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内傷発熱論

2008-08-29 22:50:14 | 健康・病気

西洋医学的検査を以ってしてもまったく原因の特定ができない不明熱だけを範疇とする漢方理論ではなく、内傷発熱論の応用は広いと考えるべきである。

中医学の定義では、内傷発熱とは臓腑気血虚損、あるいは臓腑の機能失調による発熱とされます。内傷発熱は、一般的に微熱を主としますが、一部の患者には高熱がみられます。或いは、実際には患者の体温が上昇せず正常範囲にあるにもかかわらず、発熱感、あるいは手のひらや足の裏が火照る五心煩熱の自覚症状をみる場合もあります。現代の中医内科学には、腫瘍、血液病、結合織病、結核、内分泌系疾患による発熱、或いは一部の感染症、原因不明の発熱(狭義の不明熱)の治療には、本証を参照すると良いとあります。従って、内傷発熱論は狭義の不明熱にだけ限定するものではないと考えられるのです。西洋医学的検査手段がまったく無かった時代に、漢方医が持てる知識と想像力を総動員した医学史の一部です。現代は漢方と西洋医学とを併用する中西医結合医学の時代であり、漢方の薬理が西洋基礎医学により解明されつつあることは人類の福祉に必ずや貢献するものと思うのです。

内傷発熱と対をなす外感発熱は「邪正闘争」時に生まれる熱とされます。漢方医学では、「邪正闘争」を次のように説いています。
人体は「外邪」を受感すると、正気(免疫と言い換えても良いかもしれません)が外邪を駆逐しようとします。当然、正気と外邪の戦いが生じます。このことを「邪正闘争」といい、熱が発生します。この熱が「外感発熱」です。発熱は高熱であり、急に発症し、経過が短く、発展が早いなどの特徴があります。初期には悪寒を認める場合があります。大部分は西洋医学でいう、感染症による発熱が相当します。
外感発熱は外邪の種類により「風寒による発熱」「風温による発熱」「湿熱による発熱」「寒湿による発熱」「暑湿による発熱」の大きく5つに分けられます。ここで「邪正闘争」を拡大解釈すれば腫瘍に対する免疫反応も含まれるわけですから、内傷発熱と外寒発熱にはオーバーラップする部分があるとも言えます。輸血の際に時折出現する発熱などは経緯から判断すれば「外感発熱」といえるでしょう。また、HIV感染症、肺結核症に見るような発熱は定義からすれば外感発熱ですが、内傷発熱の機序が加わってきます。やはり、厳格に線引きをするのは難しいのです。事実、現代の中医内科学では厳格な線引きをあえてしていない印象を受けます。

(1)肝鬱発熱(かんうつ発熱)

ストレスに弱い方が、なんら原因らしきものもないのに長期的に微熱が続く場合のほとんどは、これに相当します。経口での非ステロイド系抗炎症解熱剤が処方される場合がありますが効果は一時的で、服用を中止すると再び発熱します。ストレスを受けると、特に傷つくと漢方では考えます。その結果、肝気鬱結といって肝の気がスムーズに流れない気滞が生じます。気は陽気ですから、鬱滞すれば熱が発生します。これを肝鬱化火といいます。イライラして怒りやすい(煩燥易怒)、口が渇いて苦味を感じる(口苦口乾)、胸やわき腹の張ったような感じ(胸脇悶脹)、ため息をよくつく傾向があり、肝は蔵血を主り、女性の生理に深くかかわるので、生理不順、生理痛や乳房の張り感を伴うことが多いのです。舌苔は黄色で、脈は弦数の傾向があります。ため息をすることで一時的に気の流れが良くなると中医学は考えます。治法は疏肝解鬱、清肝瀉熱です。ファーストチョイスは丹梔逍遥散加減です。簿丹皮、山梔子は清肝瀉熱、柴胡、薄荷は疏肝解熱、当帰、白芍は養血柔肝、白朮、茯苓、甘草は健脾に働きます。

発熱が目立ち、舌が赤く、口渇があり、便秘傾向がある場合には、白朮、茯苓を取り除き、黄、竜胆草を加え、清肝瀉火の効能を強めるといいようです。

胸脇部の張痛が目立つ場合には、理気止痛の効果を持つ、鬱金、川楝子を加えると

効果的です。体が重く、疲れやすく、口が苦く、舌苔が黄色で厚く、頭に汗をよく

かく、悪心、逆に軟便気味などの中焦湿熱鬱蒸の症状がある場合、陰股部の湿疹などの肝経湿熱の関与が疑われる場合には、越鞠丸(えつぎくがん)(別名六鬱丸)(香附子 川芎 山梔子 蒼朮 神曲)を選択し、疏肝清熱化湿を目的に柴胡、黄を加えるといいようです。

平素は陰虚体質で肝鬱発熱に罹患した場合、肝郁発熱が慢性化して傷陰に至り、陰虚傾向が出てきた場合などには(これを肝鬱陰傷と呼びます)滋水清肝飲(生地黄 山茱萸 茯苓 当帰 山薬 牡丹皮 澤瀉 白芍 柴胡 山梔子 酸棗仁)を用いて、滋陰、清熱、解欝の効能を求めます。

肝鬱化火が著しく、赤ら顔で目が充血し(面紅目赤)、イライラして怒りやすく(心煩易怒)、尿黄かつ排尿時に熱感があり、舌質が紅く、脈が数(頻脈90毎分以上)の場合には、清肝瀉火が必要であり、龍胆瀉肝湯が効果的です。

(2)気血不足

漢方では脾気を中気とも言います。脾気が衰えると、栄養の吸収が悪くなり、元気がなくなります。その結果として血虚も生じます。つまり気血不足が原因となる発熱です。

疲労後の発熱と疲労の度合いに比例する発熱の加重が見られます。微熱あるいは高熱も生じることがあります。眩暈、体のだるさ、自汗、風邪引き易い、気短懶言(息切れを感じ疲労のために言葉数が少なくなることを意味します)、少食、軟便、舌質が淡、舌苔が薄白、脈が細であることなどが特徴です。全身の気虚が根底にありますから、防御機能低下のために風邪を引き易くなります。脾失健運のために、食が細くなり、軟便傾向が出現します。

