ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

バリー・シール/アメリカをはめた男

2017-10-20 21:13:53 | は行

「オール・ユー・ニード・イズ・キル」(14年)監督と
トムさんのコラボ、再び。


「バリー・シール/アメリカをはめた男」69点★★★☆


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1978年、アメリカ。

大手航空会社のパイロット、
バリー・シール(トム・クルーズ)は
天才的な飛行技術の持ち主。

安定した仕事に就き、
美しい妻(サラ・ライト・オルセン)と幼い娘に囲まれ
満ち足りた暮らしを送っている彼だが

実は
毎日のルーティン飛行に、ちょっと飽きてもいた。

そんな彼に
CIA局員(ドナルド・グリーソン)が近づいてくる。

彼の腕を見込んで、CIAのために
偵察写真を撮るパイロットして働いてほしいというのだ。

バリーは妻に内緒で
CIAのミッションに関わるようになるが――?!


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トム・クルーズが
1970年代から80年代にかけて
米国政府をあざむき、
一大密輸大事件に関わった実在パイロットに扮する物語。

実話だけど、最近まで知られていなかった理由は
彼に仕事を依頼していたアメリカ国家が
黒歴史として、封印してきたから……らしいです。


まあ事件はでかいんですが
映画のトーンは
シリアスでなく軽妙&軽快。

主人公のキャラを立てて
ちょっとマヌケなくらいに明るく描いている。


こういう映画を見ると
必ずディカプリオの
「キャッチ・ミー・イフ・ユーキャン」を思い出しますね。
あ、けっこう、刻まれてる?(笑)


パイロットのトムさんが、腕を買われ、
刺激を求めてCIAの仕事をする。

そのうち
現地でもスカウトされちゃって、

航空写真撮影→コカイン密輸→銃密輸と、運ぶものがだんだん大きくなり
次第に引き返せなくなっていく。

本人の動機には、金儲けも多少はあったと思うけど
なにより
航空レーダーをかいくぐって飛ぶ、
腕試し的スリルと興奮に、やられちゃったのだろうな。


映画の背景には、中南米対策、キューバ危機があり、
アメリカの思惑の暗部があるんですが

まあこの“アメリカの思惑”が意外と浅いゆえに、
トムさんが明るく暗躍できるんだよなあと思ったりしました(笑)


★10/21(土)から全国で公開。

「バリー・シール/アメリカをはめた男」公式サイト
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婚約者の友人

2017-10-19 23:26:22 | か行

フランソワ・オゾン監督。

何を繰り出してくるか
読めない人。


「婚約者の友人」69点★★★☆


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1919年、第一次大戦後のドイツ。

アンナ(パウラ・ベーア)は
婚約者のフランツを戦争で失った。

フランツを忘れられないアンナは
友人(ヨハン・ファン・ビューロー)から交際を申し込まれても、
首を立てに振ろうとしない。


そんなある日、
アンナはフランツの墓に
静かに花をたむけている青年に出会う。

彼の名はアドリアン(ピエール・ニネ)。

フランス人で、戦前からフランツの友人だったという彼に
アンナは徐々に親しみを感じていくのだが――?!


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第一次大戦後のドイツを舞台に、
戦争の爪跡と愛を描いた作品。

予想外にクラシカルでした。


戦争に引き裂かれた恋人たち。
敵味方である隣国どうしの、悲しき“心の分断”。

そして、そうした憎しみを超えた“愛”。

それらを捉える筆致はなめらかで
モノクロの映像がしっとりと美しく

純粋さの現れのような
ヒロインの黒目がちな瞳もとても美しかった。


婚約者を戦争で失ったヒロインの前に現れる
「婚約者の友人」。

思い出話を聞きながら
ヒロインの閉ざされた心に、かすかな赤みが差していく。

でも、実は彼は●●●●で……という展開。


さあ、なんでしょう?(笑)
まあ、そこはナイショだけど
これが自分が思っていた予想とはちょっと違ってて、
けっこうひっかかった。

しかも
ヒロイン自身が
“婚約者の友人”になってしまう――という
なんとも「え!」な展開が辛い。でもわりと好き(笑)。

さあ、オゾン監督、どんなトラップを仕掛けたのか?

