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ループス腎炎 漢方 陳湘君氏医案(遼寧中医雑誌1995年第5期より)(腎病漢方治療196報)肝腎欠虚

2013-10-30 00:15:00 | ループス腎炎 漢方

陳湘君女史は上海龍華病院の膠原病専門中医です。小生のすずき康仁クリニックの趙中医師の先生格となります。

患者某、25歳 女性

初診年月日199158

病歴

微熱、頭痛、乏力、脱毛、顔面紅斑、両手のレイノー現象、蛋白尿3ヶ月。他の病院での心電図検査で心筋障害。眼底検査で網膜病変を認める。抗核抗体1640(均質型)、抗二重鎖DNA抗体77μg、C3 0.60/L、IgG18.3、IgM3.61、直ちにプレドニゾン4060mgを服用、病情終始寛解を見ず、氏を受診した。

初診時所見

尿蛋白(2+)、関節酸痛は顕著ではない、乏力を自覚する、気短、頭痛、満月様顔貌、眼瞼浮腫、両頬に紅斑がまだ観察できる、食欲不良、大便11回、苔薄、脈細。

中医弁証と治法

証は脾腎欠虚(両虚)、精微不能固摂に属する。益気健脾、補腎固摂を治則とする。

薬用

生黄耆30g 白朮10g 薏苡仁20g 芡実15g 煅牡蠣 煅竜骨30g 金桜子20g 丹参 益母草 白芍 桑螵蛸30g 鶏内金 山楂 谷芽 麦芽15g 

経過

上方加味治療10ヶ月後、プレドニゾンは漸減して5mgを維持量とした。血圧は穏定30/12kPa(225/90mmHg)前後、下肢の浮腫は消失、精神的に活発になり、気短は感じなくなり、ただ体動時に汗出を感じ、眩暈や物がはっきり見えないことがあり、舌質偏紅苔薄、脈細。気陰両虚の象にて、益気養陰の方に改める。

薬用

生黄耆30g 白朮10g 炒防風9g 生地20g 白芍 淮小麦(安徽省産の浮小麦30g 枸杞子12g 何首烏30g 知母 黄柏12g 炙甘草10g 木賊草15g 虎杖30g 牛膝15g。

経過

患者は19942月に妊娠し、すぐに流産したが、病情は始終穏定。プレドニゾンは停止、現在に至るまで再発無し、既に1日仕事に就労し1年余。

評析

本案の病機は脾腎両虚、水湿不能運化伝輸、精微不能固摂化生である。治療は補益脾腎を法とし、故に、黄耆 白朮 薏苡仁、鶏内金、山楂、谷芽を益気健脾に、芡実 竜骨 牡蠣 金桜子 桑螵蛸を収斂固摂に、丹参 益母草を活血利水の目的に使用し、続いて益気の黄耆 白朮 枸杞子 何首烏などで善後調理した。―中略―ステロイドを漸減停止し病情は平穏、症状も軽快した。


ループス腎炎(Ⅳ型) 漢方 陳以平氏医案(中医雑誌1985年第8期より)(腎病漢方治療195報)湿熱壅盛案

2013-10-27 00:15:00 | ループス腎炎 漢方

患者:姚某 26歳 男性

病歴

1979年から関節痛を伴う不規則な発熱が出現、2年後浮腫、蛋白尿が出現。1982年、某病院に入院検査、全身浮腫、顔面部に皮疹あり、24時間尿蛋白定量8.2g、尿FDP19μg/ml、クレアチニン(Cre)1.4mg%、尿素窒素(BUN)26.4mg%、内因性クレアチニンクリアランス56.7ml/min、抗核分子(-)、LE細胞(-)、血沈35mm/h、総コレステロール360mg%、アルブミン/グロブリン3.5/2.7