治法は漢方用語で益気生血、甘温除大熱です。

補中益気湯加減を行います。黄耆、人参は補中益気、白朮、陳皮、甘草は健脾和中、当帰は養血、昇麻、柴胡は健脾昇清の効能があります。

自汗が著しい場合は、牡蛎、龍骨を加え、固表止汗します。

寒気や発熱を交互に繰り返す場合には、桂枝、芍薬を加え、調和営衛をはかります。

胸腹悶満、舌苔が白膩の場合には、脾虚湿盛が考えられますので、蒼朮、茯苓、厚朴を加え、健脾燥湿すべきです。

口が苦く、舌苔が黄色の場合には、肝経湿熱との鑑別の上で、昇陽益胃湯で健脾益気、清熱化湿をはかります。夏場の気虚発熱の場合には清暑益気湯(脾胃論 李東垣)の補脾気、化暑湿の効能が奏効する場合があります。気虚症状があり、かつ老人で平素陽虚気味の人に原因不明の発熱が生じた場合には補中益気湯に金匱腎気丸を加味すると良いようです。

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は、元の時代に李東垣によって考案された方剤です。組成は、黄耆 人参 ? 炙甘草 柴胡 升麻 当帰 陳皮です。温熱寒涼の色分けはオレンジ 赤 濃いブルー 薄いブルーです。黄耆(おうぎ)が君薬(くんやく)とされる方剤です。君薬(くんやく)とは方剤の中でもっとも重要な役割を果たす生薬を指します。補中益気湯は黄耆(おうぎ)が君薬で、それに補気剤である四君子湯(人参 茯苓 白朮 炙甘草)から茯苓を除いたものに、活血養血剤である当帰(とうき)に、理気薬のうち温薬のひとつである陳皮(ちんぴ)と涼薬である柴胡(さいこ)と升麻(しょうま)を加えたものです。

補中益気湯の作用は、中国では、胃腸を丈夫にする補中益気(ほちゅうえっき)作用、肛門脱出(脱肛)や子宮脱など中気下陷(ちゅうきかかん)の、いわゆる内臓下垂を改善する昇陽挙陥(しょうようきょかん)作用、気虚発熱(ききょはつねつ)を解熱させる甘温除大熱(かんおんじょたいねつ)の作用の3つと言われます。甘温除大熱の意味は、君薬である黄耆と、同じく甘温剤である人参、白朮で気虚発熱を解熱することを指します。

そもそも、補中益気湯の考案者である元の時代の李東垣(元)は著書“脾胃論”の中で、疲れすぎの際の発熱の病理として、命門の火と元気は不両立(両雄相たたず)であり、勝即一負の原則(片方が弱ると片方が勝る)を展開し、疲れすぎで元気が衰えると、その分、命門の火(中医学が想定する生命を維持する火)が強くなり、気虚発熱の原因となると説きました。これは、現代中国医学からすれば、やや「こじつけ」的な理論であるようです。現代では、肉体疲労が重なったり、飲食の不摂生によって脾気虚(ひききょ)が生じると、その結果、津液(しんえき)(体液と考えていいでしょう)が生成不足になり、陽気(ようき)を制御する陰(いん)に属する津液の不足によって、陽気が外表に広がって発熱をきたすとする説と、脾気が弱ると清陽不升(せいようふしょう)といい、陽気が上昇できなくなり、郁滞(うったい)する結果、やがては発熱をきたすという説が有力です。脾虚は最終的には血虚につながります。

柴胡と升麻はそれ自体が涼薬です。加えて大切な中医学的な作用があります。

昇挙陽気(しょうきょようき)といい、郁滞した陽気を動かして引っ張りあげて発散させるという働きです。方剤学では引経使薬(いんけいしやく)という役割を果たしています。黄耆にも昇挙陽気作用があります。

気虚タイプの月経過多症やだらだらと生理が止まらない経期延長などに有効です。子宮脱の傾向がある場合にも有効です。

また、どうしても太れないやせすぎの女性で、虚弱体質で手足がだるく、疲れやすく、自汗の傾向があり、胃下垂や脱肛などの中気下陷があり、暖かい飲み物を飲むと具合が良くなる(これを喜熱飲と漢方用語でいいます)の虚症の婦人に有効です。気虚発熱の考え方は中医学独自の理論です。一方、見方を変えれば、脾気虚で血虚、津液不足が招来され、陰(津液、血)が不足すると、陽気を抑えることができずに発熱するという理論は、陰虚発熱論につながるものです。漢方理論はいわば「歩き回ると元に戻る性質=メビウスの輪?」を持ち、その時点時点での証の捉え方が治療上で肝要なことがわかります。その意味で八綱弁証は欠かせない診断方法です。

(3)陰虚発熱

素体陰虚といい、もともと陰虚体質であるか、あるいは下痢などが慢性的に続き、津液不足に陥った場合などの久痢傷陰、あるいは理気薬などの温燥の薬剤などを長期間服用して津液不足になった場合に、陰液が不足するために陽気を抑えられずに制火不能となり、陰陽平衡が崩れ、相対的に陽気の偏盛が生じ発熱する場合を指します。

症状は午後或いは夜間の潮熱、手のひらや足の裏の火照り(五心煩熱)、骨蒸顴紅、心煩、盗汗(寝汗)、不眠、多夢、口乾咽燥、大便乾結、尿少色黄、舌質が淡く赤色、乾燥、あるいは裂紋、無苔もしくは少苔、脈が細数の陰虚火旺の特徴があります。

証候を分析すると、陰虚内熱のため、骨蒸顴紅(手足の骨が蒸されるような熱感と頬の赤みを指す)、五心煩熱が生じ、虚火上炎、撹乱心火のため、顴紅、心煩、多夢が生じる。内熱による津液(体液)外泄のため、盗汗(寝汗)が生じます。陰虚内熱により、口乾咽燥、腸燥便秘(コロコロ便)などが生じます。

治法は滋陰清熱であり、清骨散加減を基本処方とします。銀柴胡地骨皮胡黄連知母青蒿で清虚熱、鼈甲、地母で滋陰液、甘草は調和諸薬に作用します。

不眠の者には、酸棗仁、柏子仁、夜交藤を加え、養心安神をはかると良い効果が得られます。

盗汗がひどい場合には、牡蠣、浮小麦、糯稲根を加え、固表斂汗の効能を期します。

虚火上炎の症状が著しい者には、大補陰丸あるいは知柏地黄丸に変更し、滋陰降火をはかります。

頭暈気短(めまい息切れ)、倦怠無力など気虚の症状を伴う者には、党参、沙参、麦冬、五味子を加え、益気ならびに養陰の効能を強めると良いようです。また、滋陰清熱には前のブログで述べた滋陰降火湯も有効です。

()淤血発熱

血行が悪くなって発熱する場合です。癌の患者さんに見られる発熱、手術後の発熱などが相当すると考えられます。西洋医学での「吸収熱」がもっとも近い概念です。しかし、西洋医学の「腫瘍熱」の本体も明らかにされてない現状なのです。

