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インフルエンザと漢方(7)

2009-06-30 16:19:23 | インフルエンザ

五虎湯 桑白皮湯 清金化痰湯 清肺湯 清気化痰湯 辛夷清肺湯それぞれの相違点

直前の稿では、血分証の方剤である清瘟敗毒飲(せいうんはいどくいん 余霖 疫疹一得 清代)生石膏 生地 犀角 黄連 山梔子 桔梗  知母 赤芍  玄参 連翹 生甘草 牡丹皮 鮮竹葉 の解析から、三黄瀉心湯と黄連解毒湯について、その周辺を探ってきました。強調したのは、臓腑熱と血熱の概念です。そして、火熱熱毒が長引けば 気血が消耗される結果、耗気と耗血が生じること。大量の発汗は気随津脱によりさらに耗気を亢進させ、耗血は津血同源によりさらに傷津を悪化させること。気滞血、血熱血に十分に留意しなければならないことです。

さて、臨床上解熱がもたらされれば、一応は治療上成功と言えます。熱毒が消退されず肺の炎症が悪化していけば救命することは不可能です。同時に或いは解熱後に問題になるのは、主として肺の病理変化と咳嗽や熱痰に対する治療です。熱毒の再燃を抑えながら、臨床症状を軽快させ、かつ不可逆性の肺の組織変化を防止していかなくてはなりません。西洋医学的には、間質性の変化が出現してくる場合にはステロイドホルモンの治療が考慮される時期ですが、漢方を併用するとすれば、どの方剤、どの痰薬、どの止咳平喘薬を使用するのかという問題になります。

五虎湯 桑白皮湯 清金化痰湯 清肺湯 清気化痰湯 辛夷清肺湯のうちで、現代日本で保険適応があるのは五虎湯 清肺湯 辛夷清肺湯だけです。保険適応のある方剤と無い方剤の比較が必要です。五虎湯や清肺湯の位置づけを明確にしなければなりません。五虎湯 桑白皮湯 清金化痰湯 清肺湯は「温病学」の始まり以前の明代の方剤であり、清気化痰湯や辛夷清肺湯は温病学が出現した清代の方剤です。

五虎湯(ごことう 万病回春 1587?延賢 明代):麻黄 杏仁 甘草 石膏 桑白皮

五虎湯(ごことう 万病回春)は麻杏甘石湯(傷寒論)に桑白皮を加えたものです。五虎湯も清肺湯と同じ「万病回春」の方剤で保険適応があります。

麻黄(辛微苦)は宣肺平喘に作用し、杏仁(苦辛)は苦降の性質を持ち、麻黄の宣肺作用と杏仁の降気化痰を特徴とし、あわせて宣肺↑降気↓平喘といいます。宣肺↑の↑は、宣肺とは肺衛の表邪を疎散させることであり、感染(外邪)による肺気不宣が原因の呼気性の呼吸困難(喘)を改善させるという意味です。配合生薬でもっとも重量比で多い石膏は辛寒で清肺熱に働きます。

麻杏甘石湯は、石膏の量から全体として辛涼の性質を持ち、表寒裏熱或いは表邪未解の肺熱咳喘証、衛気営血弁証での肺熱盛の気分証に用いられる方剤です。感冒やインフルエンザに限って言えば、呼吸数や、ぜこぜことした咳き込みも多くなり、痰の色も黄色味を帯び、発熱が続いている比較的初期の場合に使用できるわけですが、現代医学では、混合感染を防止するために抗生物質の投与と、非ステロイド系抗炎症薬を投与するような場合に相当すると思います。桑白皮は甘寒で入肺し、瀉肺鬱熱作用と利水消腫の作用を持ちます。麻黄にも利水消腫があります。それで、五虎湯から受けるイメージはまず「喘」の改善ということであり、肺の炎症の進展を防止、改善するには力不足でです。

桑白皮湯(そうはくひとう 景岳全書 1624張景岳 明代):効能:清熱化痰 止咳平喘

桑白皮  黄連 山梔子 蘇子 半夏 貝母 杏仁

桑白皮は甘寒で入肺し、瀉肺鬱熱作用に加え、利水消腫の作用を併せ持ちます。治肺の観点からは瀉肺清肺の両作用がありますが瀉肺>清肺となるでしょう。アンダーライン部分は黄連解毒湯から黄柏を除いたと考えられます。趙博士によれば黄柏には斂陰の作用があるらしいのです。それで燥湿痰を目的にする場合には黄柏を除くらしいのです。そうなると、前4者で肺の鬱熱を除き、「痰湿」に傾いた肺を瀉肺と燥湿によって、痰濁を除くという意味があります。四川省の川貝母は苦甘微寒で清化熱痰止咳に作用します。前4者+貝母は熱痰に対する組み合わせです。残りの3つの温薬は基本的には寒痰に対する薬剤です。杏仁↓(苦辛)↓は肺気上逆つまりは咳を粛降作用によって抑えるとイメージしてください。傷寒論では、「喘家桂枝湯を作り厚朴、杏子を加えて佳なり」とあり、桂枝加厚朴杏仁湯の記載があります。これは温病学では衛分証に入るものです。しかし桂枝加厚朴杏仁湯は温薬偏重の方剤ですから、熱痰には適当ではありません。杏仁は苦降の性質を持ち、降気(下気)化痰平喘を特徴とします。蘇子(辛温)もほぼ杏仁と同様の効果を持っています。それでは半夏はどうでしょうか?半夏(辛温)の最も顕著な作用は鎮吐作用で、半夏厚朴湯(主治 梅核気)半夏心湯(寒熱挟雑)に使用されています。副作用は下痢で黄が拮抗します。この意味で桑白皮湯は半夏の副作用を軽減しています。  抗炎症作用が注目され、中医学的には「少陽病期」において用いられる重要な生薬です。温燥の性質からくる燥湿化痰作用は湿痰、寒痰によいとされます。脾経にはいるので 湿痰の要薬とよばれてもいます。ただし、辛温なので寒痰に適し、一方竹茹 萋 胆南星などの化痰薬は涼性なので熱痰に良いとされます。半夏を熱痰に用いる場合は清熱化痰薬と配合する。反対に燥痰には用いられないのです。貝母との合方により温燥の性質が緩和されていると言えるでしょう。再び趙博士の提言ですが治肺に燥肺の概念を入れたいとのことです。燥肺(半夏 天南星などの生薬)とは湿濁が肺に蓄積した場合に、肺の好む適当な潤の状態にまで戻すと言う意味であり、肺を燥にする意味ではありません。燥に過ぎてはなりません。肺は元来、燥をにくみ、燥に傾けば肺気上逆または喘息様の咳が出現するからです。こうして構成生薬を解析しますと、桑白皮湯は発熱期がやや落ち着いて、痰と咳嗽が出現してきた時期に用いられると私は考えます。肺の状態は依然として鬱熱があり、肺はウェットに過ぎており、肺気上逆が止まっていない病態です。