入院後治療

プレドニゾン、ヘパリン、シクロフォスファミドの治療を受けるが、尿蛋白の下降が明らかでなく、ステロイドを減量すると狂躁乱語などの精神症状が出現し、

?登(クロルプロチキセン:抗精神薬の一種:うつ病患者の抑うつ気分の好転化や不安,不穏,気分易変などの感情を速やかに安定化するとされる)

及び、大量ステロイド治療後に症状寛解、退院時には浮腫は基本的に消失していたが、表情に乏しく、まだ顔面の皮疹があった。毎日プレドニゾン45mg、クロルプロチキセン45mg、フロセミド60mgの経口薬治療を続け、24時間尿蛋白定量は5.9g。

腎生検結果

糸球体により病変の程度の差があり、うち一個の糸球体毛細血管には繊維化様壊死を示し、“ワイヤーループ”形成とメサンギウムの増生があり、メサンギウム基質の増多を伴い、“分葉状”の糸球体病変を示した。一個の糸球体の毛細管中には透明の血栓が認められ、腎糸球体周囲の間質には比較的多くの炎症性細胞浸潤が認められ、近位尿細管細胞の腫脹変性があった。間質の血管には損害は認められなかった。(糸球体の免疫蛍光法では)IgG(+)、IgA(2+)、IgM(3+)C3(3+)の沈着が認められた。

診断:瀰漫性増殖型ループス腎炎

中医弁証

患者顔面紅赤、満月様顔貌、皮疹はまだ軽度残存、精神呆滞、神疲乏力、骨酸楚、下肢には陥没性の水腫あり、舌胖、舌辺歯痕あり、苔薄白膩、脈滑やや数、

証は気滞血瘀、風湿熱毒留阻経絡肌膚、慢性化して内臓に及び損傷を与えたと弁証。

治法:益気活血、祛風化湿、以って祛邪し正気を回復させる。

処方

黄耆 党参 生地 益母草 薏苡仁 鹿蹄草 ?? 鶏血藤 菝葜30g、

虎杖 晩蚕沙15g 当帰12g 

経過

中薬を服用後、クロルプロチキセン、フロセミドを直ちに停止、ステロイドは減量した。半年後、浮腫、皮疹は全消した。再検査C3 0.74U、Cre 1.06mg%、BUN 15mg%、内因性クレアチニンクリアランス101ml/min、24時間尿蛋白定量0.65g、プレドニゾンは毎日10mgを維持量として、病情は既に1年余安定している。

評析

本案の患者は腎生検を受け瀰漫性増殖型ループス腎炎(Ⅳ型)と診断され、ステロイド、細胞毒薬は適応症であり、中西結合方法を採用し、プレドニゾン、シクロフォスファミドなどの西洋薬を併用し、中医弁証論治を進め、益気活血、祛風化湿法を採用して、終に良好な治療効果を得た。

ドクター康仁の印象

陳氏の処方内容から分析してみます。

益気となれば党参、黄蓍が定番ですね。活血となれば丹参、益母草、鶏血藤、牡丹皮あたりでしょう。当帰でも全当帰になれば活血養血となります。浮腫みがあるので薏苡仁(滲湿利水)は当然のことでしょう。

ただし、鹿衘草(ろくていそう)となれば、袪風湿となります。鹿蹄草(ろくていそう)(中国簡体字で鹿?が通常名)は袪風湿薬に分類されます。処方用名 鹿蹄草、鹿衘草、鹿啣草、鹿含草基原はイチヤクソウ科のチョウセンイチヤクソウ P.rotundifolia L.などの全草です。日本産はイチヤクソウ、ベニバナイチヤクソウ、ベニバナイチヤクソウであり、甘苦温 肝腎肺 袪風除湿 補肝腎 強筋骨 止血の効能があり、風湿痺症の関節痛 腰膝酸痛 乏力などの症候に対して桑寄生、牛膝、独活などと用います。以前に紹介した

