上海時代に一緒に中医学を学んだ、学友の田辺女史から丁寧な暑中見舞いと近況を知らせるお手紙と彼女の手作りの梅干しが8月11日に宅配されました。有難うございました。昨年の私のブログ「口干咽燥(こうがんいんそう)に適する飲み物とは?」の記事を覚えていただいたのです。そこで、再度、若干補足して記事を更新します。
漢方用語に口干咽燥があります。口が渇いて咽(のど)の乾燥感を覚えるという意味です。治療原則は清熱、養陰、生津(しょうしん)ということになります。
清熱(せいねつ)とは解熱とほぼ同意ですが、熱性疾患に伴う口干咽燥に対して、原因である熱邪を、実熱、虚熱を問わず、熱邪傷陰という病機から、清熱祛邪するという治療方法になります。虚熱、実熱を問わず、口干咽燥には体液「津液(しんえき)」が不足している場合が多いので(熱邪傷津 熱邪傷陰といいます)、養陰、生津を加えて治療すれば効果的です。
直接的な補陰法はともかく水を飲むことです。
ただし、
未治療の高血糖を伴う糖尿病では、いくら水を飲んでも、高血糖は改善しなく、浸透圧利尿により尿量だけが増え、高血糖は改善しませんので、口干は水を飲めば一時的に改善するでしょうが、咽燥は続きます。基本的な糖尿病の治療が必要です。加えて養陰、生津の治療法を加味すれば更に効果が上がります。
また、
慢性の鼻炎があって、口を開けて寝る場合には、口呼吸のために、咽燥が生じることが有ります。通鼻の治療が欠かせません。
さらに、
乾燥症候群を伴うシェーグレン症候群(および類似疾患)の場合には、抗炎症、清熱、養陰、生津の漢方治療を全て行うと、唾液や涙の分泌量が多くなり、唾液分泌低下に伴う口干咽燥が軽減してきます。
さて、私事ですが、
実熱も虚熱の証もなく、糖尿病も無く、ましてや鼻炎や膠原病もない私が、昨年来、夏場になると、咽燥に悩まされて来ました。部屋を閉め切って、除湿を24時間行っているためか、丁度、秋の乾燥時期に身を置いているような状態で「風燥」にやられたわけです。適度な湿潤な場所に移動すれば自然によくなるだろうと思いつつも、暑湿なところには出向いて行きたくもないし、窓を開ければ臭い大気が侵入してくるので、あれやこれやと飲んでみて感じたことが有りましたのでご報告致します。
赤ワインの水割は効く?
赤ワインもついつい過剰摂取すれば口干咽燥になります。海外へのフライトで経験したことですが、ミネラルウオーターと赤ワインの小瓶を偶然注文し、また偶然にワインの水割を飲んだところ、渇きが癒された経験があります。
コーヒー:微寒?
熱いコーヒーでも、冷たいコーヒーでも、特に体調に変化を来たさないようです。もともとブラックコーヒーは好きじゃないので、私の場合は砂糖の過剰摂取につながる恐れがあります。最近は希少糖に変えています。咽燥に対しては一定の効果がありますが、一日中飲めるものではありません。
紅茶:温?
冷たい紅茶でも腹が冷える感じは無いのです。シナモンスティックを入れて飲むと勿論温まる感じがあります。無糖で冷やした紅茶は咽燥には効果が持続します。温かい紅茶は、冬場で体が冷えている場合にはいいでしょうが、夏場の口干咽燥には不向きでしょう。
麦茶:涼?
体は涼しくなることは確かです。しかし、好みのせいか、咽燥時にいつでも不味い麦茶を飲む気になれません。咽燥には一定の効果があります。
ホウジ茶:温?
体は温まります。冷房を長時間利かし続けた部屋にいて、鼻水が出てきたら、紅茶かほうじ茶を飲むと鼻水が退いていきます。咽燥に対しては一定の効果はありますが弱い印象です。
緑茶:涼
熱く火照った体を冷やす働きは麦茶同様ですが、不思議なことに、咽燥(感)は一向に改善しません。飲めば飲むほど咽の渇きが増すような、一種の刺激感があります。私自身の感覚の個人差なのかも知れませんが、その「刺激感」のために、緑茶からは自然に遠ざかることになっています。
結語
当院の構造上の問題から、二階と三階の冷房と除湿の利かし過ぎの場所から、皮膚が焼け付くような陽光と、むせ返るような高湿度の外気に当たって一階の診療室まで、数えてみると1日の間に15~17回の往復をしています。診療が終わると三階の居室に翌朝までこもりっきりの生活です。
それで、体を冷やし過ぎたのか、乾燥し過ぎているのか、或いは暑気あたりなのか、自分でも弁証困難な体調に陥っています。ともかく咽燥があるので、冷えすぎた体を温めて、かつ咽を潤す飲み物を捜したところ、冷えた紅茶がいいとわかりました。紅茶は冷やして飲んでも、体は温まる感じがするし、咽燥を十分に抑えてくれます。ただし、大温のシナモン=肉桂(温裏散寒、補火助陽、引火帰源)を入れるのは向きません。
「酔い覚めの一杯の井戸水ほど旨いものは無い」
と小生に教えてくれたのは、旧友のNagamine和栄氏です。昨年届いた彼のメールを再度、紹介します。私の記憶する限り、当時彼が飲んでいた水道水は地下水のそれでしたので「井戸」は私の装飾です。
氏のメール本文 以下
一日遅れましたが、誕生日おめでとう。
しかし、貴ブログでぼやいておられるように、
この年になると眠りも浅くなり、疲れもたまりますね。
私も連日の熱帯夜に辟易しています。
布団に入ってもなかなか寝付けず、4時ころになって
ようやく半覚醒状態に陥いるがすぐに目覚めてしまい、
シーツの冷たい場所を探して輾転反側するうちに朝刊が届く、
というような毎日です。
まあ小生の場合は起きる必要がなく眠れるときに
寝ていればよいので、うとうとしながら昼近くまで
横になって最低限の睡眠時間を確保し、2,3日ごとに
深酒しては熟睡(と言うより気絶状態)して
睡眠不足を解消しています。
ところで、昔ながらの梅干を求めておられましたが、
時々母が送ってくれる高田梅はコリコリとして
歯ごたえも良く、酒のつまみにもなる逸品です。
(酸っぱいのと甘いのがあるそうで、小生は
酸っぱいほうをリクエストしています)
なんなら◎三に頼んで送らせましょうか?
博識でしょう?「輾転反側」しばらく目にしてない4文字熟語です。
「シーツの冷たい場所を探して輾転反側するうちに朝刊が届く」のくだりは凝縮された素晴らしい短文ですね。
本日のブログを以って貴兄への暑中見舞いといたします。敬具
酸味と甘みで酸甘化陰(さんかんかいん)という中医学用語があります。梅干しに砂糖をかけて緑茶を飲んでいた子供のころの御老人方を思い出します。
芍薬甘草湯にも、酸甘化陰(さんかんかいん)の理論があります。白芍甘草湯:酸甘化陰となり補陰の意味合いを持ちます。緩急止痛の定番です。
ドクター康仁
2014年8月18日(月) 記