清金化痰湯(せいきんけたんとう 葉文齢 医学統旨 明代):

芩 山梔子 知母 桑白皮 貝母 麦門冬 萋仁 茯苓 陳皮 桔梗 甘草

桑白皮湯に配合される半夏 杏仁 蘇子の温薬が除かれています。温燥薬が除かれている理由は、湿痰が軽微になったのか?むしろ肺の嫌う燥の状態になったのか?杏仁の降気化痰平喘作用の「喘」の状態が無いのか?クエスチョンマークはどんどんと増えていきます。桑白皮湯に比較して温薬が減り、平喘効果より痰熱養肺陰の効能に偏した方剤が清金化痰湯です。知母の潤燥作用と、萋の清肺化痰作用と潤肺作用、さらに養陰剤の麦冬が配合されていますから、肺陰の保護という治療概念が入ってきているようです。肺熱が長引き、やや傷津の傾向が出現した場合に適するのか、あるいは傷津の予防なのかとも考えられます。桑白皮は甘寒で、治肺の観点からは瀉肺清肺の両作用がありますが瀉肺>清肺となり、甘淡平の茯苓の利水滲湿作用と相まって瀉肺効果を強めていると考えられます。それでは、瀉肺と養肺陰とは治療上矛盾しないのかという疑問があります。瀉肺は肺をウェットからよりドライ方向に持っていく概念ですし、養肺陰はドライからよりウェットの方向に向かう治療概念だからです。つまり逆向きだからです。切れにくい痰がからむ陰虚肺燥に麦冬などの養陰剤を使用すると痰が切れやすくなることは臨床的に確かめられています。無論そのような場合には瀉肺は誤治になります。したがって瀉肺しながら養陰するという治療は、清金化痰湯の場合には、芩 山梔子の清熱解毒燥湿作用にも鑑み、傷陰の防止という意味合いが強いのでしょう。そうなるといわゆる証として肺陰不足は無いと思うのです。転ばぬ先の杖として肺陰を保護しているのではないのかと思うのです。辛苦温の陳皮は茯苓と配合すると燥湿化痰効果が強化されますが、性質が温和で温燥に過ぎることは無く、陳皮一味の温薬の加味で清金化痰湯の痰熱養肺陰の効能に矛盾するものではないと考えます。清書によっては、陳皮は温燥に偏するので実熱、津虚に使用すべきでないとありますが、気にすることもなさそうです。圧倒的に他薬が涼寒薬だからです。

清肺湯(せいはいとう 万病回春 1587?延賢 明代)保険適応のある方剤

 桑白皮 山梔子 貝母 陳皮 桔梗 杏仁 五味子 茯苓 当帰 天門冬 麦冬 生姜 大棗 甘草(日本のエキス剤には竹茹が配合されています)

 山梔子 桑白皮は清肺熱、桑白皮は利水消腫にも働き利水滲湿の茯苓が協調して瀉肺にも働きます。竹茹は清化熱痰に、貝母は清化熱痰と潤肺に、杏仁は降気化痰平喘に、桔梗は宣肺痰止咳に作用します。陳皮は下気開痞消痰散結に作用し杏仁を補佐すると考えられます。ここまでの生薬の構成から証を考えれば、肺熱があり、痰がからみ肺の失宣降を起こし、咳嗽がある状態です。

甘寒の天門冬 麦冬は養肺陰に作用します。熱痰が肺を阻滞する状態が長引いて、傷肺陰の状態が出現し、かつ咳嗽が続いていると証を訂正してみましょう。熱痰ではあるが切れにくく肺陰虚の傾向があるということです。竹茹が加味されたのは

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インフルエンザと漢方(6)

2009-06-19 13:45:35 | SARS

営血分証の方剤に清瘟敗毒飲(せいうんはいどくいん 余霖 疫疹一得 清代)があります。組成は生石膏 生地 犀角 黄連 山梔子 桔梗 芩 知母 赤芍玄参 連翹 生甘草 牡丹皮 竹葉 であり、桔梗と甘草を除き、涼寒薬一辺倒の方剤です。白虎湯(傷寒論 後漢代)三黄瀉心湯(金匱要略 後漢代) 黄連解毒湯(外台秘要 唐代) 涼膈散(太平恵民和剤局方 北宋代) 清営湯 化斑湯犀角地黄湯(いずれも温病条弁の方剤 清代)の全ての成分を含むのです。主治は温疫熱毒 気血両燔証であり、温病の重症型です。

本稿にいたるまで気分証の方剤について述べてきましたが、引き続き気分証の方剤を述べるにあたって、逆向きに、邪入営血の清瘟敗毒飲の構成方剤を眺めていく手法をとりたいと思うのです。というのは、かつてSARSが流行した際に、北京の中日友好病院が熱毒期(発症5日から7日):高熱、呼吸苦、舌が紅く、舌苔が黄厚燥の時期に清温敗毒飲の内服と魚醒草(ぎょせいそう 十薬 ドクダミ)と丹参の点滴を推奨し、結果、救命率を向上させた経緯があるからです。鳥インフルエンザにせよ、豚インフルエンザにせよ、SARSにせよ温病の粋に入ります。したがって、温病学はインフルエンザの治療上の重要なヒントを与えてくれます。

