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「後塵を拝する」日本漢方

2012-12-04 00:15:00 | 漢方

明治維新、戊辰戦争の後、日本は「脱亜入欧」を果たしたかに見える。しかし、漢方医学においては、現実を直視するに、「中医学」を師として「漢方理論」を語るにおいて、過去に一度たりとも「後塵を拝する」立場から脱却してはいない。

いかなる理由からか?

問題点を挙げれば、

    同じ漢字文化圏である中国伝統医学に対して「組み易し」と傲慢に侮った。

    定量化、再現性についての探求を怠った。

    「先人」の中医学理論に甘え、真髄を科学的に分析する態度を怠った。

    国民皆保険制度下での「生薬」「方剤」の効能、適応に誤りがあった。

    病名さえ適応に合えば、弊害を起こす医者の処方を看過した。

    薬事法で、薬局の漢方販売を許可したものの、薬剤師教育に漢方医学を欠いた。

    官僚支配下での医療保険制度の監査委員に無能な医師を指定した。

    漢方医と称する医師、薬剤師の出鱈目な診療、投薬が蔓延しきってしまった。

    ⑧を助長増大させたのが「利益追求を第一とする通信情報網の拡大」である。

    ⑨は際限なく続く故に、⑧⑨は増大する一方である。

    欧米医学、特に抗がん剤、抗精神薬の如きは、闇雲に受け入れ、検証するに官僚制度下での御用学者に任せた。

    ⑪の結果、巨大な利権が生じた。

総括するに、侮り、怠慢、誤り、看過、欠如、無策、堕落と利権である。

これらが、排除され革命が起こらない限り、いつまでも、日本漢方は「中医学」に後塵を拝することになるであろうと確信する。

⑧⑨⑪が現実の日本である。

全て形のある物質である薬剤を用いて効能を期待するということは、「陰中求陽」に他ならないのである。その「哲学」を無視し、定量化と検証を怠った結果として堕落しきった現在の日本漢方の姿を見るのは慙愧に堪えない。

ドクター康仁 記


人参養栄湯が著効した生理不順の症例

2008-02-10 12:07:12 | 漢方

漢方治療は女性の病気とお付き合いが多い。女性は先入観も少ないし、辛抱強く、男性と違って継続治療に向いているのも確かだ。

先日、母親に連れられて17歳の娘さんが受診された。生理が飛び飛びになり、顔色が悪く、胃腸の調子が悪く下痢気味であり、動悸がするということで病院を受診したところ、貧血があるといわれ鉄剤と睡眠導入剤を服用中とのことあった。

食も小さく、寝つきが悪く、生理痛は生理が終わっても4日も続くという。

診察してみると顔色はやや黄色く、漢方用語で言う面色萎黄であり、舌色淡白、脈は細弱である。お腹に圧痛は無い。髪質が細く、やや色が薄い。神疲乏力とう全身性の倦怠感がある。めまいがするという。

大学受験を控えて、こんな体力と生理不順でお母様が心配するわけである。

漢方診断は気血両虚、月経後期、脾虚不運、昇清不昇、血虚不寧である。

こんな場合は、やや下痢気味であるので大便が柔らかくなる当帰を除き、白朮、

白扁豆、砂仁を加味した人参養栄湯加減が効くものである。髪質が悪いので何首烏を加味した。煎じ薬を服用して20日後に再診。

ともかく顔色がよくなり、下痢が治まり、寝つきがよくなり、元気になったとお母様が喜んでいる。

生理がちゃんと28日周期になったのは初診から3ヶ月以降である。現在は生理痛もない。

地元名門私大に推薦入学が決まったとの朗報も届いた。

良かった。


人参養栄湯の皮膚病悪化の副作用について

2008-02-09 21:25:22 | 漢方

「湿疹や、皮膚炎が悪化することがある」と使用上の注意に記載がある。同じく十全大補湯にも同じ記載がある。湿熱(しつねつ)や血熱(けつねつ)が原因の皮膚病片(一般に赤く、じくじくしている)がある場合には注意して使用すべきであろうという趣旨と理解している。

