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大建中湯(だいけんちゅうとう)

2006-11-29 17:15:45 | うんちく・小ネタ

考察: どのようなイレウス(腸閉塞)に有効なのか?

先日、ある内科医から、大建中湯はどのような腸閉塞に有効なのか?という質問メールをいただいた。以下は私見である。

1.      まず、末梢血液検査で1万以上の白血球増多がないことを確認してください。

2.    CRPなどの炎症反応が高値でないことを確認してください。

3.    舌下、脇の下、直腸での体温を測定して、直腸温が他の部位と比較して、1度以上高くないことを確認してください。舌下、脇の下で38度以上の発熱がないことを確認してください。

4.    基礎疾患を確認してください。癌などによる機械的な腸閉塞を除外してください。

5.    慢性的な便通異常などの既往があったかどうかを確認してください。

除外項目ではありません。

6.    腸雑音を確認して、異常に雑音が亢進してないことを確認してください。

7.    サーモグラフィをイメージしてください。腹部の色はどんなイメージですか?

腹部全体が、明らかなオレンジ~赤で、急性の広範囲な炎症がイメージされる場合を除外してください。

8.    便秘傾向が過去においてあったかどうか確認してください。

(おうおうにして、便秘性の腸閉塞が老人に多いことあるので)

9.    過去に偽膜性(ぎまく)性大腸炎と診断されたことがあるかどうかを確認してください。その場合でも、さらに、現時点での発熱が無いこと(1、3、7)を確認してください。十分な補液と電解質補正、胃内ガス減圧処置がなされていることを確認してください。

10. 気管支喘息などで、ネオスチグミンなどのコリン作動阻害剤を使えないことを確認してください。

11.   糖尿病の基礎疾患があるかどうか、また、電解質異常、とくに低カリウム血症がないことを確認してください。

以上を確認のうえ、大建中湯を使用してください。3日以内に改善傾向が出現しない場合は中止してください。

さて、漢方生薬を組み合わせたものを「方剤(ほうざい)」といいます。大建中湯も方剤のひとつです。

漢方の勉強方法とは?

    随証論治(ずいしょうろんち)と言い、いろいろな症状の集まりから、中医学的な診断方法に従ってそれに対応する薬剤(方剤)で治療することを学ぶ。

あるひとつの方剤には、対応する証があり、これを「方証(ほうしょう)」という。

    薬剤(方剤を含む)の効能、特徴から、治療できる病態を勉強すること。

③病気、病態の本質を、中医学、西洋医学を合わせて総合的に診断することによって、   可能な限り、最善の治療に努める。(これを私は弁病論治ということにしている。)

①、②に関して「大建中湯」の適応症を簡単に述べれば、大建中湯の考案者

「張仲景」の記述を現代風に解釈しなければならない。

    張仲景とは?

張仲景(ちょうちゅうけい)は、現代中国でも「医聖」列伝に入る後漢時代の医師であり。現代の未履修日本史では記憶が途絶えそうな、遠い昔の「卑弥呼(ひみこ)」の弥生時代、中国の「後漢」の時代の医師です。これまた、世界史未履修のための学生さんに、どのくらい前の話かと説明すると、後漢の前の時代の前漢の時代には、日本は「倭国(わこく)」と呼ばれ、「漢倭名国王(かんのわのなのこくおう)」が、金印を中国の皇帝から贈られた時代の後(あと)の時代であり、今から1900年以上も前の時代です。卑弥呼(ひみこ)が30代で「神がかり」のシャーマニズムで畏敬されていたときに、張仲景は40代半ば、医師としてその名声は急上昇していたといえます。


張仲景が50歳のころには、現在の中国の湖南省の州都である長沙の太守(県知事のような役職)になったというから、政治家としての才能もあったらしい。

しかし彼は政治家としてではなく、「傷寒雑病論」(しょうかんざつびょうろん)という医学書の著者として有名なのです。彼は「目で見て診察する望診(ぼうしん)」と「脈を診て診断する脈診(みゃくしん)」において、超能力を発揮したとも言われてます。