午後或いは夜間の発熱、口乾咽燥、身体に部位が固定性の痛みがあり、腫塊、血塊があり、重症者は肌膚甲錯(さめ肌)、顔色が萎黄か黯黒でさえません。舌質は紫暗で、淤斑や淤血点があり、脈が渋です。治療原則は活血化淤です。血府逐淤湯加減が標準的です。桃仁、紅花、赤芍、牛膝は活血化淤、当帰、川、生地黄で養血活血、柴胡、枳穀で疏肝理気、桔梗と枳穀はそれぞれ「昇」と「降」の気機調整に働きます。血分淤熱の清除効能を強化しようと思えば、牡丹皮、地?虫、大黄を加えると効果的です。

   メビウスの輪 ラビリンスの森

漢方理論はある意味「メビウスの輪」の様相を呈します。中医基礎理論では、気滞は気滞血淤につながります。前者は肝鬱発熱の病理とされ、後者は淤血発熱の病理とされ、血を推動する気の効力は気虚全般において低下し、また気の摂血作用の低下は出血を招来させ、結果として淤血につながります。前者は気虚発熱の病理とされ、後者は淤血発熱の病理とされるのです。さらに全身的な気虚は脾気虚につながり、血虚を招来させます。津血同源の基礎理論から、最終的には陰液(津液)不足に陥ります。このように、気虚発熱論と陰虚発熱論が裏表の関係にあることがわかります。人体は統一理論で語るには複雑すぎる宇宙のようです。漢方医は「よって立つ診断方法」によって、「ラビリンス(迷宮)の森」から抜け出し、もっとも効果的な治療法を選択しなければなりません。実践と経験が尊ばれる所以なのです。

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北京では、オリンピックが終了して、パラリンピックが開催されています。期間中はあらゆる生薬の航空便での輸送が禁じられています。大変仕事がしにくくなってきています。無事にパラリンピックが終了し、テロ対策としての航空便での輸送規制が無くなることを希望していますが、2010年の上海万博でも同様の規制が行われるでしょう。痛ましい出来事として、アフガニスタンでは邦人が殺害されました。現在、世界は景気低迷、インフレの悪化、食糧不足、異常天候、局地戦争など悪材料が蔓延しています。北朝鮮は核施設の再稼動を始めるとの報道がありました。歳をとるにつれて「若かった時には感じなかった恐怖」を感じています。

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虚熱論

2008-08-26 15:59:21 | ブログ

清骨散と青蒿鼈甲湯

虚熱(きょねつ)に関する理論は多々あって、事実、解釈に戸惑うものもある。しかし、漢方の本場の中国ではおよそ2つの状態を指す。

第一に陰虚発熱を指し、第二に温病後期の完全に解熱されていなく、午後夜間に微熱がでる状態を指す。これは、虚熱の発生原理からの演繹的な区別ではなく、ある意味習慣的な思考範疇である。

(1)陰虚発熱

素体陰虚といい、もともと陰虚体質であるか、あるいは下痢などが慢性的に続き、津液不足に陥った場合などの久痢傷陰、あるいは理気薬などの温燥の薬剤などを長期間服用して津液不足になった場合に、陰液が不足するために陽気を抑えられずに制火不能となり、陰陽平衡が崩れ、相対的に陽気の偏盛が生じ発熱する場合を指す。

症状は午後或いは夜間の潮熱、手のひらや足の裏の火照り(五心煩熱)、骨蒸顴紅、心煩、盗汗(寝汗)、不眠、多夢、口乾咽燥、大便乾結、尿少色黄、舌質が淡く赤色、乾燥、あるいは裂紋、無苔もしくは少苔、脈が細数の陰虚火旺の特徴がある。

証候を分析すると、陰虚内熱のため、骨蒸顴紅(手足の骨が蒸されるような熱感と頬の赤みを指す)、五心煩熱が生じ、虚火上炎、撹乱心火のため、顴紅、心煩、多夢が生じる。内熱による津液(体液)外泄のため、盗汗(寝汗)が生じる。陰虚内熱により、口乾咽燥、腸燥便秘(コロコロ便)などが生じる。

治法は滋陰清熱であり、清骨散加減を基本処方とする。銀柴胡地骨皮胡黄連知母青蒿で清虚熱、鼈甲、地母で滋陰液、甘草は調和諸薬に作用する

不眠の者には、酸棗仁、柏子仁、夜交藤を加え、養心安神をはかると良い。

盗汗がひどい場合には、牡蠣、浮小麦、糯稲根を加え、固表斂汗の効能を期する。

虚火上炎の症状が著しい者には、大補陰丸あるいは知柏地黄丸に変更し、滋陰降火の効能を期する。

頭暈気短(めまい息切れ)、倦怠無力など気虚の症状を伴う者には、党参、沙参、麦冬、五味子を加え、益気ならびに養陰の効能を強めると良い。また、滋陰清熱には前のブログで述べた滋陰降火湯も有効です。

(2)温病日久(温熱病後期の微熱状態)邪伏陰分

清代の温病学の中で生まれた概念である。温(熱)病の後期で、いわゆる「邪少虚多」の状態で。津液不足が基本的に存在し、夜間に発熱し、朝には解熱しており(夜熱早涼という)、温病の邪気が陰分に潜んでいる状態である。熱退無汗といい、邪は陰分に伏在して表解しないので汗は出ないのが特徴とされているが、なにかピンとくる説明ではなく、多分に津液不足も汗が出ない原因のひとつであろうと推測できる。治療原則は養陰透熱とされる。津液不足に対する養陰はわかりやすいが、「透熱」に関しては、前のブログ「玄参の臨床」での「清営湯」の「透熱」の概念であり、営(血)の熱邪を衛(気)分に差し戻して病邪を駆逐するという中国漢方独自の概念である。

青蒿鼈甲湯を主方とする。難しい漢方用語で恐縮だが、処方中 青蒿は清熱透絡に働き、鼈甲は滋陰退虚熱に作用し、知母は滋陰潤燥に、生地黄は滋陰清熱涼血に、牡丹皮は清熱涼血活血に働くとともに、血分の伏熱を清し、青蒿を補助し、透絡するとある。また、中国漢方の想像力の豊かさを示すものとして次のような鼈甲と青蒿に関する考えがある。「鼈甲は肝経至陰の分に入り、よく養陰するのみならず、邪を探す。青蒿は少陰より邪をひきいて外出す、」「青蒿は陰分に直入すること能はざれど、鼈甲はこれを(青蒿)をひきいて入るるなり、、鼈甲は陽分に出づること能はざれど、青蒿ありこれ(鼈甲)をひきいて出だすなり、、」大変に思念的であるが、鼈甲は血分に深く入り熱邪を探し、青蒿との共同作業で熱邪を衛分に駆逐するというもので、青蒿鼈甲湯は「先入後出」の代表方剤とされる。もちろん「邪少虚多」とは気血津液不足のすべてを指すが、体中深く伏在する熱邪に対して青蒿鼈甲湯が基本方剤となるわけで、陰虚津液不足が著名なら玄参 麦門冬 沙参などの養陰剤を加味すれば良いし、血虚傾向が出現していれば当帰 白芍などの養血斂陰剤を加え、気虚が著しければ、党参 白朮などを加味することになる。要は生薬のバランスの問題である。

