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尋常性乾癬 中西医結合治療成功例

2014-09-29 00:15:00 | 健康・病気

 

尋常性乾癬(かんせん)の病因論や標準的漢方治療を述べることは本稿の目的ではありません。

 

個人的な経験ですが、以前に長崎の某病院で(当時は保険適応が無い)レミケード治療を受け、乾癬皮膚病変が跡形も無く消失したものの、転勤で神戸市に転居してから、再度、以前よりもやや強く、広範囲に乾癬が再発したという中年男性の症例に接したのが3年前でした。そこで神戸市を含む兵庫県内でのレミケード治療が受けられる施設を紹介した経緯(いきさつ)があります。

 

私自身の経験では、中医学の医案(症例報告)に基づいて、いろいろな漢方治療を行ってきましたが、奏功した症例が少ないのが印象です。一方、アトピー性皮膚炎に乾癬が合併した症例では、比較的早期に治療効果が得られたケースも存在しましたが、アトピー性皮膚炎治療がメインであり、乾癬に対しては外用療法のみで対処しました。そのような訳で、いまだに決定的な漢方治療は見いだせないでいます。

 

本稿で紹介する症例は比較的短期に寛解に近い状態に持ち込めた48歳女性の症例です。

 

初診(平成262月某日)の皮膚所見をご覧ください。

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ほぼ全身に乾癬性紅皮症変化と鱗屑の形成が認められます。尋常性乾癬と診断しました。30年ほど前から発症したということです。某漢方医で煎じ薬を処方され、服用中であるということでしたが、処方内容は初診時にご持参されませんでした。脈象、舌象は特に異常は無く、痒みが強く、赤味も強くなってきたとの主訴でした。夜間のカラ咳が止まらないこともあるという自覚症状がありましたが、呼吸音は異常ありませんでした。問診票には、「簡単で安い漢方薬を希望」とありました。既往歴として、42歳時に子宮筋腫の手術をした。その後生理が無かったことから筋腫核出術ではなく、子宮摘出術であったと推測しましたが、患者さんからどの術式なのか確認できませんでした。

 

 

 

初診時に私が考えたこと&初診時外用薬

 

現在服用中の漢方煎じ薬の内容が不明である以上、(煎じ薬よりも安価な)エキス剤に変更する訳にはいかない。あるいは煎じ薬を続けているので、病情が安定しているのかも知れない。とりあえず、外用薬として西洋医学的には標準治療とされている処方+漢方エキス(養陰血剤+清熱涼血剤)を混合して処方しよう。次回来院時に、現在の煎じ漢方の処方内容を検証しよう。以上のように考えました。

 

二診(初診から1か月後)、皮膚の赤味と痒みは減少しました。患者さんが持参された某漢方医の処方。 以下

 

Photo

 

写真上が煎じ薬の処方内容です。乾癬1号と称する配伍は以下のものでした。

 

土茯苓(菝葜 山帰来と同じ、甘淡/平 清熱解毒除湿利関節)、槐花(涼血止血)、金銀花(清熱解毒)、菊花(清肝明目 肝陽上亢による頭痛や眩暈に用います)、芍薬(白芍なら養血斂陰に赤芍なら清熱涼血 祛瘀止痛に作用します)、牡丹皮(清熱涼血 活血祛瘀)、地黄(熟地黄なら補肝腎養血滋陰、補精益髄に作用し、生地黄なら養陰清熱に作用します)蘇葉(発表散寒、行気寛中、解魚蟹毒 辛温解表薬に分類されます)、甘草(調和諸薬)、牛蒡子(清熱解毒利湿 抗ウイルス作用 辛涼解表薬に分類されます)

 

寒熱弁証から言えば、やや涼に偏した処方です。基本的な芍薬と地黄の細分化がありません。これは欠落ともいえる事項です。

 

次に、四物湯の配伍でも、当帰(養血、活血、止痛、潤腸通便)、芍薬、川芎(活血行気、祛風止痛)、地黄という具合に芍薬と地黄の細分化が省略されています。ここまでは許容範囲ですが、

 

炮附子(辛熱 補火助陽 散寒止痛 回陽救逆) 乾姜(辛熱 温中 回陽)になると、治療の一貫性が疑われてきます。熱薬である附子と乾姜の配伍理由が私には理解できないというか、矛盾する配伍です。冷やしてみたり、逆に熱してみたりで一貫性が欠如しています。

 