しかし
「いま、なぜ、こういう作風を?」と
ご本人にとても聞いてみたくなりました。


★10/21(土)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「婚約者の友人」公式サイト
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ソニータ

2017-10-18 23:51:01 | さ行

ソニータのラップは
YouTubeで視聴可能です。

でも、この映画を観て
その前ストーリーを知り、しかも字幕があったほうが
断然おもしろさマシマシ。


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「ソニータ」71点★★★★


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アフガニスタンからタリバンを逃れて
イランにやってきた16歳の少女ソニータ。

ラップの名手で、音楽で成功することを夢見てるのだけど
しかし、彼女の親はアフガニスタンの慣習に従い、
結納金を目当てに、
彼女をお嫁に出そうとする。

そんな波乱な状況を
女性監督が追ったドキュメンタリーです。


ソニータの人生と、その才能にも驚くけれど
本作の一番の要は「ドキュメンタリーを作る側が、対象に介入することの是非」を
考えさせられるところだと思う。


女性監督は悩みつつも、
明日にでも「家族に売られてしまう」ソニータに手を差し伸べるんです。

そして
彼女のミュージックビデオを作り、YouTubeにアップする。


それが反響を呼び、彼女の運命は開けていくんですが、
これは
完全に作る側が対象に介入しているわけですね。


「ハゲワシと少女」の時代から
ジャーナリストやドキュメンタリストのお題となる問題で
みな一度は、この問題にぶち当たり、悩んだことがあるはず。

でも、これを観ていると
「SNS時代」いう状況を
鑑みる必要がすごくあると思う。

今回の問題も映画が出来上がってから、彼女の境遇が知られるのでは
ストーリーは全然違うものになったはず。
YouTubeというメディアのおかげで
この展開になったわけですもんね。

監督の行動の意味も結果も、
いまじゃなければ、違うものになったかもしれない。

「裸足の季節」(16年)的な問題提起のアプローチももちろんありだけど
この場合は、これもありかもしれないなと思う反面、

観た人と論じてみたい問題ではあります。


★10/21(土)からアップリンク渋谷ほか全国順次公開。

「ソニータ」公式サイト

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女神の見えざる手

2017-10-17 23:59:09 | ま行

観た直後に「もう一度観たい!」と思った。
そして観させていただきました(笑)


「女神の見えざる手」81点★★★★


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クライアントの要望に応えるため
政党や議員に働きかけ、
政治、マスコミ、そして世論さえも動かす“ロビイスト”。

エリザベス・スローン(ジェシカ・チャスティン)は
業界でも噂のスゴ腕のロビイストだ。

そんな彼女が、銃擁護派の団体から仕事を依頼される。

だが、銃擁護派を擁護できない彼女は
会社を飛び出し
銃規制法案に賛成の立場を取る陣営に参加することを決める。


だが、相手は巨人。こっちは弱小。
いったい、彼女にはどんな作戦があるのか――?!


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いやあ、これは驚きました!
見終わった後の感想は、まさに“激震”。

こちらのほうが数段「ワンダーウーマンじゃん!」と思ってしまいました(笑)

それと
「運命の逆転」(90年)に似たおもしろさだ!って。


自分にはできない相手をハメる技術や、
裏をかく頭脳を持っている人を
見る楽しさ。

頭をフル回転させて
裏の裏の裏まで戦略を巡らせるヒロインに釘付け。


二転三転する複雑な話を
よく整理してあるし。


ロビイストという業種をよく知らなかったんですが
大統領を選ぶのも、世の中の「空気」を作り出すのも彼らなんですねえ。
こわっ。

そしてヒロインが取り組むテーマが
旬テーマであり、我々異国の一般人にもにもとっつきやすい
「銃規制問題」というところもうまい。

いやでも先に起こったばかりの
ラスベガスの悲劇が、痛みとともに思い出されます……。


ヒロインのエリザベスは「銃擁護派」の依頼を蹴って
弱小な仲間とともに、「銃規制」に向けて動こうとするんです。

どう見ても勝ち目のなさそうな戦いに
どんな作戦を立てるのか?