張仲景は、黄帝内経素問(そもん)霊枢、胎臚薬録(たいろやくろく)陰陽大論、平脈弁証、神農本草経等の古代の医書を熟読精通し、「傷寒難病論(しょうかんざつびょうろん)」十六巻を作ったとされます。「傷寒難病論」のうちの「傷寒論(しょうかんろん)」十巻を除いた残りの六巻を彼の死後に、弟子たちが纏め上げたのが「金匱要略(きんきようりゃく)」であると言われています。その後、戦乱などで散逸していまい、日本に伝えられたものは、平安時代の中~後期の「宋」の時代の「宋本」であるとされています。

傷寒論」では、病邪の進入経路や、病状の進展具合によって、病期を太陽、少陽、陽明、太陰、少陰、厥陰(けついん)の六期に分けています。各時期における病状と、それに応じた生薬療法が記載されています。これが有名な六経弁証という診断体系です。臓腑(ぞうふ)の変化を経絡に結び付けて考察する弁証(診断)という事になります。使われる生薬115種は圧倒的に、附子(ぶし),桂枝、麻黄、干姜、生姜、大棗、厚朴、薤白、半夏、茱萸、杏仁、細辛、五味子、白?、人参、葱白、赤石脂、当帰、蜀椒、巴豆、旋?花などの温熱薬が多いのが特徴です。薬を組み合わせた方剤は112とされています。このうち全体として温の性質を持つ方剤数は約4割(筆者の主観であるが)を占めます。

金匱要略(きんきようりゃく)」は、現代中国の「臓腑弁証(ぞうふべんしょう)」の基礎ともいえる体系で、いわゆる「証(しょう)」という概念が定着した最初のものであると筆者は考えます。「傷寒雑病論」の「雑病」部分に相当する「金匱要略」は、現代の慢性疾患に相当すると考えられます。寒涼薬や当帰(とうき)などの養血活血剤が多数記載され始めています。活血薬が多いのも特徴です。現在の日本での当帰芍薬散エキス製剤をはじめとする多くの当帰製剤は「傷寒論の当帰四逆散、当帰四逆加茱萸生姜湯」「金匱要略の当帰芍薬散、」が起源です。

大建中湯の記載は金匱要略

. 方証から考えれば

大建中湯の方証は、中国語原文と簡明私的日本語を加えると次のようになります。

①大寒痛上下(腹が冷えて激しく痛み)

②拒按(腹を押さえれば痛いと患者は嫌がり)

③嘔不能飲食(吐いて食事ができない)

④上衝皮起(お腹をみると腸の形のようなものがムクムクと動いている)

②、③は腸閉塞なら原因病態を問わず出現します。④のムクムクとはいったいなんでしょう?腸が動くのであれば麻痺性腸閉塞でもなさそうです。

もっとも大切なのは、①の「冷えて痛む」にあります。私はこの文章に接したときに、

とっさにサーモグラフイでは、腹部は通常より青い


卵巣がんの漢方治療 続々編

2006-11-25 09:20:31 | うんちく・小ネタ

漢方がん治療生薬 龍葵(りゅうき 中国語ロンクイ)イヌホウズキとは?

岡本康仁堂クリニックの卵巣がん方剤(ほうざい)の組成は

白花蛇舌草、半枝蓮、半辺蓮、重楼、拳参、土茯苓、龍葵、天葵子、威霊仙、楼根、野山人参、黄耆、白??、土?虫、川郁金、冬虫夏草、山薬を基本としている。

   イヌホウズキ

龍葵(りゅうき 中国語でロンクイ)といっても日本では馴染みが薄いが、「イヌホウズキ」といえば「ああ、あの植物か」とうなずく方も多いのではないだろうか? 中国では、果実の格好から天茄子(天なすび)とか野茄(野ナス)の別称がある。日本では「馬鹿なすび」の呼称もあるらしい。かじってみてピリリと辛味があるので山海椒(さんかいしょう)、成熟期の果実の黒さから?眼睛草{カラスの瞳(ひとみ)草}というような不気味な呼称もある。 さらに、形と色調から野葡萄(のぶどう)、つぶすと酸っぱいどろりとした液体がでるので酸漿草(さんしょうそう)などの別名がある。なぜ、和名がイヌホウズキなのかと言えば、「イヌ」とは役にたたない「役立たず」の意味らしいが、正確な語源は知らない。