さらに、桂枝茯苓丸の配伍に至っては、先ず、桂枝(辛温 発汗解表、温通、袪風寒湿邪、温経通絡)と桂皮肉桂(辛甘大熱 温裏散寒、補火助陽、引火帰源)の区別が誤っています。桂皮とすれば、大温ですから、そもそもの乾癬1号方と矛盾してきます。さらに非難するつもりではありませんが、乾癬1号方の牡丹皮(清熱涼血 活血祛瘀)、芍薬が重複しているのです。四物湯の芍薬とも重複があります。炮附子、乾姜、桂皮と並ぶと生姜にしても大いに疑問です。

 

 

 

漢方の弁証で最も基本的な弁証は寒熱弁証です。全体として温め、熱するに傾いた処方になっています。感覚的に「馬鹿馬鹿しい誤処方」という印象を受けました。漢方の専門家からすれば、一貫性が最も重要なのですが、微塵も一貫性がありません。

 

桂枝茯苓丸を子宮筋腫の適応と考えても、納得がいきません。なぜなら、既に患者さんは筋腫摘出術をはるか6年前に受けているのです。一般的にも、閉経になりつつある年齢ですから、極言すれば子宮筋腫は縮小する時期なのです。

 

 

 

治療経過:煎じ漢方薬を即時停止させました。安価なエキス剤として、滋陰降火湯当帰飲子7.5gを処方しました。ペミロラストカリウム製剤20mgを併用。

 

 

 

第八診(平成2693日)所見

 

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乾癬皮膚病変はほぼ消失しています。背部の一部分のみに皮膚炎の所見が認められるまでに改善しました。

 

 

本症例を以て、乾癬の漢方治療の標準を強調するつもりは全くありません。私自身まだ最適な治療法を発見してはいないと感じているのです。

 

 

パソコンのキーを打てば自動的に処方が表記されるというような効率化の診療には賛成できません。出鱈目過ぎます。殆ど、頭脳を働かせたという形跡が認められなく、漢方生薬を馬鹿にした(甘くみた)処方を見せつけられ、いつもながら、同業の漢方医として気分が悪くなります。

 

 

 

ドクター康仁

 

2014929日(月)

 

 


慢性腎不全、心房細動、高血圧症合併症例に開業漢方医としてどのような対処をすべきか?(腎病漢方治療41

2014-09-09 00:15:00 | 健康・病気

 

本稿では通常と逆の、時間を遡る形式で、症例を紹介します。

 

検査データでクレアチニン3.11mg/dlBUN40mg/dl、推算糸球体濾過値(e-GFR)17.2ml/分、下肢に軽度の浮腫あり、ヘモグロビン10.2g/dl、検尿で尿蛋白±、潜血反応±、十数年間の心房細動、高血圧症の治療歴がある症例に接した場合、腎病医であれば、原因疾患は高血圧性腎硬化症であり、早晩腎機能が悪化して、尿毒症に陥る危険性が大きく、人工透析は避けられないだろうと思うことでしょう。

 

直近、201488日の検査所見抜粋(下)

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さらに遡って約6か月前の、221日のデータでは、感冒によりCRP定量10.86mg/dlCre3.37mg/dlBUN48mg/dle-GFR15.9ml/分と炎症反応が高値、腎機能の悪化が認められました。ここで、不用意に腎排泄型、あるいは腎毒性のある抗生物質や非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を併用しますと、急激に腎機能が悪化して、急性腎不全に似た経過をたどる症例があります。

温病衛分証の方剤である銀翹散で事なきを得たのです。

次に昨年の1227日のデータを示します(下)。

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 逆時系列ですので、徐々に悪化する慢性腎不全では、一般的には日付が前のデータは「良く」、日付が後のデータは病情が進んだ「悪い」データだと皆さんは思うはずです。

 

ところが、1年前の201382日のデータは「悪い」データです(下)。

P1080385

 さらに遡り、

 

2年と半年前の2012217日のデータではCre3.11mg/dlBUN42mg/dle-GFR17ml/分、さらに遡り、20111125日のデータではCre3.45mg/dlBUN52mg/dle-GFR16ml/分であり、直近のデータよりも悪いものです。ちょうど3年前に遡り、201185日のデータを見ますと、Cre3.33mg/dlBUN52 mg/dlであり、3年後の直近88日のデータより悪いものです。

 

 

実は、この61歳男性の患者さんは5年前に、腎病とは別個の要件で初診されたのです。皮膚科領域の主訴でした。初診から約1か月後に、慢性腎不全、高血圧症、心房細動の確定診断となりました。腎不全という言葉に接して、患者さんは呆然としていました。あっという間にCreが2台後半から3台に上昇して、「何かおかしい」と感じ、当院初診よりも10年前からの循環器内科での治療内容を、手元に残っているだけでも、患者さんに持参していただきました。