紫斑病性腎炎の漢方治療

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20130403

に鹿衘草に関しての記載が有りますので、御一見ください。

??の使用医案は以前に以下に紹介してあります。

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20130415

慢性腎炎の漢方治療 第101報 慢性腎不全の漢方治療 医案9

朱良春氏医案 脾腎両虚 濁陰内遏案

クレアチニン(Cre4.8mg 尿素窒素(BUN) 109mg/dl老人男性尿毒症の漢方治療例(中国当代名医医案医話選より)に、前述していますが、

陳女子の??活のネタ元

慢性腎炎の漢方治療 第86報 紫斑病性腎炎の漢方治療 医案7

徐嵩年氏医案 気虚絡損 血不循経案

http://kojindou.no-blog.jp/happykanpo/2013/03/

に明らかです。徐嵩年氏は陳以平女史の指導教授であり、上海龍華病院の腎内科の教授でした。20034月御逝去。

??(中国名ンチンフオ

別称には、接骨木 接骨草 透骨草などがあります。性味は甘苦、祛風、利湿、止痛などの諸効能があります。主治は風湿筋骨疼痛、腹痛、水腫、風痒(蕁麻疹類似、あるいはその他の皮膚掻痒を伴う疾患)、?疹(?疹は性行為感染症による皮膚疾患と思います。)産後血?(素直に解釈すれば産後の血虚による眩暈となりますが、??活には養血作用が記載されていませんので、血虚による眩暈という解釈には疑問が残ります。)跌打Diē-dá腫痛(打撲等の外傷性の腫れを伴う痛み)、骨折、創傷出血のことです。ともかく、上海学派では、??には蛋白尿を改善する効果があるとされます。

鶏血藤30は、苦温:活血化瘀 舒筋活絡に作用し、

晩蚕沙(ばんばんしゃ)

(蚕沙が一般の呼称です)甘辛温 闢穢(汚いものを除くという意味)は、化濁 袪風除湿に作用します。その正体は、蚕の糞便(平たく言えば糞)が蚕沙です。そして、死んだ蚕の乾燥物が平肝熄風薬の白僵蚕(びゃっきょうさん)になります。

晩蚕沙の処方例として、以下を前述しましたので、興味のある方は御一見ください。

慢性腎不全の漢方治療

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20130409

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20130413

ネフローゼ症候群の漢方治療

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20130613

IgA腎炎の漢方治療

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20121224

本案はループス腎炎の診断そのものに、私は少し疑念があるのですが、ともかく、専門的になりますが、糸球体上皮細胞下の免疫複合物によるワイアーループ病変が光学顕微鏡で認められたわけですので、活動性の高いループス腎炎、つまり腎機能が悪化しうる可能性が高い増殖性ループス腎炎の腎機能を改善し、寛解まで引っ張っていった陳女史の力量を認めるべきでしょうか?

しかし、腎生検の蛍光抗体法の所見はまさにいい加減ですね。免疫グロブリンの沈着パターンなどは論外そのもので、記載がありませんし、勿論、電子顕微鏡的なアプローチも無いのです。

データがあるのに記載しないのか、データが無いから記載出来ないのか、いずれかですが、中医案を読んでいる読者の判断まかせというのはいかにも中国らしいと感じます。論文としてのクオリティの低さをどうしても感じてしまいます。

それにしても、中医学といのはプライオリティに欠ける学問、あるいは学説ですね。なにしろ、自然界の動植物、鉱物に中薬の基源があるのですから、どこかで、誰かが、自分より先に使用経験があるのです。その意味では、新鮮味とか独創性がないですね。そう思いませんか?弁証に関しても古色蒼然ですね。自分で漢方を標榜しているのにかかわらず、其の類のもどかしさを感じない日はありません。

20131026日(土) 記


膜性型ループス腎炎 漢方 陳以平氏医案(中医雑誌1985年第8期より)(腎病漢方治療194報)気陰両

2013-10-24 00:15:00 | ループス腎炎 漢方

1985年と時代は古くなりますが、腎生検を早くから施行し、上海中医腎臓病学派の基礎を作りあげた龍華病院の陳以平氏の医案をご紹介します。ループス腎炎の膜性腎症(腎炎)型と、以前紹介した、陳氏の原発性膜性腎症の治療を比較してみるのも興味のあるところです。

