ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

セメントの記憶

2019-03-23 14:01:29 | さ行

ドキュメンタリー×エッセイの趣き。

新たな風を感じる。

 

*****************************

 

「セメントの記憶」71点★★★★

 

*****************************

 

1981年、シリア生まれの監督が

ベイルートの建設現場で働くシリア移民労働者を撮った

ドキュメンタリーです。

 

 

映像の切り取り方が実にアーティスティックで美しく

そこに主人公(監督であろう)が

子ども時代にベイルートで働いていた父の記憶をたぐっていく

詩のようなモノローグが重なる。

説明や解説はなく

淡々と状況が写され、

 

ドキュメンタリー×エッセイ、という趣きがあり

新しい風を感じました。

 

でも、そんな映像の背景にあるのはシビアな現実。

 

1975年から90年まで続いたレバノン内戦で

破壊され尽くしたベイルートは

その後、復興をしてきたけれど

06年にはイスラエル軍による空爆で、また破壊が。

 

そして現在のベイルートは再び復興中で

カメラにはビルの建築現場で働く大勢の人々の姿が写る。

「建設と破壊」の繰り返し――巨大な虚しさをいやでも感じ、ずーんとなる。

 

さらに衝撃的なのは、

働く人々が寝泊まりする場所。

建設現場の地下、簡易宿泊所とも言えない、

雨水でびしょびしょな地面にダンボールを敷いただけの場所なのだ!

 

そこで彼らは会話をするでもなく、

それぞれがスマホで、いまだ破壊され続ける故郷シリアを見ている――。

 

瓦礫の中から助け出される人、死体の山、瀕死の猫(涙)――

いったい、人間は何をやってんだ?

 

独特の映像センスで監督が切り取るのは、

途方もなく虚しい世界。

 

でも、この現実がこうして我々に届くことには

確実に意味がある。

その先に、何をみるか。

課題は、大きいです。

 

★3/23(土)からユーロスペースほか全国順次公開。

「セメントの記憶」公式サイト

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ユーリー・ノルシュテイン《... | トップ | ぼくの好きな先生 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

さ行」カテゴリの最新記事