素晴らしかった。雄大で、物悲しくて。
「ノマドランド」79点★★★★
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現代のアメリカ。
ネヴァダ州のはずれのある街で、懸命に働いていた
ファーン(フランシス・マクドーマンド)。
だが、支え合っていた夫は亡くなり、街は経済破綻で閉鎖され
郵便番号さえ無くなるほど「消滅」させられることに。
仕方なくファーンはワゴン車に荷物を詰め込み、
放浪生活を始める。
Amazonの倉庫や、キャンプ場の清掃など
季節仕事をしながら車で暮らすファーンに
同じ境遇になった先輩たちが
さまざまを教えてくれる。
そしてファーンは現代のノマド(遊牧民)となり、
知恵と生命力でサバイブを始めるのだが――?
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職も住処も失い、車で暮らす現代のノマド(遊牧民)を
本物の彼らを交えて、描いた作品。
雄大で、でも物悲しくて
心にさまざまな波模様が立ちました。
ゴールデン・グローブ賞で作品賞&監督賞を受賞
アカデミー賞主要6部門ノミネートで
これは、いくでしょう(笑)
現代社会から「おちた」人々を描いてはいるけれど
ここにあるのは
物質社会や資本主義経済への単純な批判、とかじゃない。
もっと大きな、たくましさや人間のルーツを感じて
そこがいいんです。
イタリア人作曲家ルドヴィゴ・エイナウディの手による
叙情的な音楽も最高ですねえ。
映画のスタートは2017年、
主演のフランシス・マクドーマンドと共同製作者が
ジェシカ・ブルーダーによるノンフィクション「ノマド」の映画化権を獲得したこと。
ジェシカは数ヶ月間、自らもヴァンで生活しながら
漂流するアメリカ人を追ってきたジャーナリストなんですね。カッコイイなあ。
そしてマクドーマンドらは
現代のカウボーイを描いた「ザ・ライダー」(Netflixで4/6まで配信中)の監督クロエ・ジャオを見出し、
監督に抜擢し、本作に雪崩を打った――というわけ。
予備知識ゼロで観ても
登場するノマドの人々はみな本物で、彼ら自身なのだろうなと思ったけど
実際にほぼ、そうでした。
ゆえに説得力がある。
はじまりは、現代社会の経済低迷。
ファーンは働いていた街の閉鎖で、職も住むところも無くしてしまう。
「出てって」とあっさり追い出され、郵便番号すらなくされる。
徹底した「消滅」させぶりに、さすが非情なアメリカ!と唖然としますが
仕方なしにファーンは町を出て、車で暮らすことになる。
しかしファーンは働く意欲を失ってるわけじゃない。
ちゃんと働いて、生きていきたいと
現代の悪名高き搾取主「アマゾン」で季節労働をし、
それが終わるとまた別の場所へ行く。
そんな彼女の行く先々で
社会から「おちた」人々が、
互いに集まり、助け合っている様が写されるんですね。
人間はひとり。だから、集まり助け合うのだ、と。
それに、一般の人々もけっこう手を差し伸べてくれる。
豪雪のなか、車で寝る彼女に
ガススタンドの女性が「もっと暖かい場所があるわよ」と
支援や手立てを教えてくれたり。
意外なやさしさに驚きますが
リーマンショック以降、
テント生活者も多いというアメリカの現状を、さまざまな映画でさんざん観てきたし、
それだけ「底辺」が広く、
状況も一般的ということなのだろうと思う。
そんななかで
「身を粉にして働き、老いれば、野に放たれる。
非情な社会で生き延びるために、助け合わねば」
――ファーンにそう話すノマドのリーダーの言葉が有り難くも、痛い。
野に放たれて、生き延びられるかは
やっぱり個人の「力」にかかってるんだよね。
かつ、自分をなんとか保っても、人を助けられるだろうか。
助けられてばかりいる気がするワシは
もっとがんばらねば、と思ってしまうw
それにね
家をもたない放浪の暮らしは
人を、より自然や大地に結びつけるんです。
圧倒的な孤独なのに、すべてとつながっている。
それが本人の心持ち次第なのだと、この映画は教えてくれる。
そして自由なようでいて、実のところ彼女が一番、いろいろに縛られているのだとも。
ラスト、そこからも自由になろうと進む姿は
さらに潔く清々しいものでした。
バケツをトイレにする場面は目に焼き付くし、
タワマンならぬ高級RVキャンピングカーをみて
「こんなところに住みたい~!!」と超アガる
ノマド女子(平均年齢70はいっているであろう)たちも、かわいくて、いい(笑)
コロナ後の世界に、ますます“ノマド”は増えるでしょう。
人生に何が大切で、何が必要か。
あなたは、生き抜けますか――?と
本作は誰もに問いかけているんだと思うのです。
うん、ワシももっと頑丈にいたいよ。
★3/26から全国で公開。