学名はHerba Solani Nigriであり、英語圏ではBlack Nightshade Herb(訳して漆黒夜影香草とでもなるのか?)と呼ばれる。和名のイヌホウズキに比べて、英語の方が、感じがでている。

植物生態 

1年生草本で30~100cm位まで成長する。球形の直径1cm弱の茄子に似た果実が実り(私には葡萄のように見えるが)、秋季に熟すると「カラスの瞳のような黒色」を呈する。平べったい卵形の種子がたくさんなる。この時期に地上部分を採取し、主として地上茎と葉を乾燥して薬用とする。田んぼのあぜなどの耕地はもちろん、路傍や荒地にも成育して、中国では全国的に分布している。弱酸性~中性の土壌を好むとされる。もともとは、主に綿栽培、野菜、豆類、イモ類、ウリ類などの収穫に損害をもたらす害草(雑草)であると認識されていた。日本でも、どこにでも野生していると思うが、漢方市場に現在のところ流通していない。毒草だから、危なっかしくて流通させられないのかもしれない。

茄子科 龍葵(りゅうき)イヌホウズキ

200611_24_008

収穫期前の未成熟な果実

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8~9月の収穫期の黒い果実

200611_24_003

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中国では老?眼睛草{カラスの瞳(ひとみ)草}と呼ばれ、

英語圏ではBlack Nightshade Herbと呼ばれる

「役立たず」のイヌホウズキであるが、中国では「薬に立つ」龍葵である

[含有成分] solanigrineなどの塩基類、solasodineなどのアミン類、グリコシド類、ビタミンC、樹脂などである。

四気五味:寒,苦、微甘(酸) 小毒 

効能と適応症:

解毒,利尿、鎮咳皮膚の化膿症や湿疹、老人性慢性気管支炎、婦人の帯下病、前立腺炎、赤痢などに9?15gを、主として煎じて服用する。皮膚病変の場合は外用される場合もある。

抗菌作用は、龍葵煎じ液が、黄色ブドウ球菌、赤痢桿菌、チフス菌、緑膿菌、大腸桿菌に対して一定の制菌、抑菌作用があることによって細菌学的に証明されている。

また気管支炎に対する効能は、動物実験で龍葵のアルコール、クロロホルム抽出物が明らかな鎮咳痰作用(咳を鎮め、痰を切る)があることが確認され、人に対する古くからの使用方法が再確認されつつある。平滑筋興奮作用が龍葵抽出物に存在するとする実験結果も報告されており、気管支平滑筋に対する作用も推定されるが、筆者はまだその種の報告は眼にしていない。

また、煎じ液(水抽出液)には、血管の透過性亢進(炎症などの原因で血漿などが血管から漏れでること)を抑制し、血液の凝固性(固まりやすさ)を低下させる作用が動物実験で確認したという研究も存在する。

抗癌作用

中国では、近年、乳がん、卵巣がんに対して、西洋医学の治療方法と一緒に龍葵を使用する医療施設(腫瘤医院)が増えてきている。乳がん、卵巣がんの中西医結合療法(西洋医学と中国伝統医学の結合治療)で、腫瘤成長抑制効果が確認されており、龍葵を通常量を使用することは、日本の厚生省に当たる中国衛生局で許可が得られている

大量投与時の西洋抗癌剤に似た毒性作用

大量投与を行うと動物実験で白血球減少、溶血(赤血球が破壊される現象)を引き起こす。通常量1020gの人への投与では白血球低下、溶血はきたさない。

急性毒性中毒の報告

大量に用いると、(あるいは大量に食すると)、溶血(赤血球が破壊される現象)、頭痛、嘔吐、瞳孔散大などの中枢神経症状、初期の頻脈と後期の徐脈などの心筋興奮と抑制反応、精神の昏迷や錯乱などの精神神経症状などが中毒例として報告されている。

現代の中国ではありえない話であるが、貧困と飢餓の時代に、空腹のあまり、茄子(なす)あるいは食用の野葡萄と間違えて食べてしまったことがあるのではないのだろうか?

それとも、権謀術数うずまく中国の歴史の中で、毒殺用に研究された時期があるのかもしれない。

「毒を以って毒を制する」の由来は四文字熟語「以毒攻毒」であり、古代中国である。 まさに温故知新のイヌホウズキ抗癌療法の感がある。

       続く、、


卵巣がんの漢方治療 続々編

2006-11-22 22:24:38 | うんちく・小ネタ

卵巣がんに有効な漢方生薬の組み合わせ 天葵子(てんきし)とは?