八綱弁証、六経弁証における虚熱の位置

病証を表裏 寒熱 虚実 陰陽の八綱で診断をすすめる弁証方法を八綱弁証という。八綱弁証の中で最もよく認められる証はおよそ七証である。数理的には2の4乗の16あることになるが、臨床現場では七証で十分と思われる。虚熱は裏虚熱証に位置する

表寒証

六経弁証の太陽傷寒証の表実症に一致する。悪寒重発熱軽 頭身痛 無汗 浮緊脈などの症状がある。比較的体カがあり抵抗力の強い人が、カゼをひいた時は防御作用が働いて、風寒の邪気が体の内部に進行するのを防ぐために、理(毛穴)をぎゅっと閉じるため汗が出ないので無汗になる。以上の典型証に肺実不鳴、鼻閉 くしゃみ 白い鼻水などを伴う。

表熱証

表寒証が進行し、臨床的には咽頭痛が出現してきた段階に相当する。悪寒軽発熱重であり、咽喉腫痛 口干 浮数脈 舌尖紅 薄黄苔の症状を見る。

表虚証

六経弁証の太陽中風証に一致する。 悪風 汗出 浮緩脈(理弛緩)

虚人外感によるとされ衛気虚が根底にある。高齢者の方や体のよわい人(虚人)は抵抗力が弱いため、理(毛穴)を閉じる力が低下しているので、汗がでるのが特徴とされる。表虚証といっても真の虚証ではなく、理を閉じる力が虚していると考えたほうがよい。以上の表寒証には伝統的には麻黄湯、葛根湯、表熱証には銀翹散、表虚証には桂枝湯を用いるが、近年、漢方の本場の中国でも麻黄湯や桂枝湯はカゼ症候群では用いられることが少ない。早期に清熱解毒薬を中心にした銀翹散などを使用する漢方医が多い。

裏虚熱証

いわゆる陰虚内熱(虚熱)証である。形体消痩(けいたいしょうそう)午後夜間の発熱 両?潮紅 手足心汗(五心煩熱) 盗汗 紅舌少苔 細数脈を見る。ここで、六経弁証について少々付記すると「虚熱証」は少陰病の少陰熱化証と対応している。六経弁証の少陰病は「そのまま受け止めて許容する」態度が必要で、深く考えすぎると中国漢方古典の迷路(ラビリンス)に迷い込む

少陰病は心腎両陽虚、脾腎両陽虚の病であり、全身性の虚寒症に属するが、少陰病は少陰寒化証と少陰熱化証の異なる証候に大別される。一般に温補が治則であり、少陰病は補法が温法より重要であるとされる。比較すると、太陰病は補法より温法が重要とされる。太陽と少陰は表裏関係にあるので、太陽病からの病邪の伝経が多く見られ、また病邪の直中(病邪が直接少陰を侵すこと)もあるとされる。

少陰寒化証では、無熱かつ悪寒、脈微細、ただ寝たがり、四肢厥冷、清穀下痢、嘔吐し食べられない、あるいは食後すぐ嘔吐し、脈微で絶えようとするものは返って悪寒がなくなり、甚だしければ面赤(顔面に赤みがさすこと)がみられる。

証候を中国医学的に分析すると、

少陰陽気が衰弱し陰寒独盛になり、悪寒が生じるが無熱である。無熱悪寒という。

腎と同名経の心の血脈を主る作用も弱くなり脈微細になる。心の神志をつかさどる力も衰え「うとうと」する。

陽衰寒盛のために四肢厥冷が発生する。

脾胃が温養されないので清穀下痢がおこり、嘔吐し食べられない、或いは食後すぐに下痢する。清穀下痢には必ず口渇を伴う。少陰寒化証で口渇が生じる理由は、下焦の陽気が衰弱し、化気昇津ができなくなり、加えて津液が下痢と共に外泄されるために口渇が出現する。比較すれば、太陰病の下痢には口渇がない。

陰寒が極めて盛んになり陽を追い出そうとすると戴陽現象の面赤が見られる。この戴陽現象を「虚熱証」のひとつとする本邦学派もあるが、小生は疑問視している

少陰病は下焦の腎の陽虚による虚寒症であり、脾腎陽虚と心腎陽虚に大別される。

少陰寒化証として、中国語記載では(脈微細、但欲寝)(欲吐不吐、心煩、口渇、自利)(背悪寒)(手足寒)(四肢沈重)の症状をみる。

問題の虚熱とかかわるのは少陰熱化証(少陰陰虚陽亢)である。症状は心煩して臥することが出来ない、口燥咽干、舌尖紅赤、脈微細であり、

証候を中国医学的に分析すれば、

少陰は水(腎)火(心)の臓であり、もし邪が少陰に入れば、陰から寒になり、陽から熱にかわるなどどちらもあると説く。化熱になれば津液が灼傷され口燥咽干が生じる。水虚のため心火独亢になり、心煩、不眠が生じ、心火上炎で陰液を消耗し、

口燥咽干、舌尖紅赤、脈微細は陰虚陽亢の現象が出現する。これがいわゆる陰虚火旺の虚熱に相当する。六経弁証(傷寒論)での少陰熱化証方剤として

黄連阿膠がある。主治は陰虚陽亢(心腎不交)である。

症状は、心中煩(上腹部の内熱)、臥するを得ず(不得眠)(一緒にして心煩不得眠という)咽干口燥紅舌、少苔、脈沈(細数)である。方剤中、黄連


玄参の臨床

2008-08-22 06:45:06 | アトピー性皮膚炎

養陰剤としての側面と涼血薬としての側面

玄参は元参とも書く。上海中医薬科大学では玄参と書く老師と元参と書く老師がほぼ半分であった。性味は苦 (中国語で塩辛い意味でシエンと読む。噛めば苦味とやや塩辛い)寒であり、肺 胃 腎に帰経を持つ。玄参は養陰生津作用があるので本邦の教科書では養陰剤に分類されている場合が多い。

