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ネフローゼ症候群の漢方治療 医案36(小児ネフローゼ症候群) 腎炎、腎不全の漢方治療164報

2013-07-04 00:15:00 | ネフローゼ症候群 漢方治療症例の実際(医

李少川氏医案 脾湿困 湿邪化熱案(中華名医名方薪伝より)

1923年7月生まれ 天津中医薬大学 小児病学教授

患者:王某 13歳 女児

初診年月日1984520

病歴

1984415日感冒低熱咽痛があり、続いて顔面と全身に浮腫が出現。420日“急性腎炎”“小児ネフローゼ症候群”と診断される。某病院でプレドニゾン10mg毎日3回処方、尿蛋白は3+から1+へ下降したが、持続的に減少せず、常に嘔吐あり、顔面、下肢にまだ浮腫が残った。

初診時所見

患者面色蒼白、舌苔白膩、脈象やや滑。プレドニゾンを漸減して停止するように伝え、小児腎病合剤を与えた。

嫩蘇梗9g 制厚朴10g 広陳皮6g 炒白朮6g 肥知母9g 雲南茯苓9g 抽葫芦(清書により平~涼と性が異なる。瓢箪の果実 利水消腫に作用する)10g 炒枳殻9g 麦門冬9g 猪苓5g 澤瀉10g 甘草6g)の加減治療

コメント:タイトルの脾湿困 湿邪化熱案は「湿熱困脾案」ということですが、清熱剤は知母程度であり、湿熱の熱に対する生薬が非常に少ないですね。評析に期待しましょう。

経過

服用10剤後、浮腫消失、食欲転佳、尿蛋白微量、

前方に藿香10g 佩蘭10gを加味、更に7剤、検査3回、尿蛋白(-)、完治する。

評析

小児腎病合剤は李氏の経験方であり、健脾化湿、調整脾胃の効能を持つ。その方剤の主旨は“開鬼門(カイグイメン)”、“??(ジエジンフー)”、”去菀陳莝qu wanchen cuoによって水腫を治療するものである。多くは内経の古訓の加減に従うもので、源は一つである。

開鬼門(カイグイメン)とは即ち発汗のことであり、方中の蘇梗は腠理を開き発汗させるが、麻黄や桂枝とは異なり燥に過ぎず妥当である。

??(ジエジンフー)とは即ち利尿を意味する。方中の抽葫芦、澤瀉は皆、甘淡利湿の効能があり、山梔子や木通の苦燥傷陰に比較して佳である。

去菀陳莝qu wanchen cuoとは即ち腸胃の鬱を浄することを意味する。脾胃をして正常な受納と腐熟を維持させ、慢性の漬水を経脈に帰らせる。方中の厚朴、陳皮、白朮、枳殻は辛香苦燥の性質にて、脾胃の昇降の枢機を調達させる。知母、麦門冬を加えるは、一つには白朮の燥を予防し、二つには胃陰を保つことにある。動物実験では、この方は血漿蛋白を増加させ、尿蛋白を低下させ、総コレステロールの低下等に一定の効果がある。

小児のネフローゼ症候群は中医の“水腫”の範疇に属する。その病機は肺の粛降、腎の開閉温煦と関連し、小児の特徴は “脾常不足”、故に主要な病因は、脾気不足、中焦湿困、運化失司になる。したがって、脾胃の健運を促し臓腑の昇降気化作用を保ち、陰陽を調和させ、体質を増強させ、続発性の感染を防止することなどが、小児の腎病の治療の中心となる。

小児腎病の困脾受湿が病となり、時邪を感受するか、或いは湿邪が蘊久化熱することもさまざまな病情の発現となるので、治療に当たっては、“胶柱鼓瑟,刻舟求剣”の如く決まりきったものであってはならない。

健脾化湿の原則性を掌握し、陰陽表裏、寒熱虚実、弁証を正確にすれば誤治に至らない。

加減運用:本方は脾虚湿困、三焦気化失司の小児腎水腫を治療する。

若し、風熱を感受し、発熱、咳嗽、咽痛滋膩は、方中から蘇梗、白朮を去り、薄荷、荊芥穂、連翹、金銀花を加え、風寒を感受し、畏寒、身熱、肢冷の者には、羌活、防風、蘇葉を加えるのも可能であり、正気偏虚で邪を感受した場合には、太子参、葛根、柴胡を加え人参敗毒散の方意を参考にして、扶正祛邪する。