岡本康仁堂クリニックの卵巣がん方剤(ほうざい)の組成は

白花蛇舌草、半枝蓮、半辺蓮、重楼、拳参、土茯苓、龍葵、天葵子、威霊仙、楼根、野山人参、黄耆、白??、土?虫、川郁金、冬虫夏草、山薬を基本としている。

このうち重楼と拳参については文献的にも紛らわしいので、前回の稿で説明した。

蚤休(そうきゅう)はユリ科の七叶一枝花(しちよういっしか)の根茎であり、拳参(けんじん)はタデ科植物の根茎である。どちらも草河車(そうかしゃ)と呼ばれることがあるので紛らわしい。中国ではあくまで蚤休(そうきゅう)は七叶一枝花(しちよういっしか)の根茎であり、蚤休(そうきゅう)は別称、重楼(じゅうろう)ともいい、草河車(そうかしゃ)は拳参(けんじん)を指す。蚤休(そうきゅう)=重楼(じゅうろう)は抗癌作用とともに、古来より毒蛇咬傷に有効とされている

天葵子(てんきし)とは?

 毛莨科フユアオイの根のことであり、根を薬用とする。江西、浙江、安徽、湖南、湖北、広西、貴州、雲南などが産地である。春に採取し、乾燥させ、そのまま生で薬用とする。新鮮品を使うこともあるが稀である。含まれる薬効物質は数種類のアルカロイド、エステル類、フラボン類などである。クロロホルムアルコール抽出による薄層クロマトグラフィーでは十数種類のバンドが出現するが、まだ全部は同定されていない。

天葵子(てんきし)

200611_22_004

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毛莨科フユアオイの根を薬用とする 

食道がん、鼻咽腔がん、肝癌、乳がん、卵巣がん、膀胱がんなどに

抗癌生薬として使用される。

天葵子(てんきし)の抗ガン作用

 アルコールと熱水抽出物には、抗腫瘍作用があり、マウスの

移植S-180肉腫への成長抑制効果が確認されている。炎症を抑える作用、黄色ブドウ球菌の発育を抑制する作用がある。

天葵子(てんきし)の古来よりの評価

 四気五味: 甘、苦、寒、少毒、中国医学では清熱解毒、敗毒抗癌、消腫化結の薬効をもつとされている。平たく言えば、炎症を抑え解熱させ、ガン組織の成長を抑え、しこりをほどいて、腫れを引かせるということになる。帰経(薬剤が作用する中国医学での経絡)は胃、脾、肝、肺、膀胱である。

現代中国でのがん治療における天葵子(てんきし)の使用現状

帰経から、食道がん、鼻咽腔がん、肝癌、乳がん、卵巣がん、膀胱がんなどに使用されている。ほとんどが多数の生薬と一緒にせんじ薬(熱水抽出)で使用されている。地方によっては天葵子の薬用酒もあるという。

興味ある天葵子(てんきし)の中国の「食道がん民間使用」

中国の腫瘤科の友人に聞いた話を紹介する。友人の彼も、彼の老師から聞いたということで、どの地方のいつの時代なのか筆者は知らない。

食道がんで嚥下障害(えんげしょうがい)と痛みが出現した場合の伝承療法である。

天葵子一斤(いっきん)(500g)を糯米(もち米)で作った酒1.5斤(一升弱)に1週間浸し天葵子酒を造る。

砂(のうさ)(天然の塩化アンモニウム)を十銭(30グラム)、湯70ccに混ぜて、すり鉢の中で均等に砕く。それをろ過し、ろ過液に白酢(黒酢ではない)を30cc加え、鍋に移し、化熱し、かき混ぜながら、蒸気を飛ばして乾燥物をつくる。今にも、においが漂ってくるようで、どんな味になるのかも知らないが、ともかく便宜上、粉末加工砂(のうさ)と名づけるとしよう。

天葵子酒一回十銭(30グラム)と粉末加工砂(のうさ)1gを一緒に、一日3回食前に服用する。継続使用すると、嚥下障害は改善し、痛みも消失し、腫瘍は消えてなくなるという夢のような話だった。

