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衛気営血弁証 温病学総論 営分(えいぶん)証 病理 症候と診断の要点

2014-08-30 00:15:00 | 温病

前稿の気分証(1)(2)に引き続き営分証をご紹介します。営分証と血分証は同質ですので、営血弁証として纏めてもいいのですが、長くなりますので、先ずは営分証からお話します。

 

営分証(えいぶんしょう)の病理は熱灼営陰と心神被?(ひじょう)です。

弁証要点:身熱夜甚 心煩譫語 紅絳舌  出血傾向出現 斑疹

三焦弁証との比較:

上焦肺の軽症病変は営分証に入る。

心は邪入心包であるから営血分証に入る。(脳は五臓に含まれていません。

意識障害は心包が蒙蔽されることによって生じると中医は考えました。)

下焦 肝腎病の重症は営血分証に属する。

温病では肝腎陰虚になると痙攣、手足の震えなどがでる。意識障害も出現する。

治則 清営泄熱 清肝熄風など

薬剤

清営涼血犀角、現代では水牛角(清熱涼血解毒)生地黄

透熱転気金銀花連翹竹葉

 

清営湯(せいえいとう) 効能:清営泄熱 出典:温病条弁

透熱転気の代表方剤である清営湯から論じ始める方が理解しやすいと思います。

玄参(清熱解毒養陰)が使用され始めたのが清代の温病学の衛気営血弁証の中です。営(血)分の熱邪を衛分に「差し戻す」という考えを持ちました。これを「透熱転気(とうねつてんき)」と称します。 玄参を理解する上で、透熱転気の代表方剤である清営湯を省略できません。

治療対象:熱邪が営分に入り、傷陰(現代の医学用語では脱水に近い概念)の状態。症状は、発熱(特に夜間)心煩少寝、譫語(うわごと)全身性の斑疹 紅絳舌干(少苔あるいは無苔)脈細数で、効能は清営泄熱(清営透熱)滋陰活血です。組成は、水牛角 生地 玄参 麦門冬 金銀花 連翹 黄連 丹参 竹葉芯と全配合薬が涼寒薬になっています。構成を一覧にすると以下のようになります。

 

水牛角30g以上 生地黄

 
 

(清営涼血、解毒、止血消斑)    君薬

 
 

玄参 麦門冬

 
 

(生地と共に清熱涼血、養陰生津)  臣薬

 

以上で清熱解毒養陰生津

 
 

双花(=金銀花) 連翹

 

黄連 竹葉芯

 
 

清熱解毒 佐薬

 

金銀花 連翹 竹葉は透熱転気

 
 

丹参

 
 

涼血祛瘀

 
 

丹参の意味

 

熱が原因の血流停滞による瘀血を除く

 

君薬臣薬佐薬ともに寒性であるから寒凝による瘀血を防止

 

水牛角は本来、犀角(さいかく)でしたが、高価であり、現在ではワシントン条約で取引禁止です。涼血(血熱をさげる意味)止血(血熱妄行のによる出血を止める意味)瀉火(強力な解熱作用)、安神(精神安定作用)に優れる。安神目的では1-3gをそのまま粉末で冲服します。熱病で意識不明の時などは6gの極量を用います。

水牛角であれば15-30gを他の煎じ薬に先んじて煎じます(先煎)。水牛角には安神作用はありません。

清営湯中の玄参 生地黄 麦門冬の組み合わせは増液湯(ぞうえきとう)の組み合わせです。

現代風に言えば、熱性疾患で脱水して口渇するものを治す生津止渇作用を持ちます。増液湯に大黄と芒硝を加えたものが増液承気湯(前述)であり、温熱病による脱水が原因の腸燥便秘の方剤です。増液湯、増液承気湯ともに、温病条件(清代)に記載された方剤であり、その発想の起源は、日本では卑弥呼の時代、約1000年前の後漢時代の傷寒論の六経弁証での陽明(温)病不大便証です。

玄参と他の清熱涼血薬との比較

生地黄は養陰剤としての側面が強く、清裏熱作用は玄参より弱い。

一方、玄参は生地黄に比較して養陰作用は弱い。

牡丹皮は活血祛瘀作用に優れ、瘀血性の疼痛に効果的である。

赤芍は牡丹皮より清熱涼血作用は弱く、活血作用もやや劣る印象がある。

紫草は清熱涼血作用とともに、解毒透疹作用があるが、養陰作用は疑問である。

実際に中国に行って観察すると、

中国では清熱涼血薬の組み合わせで玄参と紫草の組み合わせを多く見ました。

玄参が配合される方剤は清代の温病学以降であり、当時は日本とは絶交状態なので、当然、玄参を使いこなせる日本の漢方医は少ないのです。

 

ところで、

デング熱 70年ぶりに日本の国内での感染が確認されました。実は、海外で感染し、日本に帰国後、発症する人が年間200人ほど報告されており、去年はこれまでで最も多い249人の患者が確認されているのです。その後、東京でさらに二人の感染が確認されたところです。デング熱はが媒介するウイルス感染症で、発症すると発熱や激しい頭痛などを引き起こし、症状が重くなるとまれに死亡することもあるのです。アジアや中南米、アフリカなどの熱帯や亜熱帯の地域で広範囲に流行し毎年、世界中でおよそ1億人が発症しているとみられています。中医学では温病になります。

ここで改めて感じることは、衛気営血弁証では、病原体の特定は全くなされていないことです。感染経路についても同様です。つまり、明、清代での温病の観察に基づく病型分類が衛気営血弁証であり、病原(体)論としては、明らかに近代西洋医学に劣ると言えます。日本が明治維新以降に脱亜入欧を目指した医学体系になり、公衆衛生学、検疫などが進んでいったのは至極、自然な流れだったとも言えます。従って日本漢方には温病学が欠ける結果となりましたが、これも歴史の必然性だったのではないかとも感じるのです。

 

さらに、

マダニ咬傷によるウイルス性重症熱性血小板減少症候群 (SFTS) が、近年日本でも危険視されてきました。これも、中国では、歴史的には温病の病型の一つでしたが、近年ウイルスが中国、日本で同定された経緯があります。SFTS一つをとっても、温病学の方剤のみで治療しきれるものではないと実感するのは小生だけではないでしょう。

 

勿論、

特に清熱解毒薬に分類されている生薬の抗ウイルス作用については、世界中の先進国で、分析が進んでいる、あるいは解析が完了している可能性すらあるのです。

 

―血分証に続くー

ドクター康仁

2014830日(土)

 


衛気営血弁証 温病学総論 気分証(2) 病理 症候と診断の要点

2014-08-28 00:15:00 | 温病

 