一方、中薬学では清熱涼血薬に分類している。

清熱涼血薬は湿熱病中期の血分に熱邪がある場合に用いられる。血分とは清代に生まれた温病学の概念である。温病学の衛気営血弁証では、温熱病の進展していく過程の「浅深軽重」を4つのステージ分類する。温熱病邪は衛から気に、気から営に、営から血に伝わり、病状が段々重くなる。営血は同質であり程度の軽い状態が営分、重い状態が血分である。

営分に温熱病邪があると、高熱煩燥、舌赤脈数 斑疹隠隠(皮下出血)が起こり、さらに血分に入ると斑疹悪露が生じるとある。現代医学のように、血液生化学検査も病原体の概念も、ましてや血液培養などの検査もまったく無かった時代の漢方医のものの考え方と捉えていいと思う。従って、元来の「血分」の概念から離れて、玄参の有効性を利用するという立場はむしろ許容範囲に入ると私は考える。

他の清熱涼血薬との比較

生地黄は養陰剤としての側面が強く、清裏熱作用は玄参より弱い。一方、玄参は生地黄比較して養陰作用は弱い。牡丹皮は活血祛瘀作用に優れ、淤血性の疼痛に効果的である。赤芍は牡丹皮より清熱涼血作用は弱く活血作用もやや劣る印象がある。紫草は清熱涼血作用とともに、解毒透疹作用があるが、養陰作用は疑問である。中国では清熱涼血薬の組み合わせで玄参と紫草の組み合わせを多く見た。

玄参が配合される方剤は清代の温病学以降

清代の温病学の衛気営血弁証の中で玄参の使用が開始された。営(血)分の熱邪を衛分に「差し戻す」という考えを持った。これを「透熱転気(とうねつてんき)」と称する。 玄参を理解する上で、透熱転気の代表方剤である清営湯を省略できない。

清営湯(せいえいとう):治療対象:熱邪が営分に入り、傷陰(現代の医学用語では脱水に近い概念)の状態。症状は、発熱(特に夜間)心煩少寝、譫語(うわごと)全身性の斑疹 紅絳舌干(少苔あるいは無苔)脈細数で、効能は清営泄熱(清営透熱)滋陰活血である。組成は、水牛角 生地 玄参 麦門冬 金銀花 連翹 黄連 丹参 竹葉芯と全配合薬が涼寒薬になっている。構成を一覧にすると以下のようになる。

水牛角30g以上 生地黄

(清営涼血、解毒、止血消斑)    君薬

玄参 麦門冬

(生地と共に清涼血、養陰生津)  臣薬

以上で清解毒養陰生津

双花金銀花連翹

黄連 竹葉芯

解毒            佐薬

金銀花 ?? 竹叶は透熱転気

丹参

涼血祛瘀

丹参の意味 ①熱が原因の血流停滞による淤血を除く

      ②君薬臣薬佐薬ともに寒性であるから寒凝による淤血を防止

水牛角は本来、犀角(さいかく)であったらしいが、当時でも高価であり、現在ではワシントン条約で取引禁止になっている。涼血(血熱をさげる意味)止血(血熱妄行のによる出血を止める意味)瀉火(強力な解熱作用)、安神(精神安定作用)に優れる。安神目的では1-3gをそのまま粉末で冲服する、熱病で意識不明の時などは6gの極量を用いる。

水牛角であれば15-30gを他の煎じ薬に先んじて煎じる。水牛角には安神作用はない。現在使用できない薬剤について効能を述べても仕方ないが、当時のものの考え方を知る上で欠かせない。

清営湯中の玄参 生地黄 麦門冬の組み合わせは増液湯(そうえきとう)の組み合わせでもある。現代風に言えば、熱性疾患で脱水して口渇するものを治す生津止渇作用を持つ。増液湯に大黄と芒硝を加えたものが増液承気湯であり、温熱病による脱水が原因の腸燥便秘の方剤である。増液湯、増液承気湯ともに温病条件に記載された方剤であり、増液承気湯は後漢時代の傷寒論の六経弁証での陽明(温)病不大便に対する通便剤であり、増水行舟の代表方剤」とされる。玄参の位置を考えると、血熱により津液が損傷された状態の時に、血熱自体を清熱涼血作用により下げ、滋陰生津作用により乾きを癒すという言わば原因治療と対症療法にまたがる位置と判断できる。

  そもそも

「血熱」とは気血津液弁証の血病弁証中の概念である

中医学の難点は物質化、定量化できないところにある。数字化できないものは現代のデジタル思考では「あいまいなもの」「概念的」「抽象的」と捉えられやすい。しかし西洋医学の歴史を振り返っても「定量化」「数式化」が始まったのは近世19世紀末ぐらいからである。それ以前に「医学を独自の言語体系で理論化」したところに中医学の偉大さがある。さて、血熱とは血病中の血虚 血淤 血熱 血寒の大まかな4つの概念の中のひとつである。熱邪が血分に侵入する外感型、内傷雑病で血分に熱があり出血を伴う内傷型に分けられるが、その境界線はあいまいである。

外感熱病の血熱証の特徴は、発熱(夜間に盛ん) 口が乾燥 心煩躁狂 吐血 衄血(鼻出血) 血尿 皮下出血 月経過多 絳舌 細数脈であり、論治は清営泄熱、清熱涼血で、清営湯 犀角地黄湯を用いる。

内傷雑病の血熱証の特徴は喀血 吐血 血尿 衄血 絳舌 弦数脈とされ、論治はほぼ外感型と同じである。

「血熱」の定義は中医学ではある程度決定されているが、たぶんに感覚的なものであり、目で見て「赤」「腫脹」、触ってみて「熱」、たずねてみて「口渇」「便秘」などであり、皮膚科領域での診断と治療応用が多い。外感熱病に対する抗生剤、補液療法が発達している現代では、皮膚科領域の「血熱」は「感覚的」に捉えやすいと言える。

血熱型ニキビ

およそ、ニキビは肺熱型 胃熱型 血熱型 淤血型 気血不足型に大別される。玄参 生地黄 天花粉 麦門冬は滋陰清熱涼血の組み合わせであり、血熱型のニキビに効果がある。ニキビが赤く盛り上がっている、口や鼻、眉間の周囲に多い、赤ら顔である、普段香辛料を好む、便秘傾向があるなどの特徴がある。黄連解毒湯に四物湯を合わせた温清飲を基本として、玄参 生地黄などを加えると効果が良い。月経前にニキビが悪化するなどの症状がある場合は、柴胡疏肝散や丹梔逍遥散などを加味する場合がある。

