ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

花のあとさき ムツばあさんの歩いた道

2020-06-01 18:36:43 | は行

こんなときに観たいのは、やっぱりこういう映画なのだ。

 

「花のあとさき ムツばあさんの歩いた道」71点★★★★

 

************************************

 

埼玉県・秩父の山間で暮らす小林ムツさんの

18年を追ったドキュメンタリー。

 

NHKドキュメンタリーシリーズとして2002年から

放送された7本に

未公開映像を加えて映画化したものです。

 

撮影スタート時、ムツさんは68歳。

ムツさんがだんなさんの公一さんと暮らす山間の集落は

かつては100人が住んでいたが、いまは5人ほどしか住んでいない。

 

その集落でムツさんと公一さんは

使わなくなった畑に、せっせと花を植えている。

急斜面の畑での作業はかなり難儀だけど

二人は、「いままでありがとう」との意味を込めて

畑に花を植え、自然に還そうとしているのですね。

 

ムツさんは

人にも植物にも、動物にも優しい。

伸びすぎた植物を切るときにも

「ごめんな」と、心の中で言っている声が聞こえてくるようで

 

畑を荒らしたイノシシにも

「人間が実のなる植物の代わりに、杉を植えたから、

イノシシたちも食べるものがなくなったんだ」と、言ってくれるんです。

ホンマにいい人や!

 

夫の公一さんともども、

自然への謙虚さがあふれ出ていて、うるっときてしまう。

 

そんなムツさんと、公一さん、そして

集落のわずかな住人たちは

時とともに、だんだん亡くなっていく。

 

やがてムツさんもいなくなる。

しかし、ムツさんが亡くなるときも、ドラマ!にせず、

淡々といなくなるんですね。

 

人はみな、いつかはいなくなる。

かたちあるものは、いつかなくなる。

すべては、自然に還っていく。

そんな摂理と循環を、静かに映していて、尊い気持ちになりました。

 

百崎満晴監督は1969年生まれ。

同世代として共感するところは大きかった。

 

ただ、監督は取材相手との対話を、かなり映像に入れるタイプの方で

ちょっとその口調や、距離感が気になるところもあった。

これは受け手の感覚的な好みもあるし

まあ、だんだん気にならなくなってはくるのですが。

 

ともあれ

世界中がこんな状況のなか

こういう映画でじっくり、さまざまを見つめ直すって

いいなあと思います。

 

★6/1(月)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「花のあとさき ムツばあさんの歩いた道」公式サイト


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