前稿の補講として、白虎湯加減方剤として竹葉石膏湯(ちくようせっこうとう)(傷寒論)をご紹介します。組成は白虎湯(石膏 知母 粳米 生甘草)から知母を除き、竹葉(清心除煩 清熱利尿)に代え、補気の人参、補陰の麦門冬(養陰潤肺 益胃生津 清心除煩)、降逆止嘔の半夏(辛散温 化痰燥湿散結止嘔)を加え、清補の方剤に変えたものです。方剤学では、「大寒之剤易為清補之方」と呼称されます。気分熱が去るも、余邪があり、邪少虚多の時期の微熱などに用いられる方剤です。虚とは気虚と津虚を指すのです。

 

それでは、

前稿に引き続き「気分証」の補講にはいります。気分証で「湿を挟む」場合の弁証です。

私流の便宜的分類で「湿熱鬱阻(うつそ)気分」証について述べます。

葉天士は「湿熱論」で湿熱留恋気分(しつねつるれんきぶん)を提唱し、湿熱が気分に停留し、外解もされず営血に入らない病態であるとし、身熱不揚 腹満 胸苦しさ 悪心 納呆(食欲低下)頭重 四肢の重だるさ 小便不利など湿熱鬱阻(うつそ)気分の証をあげています。

呉鞠通は「温病条弁」で、湿熱瀰漫三焦(しつねつびまんさんしょう)の用語を提唱し、湿熱の邪気が中焦から上下焦に波及し、発熱に加え、上焦の証としての口渇 胸苦しさ、中焦の証としての胃部不快 納呆、下焦の証としての小便不利が現れ、病状が悪化した場合には意識混濁が現れる一連の証をあげました。

湿熱邪留(じゃりゅう)三焦という中医用語もあります。瀰漫(びまん)は現代西洋医学的表現のdiffuseに近い印象です、鬱阻(うつそ)とは現代中医学の状態と病機(メカニズム)を表す用語です。

私は留恋(るれん)とか瀰漫(びまん)あるいは鬱阻(うつそ)用語の使い方にこだわらないことにしています。

ここで、温熱経緯の甘露消毒丹をご紹介します。

甘露消毒丹(かんろしょうどくたん 1852 温熱経緯 王孟英 清代)

組成:滑石(清熱利水通淋)茵陳蒿(清熱利湿 退黄)黄芩(苦降寒 清熱解毒利湿 泄熱除痞)石菖蒲(開竅寧心、化湿和胃 芳香除湿、利水降濁)貝母(化痰止咳、清熱潤肺)木通(苦/寒 泄熱利水通淋)はウコギ科の通草(甘淡微寒)を代用品として使用しています。藿香(発表解暑、化湿止嘔、行気止痛)射干(清熱解毒、袪痰利咽)連翹(清熱解毒、清癰散結)薄荷(疏散風熱、清利頭目利咽)白豆蔲(行気温中、化湿消痞、温胃止嘔、開胃消食)

滑石は清熱利湿、茵陳は清熱利湿と退黄に、黄芩は清熱解毒燥湿に作用します。 

以上の3薬が量から判断しても君薬です。現代では木通は腎障害の副作用のために清代の方剤でも通草に変えて記載してあります。清熱利湿に作用します。射干と連翹は清熱解毒 透熱に作用します。貝母と射干は共に、清熱祛痰 清咽散結に作用します。藿香(発表解暑、化湿止嘔、行気止痛)、薄荷(疏散風熱、清利頭目利咽)、石菖蒲(開竅寧心、化湿和胃 芳香除湿、利水降濁)は芳香性で化濁に作用し、宣肺透熱、行気醒脾に働きます。

 

さて 

王孟英は湿熱が気分に鬱阻すると、以下のような証が出現するとしました。すなわち、身熱 全身の重だるさ、胸や腹の張り、頭重感、喉の腫れや痛み、口渇、悪心、嘔吐、下痢、舌苔は通常白膩あるいは厚膩。尿量減少。脈は濡数、まれに重症型で黄疸や皮下出血が見られ、営分証に移行するものがあります。

 

現代中医学では、 

甘露消毒丹は、ウイルスや細菌感染症などの「湿熱邪留三焦」に対する方剤の位置づけがあります。元来は、夏の高温高湿度の時期に伝染病を感受して湿熱の邪が中焦を主体に三焦に邪留している状態に対する方剤として、伝統中医学では「湿温時疫の主方」と呼ばれました。現代方剤学では、清熱祛湿剤に属し、主治は湿温時疫 湿熱鬱阻気分証で湿熱倶重の状態に対する方剤とされます。湿熱倶重とは湿と熱が同等であるという意味で、後述しますが、中医学では、湿熱倶重(あるいは湿熱倶盛とも言います)、湿重熱軽、湿軽熱重などのように、湿熱証を湿証と熱証の軽重に分けて考えます

 

ここで、湿を外湿と内湿の2つに分けて簡記します。西洋医学では「内湿の概念が無い」のですから、観念的になることをご容赦ください西洋医である私にとって「湿」は定義付けられる確固としたものではなく、よりイメージに近いものです。  

外湿は六淫{風、寒、暑、湿、燥、火(熱)}の一つであり、多くは多湿の気候下での生活、水に浸かっての労働、雨にうたれることなどの外の湿邪が体内へ侵入することにより生じたものを指します。感覚的に比較的容易に理解できます。

内湿は人体の病理産物であると同時に他病の誘引ともなります。内湿の多くは、脾の運化の失調や水湿の停滞によって生まれるのです。内湿と外湿とは疾病の過程で影響しあっています。多くは外湿により発病し、脾胃が犯されて、脾の運化が失調するために、内湿が生まれます。さらに脾の運化が失調すれば、又容易に外邪の侵入を許すことになります。内湿の成因は、まず飲食の不摂生です。生物(なまもの)・冷たい物・酒・油っこい物・甘い物を食べ過ぎ、異常な過食、逆の極度な拒食をすると、脾胃が損傷され、運化の働きが悪くなり、津液の運化、運搬ができなくなり、内部に湿が生じ、下痢あるいは浮腫となり、或いは飲邪となるのです。これは「素問・至真要大論」で「諸々の湿するは、皆脾に属す」という病機論に基づいています。  

 

人体に侵入した湿邪は、人間の臓腑機能の違い、体質や治療によって変化します。脾陽虚の人は寒に転化しやすく、胃熱の盛んな人は熱に転化しやすいと中医学は説いています。治療で寒涼の薬を用いすぎると、寒に転化しやすく、温燥の薬を闇雲に加えれば、熱に転化しやすいのです。寒と化した寒湿は脾陽を傷つけやすく、湿が熱と化すと胃陰を傷つけやすいのです。これを、湿邪寒化湿邪熱化といいます。湿は陰邪であり、性質は粘っこく停滞しやすいので、湿が勝てば陽を弱くすることは必然です。湿邪寒化は湿邪成病の主な発展傾向です。臨床上では、寒化は熱化より多いのです。

 

「湿熱鬱阻気分」とか「湿熱が中焦脾胃に鬱阻する状態」云々といっても、まず脾胃の臓腑弁証を知っていることが前提です。そこで、少し、遠回りかもしれませんが、本稿では脾の中医基礎理論の概要を説明します。脾は西洋医学でのSpleen(脾)と一致するものではないことは中医学の独自なところです。