病が長期化し気陰両虚、或いはステロイドを長期服用して、顔面の赤みなど、陰虚陽亢の際には、白朮、猪苓を去り、知母、麦門冬或いは生地などの甘潤滋陰を重用する。

小児のネフローゼ症候群は水腫に至り、病情は複雑で難治性であり、湿性は黏膩であり、速攻回復は難しい。故にこの方を用いる時には、暫くの間は安易に変更せずに方を守れば、予期する効果に至るであろう。

ドクター康仁の印象

サイエンスというよりも文芸に近い内容ですね。評析者が認めるように、黄帝内経(前漢時代に編纂)から一歩も進んでないような評析でした。僅かに近代を匂わせる単語はステロイドだけです。ネフローゼ症候群も水腫論で留まっています。

100人の老中医がいれば、100以上の経験方があるわけです。しかし、中医学の大本(おおもと)が似たり寄ったりの基礎理論と経験方の後付(あとづけ)関連解釈では、サイエンスとしての突破(ブレイクスルー)は生れにくい分野ですね。

成功談ばかりで、失敗談を目にしない理由は何処にあるのでしょう。

何かを学ぶためには、自ら味わうより、良い方法はないと中医学を味わっているのですが、自慢話ばかりを聞かされている感じがしてしまい、どこぞに「変人狂人」のような「異説論者」がいないものかと思うのです。

僅か17剤(3週間以内)で難治性である本案の小児ネフローゼ症候群は完治したのであるとは、自慢話に近いですね。簡単に治るものなら難治性ではないはずでしょう?

                                                   

皆さんはどのように感じますか?

2013年7月04日(木) 記


ネフローゼ症候群の漢方治療 医案35(小児ネフローゼ症候群) 腎炎、腎不全の漢方治療163報

2013-07-03 00:15:00 | ネフローゼ症候群 漢方治療症例の実際(医

管竟?氏医案 陰虚火旺案(河北中医2003年 第8期より)

患者13歳女児

就診日19664

就診所見:面四肢浮腫3ヶ月、胸腹張満を自覚、食少納呆、便溏四肢浮腫、舌淡紅、苔薄白、脈緩。血圧142/75mmHg、腹腔に液体貯留(腹水)、尿蛋白(3+)

診断:原発性ネフローゼ症候群(脾腎気虚型)。

経過

プレドニゾン45mg、中薬は益気健脾、利水消腫。

薬用:黄耆党参20g 白朮 茯苓 赤小豆 澤瀉 車前草10g 麻黄 桂枝 仙茅 淫羊藿g 水煎服用 日に1剤

服薬5日で浮腫が漸退。

コメント:麻黄連翹赤小豆(連翹の配伍なし)、五苓散(猪苓の配合はなし)仙茅、淫羊藿の配合などを見ると、氏の初診時は脾腎陽虚っぽい水腫症例という印象があったのでしょう。ところが、

ステロイド服用3週後で、患者次第に面赤、精神的には興奮し多語となり、五心煩熱、夜寝不寧、動則汗出、口干咽燥、食欲増加、紅舌少苔、脈細数。

コメント:やはりステロイド剤の副作用、陰虚火旺が出てきましたね。そこで、

証は陰虚火旺に属する:として氏は以下の処方に変えた。

薬用:太子参30g 黄耆15g 白芍12g 当帰 知母 生地 熟地 黄芩 黄柏各10g 黄連g 女貞子 旱蓮草各15g 澤瀉 車前草各10g、水煎服用 1日1剤。

服用1週で諸症軽減、プレドニゾンと中薬併用治療1ヶ月で尿蛋白は陰転し、臨床症状は消失した。

退院後に外来でステロイドは漸減した。プレドニソンは隔日20mgまで減量した。

中薬は前方から、黄連 黄柏 知母を去り、山薬 山茱萸 白朮を加え。ステロイドの減量のあわせ、逐次段々と、淫羊藿莵絲子など温腎健脾薬を加えた。

1997年7月ステロイドは停止した。患者は基本的にステロイドのクッシング様の副作用は出現しなかった。尿、血液検査再検で異常なく、随訪4年再発なし。

評析

腎臓病の患者は大量、長期にステロイドを運用した後、初期には白血球数の増加、精神の興奮、食欲の亢進、面色潮紅、中心性肥満と汗出、舌紅脈細数などの副作用が出現し、中医弁証からは陰虚陽亢の証が見て取れる。