 人参養栄湯は温薬が7つ、涼薬が1つ、平薬が2つからなる。

十全大補湯は温薬が7つ、涼薬が1つであるので、人参養栄湯と同じく、全体的に温~熱性の性質を持つ。特に人参と黄耆を一緒に使えば補気作用が増強される。「気」の作用のひとつである温煦(おんく)作用とは体を温める作用なのである。肉桂は温里薬(おんりやく)といい体を内部から温める薬剤の代表である。

したがって、清熱湿が原則として必要な「赤い湿疹や皮膚病」の際には、使用しにくいわけである。また、手術後に炎症が持続して、排膿(はいのう)(膿が傷口やカテーテルから排出すること)が止まらず、発熱が続いている場合に漫然と十全大補湯や人参養栄湯を服用させてはならないことになる。炎症で発熱している患者に風呂に入って温まらせるに等しい。水枕すべきところを湯たんぽをのせるようなものだ。体力の回復と免疫力の亢進を目的に使用する心情は理解できる。

古来より感染症には清熱解毒薬が第一選択であり、補気養血剤(人参養栄湯や十全大補湯など)は、実熱があるうちには使わないのが原則である。

おすすめのアレンジは

補気養血と活血(血液の凝固を防ぐ)を目的に、

人参は西洋参に、炙甘草は生甘草に、熟地黄は生地黄に、当帰 川 は丹参に変更し、黄耆は使うとしても、理血薬である郁金、清熱解毒薬である牛黄、黄連や清熱養陰剤である栝楼根などを併用する。

1例を挙げれば、

西洋参 茯苓 ? 生甘草 生地黄 丹参 白芍 黄耆 郁金 牛黄 黄連 

栝楼根などの組み合わせになる。

 色分けして明らかなように、全体として涼~寒の性質を持つので、実熱に適しているし、補気養血活血の本来の十全大補湯などの方意も失われていないし、さらに清熱解毒薬、理気薬を配合することにより、炎症の早期改善にも役に立つ。

古来からの注意事項として潰後熱毒尚盛 不宜使用黄耆 と記載がある。

膿瘍が形成され、まだ発熱が激しい場合は、黄耆を使ってはならない という意味であるが、黄耆(おうぎ)を使いこなすことが漢方医の修行の一つである。


漢方薬の副作用の偽アルドステロン症とは?

2008-02-08 12:33:41 | 漢方

十全大補湯や人参養栄湯の使用上の注意には偽アルドステロン症がある。

それは組成中の甘草が原因となる。高血圧、浮腫、低カリウム血症などの異常が引き起こされることがあり、偽アルドステロン症として知られている。
甘草成分のグリチルリチンの分解物であるグリチルレチン酸やカルベノキソロンは、腎尿細管細胞の酵素反応を阻害する結果、副腎皮質ホルモンであるコルチゾールはコルチゾンへの変換を阻害され、体内にNa貯留、カリウム排泄促進の結果の
低カリウム血症を起こす。ちょうどそれがアルドステロン過剰状態に似ているために、偽アルドステロン症と呼ばれている。

尿中カリウム排泄増加を伴う低カリウム血症、低レニン血症、血中アルドステロン濃度の低下が認められる。

手足のしびれ、全身倦怠、筋肉痛、脱力感などが現れる。

漢方エキス製剤を2剤、3剤と併用する場合には注意が必要である。

偽アルドステロン症は、原因となる甘草含有製剤などの投与中止によっ
て容易に改善される。カリウム製剤やカリウム保持の目的にアルダクトン(スピロノラクトン)が投与されることもある。

食品からの甘草摂取は漢方薬よりも、意外に多い。そこに漢方薬として甘草が過剰になり問題が生じる場合がある。サプルメントや健康維持食品の中の甘草成分にも注意が必要だ。