 

脾胃病の病因病機 

脾と胃とは互いに表裏関係にあり、脾は運化を主(つかさど)り、又、統血を主ります。胃は受納と水殻の腐熟を主ります。脾は昇を主り、胃は降を主るのです。脾胃はともに助け合い、共同して水殻の消化、吸収、輸送を行うので、気血生化の源であり、後天の本であるといわれます。このため、もし脾胃の昇降機能が失調すれば、水殻の受納、腐熟、輸送等に障害が発生し、嘔吐、しゃっくり、下痢、腹部膨満感等の症証が起こると中医学は説きます。脾の運化が失調すると、源が衰えるために、臓腑経絡や四肢等、全身のいたるところで滋養ができなくなります。脾気が弱り、摂血ができず、血が帰経できなくなると、血証が生じます。但し、この血証は温病学の血分証とは異なります。脾の運化が失調し、津液の輸布ができないと水湿が停滞し、飲や水腫ができます。

脾胃に病があればその他の臓腑に影響が及び、その他の臓腑に病があれば脾胃にも影響が及びます。その中でもとりわけ肝腎との関係は密接です。脾の後天の本、腎の先天の本はお互いに滋養し合い、相互に作用しあっています。脾虚になり、生化の源が衰えると、五臓の精が少なくなり、腎の蔵する精気が失われます。腎虚により、陽気衰弱になれば脾が温煦作用を失い、運化が失調されます。脾の昇清によって肝気も上昇し、胃の下降によって胆汁は流れ、肝が脾の運化の機能を助けることを古典的には肝木疏土(かんもくそど)(正常な生理状態です)といいます。また、脾土は木を営み、疎泄に用いられるともいえます。肝鬱気滞により脾胃に影響し、脾胃の健運ができなくなると、肝気が脾虚に乗じて脾を犯しやすくなります。木乗土(もくじょうど)といいます(病的な状態の一つです)。故に情緒変動により胃痛が起こり、腹痛等もしばしば発生するのです。虚実寒熱の観点から眺めると、例えば脾陽虚衰は中気不足の虚証に属し、寒湿困脾(後述)や湿熱内薀は実証に属します。脾虚で運化できなければ、即ち水湿が停滞するために、脾病の多くは湿と関係があります。本虚標実の証候も出てきます。脾虚は他の臓にも影響し、その他の証を兼ねることもあります。

臨床上ではよく見られるのは下痢、胃痛、しゃっくり、嘔吐、痰飲、吐血、血便などの症状です。

脾病と湿との関係を総括すれば以下のようになります。

脾病と湿との関係は密接であり、寒熱虚実の諸々の証とも関係を有し、すべて湿との兼証をもって現われます。例えば寒証では寒湿困脾、熱証では湿熱内蘊、実証であれば水湿内停、虚証であれば脾不運湿である。治療時においては病情を合わせて考え、燥湿、利湿、逐水、化湿の薬剤をもって湿を取り除いてやり、脾の運化を回復させることが肝要になります。

 

何しろ、西洋医学には「湿」の概念が無いのですから、難解な中医学用語を並べるしかありません。

 

津液(しんえき)の体内での生成輸布

津液は脾の運化作用により水穀から小腸、大腸より吸収され、脾の昇清作用により肺に運ばれ肝の疏泄作用とともに肺の主気作用、宣発粛降作用(通調水道作用)により三焦をめぐり、肺の宣発作用の一部として汗になるとともに、腎の気化作用による利尿ならびに、脾の降濁作用により腸に下がった便によってもその量が調節される。現代用語でいう原発性、続発性を問わず、脾の運化失調は正常な津液の代謝を障害させ(病理産物である)湿を生じさせる。 

 

湿の証治分類 :これは脾病の実証の分類に重なります。 

寒湿困脾(かんしつこんぴ) 

冷たい飲み物・なまもの・果実の食べ過ぎにより、寒湿が中焦に停滞することや、長時間雨に濡れたり、多湿の環境下に住んでいると寒湿が体内に侵入します。体質的に内湿が盛んな状態であると中焦の陽気の働きが阻害されて、結果、さらに寒湿が生じてきます。脘腹悶脹、不思納食(食欲不振)、悪心嘔吐、口淡不渇、腹痛下痢、頭重身重或いは浮腫、苔白膩、脈濡緩などの症状が現れます。温中化湿を治療原則とします。方剤を挙げれば、胃苓湯(いれいとう)や実脾飲(じっぴいん)になります。 

胃苓湯(いれいとう丹渓心法):「平胃散(へいいさん)」の胃 「五苓散(ごれいさん)」の苓より命名由来する方剤です。 平胃散(太平恵民和剤局方)蒼朮 厚朴 陳皮橘皮炙甘草 大棗 生姜 

五苓散(傷寒論):猪苓 澤瀉 白朮 茯苓 桂枝 

 

熱証が無く、(寒)湿困脾胃(しつこんひい)で下痢が顕著な場合に胃苓湯を用いると記憶しておけばいいでしょう。 

 

実脾飲(じっぴいん 済生方:厳用和 1200?~1267):附子 干姜 白朮 茯苓 木瓜 木香 厚朴 檳榔 草果 炙甘草 生姜 大棗 

 附子 干姜が君薬で、附子は温腎暖脾 干姜は温脾に作用します。

白朮 茯苓は健脾燥湿利水に働き、木瓜は芳香醒脾化湿に、厚朴 檳榔 草果は下気導滞 化湿行水に作用します。炙甘草 大棗 生姜は脾胃振奮に働きます。

現代方剤学では

温化水湿剤に分類されています。実脾飲には利水剤の配合が少ないのが特徴であり、脾運に作用し、温陽健脾、行気利水の効能を以って陽虚水腫を改善するために実脾飲と呼ばれます。水腫は内湿よりさらに病状が進んだ浮腫の状態です。

ここまでくると、寒湿困脾(かんしつこんぴ)の証は甘露消毒丹(かんろしょうどくたん)の主治である温病学での「湿熱邪留三焦」の証と明らかに違うことが理解できたと思います。前者の方剤、胃苓湯実脾飲には温薬が圧倒的に多く、甘露消毒丹


衛気営血弁証 温病学総論2 気分証(1) 病理 症候と診断の要点

2014-08-26 00:15:00 | 温病

 

前稿に引き続き、衛気営血弁証の気分証について記載します。

 

 

 

気分証(きぶんしょう) 邪入気分  熱灼津傷

 弁証要点:壮熱 或いは往来寒熱 不悪寒 口渇 黄苔 脈数有力 湿を伴うこともあります六経弁証での少陽病、陽明病に相当する裏熱の状態です。少陽病の往来寒熱も気分証に属します。三焦弁証との比較:中焦脾胃病は気分証に相当します。