ステロイド剤は温陽薬に似て、温薬を使用しすぎると津液の耗傷となり、陰虚陽亢になり、病の後期には陰虚が慢性化すば、耗気となり気陰両虚の像も現れる。当帰六黄湯は滋陰清熱、瀉火清熱、益気固表等の法を一方に集めたものであり、故にステロイドの副作用に対しては両者(陰虚陽亢、気陰両虚)の病機と符合するものである。

ドクター康仁の印象

当帰六黄湯はその名の如く、当帰 生地黄 熟地黄 黄芩 黄柏 黄連 黄耆の6薬からなります。李東垣の「蘭方秘蔵」が出典です。

君薬は-当帰:育陰養血、生地黄:育陰養血、清内熱 熟地黄:育陰養血
臣薬は-黄芩:瀉火除煩 黄柏:瀉火除煩、清熱堅陰 黄連-瀉火除煩
佐薬が-黄耆:益気固表

陰虚火旺の際の内熱を清して、盗汗(寝汗)を止めるというのが原方意であったそうですが、ネフローゼ症候群のステロイド副作用の防止にもなるのです。

本案の最初の方薬はやや乱れを感じますが、次の処方の流れでは、平の党参が太子参に変更されたり、養陰血の白芍(おそらくは斂陰の意味)は加味されたり、養陰剤の二至丸(女貞子、旱蓮草)が加味、瀉火清熱潤燥の知母の配伍、それで、澤瀉、車前草を加味しても傷陰にならず、陰虚火旺が収まった後に補腎薬の淫羊藿を配伍していくというのは、頭がよく整理されている中医ですね。私なら、2回目の処方から菟絲子は入れてしまいやすいのですが、というのは、薬性が平でも、やや温のイメージが有りますが、他の養陰血滋陰清熱薬で莵絲子のやや温のイメージは打ち消されると思うからです。

本案の主旨は、ネフローゼ症候群のステロイド剤の副作用の防止に中薬は有効であり、副作用の発現を見ることなく、中薬治療を併用すれば、ステロイド剤の減量から離脱まで再発しないでネフローゼ症候群は治癒する可能性が高い。ということです。

医薬品の臨床効果改ざんは多いですね。またまた

小林製薬の絡んだ臨床治験データのお粗末な改ざん事件が発覚しましたね。

身長を改ざんして肥満度を変化させるとは!

医者は人間を弱者と見がちで、警察は人を悪者と見がちで、製薬会社は庶民を権威に弱い愚か者と見なす也や。

一方、現実は程度の違いで、恥知らずな姑息な庶民もいます。

小生オリジナルのタイトルを勝手に自分のブログに盗用する「アフィリエイトで稼ぎたい恥知らず」が現実にいます。知人の警察関係者が見つけて教えてくれました。

ネフローゼ症候群の漢方治療 医案12 腎炎、腎不全の漢方治療140報

小生が本年6月7日にアップした記事です。

なんと、即同日に「ネフローゼ症候群の漢方治療 医案12 腎炎、腎不全の漢方治」とタイトルをそのまま盗用した「恥知らずのサイト」が以下。

http://harikitte112.seesaa.net/article/365476824.html

記事内容は小生のタイトルと全く無関係。

署の連中もよく見つけたものだと感心しました。そういう専門のグループがあるんでしょうね。

さても、警告する也。

大いに迷惑、ドクター康仁の著作権侵害にもなることを、知らないとは言わせない。

タイトルを盗用し続ける宣伝記事は姑息の一言、「アフリで稼ぐマニュアル」なのかもしれませんね。

2013年7月3日(水) 記


ネフローゼ症候群の漢方治療 医案34(老人例) 腎炎、腎不全の漢方治療162報

2013-07-02 00:05:00 | ネフローゼ症候群 漢方治療症例の実際(医

黄文政氏医案 脾腎気虚案(天津中医薬2003年 第5期より)