砂(のうさ)は古来から、痰を除く痰薬(きょたんやく)、利水薬(利尿薬)として、中国伝統医学の中で認識されてきた天然の塩類(酸とアルカリの反応物)である。一方、天葵子(てんきし)の清熱解毒、敗毒抗癌、消腫化結作用も知られていたものである。

天葵子は毒蛇咬傷の際にも有効であるとされている。 重楼(じゅうろう){別称 蚤休(そうきゅう)}も同じく毒蛇咬傷に有効であるとされる。興味ある一致点である。

               続く,,


十全大補湯と補中益気湯の使い方

2006-11-21 21:15:43 | うんちく・小ネタ

    十全大補湯

十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)の組成は、気虚に対しての四君子湯(人参 茯苓 ? 炙甘草)と血虚に対しての四物湯(熟地黄 当帰 白芍 )これに補気助陽薬の黄耆と温里薬のを加えた計10薬の組成になっています。赤は温薬緑は平薬青は涼薬です。 温薬 : 涼薬=7:1 になります。温薬(体を温める生薬)の配合が多いので温補気血剤といわれ、気血両虚の虚症に用いられ、熱証には単独では使用しないという中国医学の伝統を前回お話しました。

    補中益気湯

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は、元の時代に李東垣によって考案された方剤です。組成は、黄耆 人参 白? 炙甘草 柴胡 升麻 当帰 陳皮です。温熱寒涼の色分けは十全大補湯とおなじです。黄耆(おうぎ)が君薬(くんやく)とされる方剤です。君薬(くんやく)とは方剤の中でもっとも重要な役割を果たす生薬を指します。従って、補中益気湯は黄耆(おうぎ)が君薬で、それに補気剤である四君子湯(人参 茯苓 白? 炙甘草)から茯苓を除いたものに、活血養血剤である当帰(とうき)に、理気薬のうち温薬のひとつである陳皮(ちんぴ)と涼薬である柴胡(さいこ)と升麻(しょうま)を加えたものであると理解されます。

    補中益気湯の効用

補中益気湯の作用は、中国では、胃腸を丈夫にする補中益気(ほちゅうえっき)作用、肛門脱出(脱肛)や子宮脱など中気下陷(ちゅうきかかん)の、いわゆる内臓下垂を改善する昇陽挙陥(しょうようきょかん)作用、気虚発熱(ききょはつねつ)を解熱させる甘温除大熱(かんおんじょたいねつ)の作用の3つと言われています。補中益気湯における甘温除大熱の意味は、君薬である黄耆と、同じく甘温剤である人参、白?で気虚発熱を解熱することを指します。

    気虚発熱とは?

そもそも、補中益気湯の考案者である元の時代の李東垣(元)は著書“脾胃論”の中で、疲れすぎの際の発熱の病理として、命門の火と元気は不両立(両雄相たたず)であり、勝即一負の原則(片方が弱ると片方が勝る)を展開し、疲れすぎで元気が衰えると、その分、命門の火(中医学が想定する生命を維持する火)が強くなり、気虚発熱の原因となると説きました。これは、現代中国医学からすれば、やや「こじつけ」的な理論であるようです。現代では、肉体疲労が重なったり、飲食の不摂生によって脾気虚(ひききょ)が生じると、その結果、津液(しんえき)(体液と考えていいでしょう)が生成不足になり、陽気(ようき)を制御する陰(いん)に属する津液の不足によって、陽気が外表に広がって発熱をきたすとする説と、脾気が弱ると清陽不升(せいようふしょう)といい、陽気が上昇できなくなり、郁滞(うったい)する結果、やがては発熱をきたすという説が有力です。

    柴胡(さいこ)と升麻(しょうま)の役割

柴胡と升麻はそれ自体が涼薬です。加えて大切な中医学的な作用があります。

昇挙陽気(しょうきょようき)といい、郁滞した陽気を動かして引っ張りあげて発散させるという働きです。方剤の学問のなかで引経使薬(いんけいしやく)という役割を果たしています。黄耆にも昇挙陽気作用があります。

