腰になっていたワシ。

 

でも本作は、現地の悲惨な状況も紹介しつつ、

なぜ、ISに占領されたのか?などをきちんと一から学べる感じで

ちょっと「わたしはマララ」(15年)的なところもあり

緊迫と緊張は感じつつも、見やすかった。

 

 

ラッカは割と牧歌的で平和な場所だったそうで

2011年にアサド政権の独裁に市民が立ち上がり、打倒し

せっかく“アラブの春”がきたのに

その後、すぐに全体を引っ張れる存在がなかった。

 

そこにできた、政治の一瞬の空白を、ISにつけ込まれ、

文字通り乗っ取られたんだと

この映画で改めて、よく理解できました。

 

そのなかでRBSSが発足し、

現地の状況をスマホを駆使して世界に発信するようになるんですが

しかし、その活動はISに目をつけられ、

自身にも、そして両親や兄弟、仲間にも危険が及んでしまう。

メンバーのなかには

自分の父親がISに射殺される映像をネットで見ることになってしまう人もいて

本当に、厳しく、キツい状況です。

 

そんななかで何が彼らに、行動を起こさせているのか。

その勇気はどこからきているのか。

 

映画を見ても、それはよくわかります。

 

さらに

今回、おなじみ「AERA」の特集用に

監督やISメンバーにSkype取材もさせていただいて、やはり確信しました。

 

彼らは

例えISを空爆で破壊しても、彼らの精神はなくならない、と、世界に警鐘を鳴らしている。

 

いつ、どこで、同じような“悪”が立ち上がってもおかしくない。

ゆえに、この出来事は

現代を生きる誰にとても他人事でなく

全ての世界に、関わる問題なのだ!と感じ入りました。

 

映画中で、

身の危険が大きくなりドイツに逃れたRBSSのメンバーたちに、

ドイツ国内の国粋主義者による“ヘイトデモ”が容赦無く襲いかかる現実も

また、身近な日本の状況を思い、

重くのしかかる。

 

 

なによりも、現実を知らないこと、知らないふりをすることは罪。

そして知ったのであれば、それを少しでも多くの人に伝えること。

 

これが、我々の精一杯できる処し方であると

この映画は教えてくれていると感じます。

 

★4/14(土)からアップリンク渋谷、ポレポレ東中野ほか全国順次公開。

 

「ラッカは静かに虐殺されている」公式サイト

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