患者某 71歳 男性

初診20019

病歴

患者ネフローゼ症候群歴3年、治療により水腫は消退、但し蛋白尿が長期に減軽せず、中西多方面の治療が無効であった。

初診時所見

気短乏力、大便希溏、納呆食少、脘腹張満、腰膝酸軟、下肢に軽度の浮腫、舌質淡苔薄白、脈細弱。

尿検査:蛋白(4+)

弁証論治

脾虚の弁証を主とする

処方

黄耆15g 党参15g 熟地黄25g 山茱萸15g 山薬15g 牡丹皮10g 茯苓30g 澤瀉30g 白僵蚕10g 全蝎10g 益母草30g 芡実15g 金桜子15g 蜈蚣2

コメント:参耆六味地黄湯に、活血利水消腫の益母草と消減尿蛋白の白僵蚕、さらに、固渋の水陸二仙丹(芡実 金桜子)、虫類の活血熄風の全蝎 蜈蚣の組み合わせとなっている解りやすい処方ですね。全蝎10gですよ。多いですね。

経過

7剤服用後、下肢の水腫は減軽、大便が硬くなって下痢は止まり、原方から芡実、金桜子を去り、鶏血藤15g(苦温:活血化瘀 舒筋活絡)、丹参30gを加味して継続服用7剤、下肢の水腫は消失、効いているので方剤を変更せず、上方継続30日、検尿で尿蛋白(プラスマイナス)、症状は顕著に減軽、患者の意向を尊重し丸薬を生成し継続服用、今日に至るまで再発無し。

評析

本案の患者の症状は脾腎気虚の症状であり、故に方中に黄耆 党参を重用し、補益中気を行い;山薬 茯苓にて健脾滲湿、澤瀉にて利水滲湿;熟地黄 山茱萸にて補腎填精;芡実 金桜子にて収渋固精;牡丹皮 益母草にて活血化瘀;白僵蚕 全蝎 蜈蚣にて腎絡の風邪を捜削する。水邪は風邪が無ければ平静にして澄み、風邪に遭遇すれば波が立ち濁るのである。全方は健脾補腎に優れ、また祛風利水活血の効もあり、方剤を組みたてるに誠に当を得ている。

ドクター康仁の印象

一度みたら暗記できるくらいの単純な組み合わせの方剤ですが、芡実 金桜子を去り、更に活血化瘀の温薬の鶏血藤 涼寒薬の丹参を加味するのを見ると、黄氏の活血化瘀重視の態度を感じます。「水邪は風邪が無ければ平静にして澄み、風邪に遭遇すれば波が立ち濁るのである。」自然現象を例えにして、熄風の重要性を「素人」を頷かせるには便利な言い回しです。

「風」も「瘀血」も、証としては現れていませんので、黄氏の弁病論になるのです。

糸球体はうっふ~んのピーマン也や?

先日、馬刺しを食いに立ち寄った居酒屋で

「先~生!見たわよ。美味しそうなピーマンの写真 あれってアートなの?」

「まさかあ、ピーマンってことはないだろう。一体何の写真なんだよ?」

「人生なんとかの、暗闇のピーマンの輪切りの写真」

彼女はスマートフォンで手早く小生の目の前に話題の画像を差し出した。

「ん人生? おっ! 膜性腎症の免疫蛍光法の写真だったのか!」

「グリーンに輝いて美味しそうだわァ」 右脳優位

「そうか、ピーマンの芯がメサンギウムだったのか」と暫し感慨の小生

「メス?どうしたの?これって、どういう訳なの?」 左脳発現の兆し

  

  「それがさぁ 訳(わけ)ありなの。」 説明拒否

  「ふ~ん」

  「うっふ~んだろ? 訳ありなんだから」 話題転換

  「うっふ~ん? 嫌だぁ 先生」 右脳極大

人は、幸福であることを知らないと、不幸になるもの也や。

  逆は必ずしも真ならず。

  2013702日(火)  記


ネフローゼ症候群の漢方治療 医案33(膜性腎症) 腎炎、腎不全の漢方治療161報

2013-07-01 00:45:00 | ネフローゼ症候群 漢方治療症例の実際(医

張志堅氏医案 風邪留恋肺系 気滞水瘀交阻案(中医雑誌1992年 第6期より)

