ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ガーンジー島の読書会の秘密

2019-08-31 23:24:53 | か行

ミステリーかなと思うと、意外な味になっていく。

 

「ガーンジー島の読書会の秘密」70点★★★★

 

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1946年。戦後の活気を取り戻しつつあるロンドンで

人気作家のジュリエット(リリー・ジェームズ)は

1通の手紙を受け取る。

 

それは

イギリス海峡に浮かぶガーンジー島の住民からだった。

 

ガーンジー島は第二次世界大戦中に、

イギリスで唯一、ナチスドイツの占領下にあった島。

島民たちは島に駐在するナチスドイツ兵たちに家畜を没収され、

夜間の外出や集まりを禁じられていた。

 

ジュリエットは島民と手紙を交わすうち

ある女性の機転で

島民たちが「読書会」を開き、息抜きをすることができた、という話を知る。

 

次作の本のネタを探していたジュリエットは

その話に興味を持ち、島に飛ぶ。

 

歓迎される、と思っていたジュリエットだが、

意外に島民たちは微妙な空気を醸し出し――?!

 

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ミステリーかな、と思うと意外な味になっていく。

ちょっと辛抱はいるけれど

結果「読み進めてよかった」と思える本のような映画でした。

 

 

まず冒頭、1941年、ドイツ軍占領下のガーンジー島から

1946年ロンドンに舞台が移るんですが

どうもしばらく、話が見えてこないんです。

 

これはヒロインである作家ジュリエットと

冒頭に登場したガーンジー島の女性が

雰囲気が似てて、同じ人に見えてしまったからでもあるんだけど

(まあそれも“引っかけ”なのかも知れない・・・・・・)

 

いまいち話が見えず

スパイスのないぼんやりした味だなあ・・・・・・と思っていると

徐々にギアがアップしていく。

 

そしてジュリエットが島にやってくると

明らかに読書会メンバーは歓迎ムード・・・・・・じゃない、微妙な空気。

そこで彼女が島の人々に話を聞くいていくと

起こったできごとがだんだん浮かびあがってくる――という展開で

 

その過程に、取材と書き仕事をする端くれとして

ピピッときた、というか。

 

 

「書かないでね」を約束に、彼女は島民たちに話を聞くわけですが

取材をすすめるうちに、いろいろがわかり

「微妙な空気」の謎も解けてくる。

 

まあ「野次馬根性」と言われればそれまでなのですが

人と人のある場所に起こるデキゴトって、やっぱおもしろいんですよね。

 

そして、書く仕事をする人間にとっては

知ったことを書き、誰かに語ることが喜びなんだ、と。

 

誠実なジュリエットは約束を守り

「出版はしない」けど、島で知ったことを書いて、彼らに進呈する。

それを読んだ彼らが「これは発表されるべき物語だ」と思ってくれるという展開は

書く人間にとって、理想だなあと思うんです。

 

あと、ジュリエットがタイプライターを叩く音が

下宿先のおかみに

「空爆の方がマシだわ」と言われるほど激しいのにも笑った。

ええ、私もカフェで隣の女性に

「タイプ音、小さくしてもらえますか」ってメモをこそっと渡されたことありますから。

うっせー!(笑)

 

★8/30(金)から全国で公開。

「ガーンジー島の読書会の秘密」公式サイト

コメント
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