血熱型アトピー

およそアトピー性皮膚炎は湿熱型がもっとも多く、血熱型は比較的少ない。血熱型が悪化し熱毒型に移行する場合もある。他に血虚型がある。見た目の違いでおおよその見当はつく。湿熱型は、顔面や頭皮に湿った病変、肘や膝関節部の苔癬化病変、胃もたれしやすい 悪心嘔吐 軟便下痢を伴う場合があるなどの特徴がある。陰股部の湿疹や、女性の場合、黄色の帯下がある場合もある。黄 黄連 山梔子 黄柏などの清熱解毒燥湿薬に、沢潟 車前子 竜胆草などの清熱利尿の作用がある薬剤を加味し、湿熱を尿から排泄させる。さらに、当帰 白芍 熟地黄 などの滋陰養血剤を加味し、?芥 防風などの風剤を配合し、痒みを除く。皮膚に水ぶくれや、かきむしったために糜爛などが生じている重症型には金銀花 馬歯 魚腥草などを加味する。問題の血熱型は、湿熱タイプに比べ、紅斑や皮膚の発赤が著しい場合であり、口渇や不眠を合併することもあり、女性の場合には月経先期なども合併する。黄 黄蓮 山梔子 黄柏などの清熱解毒薬に、生地黄 牡丹皮 玄参などの清熱涼血作用のある薬剤を加え、血熱を清める。さらに、熟地 川 当帰 白芍などの養血活血作用のある薬剤、あるいは涼血活血作用の丹参や益母草を加え、陰血を養い、淤血を除く。?芥 防風などの風剤を配合し、痒みを除くのは湿熱タイプと同じである。皮膚の乾燥傾向がある場合は滋陰作用のある天花粉、土鼈甲と同様に玄参も有効である。

血熱型脱毛

およそ脱毛は血熱型、血虚型、淤血型、肝腎陰虚型などに大別されるが、おのおのの移行型も存在する。典型的な血熱型の脱毛の特徴は、脱毛が部分的であり、脱毛部分の頭皮が赤く紅斑を呈し、出血点を観察することがあり、舌苔はやや乾燥した黄苔で、脈は頻脈気味で、頭皮以外の体表に赤い発疹を認めることがある。口が渇き、便秘傾向がある。黄連解毒湯、?芥連翹湯の合方を基本に、玄参 生地黄を配合すると効果がある。玄参 生地黄は清熱涼血作用の他に、滋陰潤燥の作用があるために局所を滋潤する作用がある。血熱型の特徴として頭皮の萎縮もあるが、玄参の滋潤作用と軟堅作用は局所循環を改善し、頭皮の萎縮を防止するのではないかと期待している。

四妙勇安湯は血熱型脱疽(だっそ)に有効

上海学派は血栓閉塞性脈管炎による脱疽に有効であると報告している。玄参金銀花当帰尾生甘草の組成から判断してみると、感染性の動脈炎による脱疽である。金銀花は清熱解毒薬、涼血止血作用がある。玄参は滋陰清熱涼血、解毒に作用し、ともに寒薬である。さらに玄参には清熱軟堅作用がある。当帰尾は活血に働き、血行の改善に寄与する。生甘草は瀉火解毒の作用に優れる。寒涼薬の牡丹皮、生地黄、同じく涼薬で活血薬の丹参、近代では血液凝固抑制物質であるヘパリンを含有する動物薬の水蛭などを加味する場合もある。つまり、四妙勇安湯は局所熱があり、腫脹を伴い、発熱やその他の熱証を伴うものである。もっとも近い臨床象は糖尿病性脱疽(とうにょうびょうせいだっそ)である。易感染性と動脈硬化がベースにあるからである。糖尿病性神経症による知覚鈍麻も感染を気づかせないで血管炎を悪化させる要因となる。もし糖尿病性脱疽に陥れば、現代医学ではドルナー、オパルモンなどの血流障害改善剤に加え、プロスタグランジンの注射、抗生物質の投与、鎮痛剤投与、全身管理と治療は多岐にわたる。四妙勇安湯は1日50g~60gの大量の金銀花、玄参を必要とする。病状の重さが見て取れる。ともかく血熱による血栓形成に対して清熱解毒涼血をはかるわけであるから、喫煙が大きな原因とされるバージャー病に代表される熱証を伴わない閉塞性動脈硬化症による脱疽に対する治療方剤ではない。

最後に

癌患者の大半は「気陰両虚」である。基本的養陰剤として玄参を欠かさずに使用している。玄参には軟堅散結作用があるからだ。

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北京五輪で女子ソフトボールチームがアメリカを破って優勝した。感動した。終戦から63年。日中戦争の当事者国の中国の首都北京で、太平洋戦争の相手国アメリカと競技する。 感慨深い。

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百日咳の漢方治療

2008-08-19 20:08:02 | ブログ

大人の百日咳 漢方医を受診する時は診断が困難になってから

小児期に百日咳 破傷風 ジフテリアの三種混合ワクチン(DPT)の予防接種をしても、ワクチンの抗体産生と抗体レベルの維持、および百日咳菌に対する反応性抗体産生効果は一生百日咳に罹患しない程度に続くわけではなく、大人になるとだんだんワクチン効果が低下してくる。このため、小児期にワクチン接種を受けたのに、大人になってかかる人が出現する。大人の百日咳は確実に増加しているが、正確な統計値は無い。それは全国の小児科を標榜する診療所からの定点報告に頼らざるをえない状況だからである。確定診断には菌の分離同定が必要だが、菌は感染初期であるカタル期後半に検出されるが、痙咳期に入ると検出されにくくなる。したがって、しつこい咳が何ヶ月も続き、レントゲン検査で異常がなく、咳止めだけ処方してもらったが症状が思わしくなく、それで漢方外来においでになる時期には、あくまで「百日咳だった可能性と、現在は百日咳の後遺症の可能性」という確定診断のつかない状態で漢方治療が始まることが多い。

エリスロマイシン、クラリス、クラリシッドなどのマクロライド系抗生物質を、私を受診する前の医師から処方されていない場合には、「遅ればせながら」とことわって処方する。1週間程度である。現実的には抗生物質が必要の無い時期に来ているかもしれない。炎症反応(CRP)もほぼ正常化しているためだ。しかし、目の前ではしつこい咳に苦しめられている患者さんがいる。私は「漢方医は、漢方薬のみで治療するという立場にはいない」。上海で漢方勉強の大学留学中にも診療医が抗生物質であるエリスロマイシンやアモキシシリンを処方するのを何度も目撃している。私は中西医結合の立場をとる。

