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ループス腎炎 漢方 型別治療法と使用生薬(腎病漢方治療200報)

2013-11-09 00:15:00 | ループス腎炎 漢方

前記

中医学は物質を特定して、反応を物質化、生化学化して解析し、治療に役立てようとする技術革新を長い間怠って来ました。その一方では、1964新疆ウイグル自治区ロプノール湖にて初の核実験、1967には初の水爆実験を成功させています。旧ソ連からの技術援助があったにせよ、軍事兵器での革命はなされています。伝統中医学とは好対照です。

外感にしても風 寒 暑 湿 燥 火という六淫を病因として、中医学的にその特性を定義しましたが、細菌学、ウイルス学、生化学、免疫学への進展には到りませんでした。その意味では、革新が無かった訳です。

外感と内傷の別、八綱弁証(陰陽、虚実、表裏、寒熱)、臓腑弁証、気血津液弁証、衛気営血弁証などの弁証の中で全ての事象を説明しようとして、そしてある程度の説明が可能であることに言わば満足して、長い間、近代医学への踏み出しをせずに、中医生理学ともいえる独自の病態学に留まっています。

SLEやループス腎炎に対する近代医学の洞察には、一切かかわってこなかったというのが実情です。但し、ステロイドや免疫抑制剤と併用すれば、西洋薬の副作用を抑え、効果を増し、また原病に一定の効果があることは否定できない事実です。

使用する生薬は物質ですから熱水抽出物中の物質に効果を求めるのが中医学です。懸念するのは、ゆっくりと煎じるというような古典的な方法は非効率的であるとして、現在の大多数の中国の中医病院では「加熱加圧鍋」を用い、短時間で煎じ薬を作成しています。ところが、加圧加熱で抽出した薬性物質と、古来からの煎じ方法で抽出した薬性物質の違いについての研究者はいないようです。この辺も、非科学的と私は思うのです。金にならないことは研究もしたくないのでしょうか。

エキス剤を開発した日本の漢方薬メーカーは漢方の世界に技術革新をもたらしましたが、その保険適応が硬直化しました。適応病名に関しても、首をひねりたくなるものが多いのです。中医学の弁証は病名になりませんから、病名探しに時間を費やすことになります。言い換えれば、弁証すら出来ない医師が出鱈目に漢方薬を処方しても、病名が符合していれば全て保険が通るというのも、現代日本を表しています。

さて

今回は大まかなループス腎炎の中医学的型分類と使用生薬について述べたいと思いますが、中医は主証から弁証します。決して西洋医学的な検査データから弁証は下しません。中医学は厳然として西洋医学とは別物であるという自負というよりも、西洋医学のデータと主証の関連性が見えてこないのが現状でしょう。

熱毒熾盛型

主証:発病が急であり、高熱が持続し解熱しない、両頬や手に紅斑が出現し、色は紫がかった紅であり、時に意識障害などの中枢神経症状があり、煩躁し口が渇く。関節の疼痛がある。尿は短赤で、舌質は紅?、苔は黄、脈は(洪)数、或いは弦数。

薬用水牛角(冲服)牡丹皮 赤芍 紫草 白花蛇舌草 大黄 生地 青蒿 半枝蓮 菝葜(=土茯苓 山帰来)など。

陰虚内熱型

主証:微熱が続く、紅斑の色はやや鮮やかな紅色、脱毛、口が渇き咽痛がある、五心煩熱、寝汗、腰膝酸軟、関節の筋肉の鈍痛がある、心悸をみることがある、舌質紅少苔、脈細数。

薬用女貞子 旱蓮草 生地 何首烏 鼈甲 沙参 麦門冬 山薬 丹参 茯苓 益母草 地骨皮 知母 黄柏など。

気血両虚型

主証:面色が蒼白、疲れやすい、自汗(動くと汗が出やすい)、動悸や息切れがある、眩暈や耳鳴りがする場合もある、女性の場合、生理の量が少なく、閉経する場合もある。舌は淡く苔は薄い、脈は細で無力である。

薬用人参 白朮 茯苓 山茱萸 何首烏 女貞子 当帰 赤芍 丹参 益母草など

脾腎陽虚型

主証:顔面や四肢に浮腫がある、寒がりで手足が冷たい、疲れやすい、腰膝酸軟、顔色がさえず(無華)、腹が張り、食欲が低下し、軟便か下痢気味であり、尿量は少なく、舌は色淡、質は胖大、苔は白、脈は沈細で弱である。