患者:朱某 55歳 男性

初診年月日1990515

病歴

平素から病弱で、脊椎分裂症(部位と程度は不記載)、気管支拡張症、胆のう炎などの病歴がある。

198911月、顔面と下肢の浮腫20日間により、常州某病院に入院し、ネフローゼ症候群と診断される。入院前後、雷公藤、プレドニゾンの正規治療を2ヶ月受けるが効果は明らかでなかった。19902月、上海の某病院に転院し、腎生検を受け「膜性腎炎」と確定診断される。入院初期に、肝素(ヘパリン)、プレドニゾン、CB1348(免疫抑制剤のクロラムブシール)などの治療を受けるが効果はよろしくなく、後に?炮素A(シクロスポリン)とジピリダモールを連続3ヶ月の治療を受けたが、尿蛋白は減少しなかった。

初診時所見

ステロイド顔貌、下肢浮腫、指で押すと陥没する、腰酸頭昏、神疲乏力。感冒に常に罹りやすく、鼻塞、咽部腫痛、咳嗽、便秘になりやすく、顔面には皮疹が散在、僅かな痒みがある。舌暗紅、舌辺に瘀点があり、苔微黄、脈細渋にして弦。

尿検査:尿蛋白(3+)RBCWBC散見、顆粒円柱(+)、24時間尿蛋白定量7.5g、尿中β2-MG(マイクログロブリン)58.3μg/ml、血中β2-MG(マイクログロブリン)3.9μg/ml。総コレステロール8.66mmol/L335m/d)、トリグリセリド435m/dL370m/dL)。血圧168/100mmHg.

コメント:β2-MG(マイクログロブリン)

血中正常域 1.01.9mg/L(1.01.9μg/ml)

β2-マイクログロブリンは,分子量11,800のポリペプチドで,HLA抗原クラスL鎖としてH鎖と非共有結合し,赤血球を除く全身の有核細胞表面に分布し,特にリンパ球系細胞表面に多く存在します。リンパ腫瘍や自己免疫疾患などで高値を示します。アルブミンより分子量が小さく、腎糸球体基底膜を容易に通過し、尿細管で大部分が吸収されます。血清値は糸球体濾過値(GFR)の低下に伴い上昇するので,腎糸球体障害の指標として使用できます。一方、尿細管障害の際には,その再吸収,異化が障害され,尿中への排泄が増加します。したがって,尿中β2-マイクログロブリンの測定は特に近位尿細管障害の指標となる可能性が高いと言えます。本案ではCre, BUN値 GFR測定値あるいは推定値が記載されてなく、β2-マイクログロブリン値のみが記載されています。

尿中の基準値は、日本では0.290mg/l未満290μg/l→0.29μg/ml未満)とされるので、本案では血中、尿中ともに高値となります。なぜCre BUNの値をカットするのか私には解りません。中医案だから、例によって仕方ないですか。