患者:叶某 25歳 女性

病歴

1981年関節の紅腫、顔面の蝶形紅斑が出現、19829月高熱後に腹水、高度な浮腫が出現し入院となった。当時の検査で抗核因子(+)、C3 0.55単位、LE細胞は検出されず、アルブミン/グロブリン11.42/2.0g%、24時間尿蛋白定量9.68g、尿FDP0.29μg/ml、Cre0.85mg%、BUN14.4mg%、内因性クレアチニンクリアランス112ml/min、総コレステロール386mg%。プレドニゾン45mg/d、硫??呤(アザチオプリン)100mg/d、ヘパリン及び中薬治療後、24時間尿蛋白定量で3.78gに下降し、C3は0.86と上昇、アルブミン/グロブリン1.35/2.2g %、水腫消退、外来治療となった。退院時毎日プレドニゾン40mg。

腎生検結果:ループス腎炎(膜性)。

中医弁証                                                                                  

顔面紅斑隠隠、唇紅口干、朝起きてから顔面が火照る、耳鳴り骨痛、舌紅。苔薄黄。証は気陰両虚、虚火上炎、肝腎不足、血瘀痺阻に属する。

治法:益気養陰、清熱解毒、補益肝腎、祛風活血

処方:

炙鼈甲何首烏玄参15g、生地丹参益母草菝葜白花蛇舌草30g、党参黄耆20g、知母烏梢蛇12

経過

上方加減治療1年後、尿蛋白陰転、Cre0.73mg%、BUN8.7mg%、アルブミン/グロブリン4.48/2.83g24%時間尿蛋白定量(-)、プレドニゾンは隔日20mgに減量、症状消失、随訪1年余病情穏定。

評析

膜性腎炎は一種の免疫複合体病であり、腎生検で糸球体基底膜の上皮下に免疫複合物の沈着が認められ、腎糸球体毛細血管係蹄壁が瀰漫性に肥厚し、細胞或いはメサンギウムの増殖は極めて稀である。炎症性病変が明らかでないことから、膜性腎病と呼称される。始まりは隠匿的で、無症候性蛋白尿もあり、またネフローゼ症候群を呈することもある。血清蛋白は多くは3g%より低くなり、コレステロールが増高するが、腎機能は早期には大部分は良好で、疾病が発展すると次第に腎機能が低下することもあるが、その速度は比較的緩慢である。この病はSLEに合併することがある。本案では益気養陰、清熱解毒、補益肝腎、祛風活血の中薬の諸薬とステロイド治療により、病情を完全寛解に到達させた。その思路と治法は、更なる検討に値する。

ドクター康仁の印象

アルブミン/グロブリン値の変化を追ってみると、11.42/2.0g%(24時間尿蛋白定量9.68g)→1.35/2.29g(24時間尿蛋白3.78)4.48/2.83g24%時間尿蛋白定量(-)に違和感があります。浮腫も消え、尿蛋白も3.78/24時間と減少して、入院治療から外来治療になっているのに、アルブミン/グロブリン比が1.35/2.29g%とは解せないのです。想像してみるに、弟子が過去のカルテから数値を抜粋する際に、間違えたのでしょう。治療前の11.42/2.0g%も数値としておかしな値です。ネフローゼ状態なのにアルブミン比率が高すぎます。これも弟子の数値抜粋のミスか誤植かのいずれかでしょう。底が浅いうっかり者の弟子だったのでしょう。その弟子が評析も行うのですからどんな評析になるのか、後ほど印象を述べます。

