参耆地黄湯加減治療については、慢性腎炎では285報~289報、慢性腎不全では212報~217報で紹介しました。今回から4回にかけて糖尿病性腎症の参耆地黄湯加減治療について紹介します。
( )内に随時私のコメントや印象を入れます。
それでは医案に進みましょう。
患者:孫某 62歳 男性
初診年月日:2005年8月22日
主訴:多飲多尿12年、乏力腰酸、反復性浮腫発作3年。
病歴:
12年前に2型糖尿病と診断され、3年前、明らかな誘因無く乏力、腰酸、浮腫が出現、ハルピン医科大学付属第二病院で検査を受けた。尿蛋白+、糖尿病性腎症と診断され、黄葵カプセル等の治療を受けたが、病情は好転無し。2005年8月9日、検査:尿蛋白3+、Cre116.4μmol/L(1.32mg/dL)、糖尿病性腎症、慢性腎不全と診断され、さらに治療を求め氏を受診。
(付記、黄葵カプセルは中成薬で慢性腎炎治療薬であり、蛋白尿に効果があるとされ、1日15カプセルを5カプセルずつ日に3回服用し、8週間で1クールとしています。効果は清熱解毒利湿消腫です。)
初診時所見:
乏力、腰酸痛。Cre115.8μmol/L(1.30mg/dL)、BUN6.53mmol/L(39.18mg/dL)、総コレステロール6.43mmol/L(248.84mg/dL)、トリグリセリド2.45mmol/L(208.25mg/dL)、空腹時血糖8.0mmol/L(144mg/dL)、食後血糖17.1mmol/L(307.8mg/dL)、内因性クレアチニンクリアランス77.4ml/min、尿蛋白3+、尿潜血+、尿RBC8~10個/HP。超音波検査:双腎実質やや改変あり。胸部レントゲン検査:高血圧性心臓病。頭部CT検査:ラクナ梗塞性変化及び脳軟化(多発性脳梗塞)。眼科検査:糖尿病性網膜症Ⅳ期。舌質淡紅、苔白、脈沈細。
(血圧の記載が無いのが奇妙ですが、高血圧症、動脈硬化症が進んだ状態です。糖尿病性腎症の程度は中程度以下です。糸球体濾過値が正常域ですので腎不全までには至っていません。)
中医弁証:虚労(腎陰虚、湿濁瘀血内蘊)
治法:益気滋補腎陰、利湿活血
方薬:参耆地黄湯加活血利水之剤
熟地黄25g 山茱萸20g 山薬25g 茯苓20g 牡丹皮15g 澤瀉20g 黄耆50g 太子参30g 車前子30g 牛膝20g 益母草30g 丹参20g 水蛭10g 白茅根30g 桃仁15g 赤芍15g 川芎20g
水煎服用、毎日2回に分服
(参耆六味地黄湯加味方です。最初の6薬は六味地黄丸で補腎陰、黄耆 太子参で益気生津、車前子は清熱利水、益母草は活血利水消腫、牛膝は活血兼補肝腎強筋骨、引血下降の作用は降圧に作用、丹参、水蛭、桃仁、赤芍、川芎は活血化瘀群で白茅根は凉血止血、清熱利尿と利尿と清熱、涼血止血作用を併せ持つ生薬です。活血通腑泄濁の大黄が配伍されるほどの高窒素血症はありません。)
二診:上薬服用後、腰酸症状減軽;尿蛋白2+、尿潜血+、尿RBC3~5個/HP。
上方の黄耆、太子参を減量し(医案には減量の理由を其の熱が傷陰するのを恐れ、とありますが、太子参は性平~涼で生津にも作用するので傷陰は大袈裟というより間違いでしょう。黄耆の補気昇陽作用が温燥であるイメージも私は持っていませんが、当初の50gの大量は減量してもいいと思います。)、滋補腎陰の品の枸杞子20g 菟絲子20g 女貞子20g 何首烏15g 玄参20g 天門冬20gを加えた。(菟絲子は補陽です。)
随訪:上方服用半月余で、尿蛋白+~2+、血糖のコントロールは正常範囲、腎機能は穏定。
ドクター康仁の印象
随分と短編な医案でした。今後の小動脈硬化症の進展の予防、特に脳梗塞の予防や冠状動脈硬化症の管理、食事療法、運動負荷の軽減など、課題は山積みなのが実際なのです。血圧や心臓のサイズ、心電図所見などが記載されていませんが、降圧が過ぎると新たな脳梗塞が生じやすいのも事実ですし、一旦、脳出血などが起これば、水蛭(すいてつ)などの抗凝固剤を継続使用していると、出血が止まりにくいという側面もあるのです。病情穏定は将来も穏定であるという保証にはなりません。
2014年 3月19日(水)