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当院初診から1年前から初診直前までの治療内容を見てみますと、尿酸を下げる目的のザイロリック、心房細動に対するジゴシン、抗凝固剤ワーファリン、H2ブロッカーのガスター等は標準的な治療法ですが、黒塗り部分にはβーブロッカーが何年も前から使用されていたようです。上記表の右端には浮腫に対するループ利尿剤や高窒素血症改善剤(腎不全治療剤)の活性炭製剤クレメジンまでが処方されていたのです。

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2012年2月にはβ―ブロッカーが中止され、(少しはましな)αβブロッカー(黒塗り部分)に変更になっていました。β―ブロッカーを長年漫然と使用していたのには疑問の念を感じます。ループ利尿剤や高窒素血症改善剤のクレメジンを処方しているのですから、慢性腎不全と診断していたことは明らかです。ならば、腎血流量を下げる危険性の高いβ―ブロッカーははるか以前に中止し、Ca拮抗剤(せめて抗不整脈作用のあるワソラン等)やACE阻害剤、ARB製剤に変えて頂きたかったと感じました。

患者さんは某医院から薬剤を貰うものの、β―ブロッカーは途中で服用を中止しました。

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そこで、最初に始めた田七人参(化瘀止血 活血定痛)と丹参(涼血活血祛瘀)による治療に益母草(活血利水消腫)の大量療法(3050g/日)を加えた併用療法を、Cre3.38、BUN51mg/dlへの上昇した段階で開始しました。カルテからの写真を載せます。降圧剤はβ―ブロッカーを中止し、当初ARB製剤ディオバン40mgから開始し、のちに、ディオバンの論文偽造問題が明らかになってからは、ロサルタン25mgに変更して、Creは再度2台後半に下降し、直近では3.11mg/dlです。活血通府泄濁治療も開始しました(大黄桃仁等にて)。今後も慎重なケアが必要です。

 

 

開業医は独善に走りがちになります。これは自分も含めてという自戒の意味もあります。本稿の症例は、なんと最初に、途中初診の私が某基幹病院の腎内科に紹介したのです。現在、連携しながらフォローしています。初診から約5年を経過していますが、腎機能が悪いながらも安定して維持されている症例です。

 

 

このように、逆時系列で症例を振り返ることも、「問題点」を発見する上で有効な手法ではないでしょうか。勿論、開業医は専門分野で、それなりの知見をお持ちですので、途中で横槍を刺すような行動は厳に慎まなければなりません。私も面識も無い某循環器医に何も申し上げていません。

 

 

 

中秋の名月下に記す。

 

ドクター康仁拝

 

201499日(火)

 

 

 

 

 

 


ドクター康仁の「虚労論」 漢方市民講座

2013-08-05 00:15:00 | 健康・病気

始めに、長くなりそうな分野です。

「虚労(きょろう)」とは中医学用語です。虚しい労働とか、無駄骨という意味ではありません。実労という用語はありません。

中医学を勉強し始めても、すぐに「虚労」の全体像を把握できるようになるかと言えば、かなり難しいという印象です。

私が最初に「虚労」に接したのは、酸棗仁湯の主治でした。

肝胆不寧(かんたんふねい)の証として、イライラして眠れない、或いは悪夢を見たり、すぐにピクピクしたり、ちょっとしたことですぐ驚いたりする。視覚がはっきりしなく、口が苦い。舌苔は薄白、脈は弦細。養肝清胆寧神をもって治し、酸棗仁湯(金匱要略)等を用いる。

酸棗仁湯(金匱要略):酸棗仁 知母 川芎 茯苓 甘草

効能:養肝血(陰)安神

主治:(虚煩失眠証)虚労虚煩不得眠

平易に説明すれば、(肉体的にも精神的にも)疲れすぎて、眠れない状態に用いるのです。

それで、虚労不得眠というフレーズを覚えて得意がっていました。

そのうち「陰陽五行学説」「臓腑弁証」「八綱弁証」を学ぶうちに、また「虚労」に出くわしたのです。

人間の体は全体が有機体で、臓腑間に相互関係を持ち、また相互に影響しあっています。一つの臓に病があれば、他の臓に影響を与えたり、他の臓の情況を変化させたり、また反対に原因となる臓腑にも影響がもどってくることもあるのです。臨床では、臓腑間の相生、相克、表裏関係を応用し、治療では補と瀉を原則とします。これらの原則は、壮水制陽、益火消陰と、瀉表安裏、開理通表と清裏潤表の三つの方面に包括できます。難しい四文字熟語ですから読み飛ばしてくださってもよろしいです。