薬用桂枝 炮附子 人参 熟地黄 山茱萸 白朮 薏苡仁 赤小豆 澤瀉 車前子(包煎)丹参 益母草 葫芦 檳榔など。

以上は大雑把な型分類であり、移行型も当然存在します。陰虚にして湿熱、気陰両虚などの類です。また、気滞血瘀などの型もあることはあるでしょうが、主な型分類は以上のようになるでしょう。日本でも入手可能な薬剤のみ記載しました。

勿論、ループス腎炎が進行し腎不全ともなれば、「関格(かんかく)」などの弁証分野に入ってきます。

付記すると、蛋白尿が多い場合には黄耆を加えるのが一般化しています。

だらだらと僅かな蛋白尿が続く場合には、芡実金桜子などを加えます。

血尿に関しては使用生薬(白茅根 地楡 小薊など)を省きました。

荊芥 防風などの祛風湿剤や、特に虫類(全蝎 蜈蚣 地竜など)祛風通絡剤についても省いてあります。

後記

パソコンを眺め、打ち込むのに忙殺され、患者を診ない西洋医が多い病院、日本、

片や、

先ずは、全てを伝統論で解析し、患者は診るが、データには疎く、中医学(思想)に染まった中医世界、中国

ピンキリのキリの両極端の例として挙げましたが、どちらもいただけませんね。

「日本の医者は弁証できないじゃないの」と中医に馬鹿にされ、

一方

「中医は何も西洋医学を知らないじゃないの」と西洋医に揶揄されて、延々と折合いがつかない状況が続くのでしょうか。

虚すれば補い、実すれば瀉し、滞れば通し、寒熱平衡、陰陽平衡に導くのが中医学であると私は思います。その意味では非常に数学的な発想じゃないのかと思います。従って、各生薬別にそのさまざまな薬効の多次元でのスコアをつけて、方剤(生薬群)のもつベクトルを導き出すか、或いは修正することはスパコンを利用して将来可能になるでしょう。私は数学者でないのですが、絶えずそのような視線で方薬を眺める習慣がついています。生薬の色分けはその第一歩なのです。

熱毒熾盛型は実熱型、陰虚内熱型は虚熱型、気血両虚型は気血の虚証、脾腎陽虚型は陽虚と簡便化してみましょう、順に涼寒薬、養陰退虚熱、気血双補、補腎助陽(温腎暖脾)の生薬群の変化を眺めると、ブルーからオレンジあるいはレッドの生薬が増えてくるようになるのが一目瞭然でしょう。

勿論臓腑弁証は熟知していることが前提ですが、中医治療の原則は以上のようなものであり、病因となると、中医学独自のものと西洋医学独自なものに分かれるのです。弁証論では上記のような型分類になりますが、西洋医学的弁病論がしっかりと組み合わされて、初めて中医(漢方)腎臓病学が発展していくでしょう。

2013118日(金) 記

「東京だよお母っん」などなど 島倉千代子氏 に 哀悼


ループス腎炎 漢方 ?仁和氏医案(中医雑誌2000年第4期より)(腎病漢方治療199報)気血瘀滞案

2013-11-07 00:15:00 | ループス腎炎 漢方

?仁和氏の腎病医案は既に、以下の3案をご紹介しています。お時間があれば、御一見下さい。氏の弁証法の理解につながりますので。

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20130724

多発性嚢胞腎の漢方治療 医案4 腎病漢方治療180

?仁和氏医案 (遼寧中医雑誌 1996年 第9期より)

糖尿病性腎症の漢方治療 医案8(1992年) 腎病漢方治療 176

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20130719

糖尿病性腎症の漢方治療 医案7(1994年) 腎病漢方治療 175

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20130718

ループス腎炎 気血瘀滞案

患者:劉某 53歳 女性

初診年月日1986613日初診

病歴

1981年にループス腎炎で某病院に入院、ステロイド治療で浮腫は消失。但し、尿蛋白は始終陽性。

初診時所見

尿蛋白(+)、尿潜血(3+)、脇痛、腰痛、畏熱汗出(熱がりで汗がでる)、血沈80mm/h、舌質暗、苔がかまどの灰のよう(補記:グレーで汚れているという感じであり、乾燥しているという感じではありません)、脈弦細数。