百日咳は病因論では外感性咳嗽ではあるが、次第に内傷性咳嗽に近い様相を示してくる

百日咳の初期症状は「カゼ症候群」に近似している。大方の患者さんはこの時点では漢方医を受診しない。咳がひどくなり、痰がからみ、発熱などの症状が出現すれば、近医を受診し、抗生物質や解熱剤、咳止めなどを処方してもらう。そこで、マクロライド系抗生物質が処方された場合には百日咳であろうとも重症化しないで軽快に向かう。この時期に漢方医を受診していれば、外感性咳嗽の「風熱犯肺咳嗽」や、やや病邪が裏に入り込んだ「痰熱うつ肺喘」として治療されることになる。

成人では銀翹散や止嗽散、桑白皮湯があわせて用いられる。

銀翹散は連翹 金銀花 薄荷 ? 淡豆 芦根 淡竹葉 桔梗

牛蒡子 生甘草が組成であり、止嗽散は桔梗 ?  百部  白前 陳皮甘草、桑白皮湯は桑白皮 芩 黄連 山梔子  半夏 母 杏仁を組成とする。

2ヶ月以上放置した成人百日咳の漢方治療

痙攣性の咳嗽はすでになくなっているが、「中からこみ上げてくる咳を我慢しきれない」と患者は訴え、診察中でもかなり頻回に咳をする。長期にわたって咳が続いているために、体力の低下も出現している。痰はあってもごくわずかである。少痰の状態で、色は白色である。およそ百日咳が長期化すると、「肺陰不足内傷咳嗽」あるいはCRPは陰性なれど微熱が出るなどの「虚熱肺痿症」の様相を示してくる。中医漢方でそれぞれの主方とされるのが沙参麦冬湯沙参麦冬 玉竹 生甘草 桑叶 天花粉 生扁豆麦門冬湯麦門冬 半夏 人参 大棗 甘草 粳米であるが、滋陰潤肺に加え少し工夫が必要である。寒薬を濃いブルーで、涼薬を薄いブルーで、温薬は赤、ただし微温のものはオレンジで、平薬はグリーンで表記した。

しつこい咳は肺気上逆であり降気止咳平喘が必要

肺は気を司る臓であり、呼吸により宋気が充溢する臓であると同時に全身の気も司る。元気、宋気、営気、衛気のあらゆる気を司る臓である。さらに宣発粛降を司る。宣発粛降とは方向性を指し宣発は上へ、外への方向性であり 粛降は下へ、内への方向性と捉える。宣発は息をはく呼と「汗出」、体表の防衛に関与する衛気の分布と関与し、粛降は息を吸う吸と尿の排泄と関与する。もう少し詳しく中医学での肺の機能を説明すると、宣発とは宣通と発散の総称であり、肺気が上昇して全身および体外に発散することであり、その生理機能は体内の濁気を排出(呼吸の呼)

脾から送られた津液と水穀精微を全身、皮毛に散布し、衛気の宣発し、理(毛穴)の開合を調節し、汗を体外に排出するという3つを意味する。

一方、肺の粛降作用は

    呼吸により自然界の清気を吸入

    清気と水穀精微を下へ散布し、腎に清気を納めさせる

    肺と呼吸道をきれいにする 

    体内の水液を下へ輸送し、肺の通調水道作用の一部となる。 

以上の4つの機能を粛降作用というのである。咳は肺の粛降が失われ、肺気が上逆した状態であると中国漢方は考える。

やや細部にこだわったが、「中からこみ上げてくる咳を我慢しきれない」状態は肺気上逆そのものであり、治療は降気、下気といい、上逆する肺気を抑えることになる。

具体的生薬の選択

およそ、化痰薬 止咳平喘薬で降気、下気作用のあるものは、白前、前胡、杏仁、款冬花などであり、そのほかに四川省の貝母(川貝母)、枇杷葉などは痰止咳に優れる。桔梗は載薬上行といい、諸薬を肺に運ぶ作用がある。

おのおのの生薬について簡単に補足すれば、

白前昔「専主肺家」のたとえあり、咳、痰の要薬とされ、平性なので各種の咳、痰に用いられる。

前胡涼性なので風熱の痰に有効である。

川貝母は止咳、痰に優れる、先の四川大地震で入手がやや困難になってきており値段も高騰している。久咳の要薬とされる貴重な生薬である。

杏仁は止咳平喘作用に加え潤腸通便作用がある。ただし温薬である。

百部は潤肺止咳効果に優れる。

紫菀 は、特に蜂蜜で炮制した紫には潤肺作用ある。

款冬花は止咳化痰 潤肺下気に優れるが温薬である。

枇杷葉は平性で各種の呼吸器疾患に用いられる。

?不食草(がふしょくそう)の煎じ汁が百日咳の咳嗽に有効であるとの報告がある。?不食草の現物は香港のポリテクノ大学の漢方部の薬剤棚で初めて見た。使用経験は無い。温薬である。

以上の生薬を患者の弁証にあわせて処方すればよいと思われる。もっとも大切なポイントは寒熱弁証と陰陽弁証である。おおかた、滋陰潤肺降気化痰にのっとって治療すれば間違いは無い。

既存のエキス剤ではピタリとしたものはなかなかないが、、、

ツムラ29番 麦門冬湯は養陰清熱剤で滋陰潤肺の意味では良いが、降気化痰作用が無い。

ツムラ92番 滋陰至宝湯は滋陰潤肺作用もあり貝母も配合されている点では効果が期待できるが、元来「疏肝健脾作用と退虚熱作用に加え滋陰止咳」の効能から鑑み、疏肝健脾作用が不要の場合がほとんどである。また、あえて柴胡を必要とする理由はない。

ツムラ90番 清肺湯には桔梗 貝母 桑白皮 天門冬 麦門冬 杏仁が配合されているので、滋陰至宝湯より滋陰潤肺止咳効果を期待できる。

ツムラ93番 滋陰降火湯は陰虚火旺症状が強ければ合方しても良いと思われる。

エキス剤を組み合わせて治療するのはやはり難しい。

せんじ薬が有効

沙参麦門冬湯に降気平喘化痰薬を配合し、せんじ薬にするのがベストである。また百合固金湯(医方集解)加減も有効である。

百合固金湯(ばいはーぐーじんたん)