氏の処方内容を分析してみましょう。

炙鼈甲何首烏玄参15g、生地丹参益母草菝葜白花蛇舌草30g、党参黄耆20g、知母烏梢蛇12

白花蛇舌草は前ブログにも有るように再度登場です。量も30gですね。ただし半枝蓮は配伍されていません。益気とくれば人参黄耆の登場です。党参は薬性が平です。もし、熱毒熾盛ともなれば、太子参の涼が適します。烏梢蛇また出てきましたね。祛風剤ですが、一般に、腎炎では徐長卿 菝葜などは祛風利湿目的に使用されますが、烏梢蛇はどうやら関節痛や骨痛に使用されるようです。鼈甲、生地、知母は青蒿鼈甲湯の発想でしょう。血分虚熱証(温病後期 邪伏陰分)に用いられる方剤です。

青蒿鼈甲湯の証は午後微熱 五心煩熱 口干咽燥 精神不振 難聴(耳聾)身体消痩、脈細虚 治則:養陰透熱(先入後出)、組成は青蒿6鼈甲15生地12知母6丹皮9となりますが、丹参、益母草は腎炎での涼血活血利水消腫の定番的なものですから、あえて牡丹皮を使用する必要は無いのでしょう。何首烏は補肝腎、玄参は血熱を意識しての涼血活血補陰というところです。

菝葜BáQiā(バッカツ)別名、土茯苓 あるいは山帰来です。といえば知っている方も多いでしょう。漢名がバーチア菝葜になるそうですが、倭寇が日本に持ち込んだと言われている梅毒の治療薬として、山帰来(サンキライ)[別名:土茯苓(ドブクリョウ)]が広く用いられました。中国から江戸時代、梅毒治療の目的で長崎に大量に輸入されていたといいます。清熱解毒薬ですが珍しく薬性が平です。

生地は、念のため生地黄(しょうじおう)のことです。「きじ」ではありません。

尿中FDPとは尿繊維蛋白降解産物 fibrinogen/fibrin degradation productsを指します。一般に腎炎で尿中に増加します。100ng/ml以下を正常域としますと、0.29μg/ml1000倍して290ng/mlと換算しますのでやや上昇していますが、それほど高値ではありません。ヘパリン(抗凝固剤)を使用しましたので、使用根拠という目的で記載したのかと思いますが、その後の尿中FDPの記載は有りません。この辺が、中医学の不完全ないい加減なところです。

それでは、原発性膜性腎症に対する陳氏の医案を振り返ってみましょう

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20130627

ネフローゼ症候群の漢方治療 医案30(原発性膜性腎症) 腎炎、腎不全の漢方治療158報 陳以平氏 医案 湿熱案 (腎病的弁証与弁病治療より)

上記医案では、58


ループス腎炎 漢方 叶任高氏医案(河南中医学院学報2003年3期より)(腎病漢方治療193報)熱毒熾

2013-10-20 10:43:07 | ループス腎炎 漢方

叶任高氏の医案については今回初めてご紹介します。2003年の学報ですから、今までのループス腎炎の医案より新しいものであることを期待しています。

叶任高氏1932??2003)の肩書きは、衛生部重点実験室主任;中国中西医合学会腎専門全国主任委中南六省主任委;美国中医学院原内科教授;中山医一院原科主任であり、米国での西洋医学にも接し、実験医学にも携わった人物です。

患者?某 28歳 女性

病歴

患者は20011月明らかな誘引が無く発熱、顔面部の紅斑および双上肢の皮疹が出現、関節痛、脱毛、全身浮腫を併発し、当地の某病院で検査し、抗Sm抗体(+)、ANA抗体(+)、尿蛋白(3+)、24時間尿蛋白定量3.2g、ループス腎炎と診断された。プレドニゾン50mg内服(一日一回)、シクロフォスファミド注射液200mgを隔日点滴し、治療1月余、浮腫は消退し、尿蛋白(3+)、その後、連日シクロフォスファミド1000mgのパルス療方を6回、ステロイドは減量、治療効果は欠佳。系統的な治療を求め、氏の外来を受診した。