三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう 金匱要略)黄連 黄芩 大黄

結論から言えば、温病気分証にも営血分証にも用いられます。

効能は清心瀉火 解毒 泄熱化湿であり、主治は心火 血熱妄行 三焦熱毒積滞 湿熱内瘟(熱重湿軽)です。

三黄瀉心湯の効能を知る上で欠かせない中医学の概念が「臓腑熱(ぞうふねつ)」で、臓腑の熱を清するという治療概念があります。臓腑熱の証は以下のようになります。

心熱(心火とほぼ同意です):不眠 焦燥感 多夢 顔面紅潮 心悸 口内炎 舌尖のしみる感じを伴う痛み(古典的中医学では舌は心の苗と例えられます) 著しい心火の場合には狂躁などの精神症状 舌尖が紅い 脈数 

肺熱:咳嗽 痰が黄色 咽頭痛 

胃熱:胃痛 嘔吐 口臭 歯痛 歯肉出血 

肝胆火熱:口苦 いらいら感 易怒 頭痛 耳鳴 胸脇痛 

腸熱:腹痛 下痢 裏急後重 

現代西洋医学の日本では臓器別専門化が顕著になりました。その環境下で育った西洋医にとって、臓腑熱という概念は比較的受け入れやすいものですが、心熱と口内炎、精神症状、不眠 多夢などは中医学独自の相関です。

使用薬剤と常用方剤をあげてみましょう。

心熱黄連 梔子 木通 通草 蓮心

聞きなれない蓮心は蓮の実の中の緑色の胚芽の部分で、苦寒で、清心瀉火 安神

に働き、煩躁 不眠 遺精に補助的に使用される薬剤です。清営湯(せいえいとう温病条弁 生地黄 玄参 蓮心 連翹 犀角 麦冬 竹葉心 丹参 黄連 金銀花)に配合されています。心と表裏関係をなすのは小腸です。中医学には心―小腸―膀胱という、西洋医学的には首をひねりかねない臓腑間の関係があり、心熱が小腸に移り、排尿痛などの泌尿器の症状がでるという病因論があります。現代医学的には検尿しても細菌の感染が確認できない無菌性膀胱尿道炎の場合に、よく効く方剤があります。導赤散(どうせきさん)です。

導赤散(どうせきさん 小児薬証直決):木通 現代では木通は通草 あるいは灯心草で代用します。両者ともに利水滲湿薬で、引熱下行し、熱を小便から排泄させる働きがあります。生地黄 生甘草 淡竹葉 が配合です。効能は清心瀉火 利水通淋であり、心経熱盛証(心胸煩熱、口渇面赤、渇欲冷水、口舌アフター)に尿混濁、排尿痛などの熱移小腸の証が加わったものに効果があります。

実はインフルエンザの際の異常行動について私は心熱熾盛が関係しているのではないかと疑っているのです。三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう 金匱要略)黄連 黄芩 大黄のような瀉心熱の方剤が今後見直されてくる可能性があると思っています。

肺熱 桑白皮 知母 石膏 地骨皮 腥草

地骨皮は枸杞の根あるいは根皮です。甘寒で帰経は肺肝腎、効能は退骨蒸 清瀉肺熱 清虚熱、清熱涼血、骨蒸とは陰虚の際の午後の定時発熱、盗汗を伴い、骨の蒸されるような熱感を表す漢方独自な用語です。軽い生津作用もあります。地骨皮は肺熱を清する作用は瀉白散に利用されています。

瀉白散(しゃはくさん 小児薬証直決)地骨皮 桑白皮 甘草 粳米

主薬である桑白皮は甘寒で入肺し、瀉肺鬱熱に地骨皮は清肺実熱退虚熱に作用します。https://app.blog.ocn.ne.jp/t/app/weblog/post?__mode=edit_entry&id=31646836&blog_id=141738

桑白皮は瀉肺鬱熱作用に加え、利水消腫の作用を併せ持ちます。

瀉肺鬱熱作用が強調される方剤としては、前述の瀉白散に加え五虎湯も挙げられます。五虎湯(ごことう 万病回春)は麻杏甘石湯に桑白皮を加えたものです。

五虎湯(ごことう 万病回春):麻黄 杏仁 甘草 石膏 桑白皮

痰熱壅肺に対して清肺化痰の効能をもつ桑白皮湯も紹介します。

桑白皮湯(そうはくひとう 景岳全書):効能:清熱化痰 止咳平喘

桑白皮  黄連 山梔子 蘇子 半夏 貝母 杏仁

桑白皮湯に比較して温薬が減り、平喘効果より痰熱の効能に偏した方剤が清金化痰湯です。知母には潤燥作用がありますし、萋には清肺化痰作用の他に潤肺作用もあり、養陰剤の麦冬が配合されていますから、肺陰の保護という治療概念が入ってきます。肺熱が長引き、やや傷津の傾向が出現した場合に適すると考えられます。

清金化痰湯(せいきんけたんとう 統旨方):

芩 山梔子 知母 桑白皮 貝母 麦門冬 萋仁 茯苓 陳皮 桔梗 甘草

清金(清肺熱)に作用するのは、黄 山梔子 知母 桑白皮 化痰に作用するのは貝母 萋仁です。麦冬は潤肺に 桔梗は痰除去に作用します。主治は内傷咳嗽、痰熱鬱肺です。温薬は陳皮のみです。

肺熱に対する方剤はインフルエンザに十分に応用が可能でしょう。当初は銀翹散を投与し、咳嗽が強くなり、痰が黄色くなってくるようであれば、適当な清肺熱の方剤を選択しても過誤ではありません。SARS治療剤で前述した魚腥草(ぎょせいそう)は、帰経は肺、清熱解毒 排膿に作用し、古くから肺化膿症(肺?)に用いられてきました。中国 貴州では魚腥草を常食にしていると聞いています。抗菌作用が判明し、注射薬は多用されています。生の魚腥草は独自の臭みがありますが乾燥品には臭気はありません。

肝胆火熱龍胆草 夏枯草 青黛

龍胆瀉肝湯(蘭室秘蔵)

龍胆草(近代は 山梔子を加えます)木通(近代では通草を用います


インフルエンザと漢方(5)

2009-06-11 13:53:01 | インフルエンザ

温病学-衛気営血弁証 気分証について

湿熱留恋三焦(しつねつるれんさんしょう)