主治:肺腎陰虚 虚火上炎

生地黄 熟地黄 麦門冬百合 白芍 当帰 貝母 生甘草 桔梗 玄参 

これに百部 款冬花 白前などを弁証にあわせて使用するのも良いと思われる。

また百部と黒砂糖による百部茶なども試してみる価値があることを付記する。

患者さんと医師にわかりやすくするために

日本の代表的漢方薬の製造メーカーであるツムラのエキス剤番号を記載しました。他のメーカーにも同様のエキス剤があることを申し添えます。

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復脈湯(ふくみゃくとう)の臨床

2008-08-18 14:56:07 | ブログ

復脈湯(炙甘草湯) 加減復脈湯 一甲~三甲復脈湯の比較

気陰双補剤から滋陰清熱剤への進化の流れ

中医学での復脈湯と名の付く方剤は、後漢時代の「傷寒論」の炙甘草湯(別名復脈湯)が歴史的には最初のものであり、清代の呉鞠通による「温病条件」の加減復脈湯に続き、一甲~三甲復脈湯となる。「傷寒論」は「体内の陽気を守る」という理念に貫かれていると思われるが、後世の金元時代の滋陰学派の発生、さらに下り、清代の葉天士による外感温熱病の衛気営血弁証の発展により「積極的な滋陰清熱解毒」へと発展してきた中で加減復脈湯が生まれた。

温薬を赤、涼寒薬をブルー、平薬をグリーンで表記すれば

炙甘草湯(復脈湯(後漢 傷寒論)

大棗 人参 炙甘草 生地黄 麦門冬 阿膠 麻子仁 生姜 桂枝

加減復脈湯(清代 温病条件) 

生地黄 生白芍 麦門冬 炙甘草 阿膠 麻子仁であり、加減復脈湯には温薬が一切配合されていないことが一目瞭然で滋陰清熱の効果が増強され、温病後期のいわば「虚熱内盛」「邪少虚多」の状態に用いられるものである。症状は微熱 五心煩熱 口干 動悸 元気が無い うとうとする はなはだしい場合は意識朦朧 聴力減退 舌のこわばり 紅絳舌 少苔 脈虚大あるいは遅などがあげられる。現代医学的には十分な補液(点滴)と栄養剤の補給とでも言うべきものである。

一甲牡蠣 二甲鼈甲 三甲亀板 竜骨

と覚える。

上海時代に中国人の学生から覚え方を教えてもらったのが上である。温病後期にて下痢が続く場合は通便作用の麻子仁を除き、固摂渋腸(下痢止め)の効果のある牡蠣を加えたものが一甲復脈湯である。温病による津液損傷が著しく、陰虚生風の手足の痙攣などが生じた場合には加減復脈湯に生牡蠣、生鼈甲を加え潜陽熄風をはかる。現代医学では十分な補液と、場合によっては抗痙攣剤の投与に相当する。二甲復脈湯に生亀板を加えたものが三甲復脈湯であり竜骨を加える場合もある。傷陰、陰虚生風に加え、動悸や胸痛などが生じた場合に用いられる。現代医学では熱病が末期化した場合といえる。いよいよ最終的な末期状態になれば三甲復脈湯に卵黄と五味子、人参を加えた大定風珠(だいていふうじゅ)の登場となるが、私自身は一甲復脈湯~大定風珠は現代の臨床では単独では使われないと思っている。西洋医学的な熱病治療の手法が全然無かった時代の漢方医の悪戦苦闘の歴史であると思っている。

炙甘草湯(復脈湯)は現在でも有効な方剤

動悸や不整脈で漢方外来を訪れる患者さんは多く、炙甘草湯の加減が有効な場合が多い。多くの患者さんは老年期で、同時に夜間の咳嗽などを伴っている。西洋医学での治療剤である、βーブロッカー、抗不整脈剤、血小板凝集抑制剤などを服用している場合が多い。現実的に炙甘草湯で「体調が良くなった。」と喜ぶ患者さんが多い。頻脈性不整脈と診断され抗不整脈剤を投与されたが、動悸が治まらなくて、漢方相談においでになる場合に麝香保心丸などと一緒に処方する。多くは、疲れやすく、のぼせ症状があり、便秘気味で、脈は結代があり、弱く、舌質はやや乾燥している。睡眠が不足気味であり気陰両虚の状態である。

「君薬」は炙甘草、大棗、人参です。方剤中で「心」に帰経をもつ生薬は、君薬の一つである炙甘草と麦門冬しかない。「肺」に帰経を持つものは、人参、炙甘草の2生薬である。甘草の働きについてまとめれば、

甘草の肺に対する効能は、潤肺止咳化痰であり、肺を潤し、咳を止め、痰を除く。甘草の補気効能の最大の特徴は補心気の際の君薬となることで、心気虚の症候である動悸、不整脈に対して益気補心脾に働く。

甘草は配合する薬剤によりその効能が変化する。人参と配合すれば補肺脾に働き、(人参でも西洋参と配合あるいは党参を使用すれば補気生津に働き補気作用に加え滋陰作用の側面が出てくる)同じく山薬と配合すれば補気養陰の効能が生じる。

以上のようになる。

近代薬理学的な研究が進み、甘草の調和諸薬、緩和、鎮咳、抗炎症、痰、抗潰瘍効果、肝機能改善などの薬理作用が次第に明らかにされつつあるが、明らかな抗不整脈作用などに関しての解明はまだのようである。

生地黄、麦門冬は滋陰に作用し、生姜と桂枝の組み合わせは通陽(陽気をめぐらせる働き)に働き、阿膠はロバの皮から抽出した水溶性コラーゲンとも言え、栄養剤であるとともに、養血、止血に働き、滋陰潤肺の作用がある。

炙甘草湯に配合されている麻子仁は便秘予防の目的

「便秘が主症候」である場合には、麻子仁を1種類単独で用いられることはない。従って「便秘予防」と考えたほうが理屈に合っている。心臓病を患っている時に、排便に時間がかかるような便秘は避けた方がいいわけである。加減復脈湯にはそのまま麻子仁が残されているが、津液損傷による腸燥便秘を考慮したものと想定される。

時代が変われば、、

大定風珠には卵黄が配合されている。卵黄は滋補心腎の要薬である。亡父がシベリア抑留から帰還し、弱りきった体を回復させるために、鶏卵を実家の鶏小屋から盗んで(?)飲んだと話していたのを思い出した。現代ではコレステロールを増加させると言われ鶏卵(卵黄)の分は悪い。隔世の感を禁じえない。

盆の墓参で会津から帰った終戦記念日の夜に原稿を打った。

「もう何十年も同じ盆踊りの歌を聞いてきたがいまだに何を言っているのかわからない」 口に出た。弟曰く「兄貴もそうか、俺もだ」 笑った。

田舎のビアガーデンでは生ビール中ジョッキが300円、つまみの枝豆が100円、実家では窓を開け、蚊取り線香を炊き、クーラーは使わない。低エネルギーエコの生活である。生活費も安い。働き詰めの生活に疲れたら、田舎に帰ろうと思う。「ただ風が吹いているだけ」でない何かを郷里には感じるからだ。

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