弁証と治法

弁証は風邪留恋、気血鬱滞、疏肝解鬱、活血祛風を治則とする。

薬用

柴胡10g 白芍15g 当帰15g 牡丹皮10g 生地15g 紫草10g 山梔子10g 黄芩6g 地竜10g 川芎10g 太子参15g

721日再診

尿検査陰性、血沈20mm/h、但し患者は疲乏があると訴え、舌体胖大、脈沈細にして弦。

弁証と治法

弁証は気血不調、湿邪留滞、補気養血、清利湿邪を治則とする。

薬用

生黄耆15g 当帰10g 芡実10g 金桜子10g 地楡20g 石葦30g 木通10g 土茯苓20g

87日再診

患者病状平穏、近日、口内糜爛が出現、舌尖に紅点あり、脈沈細。

弁証と治法

弁証は陰虚火旺、滋陰清熱を治法とする。

薬用

玄参15g 生地15g 麦門冬10g 何首烏10g 牛膝10g 生甘草10g

19861113日再診

患者は脇が張り、双腎区が張満し不快であると訴える。大便偏干、尿蛋白(+)。

肝機能検査で膠質反応(TTTZTT)が3+、舌紅、苔薄膩色黄、脈弦細。

弁証と治法

気陰所傷、熱毒内蘊、気血鬱滞、治法は解鬱調肝、補益兼清化

薬用

柴胡10g 鬱金10g 丹参15g 黄芩10g 山梔子10g 猪苓20g 枳殻6g

当帰10g 太子参10g 紫草10g 蝉衣10g


ループス腎炎 漢方 管??氏医案(?西中医2000年第4期より)(腎病漢方治療198報)陰虚湿熱挟瘀案

2013-11-05 00:15:00 | ループス腎炎 漢方

??氏は武漢市第一病院中医科の医師です。武漢市は湖北省の省都であり、湖北省より西北の?西省の省都が唐時代の長安、現在の西安市です。

患者?某 23歳 女性

病歴

6ヶ月前、明らかな誘因なく顔面に紅斑、関節酸痛、微熱、下肢の浮腫が出現。某病院で検査の結果、LE細胞陽性、抗核抗体1640、尿蛋白(2+)尿赤血球(3+)、補体C3が著明に低下、系統性紅斑性狼瘡(SLE)、狼瘡性腎炎(ループス腎炎)と確定診断を受け、ステロイド治療後に微熱は消失、関節痛は寛解、抗核抗体1:320、尿蛋白(2+)、尿赤血球(2+)、顔面の紅斑はまだ残存して観察できる、尿赤、硬便、双下肢軽度浮腫あり、口渇があるが水を飲みたがらない、舌暗紅、苔黄膩、脈細数。

管氏弁証と治則

証は陰虚湿熱挟瘀、滋陰瀉火、利湿活血を治法とする。

処方

生地20g 知母 山薬 山茱萸12g 牡丹皮 女貞子 旱蓮草15g 茯苓 澤瀉 玄参 黄柏10g 白茅根 益母草30g 丹参18g 水煎服用。

食事に新鮮山薬250gを加え、煮て粥にして食べる食療を併用した。

経過

2週後、顔面紅斑は消退、四肢浮腫は消失、余症も著明に寛解した。上方加減継続服用2ヶ月、食療5剤後、臨床症状は基本的に寛解、ANA全部陰性、補体C3正常、病情は基本的にコントロールされた。平時、朝に香砂六君子丸、夕に六味地黄丸を服用するように言い、治療効果を固めた。現在まで再発を見ない。

評析

ループス腎炎を併発するSLEは、中医はその発病部位と病理特徴から、“鬼瞼瘡”“日晒瘡”“陰陽毒”と称する。古くは金匱要略中の“面赤斑斑点如錦紋、咽喉痛”の描述があり“升麻鼈甲湯”を治方とするとある。

本案は面部紅斑隠現、尿赤便結、下肢浮腫、口渇不欲飲、舌暗紅、苔黄膩、脈細数を主症とするを以って、陰虚湿熱挟瘀と弁証し、知柏地黄湯にて滋陰清熱、二至丸を加え、玄参にて滋陰清熱清毒化斑の力を増強し、益母草 白茅根 丹参を活血祛瘀利水の目的で配伍する。諸薬の配伍は相宜しく“陰虚湿熱”の本質を把握しており、真陰は補を得、湿熱は清を得、濁邪は下泄する。同時に、さらに山薬の食療は、健脾、滋陰補血の効果を併せ持つ。治療2ヶ月、終に病は治まった。管氏の弁病弁証が当を得ていると見るべきである。本病の論治では、急性期は正盛邪実で多くは清熱解毒を主とし、寛解期は正虚邪恋であり、常に滋陰清熱、培補脾腎を主とする。これは常規常法といえども、臨床にあたっては各患者の症状にあわせ臨機応変に対応すべきである。