気分証の湿熱証には、似たような用語があります。

温病学の祖ともいえる葉天士は「湿熱論」で湿熱留恋気分(しつねつるれんきぶん)を提唱し、湿熱が気分に停留し、外解もされず営血に入らない病態であるとし、
身熱不揚 腹満 胸苦しさ 悪心 納呆(食欲低下)頭重 四肢の重だるさ 小便不利など湿熱鬱阻(うつそ)気分の証をあげています。

呉鞠通は「温病条弁」で、湿熱瀰漫三焦(しつねつびまんさんしょう)の用語を提唱し、湿熱の邪気が中焦から上下焦に波及し、発熱に加え、上焦の証としての口渇 胸苦しさ、中焦の証としての胃部不快 納呆、下焦の証としての小便不利が現れ、病状が悪化した場合には意識混濁が現れる一連の証をあげました。

留恋(るれん)あるいは湿熱邪留(じゃりゅう)三焦はいかにも漢文的な言い方ですね。瀰漫(びまん)は現代西洋医学的表現のdiffuseに近い印象です、鬱阻(うつそ)とは現代中医学の状態と病機(メカニズム)を表す用語です。

私は留恋とか瀰漫、あるいは鬱阻の用語の使い方にこだわらないことにしています。

甘露消毒丹(かんろしょうどくたん 1852 温熱経緯 王孟英 清代

滑石 茵陳  菖蒲 母 通草 香 射干 連翹 薄荷 白豆? 

滑石は清熱利湿、茵陳は清熱利湿と退黄に、黄芩は清熱解毒燥湿に作用します。 

以上の3薬が量から判断しても君薬です。

現代では木通は腎障害の副作用のために通草を用います。清熱利湿に作用します。

射干と連翹は清熱解毒 透熱に作用します。

母と射干は共に、清熱痰 清咽散結に作用します。

香 白豆? 薄荷 菖蒲は芳香性で化濁に作用し、宣肺透熱 行気醒脾に働きます。

さて 王孟英は湿熱が気分に鬱阻すると、以下のような証が出現するとしました。すなわち

身熱 全身の重だるさ、胸や腹の張り、頭重感、喉の腫れや痛み、口渇、悪心、嘔吐、下痢、下苔は一般に白?あるいは厚?、尿量減少、まれに重症型で黄疸や皮下出血 脈は濡数 などの証です。

甘露消毒丹は、現代中医学では、ウイルスや細菌感染症などの「湿熱邪留三焦」に対する方剤の位置づけがあります。元来は、夏の高温高湿度の時期に伝染病を感受して湿熱の邪が中焦を主体に三焦に邪留している状態に対する方剤として、伝統中医学では「湿温時疫の主方」と呼ばれました。現代方剤学では、清熱湿剤に属し、主治は湿温時疫 湿熱鬱阻気分証で湿熱倶重の状態に対する方剤とされます。湿熱倶重とは湿と熱が同等であるという意味で、後述しますが、中医学では、湿熱倶重(あるいは湿熱倶盛とも言います)、湿重熱軽、湿軽熱重などのように、湿熱証を湿証と熱証の軽重に分けて考えます。

以上の「湿熱邪留三焦」の現代医学的疾患対応とはどのようになるでしょうか?

その前に、

現代西洋医学で決定的に不足している概念は中医学でいう「湿」とくに「内湿」の概念です。「概念が無い」のですから、西洋医学的に解説も表現もしようがないのです。

「無い袖は振れない」といいますね。まさにそれなのです。

しかしです、、だからといって、「や~めた」では漢方は理解できないのです。

基本概念が無ければ理論体系は成り立たないからです。西洋医である私にとって「湿」は定義付けられる確固としたものではなく、よりイメージに近いものです。

湿(しつ)のイメージ

病因病機

 外湿は六淫{風、寒、暑、湿、燥、火(熱)}の一つであり、多くは多湿の気候下での生活、水に浸かっての労働、雨にうたれることなどの外の湿邪が体内へ侵入することにより生じたものを指します。これは感覚的に比較的容易に理解できます。問題は内湿です。内湿は人体の病理産物であると同時に他病の誘引ともなります。

まずこの一行の文章が大切です。内湿の多くは、脾の運化の失調や水湿の停滞によって生まれるのです。(脾の「運化失調」に関しては中医基礎理論に詳細がありますので香味のある諸氏はさらなる読書をおすすめします。後ほど簡単に解説します。)内湿と外湿とは疾病の過程において影響しあっています。多くは外湿により発病し、脾胃が犯されて、脾の運化が失調するために、内湿が生まれます。さらに脾の運化が失調すれば、又容易に外邪の侵入を許すことになります。内湿の成因は、まず飲食の不摂生です。生物(なまもの)・冷たい物・酒・油っこい物・甘い物を食べ過ぎたり、異常な過食、逆の極度な拒食をすると、脾胃が損傷され、運化の働きが悪くなり、津液の運化、運搬ができなくなり、内部に湿が生じ、下痢あるいは浮腫となり、或いは飲邪となるのです。これは「素問・至真要大論」で「諸々の湿するは、皆脾に属す」という病機論に基づいています。

イメージが大切なんですね。湿のイメージを持ってください。

引き続き、

体に侵入した湿邪は、人間の臓腑機能の違い、体質や治療によって変化します。脾陽虚の人は寒に転化しやすく、胃熱の盛んな人は熱に転化しやすいと中医学は説いています。治療で寒涼の薬を用いすぎると、寒に転化しやすく、温燥の薬を闇雲に加えれば、熱に転化しやすいのです。寒と化した寒湿は脾陽を傷つけやすく、湿が熱と化すと胃陰を傷つけやすいのです。これを、湿邪寒化或いは湿邪熱化といいます。湿は陰邪であり、性質は粘っこく停滞しやすいので、湿が勝てば陽を弱くすることは必然です。湿邪寒化は湿邪成病の主な発展傾向です。臨床上では、寒化は熱化より多いのです。

漢方の修行は、最初は外国語の勉強に似ています。「湿熱が中焦脾胃に鬱阻する状態」云々といっても、まず脾胃の臓腑弁証を知っていることが前提です。そこで、少し、遠回りかもしれませんが、本稿では脾の中医基礎理論の概要を説明します。「急がばまわれ」です。