虚ならばすなわちその母を補う。」これは臓腑の相生、相克関係に基づいて、臨床での治療原則に運用されるものです。

虚ならば則ちその母を補う」ということは、ある臓が虚した状態になった場合、直接その臓に対して補法の治療を行う以外に、間接的にその臓の母にあたる臓に対して補益すると効果が上がることを意味します。たとえば脾と肺は母子相生関係にあります。脾は肺の母であり、肺は脾の子です。もし肺気不足がおこると、その母なる臓に影響を与えます。これを母病及子と言いますが、久咳肺虚の虚労患者には脾胃不振、食欲減退、軟便等の脾(胃)虚証が現われます。治療するにあたっては、虚ならば則ちその母を補う方法に従って治療をすれば、脾胃の働きはよくなり、食欲も増進し、軟便も自然によくなっていくうえに、しかも、子である肺の気も滋養され、久咳等の症状も軽減するか治癒されます。これはよく使われる「培土生金」の方法です。

またまた「虚労」とは慢性の肺結核の如き疾患を指すのかと、早合点しました。

しかし、肺結核は「肺労」として別記載されていましたので、いっそのこと「虚労」を先に読んでしまえと決意して、丸一日かけて漢字だらけの中医内科学を読みました。そこで、分類されている項目を最後に並べてみると、肺気虚、脾気虚、心血虚、肝血虚、肺陰虚、心陰虚、脾胃陰虚、肝陰虚、腎陰虚、心陽虚、脾陽虚、腎陽虚の12証がありました。ここで、何かしら「悟った」気分になりました。「虚労」とは五臓の気血陰陽の不足状態(虚)のことだったのかと。

そこで、本稿では復習の意味も兼ね、当時のノートをデジタル化してみようと思います。長くなりそうな予感がします。

生薬の温熱涼寒平の性質は色分けしてあります。原則として、という色分けです。

本来なら、附子 半夏 当帰という具合になるのですが、温熱薬をまとめてレッドにして、微温薬の場合にはオレンジ、微寒薬の場合にもライトブルーで記載することもあります。

本日の漢方市民講座「虚労(きょろう)」

定義

虚労とは種々の原因による臓腑虧損、気血陰陽虚弱によって引き起こされる慢性の衰弱性症候の総称です。虚労の範疇は恐ろしく広いのです。慢性消耗性疾患、虚弱性慢性疾患の漢方治療には虚労論を参考に弁証論治をします。非常に観念的なもので、中医学の伝統の症候論であることが解ります。「症候分析」は「中医学の理論での症候解釈」ですから、一般の方は無視されてもいいと思います。

(1)肺気虚

「症状」

息切れ、自汗、体が熱くなったり寒くなったりするいわゆる時寒時熱が見られ、声音低微、時に咳を伴い、風邪を引き易く、顔色は白っぽく、舌質が淡、脈が弱である。

「症候分析」

肺気不足、表衛不固のため、息切れ、自汗、声音低微、時寒時熱をみる。肺気虧虚、営衛失和のため、風邪を引き易く、或いは咳を伴う。気虚のため、顔色白、舌質が淡、脈が弱である。

「治法」 補益肺気

「方薬」 補肺湯加減。

補肺湯(永類鈴方):

人参6 黄耆24 熟地24 五味子9 桑白皮12 紫菀

人参と黄蓍は補肺気 熟地黄 五味子は補腎納気 五味子は斂肺止咳 桑白皮と紫菀は止咳平喘に働きます。

主治:肺虚久咳(分類的には肺気虚+腎不納気の喘になります)

効能:益気補腎 斂肺止咳

加減:

自汗が多い者には、牡蛎散(太平恵民和剤局方)で益気固表斂汗の効能を期する。牡蛎散(太平恵民和剤局方):煅牡蛎 黄蓍 麻黄根 浮小麦

潮熱盗汗(寝汗)を伴う者には、鼈甲地骨皮蓁艽で益気和営、清除虚熱の効能を期する。

さて、

五行学説では肺は金、脾は土で、脾を母とすれば肺は子になります。「肺腎気虚」という証も存在します。腎は水で、金水相生法という治療法も存在します。以前の記事をご参照ください。中医学での「腎」の考え方も紹介しています。

補肺湯については「老化現象の漢方治療 COPD

http://kojindou.no-blog.jp/happykanpo/cat7082947/

陰陽五行学説について興味がおありでしたら、以前の記事「外国人戦犯とフィリピン」の後半に説明してあります。面白半分で覗いてください。

http://kojindou.no-blog.jp/happykanpo/cat12274402/

そもそも「気の効能」とか具体的な気の解釈は何かというと、これも観念的ですが、以前の記事をご参照ください。中医学の基本の「気血津液」の概念と「瘀血」の概念をまとめてあります。