 治方:清熱解毒 利尿 利湿 理気 通便

衛分証から一歩病状が進んだ状態が気分証です。本稿では、私流に、便宜的に分類していきます。

気分初期:いわゆる呼吸器症状のみで重症感が無い。

肺(胃)熱盛:やや呼吸器症状が悪化して呼吸促迫の傾向が出現してきます。

気分大熱:高熱、激しい口渇、発汗が著しく、脈が洪大の特徴を持つ。

熱結腸胃:腹部症状が加わり、腹満、腹痛、便秘、圧痛、脱水症状の傾向が見られる。

湿熱留恋三焦:発熱に起伏性があり、胸苦しさ、悪心、嘔吐、脱水傾向があり尿量も減少し、軟便や下痢があり、かつ舌苔が白あるいは黄の膩苔を示す。

湿熱蘊結腸胃:湿熱が腸胃に蘊結し、いやな臭のある下痢が生じ、舌苔が黄膩である。

以上が私流気分証の分類とでも言うべきものです。

治療手法は、熱邪に対して清熱解毒、尿量減少に対しては生津と利尿、湿を挟む場合は利湿、気滞には理気、便秘には通便となります。対症療法そのもののようですが、清熱瀉火、泄熱通便、養陰生津、利尿泄熱、健脾化湿、芳香化湿、燥湿健脾、苦寒燥湿、祛風湿などそれぞれの生薬の特徴を生かした組み合わせをするのです。代表的な方剤を列記して検討を加えます。傷寒論の六経弁証と重複するものが多数あります。

梔子鼓湯ししちとう 傷寒論)山梔子 淡豆鼓

気分初期温病条弁には「太陽病これを受けて二三日、舌微黄、寸脈盛、心煩懊悩し、起臥し安んぜず、嘔せんと欲して嘔を得ず、中焦証なきは梔子鼓湯これを主る」とあります。邪が気分に入った初期で、鬱熱の状況に用いるとあります。傷寒論では、「傷寒五六日、大いに下して後、身熱去らず、心中結痛のもの」、陽明病を下し「心中懊悩し、ただ頭汗出づるもの」、「下痢の後、さらに煩し、これを按じ心下濡のものは、虚煩となすなり、梔子鼓湯に宜し」とあり、汗吐下の祛邪を行ったのに、胸を中心に鬱熱している状態に用いるとあり、陽明病から引き続く、気分初期の状態ではない場合も記載しています。

 温病学では陽明病は気分証に入れてあるわけですから、事の前後の細部にこだわる必要はなく、気分軽症に用いると私は考えています。

山梔子は苦寒で瀉火除煩、清熱利湿、凉血解毒に作用します。生山梔子は気分熱に対して清熱瀉火に、さらに利湿効果があります。 炙山梔子(焦梔子)は血分の血熱に対して涼血止血作用があります。 

裏症の気分熱、血分熱のいずれに対しても使用されます。漢方用語になりますが、裏症の気分熱を対薬の淡豆豉と山梔子によって解表する場合を特に「裏熱透表」といいます。山梔子を服用すると、患者さんは、尿の色が変わり、尿が熱く感じると言います。山梔子は三焦の熱を尿に排泄し清熱利湿に働くということが漢方医として実感できます。

淡豆鼓(たんどうち)は香鼓(こうし)或いは、豆鼓(とうち)とも称され、黒大豆の発酵食品です。 辛 甘 微苦 涼 あるいは微寒 あるいは微温と清書に記載されていますが、それは、桑葉 青蒿と一緒に発酵させると涼寒性に、麻黄 紫蘇と一緒に発酵させると微温の性質をもつといわれるからです。衛分証に用いられる銀翹散や気分証初期の梔子鼓湯に用いられます。衛分証に用いられる場合には疏風解表の効能が求められ、梔子鼓湯では、宣鬱除煩の効能が期待されているわけです。

麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう 傷寒論):麻黄 杏仁 甘草 石膏 配合生薬でもっとも重量比で多いのが石膏です。石膏は辛寒で清肺熱に働きます。 辛温の麻黄は平喘に作用し、杏仁は苦降の性質を持ち、宣肺作用と降気化痰を特徴 とし、あわせて宣肺降気平喘といいます。煎じる際の注意点は後下(こうしゃ)です。有効成分は熱により破壊されるので、他薬を煎じた後で加えなければなりません。傷寒論では、喘家桂枝湯を作り厚朴、杏子を加えて佳なりとあり、桂枝加厚朴杏仁湯の記載があります。これは温病学では衛分証に入るものです。杏仁には潤腸通便の作用もあり、蘇子もほぼ杏仁と同様の効果を持っています。麻杏甘石湯は、石膏の量から全体として辛涼の性質を持ち、表寒裏熱或いは表邪未解の肺熱咳喘証、衛気営血弁証での肺(胃)熱盛の気分証に用いられる方剤です。感冒やインフルエンザに限って言えば、呼吸数や、咳き込みも多くなり、痰の色も黄色味を帯び、発熱が続いているものの、比較的初期の場合に使用できるわけですが、現代医学では、混合感染を防止するために抗生物質の投与と、非ステロイド系抗炎症薬を投与するような場合に相当するでしょう。

白虎湯(びゃっことう 傷寒論):石膏 知母 生甘草 粳米(こうべい 中国語でジンミー)効能は清熱除煩養陰です。石膏は清熱瀉火 知母(ちも)は苦甘寒で、清熱瀉火作用に加え、甘寒の性質から滋陰潤燥の働きがあるために、白虎湯の養陰作用の由来となる生薬です。生甘草は清熱に作用し、粳米は補胃和中に働くとともに、石膏の清熱成分を十分に煎じ液中に留めると教えられました。肺胃実熱(上焦 肺、中焦 胃)の気分実熱に効果がありますが、滋陰潤燥の働きは、陰虚燥咳、陰虚盗汗、腎陰虚による骨蒸、消渇、虚火上炎による胃虚熱にも適応が広い生薬です。

石膏が気分実熱症に用いられるのに比較して、知母は実熱、虚熱両者に用いられるのです。高熱による傷津を未然に防ぐ意味合いもあります。

傷寒論では、 白虎湯証の4大証は大熱、大汗 大口渇 大煩であり、舌質紅、舌苔黄燥、脈洪大或いは滑数、四肢厥冷、不悪寒と続き、陽明病証である腹満、口不仁、譫語(せんご)、遺尿、喘などであり、いわゆる「陽明経燥熱実証」といわれるものです。六経弁証の陽明病について概略は、病機概要として、陽明経証は熱盛灼傷胃津に属すものであり、陽明腑証は胃腸実熱、食積、燥屎蘊結に属すものであるとなります。 

身熱汗出、悪寒はなく悪熱し、煩燥、口渇引飲を主証とするものが、陽明経証に属し。潮熱、腹脹満、堅硬拒按、便秘、甚だしければ譫語を主証とするものが、陽明腑証に属します。

 