脾胃病の病因病機

 脾と胃とは互いに表裏関係にあり、脾は運化を主り、又、統血を主ります。胃は受納と水殻の腐熟を主ります。脾は昇を主り、胃は降を主るのです。脾胃はともに助け合い、共同して水殻の消化、吸収、輸送を行うので、気血生化の源であり、後天の本であるといわれます。このため、もし脾胃の昇降機能が失調すれば、水殻の受納、腐熟、輸送等に障害が発生し、嘔吐、しゃっくり、下痢、腹部膨満感等の症証が起こると中医学は説きます。脾の運化が失調すると、源が衰えるために、臓腑経絡や四肢等、全身のいたるところで滋養ができなくなります。脾気が弱り、摂血ができず、血が帰経できなくなると、血証が生じる。この血証は温病学の血分証とは異なります。脾の運化が失調し、津液の輸布ができないと水湿が停滞し、飲や水腫ができます。

 脾胃に病があればその他の臓腑に影響が及び、その他の臓腑に病があれば脾胃にも影響が及びます。その中でもとりわけ肝腎との関係は密接です。脾の後天の本、腎の先天の本はお互いに滋養し合い、相互に作用しあっています。脾虚になり、生化の源が衰えると、五臓の精が少なくなり、腎の蔵する精気が失われます。腎虚により、陽気衰弱になれば脾が温煦作用を失い、運化が失調されます。脾の昇清によって肝気も上昇し、胃の下降によって胆汁は流れ、肝が脾の運化の機能を助けることを肝木疏土(かんもくそど)といいます。また、脾土は木を営み、疎泄に用いられるともいえます。肝鬱気滞により脾胃に影響し、脾胃の健運ができなくなると、肝気が脾虚に乗して脾を犯しやすくなります(木乗土といいます)。故に情緒変動により胃痛が起こり、腹痛等もしばしば発生するのです。

虚実寒熱の観点から眺めると、例えば脾陽虚衰は中気不足の虚証に属し、寒湿困脾(後述)や湿熱内薀は実証に属します。脾虚で運化できなければ、即ち水湿が停滞するために、脾病の多くは湿と関係があります。本虚標実の証候も出てきます。脾虚は他の臓にも影響し、その他の証を兼ねて見られることもあります。

臨床上ではよく見られるのは下痢、胃痛、しゃっくり、嘔吐、痰飲、吐血、血便などの症状です。

脾病と湿との関係を総括すれば以下のようになります。

脾病と湿との関係は密接であり、寒熱虚実の諸々の証とも関係を有し、すべて湿との兼証をもって現われる。例えば寒証では寒湿困脾、熱証では湿熱内蘊、実証であれば水湿内停、虚証であれば脾不運湿である。治療時においては病情を合わせて考え、燥湿、利湿、逐水、化湿の薬剤をもって湿を取り除いてやり、脾の運化を回復させることが肝要である。

何しろ、西洋医学には「湿」の概念が無いのですから、面倒くさい単語を並べるしかありません。

私に「湿」のイメージを最初に教えてくださったのは、上海中医薬科大学の朱教授です。教授は津液の体内での生成輸布をいつでも頭にシェーマとして思い浮かべられるようにしないといけないと常々おっしゃっていました。シェーマ図はこのブログでは無理なので文章にしてみましょう。

津液は脾の運化作用により水穀から小腸、大腸より吸収され、脾の昇清作用により肺に運ばれ肝の疏泄作用とともに肺の主気作用、宣発粛降作用(通調水道作用)により三焦をめぐり、肺の宣発作用の一部として汗になるとともに、腎の気化作用による利尿ならびに、脾の降濁作用により腸に下がった便によってもその量が調節される。現代用語でいう原発性、続発性を問わず、脾の運化失調は正常な津液の代謝を障害させ湿を生じさせる。  以上です。 シェーマが浮かびましたか?

湿の証治分類

これは脾病の実証の分類に重なります。

(1)寒湿困脾(かんしつこんぴ)

冷たい飲み物・なまもの・果実の食べ過ぎにより、寒湿が中焦に停滞することや。雨に長時間うたれたり、多湿下に住んでいると寒湿が内に侵入します。体質的に内湿が盛んだと中焦の陽気の働きが阻害されて、結果、さらに寒湿が生じてしまいます。


インフルエンザと漢方(4)

2009-06-07 10:07:32 | (大 小 調胃 増液)承気湯

温病学-衛気営血弁証 気分証について

衛分証から一歩病状が進んだ状態が気分証です。ですから熱の出方が問題になります。いわゆる呼吸器症状のみで重症感のない気分初期、やや呼吸器症状が悪化して呼吸促迫の傾向が出現してくる肺(胃)熱盛、高熱、激しい口渇、発汗が著しく、脈が洪大の特徴をもつ気分大熱、腹部症状が加わり、腹満、腹痛、便秘、圧痛、脱水症状の傾向が見られる熱結腸胃、発熱に起伏性があり、胸苦しさ、悪心、嘔吐、脱水傾向があり尿量も減少し、軟便や下痢があり、かつ舌苔が白あるいは黄の?苔をしめす湿熱留恋三焦、湿熱が腸胃に蘊結し、いやな臭のある下痢が生じ、舌苔が黄?である湿熱蘊結腸胃などが気分証の分類とでも言うべきものです。

温病はインフルエンザに限らず、発熱を伴う感染性の熱病をさします。したがって、上記の各気分証は、インフルエンザの進行でも起こりえるし、他病でも起こりえるわけです。しかし、確率論的にいえば、インフルエンザの場合、熱結腸胃や、湿熱留恋三焦、湿熱蘊結腸胃は現代医学の治療経緯の中では起きにくい証なのです。現代日本では、無治療で放置しておくインフルエンザは皆無に近いのですから、気分初期証、あるいは於肺熱盛のうちに診断がついて、治療が開始されるわけです。それで、治癒方向に向かうのが大半で、少数が次の営分証へと移行していくと考えられます。