慢性腎炎、(特にIgA腎炎)の漢方治療3

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20121220


益胃湯と昇陽益胃湯 (2)

2009-05-22 18:50:59 | 健康・病気

似たような名称であるが効能はまったく異なる。直前のブログで益胃湯について簡記した。

出典と組成

益胃湯(温病条弁)呉鞠通198年)清代

組成 沙参 麦門冬 生地黄 玉竹 氷砂糖

赤は温薬、青は涼寒薬、緑は平薬である。

益胃湯からさかのぼること約600年前

昇陽益胃湯(脾胃論)李東垣(11801251)中国時代区分では金元時代になる。

組成黄蓍 人参 半夏 炙甘草 羌活 独活 防風 白芍 茯苓 澤瀉 柴胡 黄連 生姜 大棗 である。

やたらに組成生薬が多いのである。まず益胃湯にあるような養陰剤の配合はない

あえて言うならば白芍一薬(養血斂、柔肝止痛、平抑肝陽)が陰を保つ意味がある。東垣翁の生前に著作が刊行された記録はなく、いずれも没後に弟子の羅天益によって世に現われたものが大半であることからして、東垣翁が創生した各種の方剤の正確な成立年代は不明といわざるをえない。東垣翁の功績を世に知らしめた「傷寒会要」「医学発明」「用薬法象」「東垣試効方」「脈訣指掌病式図説」「内外傷弁惑論」「脾胃論」「蘭室秘蔵」などの著書中の方剤で現代でも良く用いられているものを私なりに順に調べていくとする。昇陽益胃湯の理解に役にたつからである。 東垣翁の処方は十数味を越えるものが多く、一般に多味と評されている。臨床実際として病に臨み処方を組もうとすれば、症状に応じ、あれもこれもと薬味が増える傾向が生まれたのであろう。しかし、生脈飲は3味、当帰補血湯は2味である。

朱砂安神丸(医学発明):朱砂 当帰 生地黄 黄連 炙甘草

復元活血湯(医学発明):柴胡 萋根 当帰 紅花 甘草 穿山甲 大黄 桃仁

普済消毒飲(東垣試効方):黄芩 黄連 陳皮 生甘草 玄参 柴胡 桔梗 連翹

板藍根 馬勃 牛蒡子 薄荷 白僵蚕 升麻

ここまでの方剤には昇陽益胃湯と共通する薬剤の組み合わせはない。

生脈飲(内外傷弁惑論):人参 麦門冬 五味子

ここで人参が出現してくる。

羌活勝湿湯(内外傷弁惑論):羌活 独活 防風 藁本 川 蔓?子 甘草 

最初の3薬の組み合わせ 羌活 独活 防風が昇陽益胃湯で出現してくる。

羌活勝湿湯(内外傷弁惑論)については過去ブログhttp://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20080630

を参照してください。

当帰補血湯(内外傷弁惑論):黄耆 当帰

「当帰補血湯」は黄耆と当帰が5:1で組み合わされている。分量比率の妥当性が近年科学的に実証されている。


内傷発熱論

2008-08-29 22:50:14 | 健康・病気

西洋医学的検査を以ってしてもまったく原因の特定ができない不明熱だけを範疇とする漢方理論ではなく、内傷発熱論の応用は広いと考えるべきである。

中医学の定義では、内傷発熱とは臓腑気血虚損、あるいは臓腑の機能失調による発熱とされます。内傷発熱は、一般的に微熱を主としますが、一部の患者には高熱がみられます。或いは、実際には患者の体温が上昇せず正常範囲にあるにもかかわらず、発熱感、あるいは手のひらや足の裏が火照る五心煩熱の自覚症状をみる場合もあります。現代の中医内科学には、腫瘍、血液病、結合織病、結核、内分泌系疾患による発熱、或いは一部の感染症、原因不明の発熱(狭義の不明熱)の治療には、本証を参照すると良いとあります。従って、内傷発熱論は狭義の不明熱にだけ限定するものではないと考えられるのです。西洋医学的検査手段がまったく無かった時代に、漢方医が持てる知識と想像力を総動員した医学史の一部です。現代は漢方と西洋医学とを併用する中西医結合医学の時代であり、漢方の薬理が西洋基礎医学により解明されつつあることは人類の福祉に必ずや貢献するものと思うのです。