    婦人科領域での補中益気湯の使い方

気虚タイプの月経過多症やだらだらと生理が止まらない経期延長などに有効です。子宮脱の傾向がある場合にも有効です。

また、どうしても太れないやせすぎの女性で、虚弱体質で手足がだるく、疲れやすく、自汗の傾向があり、胃下垂や脱肛などの中気下陷があり、 暖かい飲み物を飲むと具合が良くなる(これを喜熱飲と漢方用語でいいます)の虚症の婦人に有効です。

    十全大補湯と補中益気湯のがん治療現場での使い方

 人参 霊芝 黄耆 甘草 大棗 などの補気剤には非特異的に免疫能を高めることが知られています。漢方方剤で、補気剤を含むもので、実際にガンの治療現場で使用されているものは、四君子湯、六君子湯、補中益気湯、十全大補湯などです。活血補血剤としては四物湯(しもつとう)が代表です。これらは、すでに、各製薬会社がエキス剤として、もう既製品が出来上がっているので現代日本では、使いやすいという利点があります。おのおのの方剤を使った動物実験の成績を総合すると、ガン細胞を見つけるとガン細胞を非特異的に殺傷するナチュラルキラー細胞の活性化、侵入してきた細菌や異物を食べてしまうマクロファージの活性化、さらにマクロファージからガン細胞への情報を受け取るT-リンパ球の活性化などのネットワークを介してガン組織の増殖腫大防止、転移の抑制などに働いていることがおぼろげながらに判明してきました。なぜ、「おぼろげながら」と申し上げるかというと、次のような私個人の印象があり、西洋医学的な突破口(ブレイクスルー)を見出すことが「方剤」の基礎研究では大変難しいからです。

 加えて、現実の中国の腫瘤科(ガン治療科)で使用される漢方生薬の種類は非常に多く、十全大補湯や補中益気湯をそのまま使っているところなどは皆無です。

 

漢方方剤を基礎科学的に分析することは、ある意味で不可能に近い?

検証不可能な体系は、検証が不可能な意味で、厳しい批判にさらされません。 悪く言えば、世の中で長続きがするともいえます。しかし、裏を返して、長続きしている体系は、それだけ信頼性があるということにもなりえます。たとえば漢方の方剤のようなものです。

方剤(ほうざい)とは複数の生薬を組み合わせたものです。例を挙げれば、10種類の生薬を組み合わせた十全大補湯、8種類の生薬を組み合わせた補中益気湯などのようなものです。

まず、おのおのの生薬を個別に分析していく基礎研究を想定してみますと、、

実験には必ずコントロールスダデイを必要とします。ある物質を与えた群を実験群とすれば、その物質の濃度別、時期別の実験が最低限必要となります。次に、その物質を与えない実験系を同じスケジュールで行わなくてはなりません。

つまり、物質Aの、ある実験系での効果を見るためには、どう少なく見積もっても、コントロール群も含めて、5つ以上ぐらいの実験が必要です。ところが、1つの漢方生薬には、未知の成分も含めると数種類以上の成分が含まれます。従って、単一の生薬の薬効がどの成分に由来するのかを確認、証明していくためには、5の5乗=3125ぐらいの実験が必要になってきます。

さらに、生薬の成分を熱水抽出した場合、アルコール抽出した場合、有機溶剤抽出した場合、さらには、香りの成分や生薬の様々な処理、たとえば塩や蜂蜜や、その他の様々な前処理まで考えてくると、たった一つの生薬の成分分析と薬効の検定と確証には、一人の研究者が一生かけても終わらないほどの膨大な実験が必要になってきます。

次に方剤の基礎研究を想定してみますと、、

さらに、漢方生薬を数種類組み合わせた方剤の研究と言うことになると、どの物質が、どの物質と共同、相乗、或いは干渉、競合しあいながら、作用を示すのかなどの確認、証明の確立には、天文学的な実験が必要になってきます。つまり基礎実験による方剤(ほうざい)の完全解明は、近い将来には、事実上不可能に近い感じがします。

西洋医学と中国医学の本質的な違い

西洋医学は基礎的な実験に基づく証拠(エビデンス)のブロック(積み木)の上に築かれた学問体系です。臨床応用は、ある分野のブロックが一定の高さまでに達してから行われます。

中国医学は経験医学であり数千年の、いわば人体実験の上に築かれた学問体系です。臨床実験が先にあり、何故この生薬の組み合わせが、ある患者に有効であるにもかかわらず、別な症例には無効であったのかの理論付けは後からついてくるといっても過言ではないのです。