     そう言ってしまえば、あまりに簡単に過ぎるので、

               先人に敬意を持ち、気分証の整理をして見ます。

気分証の病理は邪入気分と熱灼津傷です。診断の要点は、発熱、高熱、あるいは往来寒熱で、悪寒を伴わないことが多く、口渇 黄苔で脈は数有力で、湿を挟む場合もあるということでしょう。傷寒論の六経弁証での、少陽、陽明病に相当する裏熱の状態であるともいえます。気分証の往来寒熱は少陽病の往来寒熱と同位置と理解してもいいのです。三焦弁証と比較してみると、中焦脾胃病は気分証に相当します。

治療手法は、熱邪に対して清熱解毒、尿量減少に対しては生津と利尿、湿を挟む場合は利湿、気滞、便秘には理気および通便となります。こう言ってしまえば対症療法そのものですが、清熱泄熱通便、養陰生津、利尿泄熱、健脾化湿、芳香化湿、燥湿健脾、苦寒燥湿、風湿などそれぞれの生薬の特徴を生かした組み合わせをするのです。代表的な方剤を列記して検討を加えます。

梔子鼓湯(ししちとう 傷寒論):山梔子 淡豆鼓

温病条弁には「太陽病これを受けて二三日、舌微黄、寸脈盛、心煩懊悩し、起臥し安んぜず、嘔せんと欲して嘔を得ず、中焦証なきは梔子鼓湯これを主る」とあります。邪が気分に入った初期で、鬱熱の状況に用いるとあります(気分初期)。原典の傷寒論では、「傷寒五六日、大いに下して後、身熱去らず、心中結痛のもの」陽明病を下し「心中懊悩し、ただ頭汗出づるもの」「下痢の後、さらに煩し、これを按じ心下濡のものは、虚煩となすなり、梔子鼓湯に宜し」とあり、汗吐下の邪を行ったのに、胸を中心に鬱熱している状態に用いるとあり、陽明病から引き続く、気分初期の状態ではない場合も記載しています。温病学では陽明病は気分証に入れてあるわけですから、事の前後の細部にこだわる必要はなく、気分軽症に用いると私は考えています。淡豆鼓(たんどうち)は香鼓(こうし)或いは、豆鼓(とうち)とも称され、黒大豆の発酵食品です。 辛 甘 微苦 涼 あるいは微寒 あるいは微温と清書に記載されていますが、それは、桑葉 青蒿と一緒に発酵させると涼寒性に、麻黄 紫蘇と一緒に発酵させると微温の性質をもつといわれるからです。衛分証に用いられる銀翹散や気分証初期の梔子鼓湯に用いられます。衛分証に用いられる場合には疏風解表の効能が求められ、梔子鼓湯では、宣鬱除煩の効能が期待されているわけです。

麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう 傷寒論):麻黄 杏仁 甘草 石膏

配合生薬でもっとも重量比で多いのが石膏です。石膏は辛寒で清肺熱に働きます。

辛温の麻黄は平喘に作用し、杏仁は苦降の性質を持ち、宣肺作用と降気化痰を特徴

とし、あわせて宣肺降気平喘といいます。煎じる際の注意点は後下(こうしゃ)です。有効成分は熱により破壊されるので、他薬を煎じた後で加えなければなりません。傷寒論では、喘家桂枝湯を作り厚朴、杏子を加えて佳なりとあり、桂枝加厚朴杏仁湯の記載があります。これは温病学では衛分証に入るものです。杏仁には潤腸通便の作用もあり、蘇子もほぼ杏仁と同様の効果を持っています。麻杏甘石湯は、石膏の量から全体として辛涼の性質を持ち、表寒裏熱或いは表邪未解の肺熱咳喘証、衛気営血弁証での肺(胃)熱盛の気分証に用いられる方剤です。感冒やインフルエンザに限って言えば、呼吸数や、咳き込みも多くなり、痰の色も黄色味を帯び、発熱が続いているものの、比較的初期の場合に使用できるわけですが、現代医学では、混合感染を防止するために抗生物質の投与と、非ステロイド系抗炎症薬を投与するような場合に相当するでしょう。

白虎湯(びゃっことう 傷寒論):石膏 知母 生甘草 粳米(こうべい 中国語でジンミー)効能は清熱除煩養陰です。石膏は清熱瀉火 知母(ちも)は苦甘寒で、清熱瀉火作用に加え、甘寒の性質から滋陰潤燥の働きがあるために、白虎湯の養陰作用の由来となる生薬です。生甘草は清熱に作用し、粳米は補胃和中に働くとともに、石膏の清熱成分を十分に煎じ液中に留めると教えられました。肺胃実熱(上焦 肺、中焦 胃)の気分実熱に効果がありますが、滋陰潤燥の働きは、陰虚燥咳、陰虚盗汗、腎陰虚による骨蒸、消渇、虚火上炎による胃虚熱にも適応が広い生薬です。石膏が気分実熱症に用いられるのに比較して、知母は実熱、虚熱両者に用いられるのです。高熱による傷津を未然に防ぐ意味合いもあります。傷寒論では、

白虎湯証の4大証は大熱、大汗 大口渇 大煩であり、舌質紅、舌苔黄燥、脈洪大或いは滑数、四肢厥冷、不悪寒と続き、陽明病証である腹満、口不仁、譫語(せんご)、遺尿、喘などであり、いわゆる「陽明経燥熱実証」といわれるものです。六経弁証の陽明病について概略は、病機概要として、陽明経証は熱盛灼傷胃津に属すものであり、陽明腑証は胃腸実熱、食積、燥屎蘊結に属すものであるとなります。

身熱汗出、悪寒はなく悪熱し、煩燥、口渇引飲を主証とするものが、陽明経証に属し。潮熱、腹脹満、堅硬拒按、便秘、甚だしければ譫語を主証とするものが、陽明腑証に属します。治療原則は、陽明経証の場合に清熱瀉火。陽明腑証の場合に攻瀉実熱となります。主要な方剤が、清熱瀉火の場合に、白虎湯。攻瀉実熱の場合に、承気湯(じょうきとう 傷寒論)となるわけです。陽明経証の場合には、無形の邪熱が陽明経に侵入し散慢(満ちている)するが、腸管には燥糞内結がまだ無く無結であると考えます。この時期には発汗法は誤治であり、白虎湯あるいは白虎加人参湯で清熱、清熱生津するのです。陽明腑証に進展せず、治療後に余熱が上焦(胸膈)に鬱滞した場合(虚煩)は梔子湯にて治療することが傷寒論の要旨です。