治療原則は、陽明経証の場合に清熱瀉火。陽明腑証の場合に攻瀉実熱となります。主要な方剤が、清熱瀉火の場合に、白虎湯。攻瀉実熱の場合に、承気湯(じょうきとう 傷寒論)となるわけです。陽明経証の場合には、無形の邪熱が陽明経に侵入し散慢(満ちている)するが、腸管には燥糞内結がまだ無く無結であると考えます。この時期には発汗法は誤治であり、白虎湯あるいは白虎加人参湯で清熱、清熱生津するのです。陽明腑証に進展せず、治療後に余熱が上焦(胸膈)に鬱滞した場合(虚煩)は梔子豉湯にて治療することが傷寒論の要旨です。 

白虎加人参湯は白虎湯に益気生津の人参を加えたものです。傷寒論に忠実に記載すれば、白虎加人参湯証は大熱、大汗、大煩渇、欲飲水数升、背微悪寒、舌質紅、舌苔乾燥白、或いは黄燥、脈洪大やや無力あるいは浮滑となります。八綱弁証で表現すれば、陽明経燥熱実症と気津損傷が加わった虚実挟雑症です。したがって、清熱生津、透表駆邪、益気養陰をはかるのです。 

さて、話を温病の気分証に戻してみましょう。 インフルエンザを温病の一つと考えれば、現在では典型的な白虎湯あるいは白虎加人参湯の証を見ることは極々稀です。

現代中医学では、清肺熱の代表方剤は麻杏甘石湯、白虎湯ですが、小児科領域では薬性の穏やかな瀉散(しゃはくさん)を用いると説いています。

瀉白散(しゃはくさん 小児薬証直決)地骨皮 桑白皮 甘草 粳米 

桑白皮は甘寒で入肺し、瀉肺鬱熱に地骨皮は清肺実熱退虚熱に作用します。 

 温病学からは離れますが、白虎湯の清熱作用は、熱証の著しい関節炎(熱痺)に 白虎加桂枝湯(びゃっこかけいしとう 金匱要略)加減として利用されています。 また、前のブログ瘧疾(ぎゃくしつ)中の温瘧(おんぎゃく) 

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20090527

 の治療方剤の基本として白虎加桂枝湯加味の手法があることを付記します。 

 

 

 

承気湯(じょうきとう 傷寒論) 

 陽明熱盛:陽明裏実熱症(陽明腑実症)は熱性の便秘(熱秘)をもたらします。さて、傷寒論では陽明病の成因は3通りと理解でき、それぞれ熱秘の生成を見てみましょう。 

 太陽陽明:太陽病の誤治により津液が著しく損傷され邪が化熱化燥し陽明に転入し、胃熱のために脾が津液を巡らすことができなくなる後述の「脾約」を発症することを指す。便秘はあるが腹満鞕痛、潮熱、譫語は出現しない。太陽陽明の便秘の治療は麻子仁丸(ましにんがん 後述)で行う。 

 正陽陽明:外邪が直接陽明に侵入し化熱化燥し、燥熱と糟粕が結合し燥屎を形成することを指す。 

 少陽陽明:津液損傷により少陽の邪が化熱し陽明に転入し、胃腸が乾燥し、心煩が出現し、大便難(便秘)を発生することを指す。 

 以上が陽明病の熱秘の生成過程です。 

 以下に傷寒論に基づき、大、小、調胃承気湯証を簡記します。以下の寒下承気湯方剤はいずれも陽明腑実証に用いられます。その理論は釜底抽薪(ふていちゅうしん)に例えられます。熱のたぎる釜をさますには燃えている薪(たきぎ)を通便により取り除くという意味です。寒下作用は 大承気湯>調胃承気湯>小承気湯の順になります。傷寒論に忠実に各承気湯の証を記載します。 

大承気湯大黄 厚朴 枳実 芒硝)証:心下痞鞕、腹満して少しも軽減しない、臍周囲痛、大便燥結、便秘、熱結傍流のため時に悪臭のある便を排出する、 

日晡潮熱、持続微汗、心煩懊悩、譫語 何かに取り付かれたように独り言を言う、意識混濁により人を識別できない、循衣模床、微喘直視、言語必乱、脈沈遅実大(脈証は典型的ではありませんが)、舌質紅、舌苔老燥、焦裂起刺と高熱による津液損傷が著しくなっています。この場合には、早く原因となっている熱秘を通便にて下して体温を下げ、熱結傍流を無くし、放置すれば必至の津液の喪失を防止しなければなりません。このような考えかた通因通用といい、一刻も早く下して、津液(陰)を守るという意味で、急下存陰をはかると言います。大黄は苦寒で熱を泄し、乾結の便を攻下し、芒硝は咸寒潤燥、軟堅破結に働き、厚朴、枳実は破気導滞に作用します。熱が甚だしく、燥結がひどくない場合は、芒硝を取り除き、黄芩、山梔子、銀花を加え、腹痛が両脇まで響く場合は柴胡、鬱金を加えると現代中医学は説いています。明代には万病回春大承気湯加方とも言うべき通導散(つうどうさん)が考案されました。過去ブログ以下URLを参照してください。 

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20070106

小承気湯大黄 枳実 厚朴証:僅かに潮熱がある、多汗、腹満腹痛はあるが大承気湯証に比して軽度である、大便鞕、煩躁、譫語、脈は大承気湯証に比し滑疾になる、舌質紅、舌苔黄厚 

調胃承気湯大黄 芒硝 甘草)証:蒸蒸発熱、自汗、腹満は軽度、腹痛なし、便秘、微煩、譫語は軽度、脈滑数、舌質紅、舌苔黄燥 

現代日本で瘀血を挟む便秘症や子宮筋腫、生理痛などに用いられている桃核承気湯(とうかくじょうきとう)は調胃承気湯より発展したもので、桃仁と桂枝を調胃承気湯に加味したものです。 桃仁は活血破瘀に、桂枝は通行血脈に作用し、桃仁の活血破瘀を助けます。桃核承気湯については過去ブログ以下URLを参照してください。 

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20070106

 さらに、温病学で増液承気湯が出現しました。

 増液承気湯(ぞうえきじょうきとう 温病条弁 清代 呉鞠通):玄参 麦門冬 生地 大黄 増水行舟(ぞうすいぎょうしゅう)の代表方剤とされます。元来陰虚のものが温病に罹患してさらに津液を消耗し、熱結腸胃をともなった状態に対する方剤です。玄参 麦門冬 生地黄(増液湯ぞうえきとう)で清熱養陰生津(増水)をはかり、秘結した便塊を舟に例え、通便を図るという意味で、増水行舟と言います。玄参は血熱に対する生薬で、増液承気湯は温病学では気分証より進行した(営)血分証の方剤としての位置づけがあります。過去ブログ「玄参の臨床」以下URLを参照ください。 

 http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20080822

 

脾約証(ひやく証): 