内傷発熱と対をなす外感発熱は「邪正闘争」時に生まれる熱とされます。漢方医学では、「邪正闘争」を次のように説いています。
人体は「外邪」を受感すると、正気(免疫と言い換えても良いかもしれません)が外邪を駆逐しようとします。当然、正気と外邪の戦いが生じます。このことを「邪正闘争」といい、熱が発生します。この熱が「外感発熱」です。発熱は高熱であり、急に発症し、経過が短く、発展が早いなどの特徴があります。初期には悪寒を認める場合があります。大部分は西洋医学でいう、感染症による発熱が相当します。
外感発熱は外邪の種類により「風寒による発熱」「風温による発熱」「湿熱による発熱」「寒湿による発熱」「暑湿による発熱」の大きく5つに分けられます。ここで「邪正闘争」を拡大解釈すれば腫瘍に対する免疫反応も含まれるわけですから、内傷発熱と外寒発熱にはオーバーラップする部分があるとも言えます。輸血の際に時折出現する発熱などは経緯から判断すれば「外感発熱」といえるでしょう。また、HIV感染症、肺結核症に見るような発熱は定義からすれば外感発熱ですが、内傷発熱の機序が加わってきます。やはり、厳格に線引きをするのは難しいのです。事実、現代の中医内科学では厳格な線引きをあえてしていない印象を受けます。

(1)肝鬱発熱(かんうつ発熱)

ストレスに弱い方が、なんら原因らしきものもないのに長期的に微熱が続く場合のほとんどは、これに相当します。経口での非ステロイド系抗炎症解熱剤が処方される場合がありますが効果は一時的で、服用を中止すると再び発熱します。ストレスを受けると、特に傷つくと漢方では考えます。その結果、肝気鬱結といって肝の気がスムーズに流れない気滞が生じます。気は陽気ですから、鬱滞すれば熱が発生します。これを肝鬱化火といいます。イライラして怒りやすい(煩燥易怒)、口が渇いて苦味を感じる(口苦口乾)、胸やわき腹の張ったような感じ(胸脇悶脹)、ため息をよくつく傾向があり、肝は蔵血を主り、女性の生理に深くかかわるので、生理不順、生理痛や乳房の張り感を伴うことが多いのです。舌苔は黄色で、脈は弦数の傾向があります。ため息をすることで一時的に気の流れが良くなると中医学は考えます。治法は疏肝解鬱、清肝瀉熱です。ファーストチョイスは丹梔逍遥散加減です。簿丹皮、山梔子は清肝瀉熱、柴胡、薄荷は疏肝解熱、当帰、白芍は養血柔肝、白朮、茯苓、甘草は健脾に働きます。

発熱が目立ち、舌が赤く、口渇があり、便秘傾向がある場合には、白朮、茯苓を取り除き、黄、竜胆草を加え、清肝瀉火の効能を強めるといいようです。

胸脇部の張痛が目立つ場合には、理気止痛の効果を持つ、鬱金、川楝子を加えると

効果的です。体が重く、疲れやすく、口が苦く、舌苔が黄色で厚く、頭に汗をよく

かく、悪心、逆に軟便気味などの中焦湿熱鬱蒸の症状がある場合、陰股部の湿疹などの肝経湿熱の関与が疑われる場合には、越鞠丸(えつぎくがん)(別名六鬱丸)(香附子 川芎 山梔子 蒼朮 神曲)を選択し、疏肝清熱化湿を目的に柴胡、黄を加えるといいようです。

平素は陰虚体質で肝鬱発熱に罹患した場合、肝郁発熱が慢性化して傷陰に至り、陰虚傾向が出てきた場合などには(これを肝鬱陰傷と呼びます)滋水清肝飲(生地黄 山茱萸 茯苓 当帰 山薬 牡丹皮 澤瀉 白芍 柴胡 山梔子 酸棗仁)を用いて、滋陰、清熱、解欝の効能を求めます。

肝鬱化火が著しく、赤ら顔で目が充血し(面紅目赤)、イライラして怒りやすく(心煩易怒)、尿黄かつ排尿時に熱感があり、舌質が紅く、脈が数(頻脈90毎分以上)の場合には、清肝瀉火が必要であり、龍胆瀉肝湯が効果的です。

(2)気血不足

漢方では脾気を中気とも言います。脾気が衰えると、栄養の吸収が悪くなり、元気がなくなります。その結果として血虚も生じます。つまり気血不足が原因となる発熱です。

疲労後の発熱と疲労の度合いに比例する発熱の加重が見られます。微熱あるいは高熱も生じることがあります。眩暈、体のだるさ、自汗、風邪引き易い、気短懶言(息切れを感じ疲労のために言葉数が少なくなることを意味します)、少食、軟便、舌質が淡、舌苔が薄白、脈が細であることなどが特徴です。全身の気虚が根底にありますから、防御機能低下のために風邪を引き易くなります。脾失健運のために、食が細くなり、軟便傾向が出現します。