初診時所見

満月様顔貌、顔面に依然として紅斑あり、関節痛はあったり無かったりの状態、双下肢に中等度の浮腫、舌質紅、苔糙黄、裂紋あり、六脈弦数。

中医弁証と治則:証は熱毒熾盛に属し、清熱解毒、涼血活血を治則とする。

処方叶氏狼瘡方

白花蛇舌草30g 半枝蓮15g 紫草10g 丹参12g 全蝎2g 水牛角粉10g(冲服) 魚腥草15g 

シクロフォスファミド600mg、800mgの2回のパルス療方を併用し、プレドニゾンは増量して50mgとした。

経過

上方服薬10剤で紅斑消失、浮腫消失。24時間尿蛋白定量0.28g。

上方より水牛角、魚腥草を去り、女貞子15g 旱蓮草15gを加味し、シクロフォスファミドを毎月1000mgのパルス療方を6回行い、尿検査で異常なく、諸症消失、臨床的に治癒となった。

評析

狼瘡性腎炎は中医の水腫、陰陽毒等の範疇に属し、弁証は一般に熱毒熾盛、瘀血内阻等に属する。叶氏の狼瘡方中、白花蛇舌草、半枝蓮、紫草等は清熱涼血の剤を選択し、丹参、全蝎の活血の品を以って補佐として、病機に緊密に的中しており効力が力強い。現代薬理学の研究によれば、白花蛇舌草は細網内皮系を刺激し、白血球の貪食機能を増強することや、丹参の薬理研究ではヒト腎の繊維細胞の成長を抑制し、その細胞死を促進することが提示され、腎臓炎症を消除し、腎糸球体繊維化と終末期腎臓病へ発展するのを防止する;同時にステロイドを配合し、治療効果を増強し、ステロイドの副作用を減少せしめ、重大な臨床的意義を有する。

ドクター康仁の印象

非常に簡潔な内容ですが、押さえどころがきちんとしている医案です。SLEに特異的な抗Sm抗体(細胞核のRNA-蛋白質に対する抗体)が陽性、蛍光抗体法での抗核抗体が陽性であれば、その他の現症を合わせて全身性エリテマトーデス(SLE)の診断基準を満たしています。抗Sm抗体のSLEでの陽性率は30%以下ですが、SLE特異性と腎炎発症率と正の相関性があるらしいのです。

アメリカリウマチ学会:1997年全身性エリテマトーデス診断基準を記載します。
1、顔面(頬)紅斑  2、円盤状紅斑(ディスコイド疹) 3、日光過敏症
4、口腔内潰瘍(無痛性の場合が多い)
5、関節(2箇所以上)に、関節の痛みや腫れがある。
6、胸膜炎または心膜炎
7、腎障害(0.5g/日以上の持続性蛋白尿、または細胞性円柱の出現)
8、神経障害(けいれん、または精神症状)
9、血液異常
  a)溶血性貧血
  b4000/mm3 以下の白血球減少 
  c1500/mm3以下のリンパ球減少、または、
  d)10万/mm3 以下の血小板減少
10、免疫異常
  a)抗二本鎖DNA抗体陽性 
  b)抗Sm抗体陽性、または 
  c)抗リン脂質抗体陽性(①lgGまたは lgM抗カルジオリピン抗体の異常値
   ②ルーブス抗凝固因子陽性 ③梅毒血清反応生物学的擬陽性、
   のいずれか)
 11、抗核抗体陽性

経過観察中に同時あるいは経時的に11項目中いずれかの4項目以上が該当すれば、全身性エリテマトーデスと診断するというものです。

従ってSLE、ループス腎炎の診断に間違いはありません。

叶氏狼瘡方について伝統的な中薬学で性味を付記すると、

先ず全蝎(さそり)を除き、涼~微寒 寒薬となっています。

炎症の熱毒熾盛という弁証に対して、清熱涼血解毒、熱邪による瘀血内阻に対して涼血活血となり、涼~微寒 寒の性質は目的にかなうものです。犀角はワシントン条約で取引禁止になっており、代用品として水牛角が用いられています。