ドクター康仁の印象

例によってステロイドの投与量と初診年月日、初診時のステロイドの量と寛解後の維持量などは記載が有りません。ステロイドがお嫌いなら、最初から中薬で治療すればいいでしょうにと言いたくなります。

処方内容は「学院派」のそれで、奇をてらった生薬の配合は無く、初学者でも理解しうる配伍になっています。

症例報告(医案)を特定するのに、最低限必要なのは、初診年月日と患者の姓名ですが、前者が記載漏れですと、「一体、いつのどの症例なのか?」とクレームがついて欧米のケースレポートでは掲載許可が下りませんが、2000年度の中医雑誌では「お構いなし」なのですから例によっての驚きでした。

それにしても、張仲景時代(日本では卑弥呼の時代)の金匱要略の記載を引き合いに出してくるとは、また驚きでした。古典にも造詣が深いと強調したかったわけでしょう。

さて、

陰虚湿熱挟瘀の弁証の陰虚の根拠を申せば、主症である面部紅斑隠現、尿赤便結、下肢浮腫、口渇不欲飲、舌暗紅、苔黄膩、脈細数の中の「便結 脈細数」ですが、ステロイド治療の副作用としての陰虚火旺が弁病論として存在します。

口渇不欲飲の口渇の部分は陰虚とも捉えられますが、通常の陰虚であれば口渇欲飲、少苔あるいは無苔となるところが、口渇不欲飲は苔黄膩も合わせて湿熱と中医は捉えるのです。

蛇足ながら。

知柏地黄丸については過去の記事をご参照ください。

六味地黄丸派生学 まとめ

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20121018

二至丸(女貞子 旱蓮草)については過去の記事を御一見下さい。

非で似たるもの 似て非なるもの

http://kojindou.no-blog.jp/happykanpo/cat12287040/

玄参の臨床のURLを付記しておきます。

ドクター康仁「玄参の臨床」

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20080822

201311月4日(月) 記


ループス腎炎 漢方 陳湘君氏医案(遼寧中医雑誌1995年第5期より)(腎病漢方治療197報)肝腎陰虚

2013-11-02 00:15:00 | ループス腎炎 漢方

前案に引き続き、陳湘君氏医案をご紹介します。

患者:王某 22歳 女性

初診年月日1985419

病歴

3年前に顔面に蝶形紅斑、関節酸痛、血沈促進、抗核因子陽性、尿蛋白(2+)により、他の病院で系統性紅斑性狼瘡(SLE)、狼瘡性腎炎(ループス腎炎)と確定診断された。プレドニゾン40mg/dの投与にて、関節の酸痛はやや好転したが、尿蛋白が始終持続し(2+)、氏を受診した。

初診時所見

顔面の蝶形紅斑は色が鮮やかで灼熱感がある。眩暈耳鳴り、夜間寝汗、午後微熱、二便正常、苔薄、舌尖に紅刺有り、脈やや細数。

弁証と治法

証は肝腎陰虚、内生熱毒に属し、肌膚に発して紅斑となる。陰虚内熱で津液が外に押し出され、故に潮熱、寝汗となる。肝腎精血が上に昇らないために眩暈耳鳴りとなる。滋陰清熱を治法とする。

薬用

生黄耆15g 山茱萸9g 黄芩10g 生地2g 草河車30g 青蒿12g 知母 黄柏9g 茯苓淮小麦(安徽省産の浮小麦)各30g 五味子6g 赤芍子12g 柏子仁(打)10g 仙霊脾15g 帯心連翹9

経過

上記方剤の随症加減で尿蛋白消失、1年後プレドニゾンは40mg/dから漸減して5mg/dとなった。患者の病状は穏定し、1990年正常分娩で男児を出産した。産後の検査で、免疫学的な指標はすべて正常であった。

評析

盗汗(寝汗)、午後微熱、顔面蝶形紅斑、眩暈耳鳴り、舌尖の紅刺、脈細数など、皆狼瘡性腎炎肝腎陰虚の象であり、“陰虚になれば内熱を生む”、本案は滋陰清熱治療を採用し、生黄耆 山茱萸 生地 淮小麦 五味子 仙霊脾、柏子仁の諸味は滋陰補腎、固摂精微に働き、黄芩 草河車 青蒿 知母 黄柏 赤芍 帯心連翹は清熱涼血化瘀に働き、陰精を充実させ邪熱を自ら退かせる。陳氏は始終中医の弁証論治を原則として治療を施し、同時に臨床症状の変化に結合させる。但し、凡そ脾腎虚損の者に健脾益腎の法を用いる場合、若し眼瞼に浮腫があり眼裂が閉じんばかりで、腹が張り、四肢に浮腫があり、按じて泥の如きであり、胸悶気喘など脾腎陽虚、水湿停滞者には、常に益気温陽、利水消腫の剤が効果を獲得する。その治療の変化は実に同病異治、異曲同工(異なる方法でも同じ効果が得られるの意)の妙である。

