糖尿病性腎症については、過去の165報~176報で、大まかな漢方治療をご紹介しましたが。今回の漢方市民講座では、張琪氏の弁証論治をご紹介したいと思います。腎不全から人工透析に導入される基礎疾患として糖尿病性腎症は近年ますます増加しており、基礎疾患の第一位になってきました。
漢方治療の実際をご覧になって下さい。( )内に随時、コメントを入れます。
医案に進みましょう。
患者:劉某 52歳 男性 教師
初診年月日:1997年10月12日
病歴:
2型糖尿病の病歴十余年、不規則に血糖降下薬を服用していた。半年前、腰痛、乏力症状が出現、休息後に症状は好転した。1ヶ月前、尿少、浮腫、納差腹張、全身乏力が出現。現地の医院での治療は無効、遂に治療を求め氏を受診した。
初診時所見:
面色皓白、肢体軽度浮腫、脘腹張悶、不思飲食、口臭あり、大便秘結、大便は3~4日に一回、腰膝酸軟、夜間頻尿、脈沈細。血圧173/90mmHg、尿蛋白2+~3+、ヘモグロビン値7.0g/dL(貧血が進んでいますね)、BUN28mmol/L(168mg/dL)、Cre489μmol/L(5.53mg/dL)、二酸化炭素結合力17mmol/L(正常域:20~30mmol/L或いは50~70 Vol%)。(代謝性アシドーシスも進んできましたね)
中医弁証:脾腎陽虚、湿濁、血瘀互結
西医診断:糖尿病性腎症、慢性腎不全
治法:補脾腎、温陽、活血泄濁法
方薬:
紅参15g 生山薬15g 淫羊藿15g 桃仁15g 紅花15g 赤芍15g 甘草15g 白朮20g 茯苓15g 何首烏20g 丹参20g 菟絲子20g 黄連10g 草果仁10g 半夏10g 大黄7g
水煎服用、毎日2回に分服
二診:
上方服用14剤後、大便一回/日、食欲増進、脘腹張悶消除、全身は前に比べ有力、但しまだ腰痛、夜間頻尿あるも治療前と比較し大幅に減少、脈沈滑。
三診:
上方40剤連続服用後、諸症は除かれた。血圧158/86mmHg、尿蛋白+、ヘモグロビン9.0g/dL、腎機能:BUN8.5mmol/L(51mg/dL)、Cre224μmol/L、二酸化炭素結合力23mmol/L。
経過:
上方加減継続治療6ヶ月後、ヘモグロビン10.5g/dL(上昇してきました)、BUN9.6mmol/L(57.6mg/dL)、Cre183mmol/L(2.06mg/dL)、二酸化炭素結合力25mmol/L(酸塩基平衡はバランスを取り戻しました)、精神体力ともに健常人のようになった。
ドクター康仁の印象
糖尿病性腎症の晩期は、虚実挟雑が多く、脾腎両虚、陰陽倶虚、湿毒貯留、血瘀互結となるのは臨床上、よく経験するものです。従って、補脾腎、瀉湿濁、解毒活血の治療法になるわけです。補と瀉に関しては、扶正して邪をとどめず、袪邪して正気を傷つけずという原則があります。これは腎不全に限りません。方中の紅参、白朮、茯苓、甘草は四君子湯であり、益気健脾であり気血生化の源を助けます。何首烏、菟絲子、淫羊藿は補腎陽益精養血に、黄連、大黄、草果仁、半夏は解毒瀉熱化濁に作用し、紅花、桃仁、丹参、赤芍は活血化瘀に働き、大黄は活血通腑泄濁に働きます。このタイプの患者は多く、張琪氏の上記方薬加減は治療効果が非常に良いと認識しています。
何首烏は熟地黄と異なり胃にもたれませんから最初に投与すべき薬剤の一つです。
中国人の食生活習慣などから考えて、BUN28mmol/L(168mg/dL)→40剤後にBUN8.5mmol/L(51mg/dL)の改善は食習慣と治療が不規則という面から、うなずけますが、Cre489μmol/L(5.53mg/dL)→Cre183mmol/L(2.06mg/dL)の改善は、やはり、氏の中薬治療の見事さを証明しているものです。Creレベルを3mg/dL以上改善させるのは難しいものです。
残存腎機能がある程度残っている場合には、漢方治療により、人工透析を回避できる可能性を示しています。
2014年 3月14日(金)