ドラマ的にはこの時点で
すごく“ヒーロー感”あるはずなんだけど
彼女には、驚くほど、それがない(笑)

例えば
彼女が「銃擁護派」を嫌悪するに至る過程とか、身内の過去とか
なんか描かれそうなんだけど、
そんなもの、まったくすっ飛ばしてくる。


動機は人情とかじゃないんだよ!って感じ(笑)
本音はわかりませんよ?。そこがまた、いい。

とにかく
エリザベスは明らかに仕事に人生を捧げており、
寝ることもせず、恋人も作らず、性欲を“お金で処理”し(苦笑)
ひたすら仕事に邁進する。

人格は崩壊し、人間らしさのかけらもなく(笑)
身内にも容赦なく、全てを「仕掛け」まくる。
ゆえに
関わる人間は、強烈な爪痕を残されることもある。

でもね、そんな“働きマン”に
不思議なほど共感できるし、惹きつけられるんですよ。

彼女の硬質なパワー、その破壊力がたまらない。
これは
「エル ELLE」のユペール様と対決させたい…!とマジで思いました(笑)


★10/20(金)からTOHOシネマズ・シャンテほか全国で公開。

「女神の見えざる手」公式サイト
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ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ

2017-10-14 16:35:44 | ら行

この話、知ってたので興味津々だったんですよねー。


「ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ」68点★★★☆


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1920年代。

のちの近代建築の巨匠ル・コルビュジエ(ヴァンサン・ペレーズ)は
気鋭の家具デザイナーとして活躍していた
アイリーン・グレイ(オーラ・ブラディ)に紹介される。

シンプルかつ機能的、気品と美を備えた彼女のデザインに
コルビュジエは感銘を受け、
毅然と美しい彼女自身にも興味を持つ。

そのうちに
アイリーンは建築デビュー作である
海辺のヴィラ<E.1027>を完成させ、

コルビュジエの彼女への思いは
やがて、嫉妬へと変わっていく――。


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ル・コルビュジエが、この女性に異常に執着した
ヤなヤツだった…というのを

「ル・コルビュジエの家」で取材した小池一子さんに伺って知っていたのです。
(『“ツウ”が語る映画この一本 2』180P~参照。使えるなア、この本←笑)

なので、どう描くのかなあと思ったんですが
これまた、ちょっと変わった映画でした。

なんというか、
再現ドラマ入りの解説もの、という感じ?

役者が画面に語りかけるし、
舞台劇のような場面もあるし。
(ワシ、個人的に役者が画面に語りかけるこの方法って
映画に入り込みにくく、しらけてしまうことが多い気がして
あまり好みではないんですよね~すみません)

それに
アイリーンに対するコルビュジェの異様な執着が、
才能への嫉妬にあったのか、
出会いから惚れてたゆえの憎悪だったのか、
やっぱり真実はわからないまま。


ただ、ワシもこの話を知るまでは
コルビュジエって、憧れのすごい巨匠!って
印象しか持ってなかったし、
アイリーン・グレイというすごい人も知らなかったので

超・巨匠がある女性が建てた家に執着し、
その家の前の海で溺死した……なんて
事実を知るだけでも
おもしろいかなと思います。

まあ、それを知っても
彼の建築のすごさは変わらないし

映画に登場する
アイリーン・グレイの家具の数々も見どころです。


★10/14(土)からBunkamura ル・シネマほか全国順次公開。


「ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ」公式サイト
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