混乱と誤解と懐疑は避けられないが、、

この違いを素直に容認しないと、デジタル思考で固められた西洋医学者は、中国医学を学んでいく過程で「統合失調症」のような不可解な頭脳の混乱を感じ始めます。

しかし、苦しみながらも学んでいくにつれ、人間の頭脳の持っている「面白さ」も感じ始めます。つまり、アナログ思考が可能になってくることを感じ始めるのです。瞬間的にある時点で「悟り」に近いビジュアルな感覚を持つらしいのです。私が教えをいただいた上海の老先生方は、一様にそうおっしゃいます。「悟りに近いかな?」とおっしゃるのです。最初は中医学大学で伝統医学を学び、次に西洋医学を学び、最後にまた伝統医学に回帰したという老師も多いのです。

   経験は貴重な科学的なエビデンスであると認めなくてはならない

西洋医が忙しい日常臨床で処方する薬剤などは、特に悩み苦しんで処方したものでないことは自分の経験から断言できそうです。病名と保険適応が一致していることがまず大原則であり、処方箋を見て、その処方を行った医師の優劣などは一般的には、推し量れないものです。医学部卒後15年もすれば、内科系の場合、教授も助手も、研究生も処方に大差は無いといっても過言ではありません。

 ところが、中国の医療現場で感じたことは、研修医、研究生、院生、助手、講師、助教授、教授、名老中医師の処方の内容にそれぞれ違いがあります。なぜこの薬剤を加味したのか?あるいは、なぜこの薬剤を除いたのか?絶えずその疑問に直面し、お互いに討論しあいます。

 共通して言えることは、どんな階級の医師であろうと、経験豊富な中医学の老師を、その経験の豊富さ故に尊敬していることです。その意味で、中国伝統医学は、改革解放前は徒弟制度的な色合いが強かったことは事実です。しかし、近代中国になっても、経験を科学的なエビデンスであると素直に受容する医師の姿勢に変わりはないといえます。

 実験で確かめられなければ、科学的なエビデンスで無いとする西洋医学的な手法で中国医学の城を落城させようと意気込んで中国に乗り込んで行く欧米人が多数いますが、ほとんどの研究者が数十かそこらの実験で迷路に立ちすくんでしまうのも現実です。 なぜなら、、

方剤の妙(薬剤の組み合わせ理論)はあくまで独自の言語体系の上の基本哲学を具現したもので、現実の臨床は、基本哲学をはるかに越えた、変化に富んでいます。それが原因で、欧米人は戸惑ってしまいます。 お互いの情報を交換し合うことが、今後ますます重要なことになってくるのは事実なのですが、何千年の間に築き上げられた独自の理論を語る「単語(用語)」を共有することが難しいのです。

たとえば、

補中益気丸の英語訳はBuzhong Yiqi Wanそのままであり、気虚発熱はfever due to Deficiency of Qiです。それでは気(Qi)とは何かといえば、the invisible basic substance that forms the universe and produces everything in the world through its movement and changesという具合です。これでは、混乱するのは当たり前なのです。    

         続く


十全大補湯と膠原病

2006-11-20 11:54:59 | うんちく・小ネタ

十全大補湯の正しい使い方

十全大補湯は虚症のうち、気虚と血虚に使用される方剤です。

気虚に対しての四君子湯人参 茯苓 ? 炙甘草血虚に対しての四物湯熟地黄 当帰 白芍 )これに補気助陽薬の黄耆温里薬のを加えたものです。

気虚の症状とは?

気虚の証は、一般的に呼吸微弱(呼吸が弱弱しい)、無気力(やる気が出ない)、易疲労感(疲れやすい)、自汗(普段汗をかきやすい)、体動時悪化(体を動かすと息切れや、発汗などが悪化する)などの症状です。慢性疾患での消耗、老化も原因となります。顔色が淡白で、艶がなく、眩暈(めまい)声低(話し声が小さい)?言(らいげん)(疲労感のあまり話したくなくなること)などの症状も特徴です。

気虚には五臓別に肺気虚、心気虚、腎気虚、脾気虚の場合などがあります。腎気虚とは中医学的には腎陽虚を意味するのですが、この場合には、薄い小便がだらだらと出る小便清長(しょうべんせいちょう)や、未消化の薄い下痢便がでる大便溏薄(だいべんとうはく)を伴いますが、中国医学では一般的な気虚証とは扱っていません。舌色は淡白で舌は薄い白色で、脈は虚かつ無力であることが特徴です。全身気虚に対しても、脾気虚に対しても四君子湯が基礎的な方剤です。臓器別の気虚証については稿を改めて説明します。

血虚の症状とは?

