ペドロ・アルモドバル監督から
こんなにやさしいドラマが届くとは。
「ペイン・アンド・グローリー」71点★★★★
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スペインを代表する映画監督のサルバドール(アントニオ・バンデラス)は
このところ身体の不調はなはだしく、
さらに4年前の母の死から立ち直れず
ほぼ引退生活を送っていた。
そんなとき、あることからサルバドールは
30年以上前に絶縁していた
俳優アルベルト(アシエル・エチュアンディア)と
再び交流をすることに。
アルベルトにヘロインを勧められたサルバドールは
身体の痛みを紛らわしてくれる薬物に溺れていく。
もうろうとする頭に浮かぶのは
幼かったころ、美しく明るい母との暮らした懐かしい日々。
そして自ら対峙することを封印していた
ある記憶だったーー。
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以後、ちょっとご無沙汰だったペドロ・アルモドバル監督から
こんなにやさしいドラマが届くとは
意外でした。
「母」へのこだわりなど
作品に通底するものはあれど
監督の自伝的要素がより全面に出ている感じです。
主人公サルバドール(アントニオ・バンデラス)は
映画監督として成功していても
さまざまな「痛み」に苦しめられている。
腰痛、背骨痛、頭痛、椎間板ヘルニア・・・・・・などなど肉体的な痛みのほかに
母の死や、創作意欲の減退など
「ああ、年をとるって最悪」と、ため息がつくほど共感してしまう(苦笑)
そんなつらいなか、サルバドールは誰にも見せることなく
脚本を執筆している。
それは
自分の体験に基づく、ある別れの物語なんですが
封印した過去で、発表するつもりはなかった。
でも痛みを忘れるため、薬に溺れた彼は
もうろうとした意識のなかで
昔を回想するんですね。
で、過去と現在を行きつ戻りつ、
だんだんその「封印した過去」に向き合っていく、という展開。
特に
この回想される幼少期の描写が輝いていて、
どこか「ニュー・シネマ・パラダイス」のようでもある。
快活で美しい母(もちろん、ここはペネロペ・クルス!)と暮らした日々の
明るい日差しと、キラキラした喜び。
そして、そこでの「ある出来事」が
いまにつながってくる。
これが、めちゃくちゃグッとくる伏線で心に残る。
みずみずしくって、いいなあと思いました。
あちこち痛いと嘆いてばかりじゃ進まない。
痛みと向き合うことで、次の扉が開くこともあるかもね、と
これも、先達の教えなのか、と
思うのでした。
★6/19(金)からTOHOシネマズシャンテ、Bunkamura ル・シネマほかで公開。