中医学に限らず、日本の漢方医学で用いられる方剤の特徴は、効能にしても、効果にしても定量化できないという難点があります。それぞれの学問の体系が、西洋医学とは異なる独自の言語体系で構成されていることに加え、時には30種類にもなる生薬の配伍は、実際に、投与群と非投与群のプロスペクティブな対照実験を行うにも、どれだけのコントロール群(対照群)を置くべきかと考えれば、配伍量の変化も加えれば、天文学的組み合わせになるのです。
そこで、宿命的になるのですが、過去の先達の症例報告と、個々の生薬の薬理作用を言語体系の中で照らし合わせて、言わば、臨床医の「悟り」に近い経験から試行(錯誤)を繰り返して満足のいく臨床効果を「手繰り寄せる」しかないのが現実なのです。
やや、下世話な話になりますが、開業医にとって、効果が表れなければ、患者さんは、再診しなくなります。とは言え、改善傾向を無理なく自然に醸し出すということは、実際には難しいことです。
本稿では、伝統的な言語体系を用いながら、早期のアトピー性皮膚炎をどのように治療していくかを紹介したいと思います。
患者さんは30代前半の女性です。1年ほど前から、顔面、首、胸部、背中、前腕部分に痒みが出現しました。既往歴としてアレルギー性鼻炎、鶏肉、豚肉、牛肉(ハム、ベーコン)等で皮膚アレルギー症状が出現し、患者さんも、なるべく肉食を避け、皮膚科で処方されたアズノール軟膏、プロトピック軟膏、ステロイド剤の外用で対処してきましたが、皮膚の改善が「いまいち」であることから当院を受診されました。
時系列で各皮膚病変を比較します。
私が、ある程度「悟った」アトピー性皮膚炎の治療原則は、皮膚の赤味に対しては、燥に偏らない清熱解毒、養陰清熱です。痒みに対しては祛風止痒、勿論「治風先治血 血行風邪減」の基礎理論があります。皮膚の乾燥には養陰清熱潤膚です。白花蛇舌草(清熱解毒利湿 静菌 免疫調整)等による免疫操作も必要な場合があります。
初診(平成25年5月14日)と第20再診(平成26年7月17日)、第22再診(直近平成26年10月4日)所見を比較してみましょう。
皮膚の湿疹は消失し、かつ、皮膚は潤であります。
強いステロイド軟膏で痒みや赤みを抑えるのは比較的簡単なことですが、必ず再発し、皮膚は乾燥し苔癬化局面に陥ることは多いのです。
直近の頸部、顔面の皮膚は色素沈着も無く、潤いに満ちています。
同じ時系列で肘部の所見を比較してみましょう。
明らかな湿疹と赤みがあります。
赤みが消失し、痒みも消失、軽度の色素沈着を残すのみとなりました。
色素沈着も消えて、正常な皮膚になり、再発は有りません。
後頚部の皮膚所見も同じ時系列で比較してみましょう。
赤みを伴う湿疹は消失し正常な皮膚となりました。アトピーの再発は有りません。
背部所見も同じ時系列で比較してみましょう。
色素沈着を伴う痒みの強い病変は完全に消失しています。再発は有りません。
いつの時点で、アトピー免疫系のスイッチが、オンになったのかは不明ですが、30代からもアトピーの発症があるものと認識しています。アトピー免疫系のスイッチオンと簡単に記載しましたが、抑制系が失調したのかもしれませんし、今後は、その分野での基礎研究の発展が望まれますね。30代発症1年程度の早期のアトピー性皮膚炎は、適切な漢方治療により、ほぼ完治に導くことが出来るのではないか?という印象を強くしています。温熱性の香辛料の禁食は勿論のことです。
ドクター康仁
2014年10月11日(土)