中医弁証:証は風邪留恋肺系 気滞水瘀交阻に属する

治法と方薬:宣肺祛風、調気化瘀 昇降散倒換散加味

処方

白僵蚕10g 浄蝉衣10g 制大黄5g 荊芥10g 桔梗10g 枳実10g 玄参10g 連翹15g 白蒺藜15g 炒山楂 六曲10g

コメント

:あまり見かけない異質な感じのする生薬の組み合わせですね。

活血化瘀は大黄だけでしょう。

玄参は難しいですね。血熱がある場合に使用される生薬です。

以前の「玄参の臨床」をご参照ください。

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20080822

張氏の「使い慣れた生薬の一つ」なのでしょうね。

六曲は杏仁泥、赤小豆、辣蓼草、青蒿、面粉、蒼耳草などの細末を混合した後で発酵させた加工品で総合胃腸薬の意味合いを持ちます。

桔梗と枳実(あるいは枳殻)は気機調整の意味合いです。矢印の向きを↑↓と反対に表記しました。

経過

15剤服用後、大便暢、尿量増加、下肢の浮腫は消退、鼻塞、咽痛、咳嗽もまた癒え、検尿で蛋白(+)、その他陰性。効能は既に獲得しており、方薬の加減を行った。

原方から、姜黄 大黄 枳実を去り、鬱金10g 虎杖根30g 龍葵30g 炙黄耆15g 全蝎6gを加味し、更に20剤、諸症は悉く消え、尿蛋白は陰転した。

コメント:全蝎(ぜんかつ サソリ)といい白僵蚕(びゃっきょうさん 蚕の死骸)といい、虫類の使用に慣れている感じがありますね。

文脈から判断すると、瘀に捜し出して削ぎ落とすという、全身的な活血ではなく、瘀に直達する性質を張氏は重要視したのでしょう。

乾燥した全蝎は吹けば飛ぶような軽い重量です。6gは現物を見たらサソリだらけですよ。

龍葵は特殊な生薬です。以前に「卵巣癌の漢方治療 続々編」で紹介しましたのでご参照ください。現代では抗癌生薬としての認識が高まっています。本案では、文脈から「祛風」の目的であろうかと思います。

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20061125

患者は多病で、肺腎倶虚であることを考慮し、玉屏風散と六味地黄丸合方加減にて、益気固表、滋腎扶正すること3ヶ月、病情は再発せず、随訪半年、身体健康。

評析

膜性腎症はネフローゼ症候群に常見される病理類型の一つで、腎糸球体の毛細血管基底膜の瀰漫性肥厚があり、細胞や、基質の増殖を伴わず、炎症性細胞の浸潤も無く、中老年に多く、ステロイドや免疫抑制剤の効果が悪い。

本案では腎病数年、風邪が留恋、肺気が鬱し、邪が外透されず、また、裏病が解されず、気機の昇降が不利となり、気滞即ち血瘀水停となったものである。

腎病が慢性化し、血絡に瘀滞する者は、蛋白尿は簡単には消失しない。

張氏の認識は、“瘀血を見て瘀血を治療するは、その治療にあらず、昇降気機を以って治療なり”とするものである。気は血の帥、気行即ち血運、故に瘀病は気を治すなり、とするものである。

氏のような治療法を施せば腎絡を疏通させることが可能であり、(ここからは私の意訳です。全身的な活血薬とは異なり、全蝎のような「瘀を捜削」する破血効能をもつ薬剤を使えば、活血し過ぎて)動血となり虚に陥ることにならない。

昇降散と倒換散の合方加減は調気に宜しく、昇降を回復させ留瘀を散じ、肺気が残風を去るのに宜しく、黄耆 龍葵 全蝎を配伍する意味は、補肺気にて祛風し、破血して残瘀を駆逐して、治療の大半の効果を収めるのに至るのである。

ドクター康仁の印象

突飛なβ2-MG(マイクログロブリン)単独の登場、去ると言いながらも、前方で存在しない姜黄、そして玄参、龍葵、全蝎の登場でした。昇降散と倒換散は張氏の経験方ですね。

物事に対処するに「左脳」の「経験」が後遺症となって、本来の天性の感覚が鈍ることが多いですね。しかし、サバイバルには左脳の経験が役に立ちますね。学習することは左脳の訓練ですから。

留恋(るれん)とは「(未練たらしく、)だらだらと引きずる、邪が残留する」という感覚です。中医案を解釈していくと、左脳だけではどうにもならないもどかしさを感じます。己(おのれ)の未発達な貧弱な左脳のせいでしょうか。左脳を訓練しているつもりでも、右脳も無理やり働かされるという困惑があります。

脈診「脈細渋にして弦」とは微妙ですね、数字で表現してくれないから、感じなきゃどうにもならない世界の一つです

解説するのが面倒な時は、帝釈天の寅さんの名言「訳(わけ)ありなの!」で済ませちゃいますか。

2013701日(月) 記


ネフローゼ症候群の漢方治療 医案32 腎炎、腎不全の漢方治療160報

2013-06-29 00:15:00 | ネフローゼ症候群 漢方治療症例の実際(医

?莉芳氏医案 湿困脾土 昇降失司案(新中医1991年 第9期より)

                           