治法は漢方用語で益気生血、甘温除大熱です。

補中益気湯加減を行います。黄耆、人参は補中益気、白朮、陳皮、甘草は健脾和中、当帰は養血、昇麻、柴胡は健脾昇清の効能があります。

自汗が著しい場合は、牡蛎、龍骨を加え、固表止汗します。

寒気や発熱を交互に繰り返す場合には、桂枝、芍薬を加え、調和営衛をはかります。

胸腹悶満、舌苔が白膩の場合には、脾虚湿盛が考えられますので、蒼朮、茯苓、厚朴を加え、健脾燥湿すべきです。

口が苦く、舌苔が黄色の場合には、肝経湿熱との鑑別の上で、昇陽益胃湯で健脾益気、清熱化湿をはかります。夏場の気虚発熱の場合には清暑益気湯(脾胃論 李東垣)の補脾気、化暑湿の効能が奏効する場合があります。気虚症状があり、かつ老人で平素陽虚気味の人に原因不明の発熱が生じた場合には補中益気湯に金匱腎気丸を加味すると良いようです。

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は、元の時代に李東垣によって考案された方剤です。組成は、黄耆 人参 ? 炙甘草 柴胡 升麻 当帰 陳皮です。温熱寒涼の色分けはオレンジ 赤 濃いブルー 薄いブルーです。黄耆(おうぎ)が君薬(くんやく)とされる方剤です。君薬(くんやく)とは方剤の中でもっとも重要な役割を果たす生薬を指します。補中益気湯は黄耆(おうぎ)が君薬で、それに補気剤である四君子湯(人参 茯苓 白朮 炙甘草)から茯苓を除いたものに、活血養血剤である当帰(とうき)に、理気薬のうち温薬のひとつである陳皮(ちんぴ)と涼薬である柴胡(さいこ)と升麻(しょうま)を加えたものです。

補中益気湯の作用は、中国では、胃腸を丈夫にする補中益気(ほちゅうえっき)作用、肛門脱出(脱肛)や子宮脱など中気下陷(ちゅうきかかん)の、いわゆる内臓下垂を改善する昇陽挙陥(しょうようきょかん)作用、気虚発熱(ききょはつねつ)を解熱させる甘温除大熱(かんおんじょたいねつ)の作用の3つと言われます。甘温除大熱の意味は、君薬である黄耆と、同じく甘温剤である人参、白朮で気虚発熱を解熱することを指します。

そもそも、補中益気湯の考案者である元の時代の李東垣(元)は著書“脾胃論”の中で、疲れすぎの際の発熱の病理として、命門の火と元気は不両立(両雄相たたず)であり、勝即一負の原則(片方が弱ると片方が勝る)を展開し、疲れすぎで元気が衰えると、その分、命門の火(中医学が想定する生命を維持する火)が強くなり、気虚発熱の原因となると説きました。これは、現代中国医学からすれば、やや「こじつけ」的な理論であるようです。現代では、肉体疲労が重なったり、飲食の不摂生によって脾気虚(ひききょ)が生じると、その結果、津液(しんえき)(体液と考えていいでしょう)が生成不足になり、陽気(ようき)を制御する陰(いん)に属する津液の不足によって、陽気が外表に広がって発熱をきたすとする説と、脾気が弱ると清陽不升(せいようふしょう)といい、陽気が上昇できなくなり、郁滞(うったい)する結果、やがては発熱をきたすという説が有力です。脾虚は最終的には血虚につながります。

柴胡と升麻はそれ自体が涼薬です。加えて大切な中医学的な作用があります。

昇挙陽気(しょうきょようき)といい、郁滞した陽気を動かして引っ張りあげて発散させるという働きです。方剤学では引経使薬(いんけいしやく)という役割を果たしています。黄耆にも昇挙陽気作用があります。

気虚タイプの月経過多症やだらだらと生理が止まらない経期延長などに有効です。子宮脱の傾向がある場合にも有効です。

また、どうしても太れないやせすぎの女性で、虚弱体質で手足がだるく、疲れやすく、自汗の傾向があり、胃下垂や脱肛などの中気下陷があり、暖かい飲み物を飲むと具合が良くなる(これを喜熱飲と漢方用語でいいます)の虚症の婦人に有効です。気虚発熱の考え方は中医学独自の理論です。一方、見方を変えれば、脾気虚で血虚、津液不足が招来され、陰(津液、血)が不足すると、陽気を抑えることができずに発熱するという理論は、陰虚発熱論につながるものです。漢方理論はいわば「歩き回ると元に戻る性質=メビウスの輪?」を持ち、その時点時点での証の捉え方が治療上で肝要なことがわかります。その意味で八綱弁証は欠かせない診断方法です。