白虎加人参湯は白虎湯に益気生津の人参を加えたものです。傷寒論に忠実に記載すれば、白虎加人参湯証は大熱、大汗、大煩渇、欲飲水数升、背微悪寒、舌質紅、舌苔乾燥白、或いは黄燥、脈洪大やや無力あるいは浮滑となります。八綱弁証で表現すれば、陽明経燥熱実症と気津損傷が加わった虚実挟雑症です。したがって、清熱生津、透表駆邪、益気養陰をはかるのです。

さて、話をインフルエンザに戻してみましょう。

現在では典型的な白虎湯あるいは白虎加人参湯の証を見ることは極々稀です。現代中医学では、清肺熱の代表方剤は麻杏甘石湯、白虎湯であるが、小児科領域では薬性の穏やかな散(しゃはくさん)を用いると説いています。

瀉白散(しゃはくさん 小児薬証直決)地骨皮 桑白皮 甘草 粳米

桑白皮は甘寒で入肺し、瀉肺鬱熱に地骨皮は清肺実熱退虚熱に作用します。

温病学からは離れますが、白虎湯の清熱作用は、熱証の著しい関節炎(熱痺)に

白虎加桂枝湯(びゃっこかけいしとう 金匱要略)加減として利用されています。

また、前のブログ瘧疾(ぎゃくしつ)中の温瘧(おんぎゃく)

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20090527

の治療方剤の基本として白虎加桂枝湯加味の手法があることを付記します。

承気湯(じょうきとう 傷寒論)

陽明熱盛:陽明裏実熱症(陽明腑実症)は熱性の便秘(熱秘)をもたらします。さて、傷寒論では陽明病の成因は3通りと理解でき、それぞれ熱秘の生成を見てみましょう。

①太陽陽明:太陽病の誤治により津液が著しく損傷され邪が化熱化燥し陽明に転入し、胃熱のために脾が津液を巡らすことができなくなる後述の脾約を発症することを指す。便秘はあるが腹満痛、潮熱、譫語は出現しない。太陽陽明の便秘の治療は麻子仁丸(ましにんがん 後述)で行う。

②正陽陽明:外邪が直接陽明に侵入し化熱化燥し、燥熱と糟粕が結合し燥屎を形成することを指す

③少陽陽明:津液損傷により少陽の邪が化熱し陽明に転入し、胃腸が乾燥し、心煩が出現し、大便難(便秘)を発生することを指す。

以上が陽明病の熱秘の生成過程です。

以下に傷寒論に基づき、大、小、調胃承気湯証を簡記します。以下の寒下承気湯方剤はいずれも陽明腑実証に用いられます。その理論は釜底抽薪(ふていちゅうしん)に例えられます。熱のたぎる釜をさますには燃えている薪(たきぎ)を通便により取り除くという意味です。寒下作用は 大承気湯>調胃承気湯>小承気湯の順になります。傷寒論に忠実に各承気湯の証を記載します。

大承気湯大黄 厚朴 枳実 芒硝)証:心下痞、腹満して少しも軽減しない、臍周囲痛、大便燥結、便秘、熱結傍流のため時に悪臭のある便を排出する、

潮熱、持続微汗、心煩懊悩、譫語 何かに取り付かれたように独り言を言う、意識混濁により人を識別できない、循衣模床、微喘直視、言語必乱、脈沈遅実大(脈証は典型的ではありませんが)、舌質紅、舌苔老燥、焦裂起刺と高熱による津液損傷が著しくなっています。この場合には、早く原因となっている熱秘を通便にて下して体温を下げ、熱結傍流も無くし、放置すれば必至の津液の喪失を防止しなければなりません。このような考えかたを通因通用といい、一刻も早く下して、津液(陰)を守るという意味で、急下存陰をはかると言います。大黄は苦寒で熱を泄し、乾結の便を攻下し、芒硝は咸寒潤燥、軟堅破結に働き、厚朴、枳実は破気導滞に作用します。熱が甚だしく、燥結がひどくない場合は、芒硝を取り除き、黄、山梔子、銀花を加え、腹痛が両脇まで響く場合は柴胡、鬱金を加えると現代中医学は説いています。明代には万病回春で大承気湯加方とも言うべき通導散(つうどうさん)が考案されました。過去ブログ以下URLを参照してください。


インフルエンザと漢方(3)

2009-06-04 00:48:35 | SARS

前回までは、インフルエンザを温疫のひとつとして、温病学の基本をなす衛気営血弁証の中の「衛分証(えぶんしょう)」について、方剤として銀翹散桑菊飲について述べました。温病はインフルエンザに限らない広い概念ですが、衛分証は気分証に病状が進行するいわば、最初の病証です。衛分証の中で特に「湿を挟む」病証に対して、古くから朴夏苓湯(かつぼくかりょうとう)が使用されてきました。湿を挟む温病を湿温といいますが、湿温の初期に使用するのが朴夏苓湯です。湿を挟むことを漢方用語で「挟湿(きょうしつ)」といいますが、ややあいまいな表現です。湿温という概念が、多湿時期に起こる温病という時期環境の意味合いが強いのに比較して、挟湿という概念には、環境の湿度が人体に「外湿」として災いを及ぼしているという面と患者自体の素体(そたい:体質ともいえますが、、)が体内に湿を貯めやすい内湿であるという2つの意味合いを持つからです。

朴夏苓湯(かつぼくかりょうとう 医源 湿気論 清代)

杏仁 白寇仁 苡仁  厚朴 半夏 茯苓 淡豆 猪苓 澤瀉

証は頭重痛 身体が重い 発熱 腹満痞張 納呆(食欲不振と同意) 悪心 嘔吐 下痢 尿量減少 白?苔 濡脈(浮細軟)などであり、湿盛熱微の湿温初期に用いられます。表証を発散させ湿を除くという意味から宣表化湿が効能とされます。

方剤中の各中薬の量からは、名前の通り、 厚朴 半夏 茯苓が主薬なのですが、私は「覚えやすいように」杏仁 白寇仁 苡仁が先に口に出るようにしています。それは、後述する三仁湯(さんにんとう)でも杏仁 白寇仁 苡仁の組み合わせが出てくるからです。開開滲と覚えるのだそうですが、