私の経験では漢方薬単独では甘草による偽アルドステロン症は少ない気がしている。


人参養栄湯と十全大補湯

2008-02-06 20:56:51 | 漢方

人参養栄湯は十全大補湯「八珍湯(四物湯+四君子湯)+黄耆 肉桂」から川を除き遠志 五味子 と陳皮を加えたものである。組成は

  人参 茯苓 白朮 炙甘草 当帰 熟地黄 白芍 黄耆 肉桂 遠志 

五味子 陳皮 である。

赤は温薬、グリーンは平薬、ブルーは涼薬であり、全体として温の性質を持つ。

補益方剤の最も大枠に位置するものと考えてよい。5大補剤として、補気剤の四君子湯、養血剤の四物湯、四君子湯と四物湯をあわせた八珍湯、八珍湯に黄耆と肉桂を加えた十全大補湯、そして人参養栄湯があげられる。

 某漢方薬メイカーのパンフレットを見ると効能または効果、使用上の注意は2方剤ともにまったく同じである。組成の異なる方剤の効能、効果、使用上の注意がまったく同じなのはいささかお粗末ではある。

効能又は効果として

病後の体力低下 疲労倦怠 食欲不振 寝汗 手足の冷え 貧血

に2方剤ともにまったく同じ内容となっている。

 経験上どのように使い分けるか といえば、陳皮は理気健脾に働き、五味子は斂肺慈胃に働き、遠志は寧神安神に働くことからして、十全大補湯証に胃腸の不快症状や精神不安定症状などが加わった場合に人参養栄湯を処方するということになる。

 生理痛や生理が遅れる(月経後期)の一部の症例に人参養栄湯が有効な場合がある。

気血虚弱による生理痛

生来胃腸が弱い体質(脾気虚)、出産時に出血が多かった場合、慢性病を持っている場合など様々な原因があるが、気血虚弱による生理痛の特徴は、整理中、生理後の長引く鈍痛、手でさすると痛みが緩和し、生理の量は一般的に少なく、色は淡く、倦怠感を伴うことが多く、顔色にも艶が無く、舌診では舌質の色が淡く、脈は細弱であることが多い。一般的に脾気虚による軟便傾向がある。

中国有名方剤加減

聖癒湯(せいゆとう)加減

黄耆 人参 当帰 熟地黄 白芍  香附子 延胡索 竜眼肉 炙甘草 

赤は温薬 ブルーは涼薬 グリーンは平薬である。

黄耆(おうぎ)人参は補気薬の代表であり、四物湯の当帰 熟地黄 白芍 川 が配合され、婦人科の要薬である香附子は理気止痛に、延胡索は活血止痛に働く。白芍と甘草は止痛剤である芍薬甘草湯として有名です。

日本ではエキス剤がないので、「十全大補湯」に「芍薬甘草湯」などを合方する。

聞きなれない竜眼肉には補気作用と補血作用があり、帰経は心と脾であり、補心作用は不眠症に対して養心安神に働き、補脾作用は消化不良、軟便などの脾気虚に有効とされる。

中国婦人科学では、産前宜清(妊娠中は涼性の薬剤)、産後宜温(産後は温性の薬剤)の原則がある。竜眼肉を妊娠中に多量に食すると出血、口内炎、など流産の恐れがあるとも言われています。竜眼肉の養心安神作用が利用されている有名方剤に帰脾湯(きひとう)がある。

気虚が著しくなると気の固摂作用が低下して、だらだらと生理が続く経期延長になる場合もあります。この場合も聖癒湯は有効です。この場合には阿膠や艾葉を加味する。

 脾気虚による内臓下垂(胃下垂や少腹部、陰部の下垂感)が合併している場合は、柴胡や升麻を加味し、エキス剤であれば十全大補湯と補中益気湯を合方します。

 動悸 不眠などの心血虚証がある場合には、酸棗仁 大棗 鶏血藤などの養心安神剤を加味し、エキス剤であれば帰脾湯、あるいは「人参養栄湯」を用いる。

腰痛や下肢の無力感があるような場合は、桑寄生、続断、杜仲などを加味します。経験では、軟便や冷えを伴った場合は補骨脂(ほこつし)などの補腎、温脾止瀉の生薬を配合すると効果がある。

注意しなければならないことは遠志を煎じ薬で処方する場合、過量になると胃の不快感が生じることだ。