主証 ①大便硬②小便数③扶揚の脈浮の3つです。 

 発生病理は:①胃熱による津液灼傷②脾陰不足と古代中医は考えました。 

胃熱が津液を灼傷し、これによって脾の機能が制約され、脾陰が不足するために大便が秘結し小便が数になる証候であり、胃強脾弱の一つであるとされます。 脾の水湿運化の失調により大腸を滋潤することが出来なくなるので大便が秘結し、 胃熱により津液が膀胱に「偏?」するので小便数(頻尿)になるというのです。 脈証:趺陽の脈(足背動脈)が浮は胃気強を示します。  治方は潤腸通便 清熱寒下であり、 麻子仁丸{ましにんがん傷寒論:小承気湯(大黄 枳実 厚朴)+火麻仁 杏仁 白芍}(白芍は養陰と清熱に作用する)を方薬とします。 麻子仁丸は現代でもよく使用される方剤ですが、私は脾約証に関してはいまだに理解できていません 

―気分証(2)に続くー

ドクター康仁

2014826日(火) 

 


衛気営血弁証 温病学総論2 衛分証 病理 症候と診断の要点

2014-08-24 00:15:00 | 温病

 前稿に引き続き、衛気営血弁証について記載します。

衛分証(えぶんしょう) 温邪襲表  肺衛失宣

 弁証要点:発熱 口渇 薄白苔

八綱弁証(表裏 寒熱 虚実 陰陽からの弁証)での表熱症に相当します。六経弁証(傷寒論)では(風寒)~風熱に相当します。発汗の有無は問いません。

治法:辛涼解表 辛涼解表により衛分の熱邪を祛邪する。

代表方剤:銀翹散(ぎんぎょうさん)辛涼平剤:温病条弁 清代 呉鞠通(ごきくつう)

 組成:連翹 金銀花 薄荷 ? 淡豆豉 芦根 淡竹葉 桔梗 牛蒡子 生甘草 

金銀花、連翹は辛涼解表、牛蒡子、薄荷は疏散風熱、清利咽頭に、荊芥、淡豆豉は透邪解表、桔梗は提昇肺気、止咳利咽、竹葉、蘆根は甘寒生津、清熱止渇に働き、甘草が調和諸薬となります。高熱の場合には柴胡、黄苓、石膏、大青葉を加え、清熱作用を強化し、頭痛が著しい場合には桑葉 菊花 蔓荊子を加えます。咽喉腫痛の者には、馬勃、掛金灯、玄参、土牛膝を加え、利咽解毒し、咳嗽、痰が黄色く粘稠の場合は、黄苓、知母、象貝母、光杏仁を加え、清肺化痰をはかります。口渇がひどい場合には、配伍されている芦根(甘寒 生津、清熱止渇)にさらに天花粉、石斛を加味し、清熱生津の効能を求めるのがいいでしょう。 

銀翹散の創者の呉鞠通(ごきくつう)は清代の温病学派の医師です。葉天士から始まり、薛生白、呉鞠通、王孟英等は温病学に対して大いなる貢献した代表人物です。

桑菊飲(そうぎくいん)辛涼軽剤(温病状弁)

組成:桑葉 菊花 薄荷 桔梗 杏仁 連翹 芦根 炙甘草 

銀翹散と同様に、涼寒薬が主体ですね。効能はほぼ同じなのですが、平剤と軽剤の意味は、日本語的感覚からは離れますが、平剤が軽剤よりも強いと言う意味です。桑菊飲は小児科で用いられる辛涼解表方剤です。

ここで一旦、解説をします。{続くのは気分証(きぶんしょう)、営分証(えいぶんしょう)、血分証(けつぶんしょう)になります。}

漢方の基礎用語について基礎知識を簡単に解説します。漢方の古典、いわゆる六経弁証に基づく治療は「傷寒論」(張仲景 後漢)によります。

風寒(ふうかん)証

悪寒がするものの、発熱が軽い。発熱時に汗は出ないことも出ることもある。頭痛、四肢関節の疼痛、鼻詰まり、嗄声、鼻水、喉の掻痒感、咳嗽があるが痰が薄くて白い、口渇はあったり無かったりする。舌苔は薄白で、浮或いは浮緊の脈象を示す。

寒は陰の邪気であるために、口渇はないことが多いが、或いはあっても熱飲を好む。舌苔が薄白、潤、脈が浮或いは浮緊などはすべて表寒の特徴です。

治療原則は辛温解表、宣肺散寒であり、現代中医内科学分野では、

荊防敗毒散(けいぼうはいどくさん)(外科理例)を主方とするとあり、傷寒論の麻黄湯や桂枝湯は顔を出してきません。

荊防敗毒散(外科理例):荊芥 防風 生姜 柴胡 薄荷 川芎 前胡 桔梗 枳殻 茯苓 甘草 羌活 独活

荊防敗毒散に人参党参(益気健脾養陰)を加えると人参敗毒散と呼称が代わります。荊芥、防風、生姜は辛温散寒に、柴胡、薄荷は解表退熱に働き、川芎は活血散風に働くとともに頭痛に効き、前胡、桔梗、枳殻、茯苓、甘草は宣肺理気、袪痰湿、化痰止咳に作用し、羌活、独活は袪風散寒、除湿を兼ね、四肢疼痛の要薬でもあります。表寒の重い場合には麻黄、桂枝を加えて、辛温散寒の力を強めるとよいとされます。荊防敗毒散の君薬は羌活 独活です。気机調整は柴胡(上行)前胡(下行)桔梗(上行)枳殻(下行)と、それぞれの対薬でなされています。人参を加味する意味は補気駆邪 邪気復入を予防 益気(生津)となり、四君子湯から白朮を除いた配合が加味されていることになります。

日本漢方は後漢時代の張仲景による「傷寒論」の六経弁証の影響が大きく、後の温病論の影響が全く無いために、風寒に対する保険が利く方剤は、麻黄湯、桂枝湯です。

麻黄湯(傷寒論):麻黄 桂枝 杏仁 甘草の4味からなります。麻黄は発汗解表 宣肺平喘に作用し、桂枝は解肌発表 温経散寒に働き、麻黄の発汗解表を助け、両者で調和営衛に働きます。杏仁は降利肺気に作用し、肺気上逆を抑え、甘草は調和諸薬に働きます。気機から見れば麻黄の宣(上へ発散)と杏仁の降(下に粛降)という組み合わせになります。

麻黄湯証は六経弁証で太陽傷寒表実証といわれるもので、傷寒論に忠実に記載すれば悪寒、発熱、悪風、頭痛、脈浮緊、無汗、喘、嘔逆、身疼腰痛、骨節疼痛となります。服用させてはいけない禁忌証として、傷寒論では陽虚の汗家、陽虚の胃寒症、陰虚の咽喉乾燥者、慢性の淋家 慢性の(皮膚の)化膿性疾患を有する瘡家としています。

中国漢方を学ぶ上で最初の難関とも言えるのが「傷寒論」であり、六経弁証中の太陽傷寒表実証と太陽傷寒表虚証の理解でしょう。私の経験で言えば、中国伝統医学のいわば慣習として、無汗の場合は表実有汗の場合は表虚と称すると理解するのが妥当かつ「妥協」なのです。