冲服とは、水牛角以外の薬剤は煎じ薬ですから、水牛角の粉を、煎じ薬を服用する際に、煎じ薬と一緒に粉をそのまま飲むという意味です。

白花蛇舌草30g 半枝蓮15g 紫草10g 丹参12g 全蝎2g 水牛角粉10g(冲服) 魚腥草15g 

白花蛇舌草や半枝蓮は、漢方抗癌生薬として有名です。

私の医院でもよく使用します。本稿は「漢方ガン治療」ではなく「腎病の漢方治療」ですから、腎病に絞ってお話をします。

白花蛇舌草 半枝蓮 魚腥草は清熱解毒薬に分類されます。前二者は(利湿)抗がん作用があるとされます。魚腥草は別名十薬でドクダミのことです。細かく功能を調べてみると利尿作用が共通です。

水牛角 


小児ループス腎炎 漢方 (腎病漢方治療192報)(趙紹琴臨床経験?要より)

2013-10-15 00:15:00 | ループス腎炎 漢方

1990年代の趙紹琴氏のループス腎炎の医案です。氏の略歴は1918年北京市で誕生2001年逝去。北京中医学院温病教科主任 温病学を基礎にする治療を貫いたと評価されています。

熱鬱営血 気機不暢案

患者?某 12歳 女児

初診年月日1990715

病歴

198911月感冒発熱10余日後に眼瞼浮腫、血尿、尿蛋白(4+)、尿中RBC満視野。地元病院でネフローゼ症候群として入院、ステロイド治療を20余日受けたが無効、転院先の病院の腎内科でLE細胞が確認され狼瘡性腎炎(ループス腎炎)と確定診断された。大量のステロイドとシクロフォスファミド毎日150mgの治療8ヶ月、なおも無効であった。高脂血症、肝腎機能障害を合併し、特別に超氏の治療を求めた。

初診時所見

全身浮腫、面色皓白、咽頭痛、悪心嘔吐、失眠多夢、血尿止まらず、舌質紅苔白厚膩、脈滑細数。尿蛋白(4+)、尿RBC3050/毎視野、尿潜血(3+)、総コレステロール2688mmol/L1006234056mg/dl)、BUN10.7mmol/L(64.2mg/dl)、クレアチニン312μmol/L(3.52mg/dl)GPT77U/L。超音波エコー検査で肝臓腫大、双腎瀰漫性病変。

弁証と治法

証は熱鬱営血 気機不暢に属し、清熱涼血、活血通絡を治法とする。

処方:①

荊芥炭10g 防風6g 白芷6g 蘇葉10g 丹参10g 茜草10g 茅芦根白茅根/芦根)各10g 小薊10g 焦三仙各10g 大黄1.5g。

服薬7

嘔吐は起こらず、浮腫は軽くなり、血尿は止まった。ただし睡眠は不良であった。尿蛋白(2+)、潜血(2+)、さらに前方を加減した。

処方:②

荊芥炭10g 防風6g 白芷6g 蘇葉10g 丹参10g 茜草10g 茅芦根(白茅根/芦根)各10g 小薊10g 焦三仙各10g 大黄1.5g 生地楡10g 炒槐花10g。

上方服薬20

浮腫は消失、尿検査陰転、なおも涼血化瘀法を用いる。

処方:③

荊芥炭10g 防風6g 丹参10g 茜草10g 茅芦根(白茅根/芦根)各10g 小薊10g 焦三仙各10g 大黄1.5g 生地楡10g 炒槐花10g 赤芍10g。

上方服薬30

自覚症状無し、尿検査(-) 丙氨酸氨基??GPT32U/L

BUN 236mmol/L(14.16mg/dl)、クレアチニン62μmol/L(0.7mg/dl)?