ドクター康仁の印象

草河車(そうかしゃ)(蚤休、七葉一枝花、重楼、草河車)功能:清熱解毒、消腫止痛、熄風定驚)

については、過去の記事を参考にしてください。今回氏の医案では始めて目にします。

http://kojindou.no-blog.jp/happykanpo/cat7185300/

但し、中国では草河車といえば拳参を指し、紛らわしいのが事実です。白花蛇舌草などと共に漢方抗癌生薬に入ります。中国の草河車は日本の拳参を指し、草河車は陳湘君氏が愛用する清熱解毒活血剤ということでしょう。

以前の「卵巣癌の漢方治療」をご覧下さい。

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20061115

上海中医薬科大学の上海龍華病院の医案が遠く離れた東北の遼寧省の中医雑誌に掲載されるのはやや奇妙ですが、日本で言えば、東京、大阪、京都などの一流所の論文を、地方医師会雑誌に投稿するようなものであり、学術的なクオリティの問題があるのでしょうね。一方掲載した雑誌はステイタスを上げるということになります。粗製乱造とまでは言いませんが、論文の数と知名度が昇進の鍵になるのでしょうね。

2013111日(金) 記


ループス腎炎 漢方 陳湘君氏医案(遼寧中医雑誌1995年第5期より)(腎病漢方治療196報)肝腎欠虚

2013-10-30 00:15:00 | ループス腎炎 漢方

陳湘君女史は上海龍華病院の膠原病専門中医です。小生のすずき康仁クリニックの趙中医師の先生格となります。

患者某、25歳 女性

初診年月日199158

病歴

微熱、頭痛、乏力、脱毛、顔面紅斑、両手のレイノー現象、蛋白尿3ヶ月。他の病院での心電図検査で心筋障害。眼底検査で網膜病変を認める。抗核抗体1640(均質型)、抗二重鎖DNA抗体77μg、C3 0.60/L、IgG18.3、IgM3.61、直ちにプレドニゾン4060mgを服用、病情終始寛解を見ず、氏を受診した。

初診時所見

尿蛋白(2+)、関節酸痛は顕著ではない、乏力を自覚する、気短、頭痛、満月様顔貌、眼瞼浮腫、両頬に紅斑がまだ観察できる、食欲不良、大便11回、苔薄、脈細。

中医弁証と治法

証は脾腎欠虚(両虚)、精微不能固摂に属する。益気健脾、補腎固摂を治則とする。

薬用

生黄耆30g 白朮10g 薏苡仁20g 芡実15g 煅牡蠣 煅竜骨30g 金桜子20g 丹参 益母草 白芍 桑螵蛸30g 鶏内金 山楂 谷芽 麦芽15g 

経過

上方加味治療10ヶ月後、プレドニゾンは漸減して5mgを維持量とした。血圧は穏定30/12kPa(225/90mmHg)前後、下肢の浮腫は消失、精神的に活発になり、気短は感じなくなり、ただ体動時に汗出を感じ、眩暈や物がはっきり見えないことがあり、舌質偏紅苔薄、脈細。気陰両虚の象にて、益気養陰の方に改める。

薬用

生黄耆30g 白朮10g 炒防風9g 生地20g 白芍 淮小麦(安徽省産の浮小麦30g 枸杞子12g 何首烏30g 知母 黄柏12g 炙甘草10g 木賊草15g 虎杖30g 牛膝15g。

経過

患者は19942月に妊娠し、すぐに流産したが、病情は始終穏定。プレドニゾンは停止、現在に至るまで再発無し、既に1日仕事に就労し1年余。

評析

本案の病機は脾腎両虚、水湿不能運化伝輸、精微不能固摂化生である。治療は補益脾腎を法とし、故に、黄耆 白朮 薏苡仁、鶏内金、山楂、谷芽を益気健脾に、芡実 竜骨 牡蠣 金桜子 桑螵蛸を収斂固摂に、丹参 益母草を活血利水の目的に使用し、続いて益気の黄耆 白朮 枸杞子 何首烏などで善後調理した。―中略―ステロイドを漸減停止し病情は平穏、症状も軽快した。