風寒の邪気は患者が無汗であろうと有汗であろうと実邪です。それを表実と表虚に分けて表記するのは、ある意味、理にそぐわないのであり、表実と表虚は患者の発汗が無い場合を表実、有りを表虚としていると妥協して捉えるのです。そういった妥協により、寒邪閉表により衛陽が腠理(そうり)に拘束される衛閉営鬱(えいへいえいうつ)であるから無汗であるというような難解な中医理論に悩まされなくなります。感覚的に体表が風寒の邪気にガッチリ固められ汗が出ないのを風寒表実証と呼び、体表が緩んで発汗している状態を風寒表虚証と呼ぶと捉える程度でいいと私は思います。

桂枝湯(傷寒論):桂枝 白芍 生姜 大棗 甘草の5味からなります。桂枝は解肌発表 通経助陽に働き、生姜は和胃止嘔に働くとともに桂枝の発散袪邪を助けます。大棗の益気脾胃作用とともに桂枝と生姜は調和営衛に作用します。白芍は益陰斂営に、甘草は調和薬性に作用します。方剤学で「散中有収 汗中寓補」の方剤と称されるのは、発散袪邪の桂枝に益陰斂営の白芍が加わり、補薬の大棗が配合されているという意味です。桂枝湯証は傷寒論では太陽中風表虚証といい、現在の風寒表虚証です。症状は、悪寒、発熱、悪風、頭痛、脈浮緩、自汗、鼻鳴、乾嘔、身痛です。服薬させてはならない禁忌証として、太陽病を下した後、気が上衝しない者、脈浮緊で無汗の者、酒の常用者、桂枝湯を飲んで吐いた者、発汗後、表証がすでに無くなった者としています。

さて、桂枝は衛強を治し、白芍は営弱を治すとされています。ここまでくると、さすがに中医基礎理論を無視するわけにいかなくなります。現代医学的にも発汗のメカニズムは非常に複雑です。カゼを引いたときの発熱と発汗の有無について、中医理論ではどう説明しているかをある程度理解が必要です。

衛気(えき 中国語でウェイチ)

水穀精微物質の力の部分より生成され、血脈の外側に分布し、主として外邪から生体を守る防衛作用が効能です。毛穴の開閉も衛気の作用であり、外邪に対する防衛をします。黄蓍の作用のひとつである益気固表とは皮膚の毛穴の開閉をコントロールし衛気を充満させることです。

衛気の作用は:①外邪を防御 ②体温の維持 ③肌膚の温養 ④腠理(そうり)の調節と要約できます。腠理とは一義的に汗腺を含めた毛穴と理解してもいいのですが、私の感覚ではもっと広い意味を持つようです。衛気営血弁証の衛分証(えぶんしょう)の病理: 温邪襲表  肺衛失宣肺衛失宣は肺が衛気を宣発することが不調になり、①が低下した状態と捉えればいいのです。

衛気が不足すれば体温が下がり、風邪を引きやすくなり、自汗を生じ、病後の回復も遅くなります。やや古典的な表現になりますが、衛気は慄疾滑利で陽に属します。カゼの場合の発熱は、やや深部の衛気が体表に動員されて邪と闘争するために発熱すると考えます。

営気(えいき 中国語でインチ)

水穀精微物質の栄養性が豊富なものから生成され、血脈の中に分布し、効能は血を造る成分になることです。津血同源ですから、汗の由来する津液の源にもなるのです。これも古典的な表現ですが、営気は純粋で陰に属し、営気は十二経脈、任脈、督脈を循行します。衛気が外邪に負けると、体表の固摂作用が低下して腠理が開いて、営気は汗となり体外に出ると考えます。

麻黄湯証無汗を基礎理論で説明すれば、衛閉営鬱(えいへいえいうつ)です。

強烈な寒邪に対して大量に動員された衛気が腠理に鬱滞し(衛閉)、腠理はガチンと閉ざされるので、汗の出る道も閉ざされる(営鬱)というわけです。

一方、桂枝湯証有汗は、衛強営弱(えきょうえいじゃく)と表現されます。

衛陽が不足気味のところに麻黄湯証の強烈な寒邪よりやや弱い風邪が体表から進入すると、衛陽が体表に動員され(陽浮)発熱するが、腠理の固摂が不十分なために陰営が汗となり体外に出てしまい、陰営が弱小の状態(陰弱)になると考えます。衛強営弱(えきょうえいじゃく)とは陽浮陰弱(ようふいんじゃく)と同意と考えられます。衛陽が相対的に陰営より強い状態とも言えます。後者の陰営が弱化するのは、もとはといえば不足気味の衛陽のためです。したがって、衛強営弱とは原因論からくる用語ではなく、状態を表す用語と理解できます。

営衛不和(えいえいふわ)という漢方用語があります。

傷寒論の太陽病脈証并治に出典された用語です。現代中医学では衛強営弱(えきょうえいじゃく)に加え、衛弱営強(えじゃくえいきょう)という概念も提供しています。衛気が虚弱で、汗が自然に出てくる。発熱がなく、時々自汗がある。という概念です。

調和営衛(ちょうわえいえい)という漢方用語があります。

これは桂枝湯の治療目的のひとつと考えるとよいようです。

通陽発散の桂枝 生姜と養営斂陰の白芍 益気脾胃の大棗を配合して、営衛不和を改善する方法とも言い換えられます。 衛気営血弁証の気分証に入る前に古典を解説しました衛気営血弁証の衛分証では発汗の有無は問わないのですから、面倒な古典解析から少しは離れることができます。

現象を学問らしく(もっともらしく)説明するには理論が必要です。中国伝統医学の基礎理論や独自な用語は、言語体系とも言うべきもので、英語を理解するときに英単語と文法の知識が必要であるのに似ていると私は考えます。先人の理論体系や基本用語を知るということは、素養として欠かせません。その素養は後の修行の中で、各中医(漢方医)が、その師の教えを通したり、あるいは自分の経験を通して再確認したり、また臨床現場で治療に役に立つのです。いつの時代でも、異論、異説はあるものの、実践に耐えた理論が現在も生き残っていると私は思います。

―気分証(きぶんしょう) 邪入気分  熱灼津傷―に続く

ドクター康仁

2014824日(日)

 


エボラ出血熱に思う 温病学では太刀打ちできないと 温病学総論1

2014-08-22 00:15:00 | 温病

 

温病論を記載する前置きとしてのエボラ出血熱

 

西アフリカを中心として、アウトブレイクしているウイルス性出血熱(Viral Hemorrhagic FeverVHF)であるエボラ出血熱エボラウイルス病Ebola virus disease以下EVD)が医療従事者や航空機による(すでに感染している)旅行者が増加する事情もあり世界中に拡散する可能性が重大視されています。世界保健機構WHO201488日に本事例をPublic Health Emergency of International Concern(国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態)として、EVD発生国等に封じ込め対策の強化を求めています。

 

 

 

すでにEVDによる死亡者は1100名ほどになりました。今後も増加することが懸念されます。

 