(3)陰虚発熱

素体陰虚といい、もともと陰虚体質であるか、あるいは下痢などが慢性的に続き、津液不足に陥った場合などの久痢傷陰、あるいは理気薬などの温燥の薬剤などを長期間服用して津液不足になった場合に、陰液が不足するために陽気を抑えられずに制火不能となり、陰陽平衡が崩れ、相対的に陽気の偏盛が生じ発熱する場合を指します。

症状は午後或いは夜間の潮熱、手のひらや足の裏の火照り(五心煩熱)、骨蒸顴紅、心煩、盗汗(寝汗)、不眠、多夢、口乾咽燥、大便乾結、尿少色黄、舌質が淡く赤色、乾燥、あるいは裂紋、無苔もしくは少苔、脈が細数の陰虚火旺の特徴があります。

証候を分析すると、陰虚内熱のため、骨蒸顴紅(手足の骨が蒸されるような熱感と頬の赤みを指す)、五心煩熱が生じ、虚火上炎、撹乱心火のため、顴紅、心煩、多夢が生じる。内熱による津液(体液)外泄のため、盗汗(寝汗)が生じます。陰虚内熱により、口乾咽燥、腸燥便秘(コロコロ便)などが生じます。

治法は滋陰清熱であり、清骨散加減を基本処方とします。銀柴胡地骨皮胡黄連知母青蒿で清虚熱、鼈甲、地母で滋陰液、甘草は調和諸薬に作用します。

不眠の者には、酸棗仁、柏子仁、夜交藤を加え、養心安神をはかると良い効果が得られます。

盗汗がひどい場合には、牡蠣、浮小麦、糯稲根を加え、固表斂汗の効能を期します。

虚火上炎の症状が著しい者には、大補陰丸あるいは知柏地黄丸に変更し、滋陰降火をはかります。

頭暈気短(めまい息切れ)、倦怠無力など気虚の症状を伴う者には、党参、沙参、麦冬、五味子を加え、益気ならびに養陰の効能を強めると良いようです。また、滋陰清熱には前のブログで述べた滋陰降火湯も有効です。

()淤血発熱

血行が悪くなって発熱する場合です。癌の患者さんに見られる発熱、手術後の発熱などが相当すると考えられます。西洋医学での「吸収熱」がもっとも近い概念です。しかし、西洋医学の「腫瘍熱」の本体も明らかにされてない現状なのです。

午後或いは夜間の発熱、口乾咽燥、身体に部位が固定性の痛みがあり、腫塊、血塊があり、重症者は肌膚甲錯(さめ肌)、顔色が萎黄か黯黒でさえません。舌質は紫暗で、淤斑や淤血点があり、脈が渋です。治療原則は活血化淤です。血府逐淤湯加減が標準的です。桃仁、紅花、赤芍、牛膝は活血化淤、当帰、川、生地黄で養血活血、柴胡、枳穀で疏肝理気、桔梗と枳穀はそれぞれ「昇」と「降」の気機調整に働きます。血分淤熱の清除効能を強化しようと思えば、牡丹皮、地?虫、大黄を加えると効果的です。

   メビウスの輪 ラビリンスの森

漢方理論はある意味「メビウスの輪」の様相を呈します。中医基礎理論では、気滞は気滞血淤につながります。前者は肝鬱発熱の病理とされ、後者は淤血発熱の病理とされ、血を推動する気の効力は気虚全般において低下し、また気の摂血作用の低下は出血を招来させ、結果として淤血につながります。前者は気虚発熱の病理とされ、後者は淤血発熱の病理とされるのです。さらに全身的な気虚は脾気虚につながり、血虚を招来させます。津血同源の基礎理論から、最終的には陰液(津液)不足に陥ります。このように、気虚発熱論と陰虚発熱論が裏表の関係にあることがわかります。人体は統一理論で語るには複雑すぎる宇宙のようです。漢方医は「よって立つ診断方法」によって、「ラビリンス(迷宮)の森」から抜け出し、もっとも効果的な治療法を選択しなければなりません。実践と経験が尊ばれる所以なのです。

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北京では、オリンピックが終了して、パラリンピックが開催されています。期間中はあらゆる生薬の航空便での輸送が禁じられています。大変仕事がしにくくなってきています。無事にパラリンピックが終了し、テロ対策としての航空便での輸送規制が無くなることを希望していますが、2010年の上海万博でも同様の規制が行われるでしょう。痛ましい出来事として、アフガニスタンでは邦人が殺害されました。現在、世界は景気低迷、インフレの悪化、食糧不足、異常天候、局地戦争など悪材料が蔓延しています。北朝鮮は核施設の再稼動を始めるとの報道がありました。歳をとるにつれて「若かった時には感じなかった恐怖」を感じています。

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