パラドクスの小匣

南原四郎、こと潮田文のブログです。

ある変哲のないソファの物語

2007-02-24 19:21:04 | Weblog
 いったん、ほぼ完成したと思ったギャラリースペースだったが、再度作り変えることにし、それがほぼ完成したので、最後の仕上げとしてソファを置こうと考え、多慶屋などを見たのだが、いまいちだったので、ヤフーオークションを覗いた。

 ヤフオクの「家具」は、ほとんど業者出品ばかりで、個人出品は極めて少ない。1%もないんじゃないかと思うくらいだが、一つだけ見つけた。
 それが写真のソファだが、自由が丘の丸井で購入して6年、気に入っていたが、引っ越しで手放すことにした。もとは黒だったが、昼間の光で見ると、赤茶けている。気になる方はカバーをかけて使って下さい、という出品者のコメントがあり、残り三時間くらいでまだ買い手はついていなかった。

 なんてことのない、くたびれたソファだが、一目見て、なぜか気に入ってしまい、よし、これらなら、きっと二、三千円で落とすことができるのではないかと思った。二、三千円といっても、送料が大分かかるだろうから、実質一万円くらいだろう。このソファに一万円出そうという人は、あんまり、いないのではないか。

 そんなことを考えていたら、残り二時間くらいで1000円の値がついた。

 やっぱり、ウォッチしている人はいるんだと思いつつ、1100円を入れようとしたら、先に入れられた。それで、1200円で応札してみたら、最高値をとることができた。

 そして、そのまま時間は過ぎていった。

 オークション締めきりは深夜の11時59分なので、それまで帰れない。それに、時間が来ても、競ったりすると時間が伸びる。その時は、どうしよう。5000円くらいで入札しておいて、そのまま帰宅。翌朝結果を見ればいいのでは?

 うん、そうしようと思って、時計を見たら、制限時間まであと5分。このまま1200円で落札できたら嬉しいなあと思っていたら、1300円の値がついた。

 チックショー。あとちょっとなのに、と思い、5000円で応札しておいて、自分は帰ろうと思ってキーボードで入力したら、最高値にならない。え? もっと高いやつがいるんだと思って画面を新規に変えてみたら、なんと、あっという間に10000円の値がついている。

 こんな変哲のないソファに?と思いながら、応札はさっさとあきらめて画面を見ていると、どんどん数字が上がる。11000、12000、15000、18000円……。

 翌朝、見てみたら、22000円で落札されていた。送料を含めると、30000円くらいだ。それほどのものかなあ……とも思うが、「レトロモダン」とか、「アジアンテイスト」とかをうざったく思うような人は(かく申す私も)、このような平凡さに引かれるのかもしれない。

 帰りの京浜東北線は、金曜日の最終近くとあって、超満員。
 その中で、昨日、古本屋のワゴンセールで買った蓮実重彦と養老孟司という奇妙な取り合わせの対談本+レジュメ代りの二人のエッセイという構成の本を立ち読み(『蓮実養老縦横無尽』哲学書房)したが、養老という人は、すごく頭のいい人だと痛感。蓮実の影が薄い。『バカの壁』を書くのもむべなるかなだ。
 『バカの壁』は、本屋でぱらぱらと立ち読みしただけなのだが、こんなのが百万部のベストセラー?と思うほど、難解で高度な内容だと思ったことを思い出した。
 思うに、養老本というものは、養老孟司の頭の良さを楽しむ本ということなのかもしれない。


 ちなみに、養老のレジュメは、「“自分”は不変で、変わるのは言葉だ、と人間、特に近代人は思っているが、実は、それは逆だ。言葉(具体的にはモノの名前)は変わらず、人間(肉体)は変わる(死ぬ)」というのだが、それを説明するレトリックがちょっとすごい、と思った。

 もっとも、養老のクールさと、蓮実のエキセントリックとでは、蓮実のエキセントリックのほうにより引かれるというところはあるかもしれない。

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