 

 

EVDの一般的な症状は、突然の発熱、脱力感、筋肉痛、頭痛、喉の痛みなどに続き、嘔吐、下痢、発疹、肝機能および腎機能の異常(重症は急性腎不全に陥ります)、重症化すると出血傾向が出現します。白血球数や血小板数の減少、肝逸脱酵素値の上昇が認められます。潜伏期間は2日から最長3週間であり、注射器(注射針)がエボラウイルスに汚染された状態で(同じ注射器で)マラリア治療薬を注射した場合の感染では短く、患者の体液の接触感染では長くなるといわれています。高い死亡率が報告されています。

 

 

 

興味深いことには、1996年のガボンでの発生では、ヒトのエボラウイルス抗体保有調査不顕性感染者が数%いることもわかっています。つまり、エボラウイルスに対する免疫を保有しているヒトもいるのです。最近の研究では感染しても、抗体の出現が早く、多いほど回復しやすいともいわれています。ワクチンの開発が急務である理由です。

 

 

 

病原体の診断

 

もっとも確実な検査法は、血液、体液等からウイルスを分離することですが、1週間以上を要します。そこで、迅速診断として、ウイルスゲノムのRT-PCRあるいはリアルタイムRT-PCRによる検出法、ウイルス抗原検出ELISAによる抗原(病原体)検出法があります。抗体の検出法としてIgGIgM-ELISA, 蛍光抗体法があります。被験検体からエボラウイルスが分離されれば問題なくEVDですが、RT-PCR法でエボラウイルスゲノムが検出された。抗原検出ELISA法で,エボラウイルス核蛋白EBO-NP)が検出された場合、蛍光抗体法或はIgG ELISAで判定された急性期と回復期のペア血清のエボラウイルスの核蛋白(EBO-NP)に対する抗体価が,4倍以上に有意上昇した場合にEVDと診断します。 IgM抗体はIgG抗体より初期に産生されますので、IgM-capture ELISAで,EBO-NPに対する特異的IgM抗体が検出された場合はEVDの疑いとなります。ウイルスが分離されれば遺伝子解析でその型(種)が判明します。(たとえばザイール、スーダン,ブンディブジョ、タイフォレスト、レストン種などです)

 

 

 

感染経路

 

感染して発症または死亡した野生動物(オオコウモリ、チンパンジー、ゴリラ、サル、レイヨウ、ヤマアラシなど)をヒトが触れたことに起因するだろうという事例が報告されています。次に、感染したヒトの血液、分泌物、その他の体液に、傷のある皮膚や粘膜を介して直接的接触、体液で汚染された環境への接触でヒト間感染が起こるのではないかと考えられています。

 

 

 

現在欧米、日本の製薬会社が治療薬の開発にしのぎを削っていますが、ワクチンも決め手となる特効薬も無い状態でしょう。

 

 

 

ウイルス性出血熱は中国、朝鮮に発生し、(かつては)日本にもあった事実

 

旧満州では風土病として現代風に言えば「腎症候性出血熱」とも言えるブレイクアウトがありました。旧満州に開拓団として移住した日本人の多くの生命を奪っていたのです。昭和初期では満州アムール川流域に展開駐屯していた日本軍兵士の間で,この腎症候性出血熱が大流行し,陸軍の軍医団は「流行性出血熱」と命名しました。日本軍兵士の1万人が流行性出血熱に罹患し,約3000名が戦わないうちに病死したとされています。濾過性病原体(ウイルス)の正体は、昭和51年に高麗大学の李博士が流行地で捕まえたアカネズミの肺組織から原因ウイルスを初めて分離し同定したのです。アカネズミが捕獲された38度線近くを流れる漢灘江(Hantan river)からハンタウイルスと命名されました。実は、昭和26年から昭和28年にかけての朝鮮戦争時に,最初は北朝鮮軍の間で流行,次に国連軍兵士約 3,000 人以上が発症する流行があったのです。死亡率は3%強で当時は「韓国型出血熱」と名付けられていました。

 

以上の経緯で3つの出血熱は「ハンタウイルス病」であることが判明しました。

 

 

 

日本では、主として実験動物としてラットを扱うことの多い医師、研究者、実験動物施設の技師などに「ハンタウイルス病」が散発したこと、地元大阪の梅田では昭和35年から10年にわたり大阪梅田駅周辺の繁華街でドブネズミを感染源とする流行があり119人が罹患し2人が死亡しています。当時は「梅田熱」「ビルの谷間の風土病」と呼ばれていました。昭和51年になって韓国でハンタウイルスの存在が発見され,冷凍保存されていた梅田周辺の患者の血液の検査から梅田熱がハンタウイルスによるものだったことが判明しました。現に私自身、極身近な人材が人工透析まで受けた事例を知っています。(血液検体は韓国に送られたそうですが、私は、結果は知らされていません。その後も劣悪な環境でラット、マウスの糞尿にまみれて実験を続けていましたが、、)

 

 

 

現在でこそ、公衆衛生と病害虫動物駆除が徹底している日本では、昭和59年以降、新たな発生は無いようですが、中国では現在でも年間約10万人の患者が発症、韓国では数百人、欧州全域では数千人程度の発生があると推測されているのです。ネズミのいるところにハンタウイルスは存在するのであり、世界中どこでも発症する可能性があるのです。蚊、蚤、ダニ、ネズミは徹底的に駆除すべきです。

 

 

 

温病(うんびょう)

 

中国医学では学派閥のようなものが確実に存在し、古典的な傷寒論、金匱要略、和剤局方、万病回春等に従い、子弟間に伝授された治療法では治療困難な感染性温熱病(外感温熱病)への理解発展が明代、清代の要請でした。とは言え、病原体に特異的な治療法はすべて西洋医学によりもたらされたのですから、それ以前の、いわゆる「温病学」はすべての感染性温熱病を含むとも言えます。決して疾患特異性は無いと断言できるのです。

 

 

 

現代日本の医療用漢方製剤を通覧するに、漢代の「傷寒論」「金匱要略」を出典とする処方は70方、宋代の「和剤局方」の処方が16方、そして明代「万病回春」の処方が18方、その他の明代の処方22方、日本の経験方24方が健康保険に採用されているのですが、「温病」の分野の健康保険採用方剤がありません。そもそも日本漢方には「温病学」が欠落しているのです。

 

 

 

そこで、温病学の全体像をご理解していただくために本稿を始めた訳です。

 

 

 

衛気営血弁証と八綱弁証、三焦弁証との比較、治則

 

衛気営血弁証とは、清代 葉天士16671746年 温熱論 臨床指南医案等)による外感温熱病の弁証方法であり、温熱病の進展していく過程での「浅深軽重」の4段階を示す。

 

温熱病邪は衛から気に気から営に営から血に伝わり、病状が段々重くなる。営血は同質であり、程度の軽い状態が営分、重い状態が血分である。以下に各証をのべる。 

 

 

 

―続くー

 

ドクター康仁

 

2014822日(金)