患者:李某 52歳 女性

入院年月日:ネフローゼ症候群Ⅱ型により、198284日入院。

診察所見

双下肢高度浮腫、指で押すと陥没する。悪心嘔吐、納差乏力、小便量少、毎日600ml、口干あるが飲みたがらない、口臭有り、大便は調、舌胖大、苔薄黄膩、脈沈濡やや数。

検査所見

24時間尿蛋白定量6.8g、血清アルブミン1.8g/dl、総コレステロール4102mg/dl

治療経過

初めに、健脾利水、清胃止嘔法として、春澤湯五苓散加人参)、五皮飲加竹茹、黄連、法半夏、蘇梗の4剤後、悪心は減少、尿量は1300mlに増加した。続いて、風寒により、腹張、腹瀉(下痢)毎日6回、生姜瀉心湯加厚朴、枳殻に改め、2剤後悪心、腹瀉は急速に止まり、食べる量も頗る増えた。

これ以降は、健脾行気利水の導水茯苓湯導水茯苓湯は四苓湯:澤瀉 猪苓 茯苓 白朮と五皮飲:桑白皮 大腹皮 茯苓皮 生姜皮 陳皮の合方加減)加味、及び毎週2回の食事療法―黄耆鯉魚湯をもって治療し、尿量は維持され1800ml程度、浮腫は漸消退、食欲良好、体力増進。

中医治療単独で治療すること3ヶ月余、24時間尿蛋白定量はゼロ、血清アルブミン値3.2g/dl、総コレステロール220mg/dl、再検査で寛解と判断され退院、今日まで再発は無い。

評析

湿困脾土、脾不行水、脾胃昇降失司、泌濁を分清できない状態である。治療は中焦から始め、健脾和胃、利水消腫が宜しい。両者は相矛盾することなく、互いに助け合う相成の関係であり、脾胃を治療することは水湿の運化に有利であり、滲湿利水は脾土の湿困を防ぎ、健運の機能を回復させる。

若し、単純に健脾して十分な利水を怠るか、或いは単純に利水しても推動無力であれば効果は優れたものにならない。本案では健脾利水、清胃止嘔法、及び健脾行気利水を前後して行うのはこの理にある。言えることは、氏は先賢の経験的基礎に立ち、腎病の特徴を根拠にして、食療方を併用した。黄耆鯉魚湯である。黄耆は健脾益気、昇陽摂精に作用し、浮腫の減軽と同時に蛋白尿が減少、或いは消除され、血漿蛋白を漸高させのは、黄耆の健脾昇清の効能によるもので、健脾昇清が蛋白尿消減に寄与するという中医治療の考え方は、さらなる研究に値するものである。

ドクター康仁の印象

急に超古典的な中医案が出現しましたね。ネフローゼ症候群の2型とは、中国独自の分類ですから説明は省きます。1型が微小変化群です。

評析では、難しそうなことを並べているようですが、中医基礎理論を繰り返しただけです。

本案は水腫論でもあり、尿量減少という意味では、腎不全の医案にしても成立します。勿論、腎炎の医案としても成立するでしょう。

但し例によって、腎機能のデータの多くはカットされ、ネフローゼ症候群の蛋白尿の程度と高脂血症のデータのみが記載されているのです。

データを揃えるということと、データを記載しないということは、どちらが医案として正しい道なのかでしょう。どちらも正しくないことは明白ですね。

データを全てさらけ出すという姿勢がなければ、いつまでたっても、「新中医」にはなれませんね。

但し、補薬としての黄蓍の多彩な功能については、評析の指摘するように。基礎的研究の発展が必要です。

清熱解毒剤ではありませんが、托毒の性質があり、活血化瘀剤ではありませんが、利尿消腫作用により脾虚水腫を改善する功能など、解析の発展が望まれるものです。

もう安息日 瞬時に去り行く1週間

気が付けば安息日を迎えようとしている今宵、東京駅とラベルされた瓶生ビールを飲もうとしたら、栓抜きが見当たらない、缶ビールのつけがこんな身近な災難になるとは、昔なら、堅強な下顎の前歯で軽く開けられたのに、もう、恐怖心が先に立ち、噛み付く勇気も無い。爺(じじい)の悟りか、「勇気とは恐怖心を乗り越える無謀なるもの也や」

2013629日(土)  記