血虚の証は、顔色が蒼白であり、つやの無い枯葉のような黄色身ががかった萎黄(いおう)と呼ばれる顔色、唇や、爪の血色が薄く、動機がする(これを漢方の世界では心悸といいます。)不眠、手足のしびれ、生理不順、脈が細く弱いなどの特徴があります。女性の場合では特に生理の以上が多く出現します。舌が淡い赤であり、一般的には苔は薄いのが特徴です。生理周期が延びたり、生理の量が少なくなる。あるいは生理がくると生理痛が増し、生理が終わっても痛みが続くなどの症状が出現します。

十全大補湯は気血両虚症に対して使用される方剤です。

ここで大事なことは、気虚、血虚ともに虚症であるということです。

もう一度、気血両虚症をまとめてみましょう。

気虚と血虚が同時に存在する証候です。原因としては、

①慢性疾患からの気血両虚

②出血が長引くことによって気も消耗された場合

③気虚が長引き血の生成が低下した場合などです。

②と③の理解には、少し中医学的な知識が必要です。

気と血の関係

気は

①血を生成することができる。

②気は血をめぐらすことができる。これを行血(ぎょうけつ)といいます。

③気は出血を防止する。これを漢方用語で「気は血を固?(こせつ)する。」といいます。

中国医学には「気は血の師、血は気の母」という教えがあります。これを現代医学的な感覚で捉えるのは難しいのですが、私は次のように、感覚として捉えました。

「血液細胞に気が乗っかっている。気は血の元帥(指揮者)である同時に血から栄養をもらっている。」こんな感じです。これを「感覚的に捉える」ことができると、具体的な治療原則の理解に役に立ちます。    たとえば、

血虚に対しては補血(ほけつ)剤とともに補気剤を投与するのは、気は血の帥であるからであり、気の行血作用が停滞する結果の淤血(おけつ)(これを気滞血淤といいます)の治療には活血剤(血液をさらさらにする薬剤)とともに補気剤によって行気を行うことなどです。

中国では一般的に気血両虚に対しての気血双補剤としては八珍湯(はっちんとう)や当帰補血湯(とうきほけつとう)などを使います。

八珍湯(四君子湯+四物湯)は益気補血剤であり、

十全大補湯(八珍湯+黄耆、肉桂)は温補気血剤です。

実熱証がある場合には人参も黄耆も肉桂も使いにくいものです。

しかし現実的には、熱証があっても、気虚証が確実に存在する症例、たとえば、ガン患者さん(多くは気陰両虚です。)や膠原病の患者などです。

その場合の熱証には清熱解毒薬や清熱養陰薬を併用しながら、温薬で補気作用のある人参は太子参(薬性が平)や西洋参(薬性が寒)に変えて補気作用とともに養陰作用を期待します。しかし、それでも、黄耆(おうぎ)や肉桂(にっけい)は使いにくいのが漢方治療の現場の実感なのです。

SLEと十全大補湯

 十全大補湯は、膠原病では全身性エリテマトーデス(SLE)に効果があると言われており、ステロイド薬に併用しています。しかし十全大補湯には、基本的に清熱解毒薬や風湿薬、理気薬の配合がありません。

 中には、ステロイド薬の減量に成功した患者さんもいるとの報告もありますが、SLEの多彩な症状に対してワンパターンで使用されるべき方剤ではありません。 

 SLE活動期に見られる発熱や関節炎症状、皮膚の紅斑、CRPなどの炎症反応などが高い場合、血中補体値の急激な低下などの際には、却って炎症を悪化させてしまう可能性があります。

 中国医学では気の余りは「火」になると説いています。清熱解毒涼血薬や理気薬を配合しないで、単独で漫然と十全大補湯を使用すると炎症を悪化させる恐れがあることを知っていただきたいものです。