杏仁による         開上焦

?仁 茯苓による     開中焦

苡仁 猪苓 澤瀉による  滲下焦  となります。

「開く」という文字の感覚が大切で、杏仁は肺、白?仁 茯苓は脾を通して、内湿を除去し、苡仁 猪苓 澤瀉は利水出作用により、さらに湿を除くという意味なのです。芳香化湿の香、行気化湿の半夏 厚朴の組み合わせになっていますから、湿を重視した方剤であることが理解できます。淡豆は辛涼解表薬です。組成から判断すると、清熱の作用は三仁湯より弱いものです。

三仁湯(さんにんとう 温病条弁 清代)

杏仁 ? 苡仁 竹葉 通草 滑石 半夏 厚朴 

証:悪寒 頭重痛 身体が重い 身熱不?(強い熱感があるが体表部を触れても熱が無い)午後熱感が悪化 胸腹痞張 納呆(食欲不振と同意)悪心 嘔吐 下痢 尿量少 白?苔 濡脈などになりますが、朴夏苓湯と変わらないじゃないのかと言われそうです。朴夏苓湯と同様に湿温初期の湿重熱軽の状態に用いられます。違いは、辛涼解表薬の配合がないこと、現代では利水滲出通淋薬として分類されている滑石(甘寒) 通草(甘淡寒) 竹葉(甘淡微寒)の配合です。尿量を増やし湿し、小便から泄熱するという効果が朴夏苓湯より若干強い印象があります。したがって、三焦に瀰漫した湿熱を邪する気分証の湿熱留恋三焦の治療方剤といわれ、衛気営血弁証の中の「衛分証(えぶんしょう)」より若干「気分証(きぶんしょう)」寄りになった状態の湿温には朴夏苓湯よりも三仁湯がよいという医家もありますが、それほどこだわることもないと私は考えます。伝統的弁証論治から少し離れ、いわば各症状別に治療する対症療法も漢方では可能なのです。つまり匙加減なのです。

衛分証(えぶんしょう)の病理は生体の抵抗力つまり衛気の低下による肺衛失宣であるならば、肺衛を強化すれば、寒邪はもちろん、温邪であろうと予防ができるというわけですが、ワクチン接種以外に、手軽に免疫増強ができるとも思えませんが、

気を補う補気薬に免疫増強の効果があることが確認されつつあります。玉屏風散(ぎょくびょうぶさん)を紹介します。

玉屏風散(世医得効方):黄蓍 白朮 防風の三味からなります。衛気が虚している気虚体質に感冒が加わった気虚感冒の予防薬としての位置づけがあります。平素、体弱表虚、自汗があって、感冒を引き易い者は玉屏風散(世医得効方)で益気固表し、感冒を予防することが大切であると中医は説いています。

いわゆる気虚感冒の症状は悪寒、発熱、無汗、頭痛、鼻閉、身痛、倦怠、咳嗽、痰を吐き出す力が弱く、舌苔が淡白、脈が浮、無力であり、感冒症状以外に、平素の倦怠、痰を吐き出す力が弱く、舌苔が淡白、脈が浮、無力などの気虚の症状を伴います。

治療法は益気解表で、方薬は参蘇飲(じんそいん 太平恵民和剤局方)加減が一般的です。組成は人参 甘草 茯苓 蘇葉 葛根 陳皮 半夏 前胡 桔梗 枳殻 木香 生姜 大棗です。

人参、甘草、茯苓は補気邪に作用します。(白朮が加われば四君子湯ですね)紫蘇葉、葛根は疏風解表に作用し、陳皮、半夏、前胡、桔梗は宣理肺気、化痰止咳に働きます。枳殻、木香は理気和中に働き、生姜、大棗で調和栄衛の配合となります。

    さて

玉屏風散(世医得効方):黄蓍 白朮 防風の黄耆(おうぎ)ですが、人参とともに補気薬の代表生薬です。価格も比較的安く、栽培しやすく効能も多岐にわたる優れものです。白朮(びゃくじゅつ)も黄耆と同様に、補気薬の代表生薬のひとつです。防風(ぼうふう)は辛微温で、風邪が著しい表証の解表という意味で風解表剤に分類されています。風湿、関節リウマチに効果があり、羌活と異なり、長期に使用しても副作用が少なく羌活より穏やかであるという意味で風薬中の潤剤ともいわれます。「燥」傷津からの「燥」を起こしません。中国では感冒時の痛み止めや破傷風の痙攣止めにも使用された経緯があります。また、止瀉作用(下痢止め)もあり、有名方剤として痛瀉要方(景岳全書:白芍 白朮 陳皮 防風)に配合されています。

    再度 SARSに戻って

北京市衛生局推薦のSARS予防の漢方処方を見てみると、

蒼朮12g白朮15g霍香12g金銀花20g貫衆12g黄耆15g沙参15g防風10g
アンダーラインを見ていただければ玉屏風散加方と理解できます。

燥湿健脾の蒼朮、芳香化湿の藿香、抗ウイルス効果のある清熱解毒薬の金銀花と貫衆、そして養肺陰の沙参の組み合わせになっています。温薬、涼寒薬の比率はほぼ同等ですから金銀花20g貫衆12gの量から判断しても、全体では平に近いと思われます。加えて、やはり湿を挟むのはよろしくないようですね。

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上海時代に、咳と痰が慢性的に生じたことがありました。おそらく廃棄ガスや工場の排煙が原因だったでしょう。なにしろ、雨にうたれるとワイシャツに黒いしみが残ったくらいです。その時に、中薬学を教えていただいていた若い女性教師に金銀花と菊花を等量まぜてお茶にして飲むといいと教えていただいて症状が改善したことがあります。銀翹散の金銀花、桑菊飲の菊花ですよとおっしゃいました。上海時代の思い出のひとつです。今年の5月の連休の時に、上海の南京西路の岳陽病院

を訪れましたが、空気は格段に澄んでいて、路面も綺麗になっており、近づく万博の意気込みを感じました。

アンチエイジング、ストレス外来 ガン外来

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