記憶力の良い読者でしたら、ネフローゼ症候群 茯苓利水湯加減治療 張琪氏漢方治療(腎病漢方治療257報)2000年の医案でしたが、医案中の
「茯苓利水湯」を思い出したでしょう。
中医弁証:脾虚不運、気滞水蓄に対する健脾行気利水法として、茯苓利水湯:組成は、木香10g 檳榔25g 青皮10g 陳皮15g 紫蘇15g 茯苓40g 白朮30g 党参20g 海藻30g 川厚朴15g 乾姜10g 砂仁15g 澤瀉20g 猪苓20g 益母草30g 黄耆30g
でした。私のコメントとして、再度記載しますが、
茯苓利水湯の出典は「医宗金鑑」で原方は茯苓30g 猪苓20g 木瓜(酸/温 行気止痛、健脾消食、止瀉、平肝舒筋、和中袪湿)10g 澤瀉20g 檳榔20g 党参20g 白朮20g 木香10g 海藻30g 紫蘇15g 陳皮15g 麦門冬15gです。本案(257報)では木瓜、麦門冬は配伍されていません。
茯苓30g 猪苓20g 澤瀉20gは利水、檳榔20g 木香10g 海藻30g 紫蘇15gは理気(行気)であり、気滞は水停を起こし、気がめぐれば水行する、という中医理論から、行気と利水を同時に行った訳ですね。海藻(消痰軟堅 利水退腫)30gの配伍は腹水があるばあいに張琪氏は愛用するようです。黄耆、党参、白朮、茯苓は益気健脾利水の効果で祛邪(利水)と補益を兼ねるものです。二診では既に浮腫が全消したのですから、行気利水の木香 檳榔 青皮を除き、舌紅、咽赤に対して金銀花 連翹の清熱解毒薬を加味しました。白花蛇舌草も清熱解毒利湿薬ですが、免疫調整という弁病的な考慮もあるかもしれません。乾姜を配伍した理由は氏がやや脾胃虚寒の印象を持ったのかも知れません。あくまで推測ですが。畏寒肢冷、便溏などの腎陽虚を兼ねる場合には附子を配伍するでしょう。
以上でした。
それでは、茯苓利水湯と茯苓導水湯の違いはどこにあるのでしょうか?
医案に進みましょう。
患者:郭某、26歳 男性 工場労働者
初診年月日:1982年5月18日
病歴:
患者腎炎4ヶ月に及び、尿蛋白4+、顆粒円柱+、浮腫尿少、胃脘痛、かつて健脾行気、清利湿熱の治療を受けたが、効果不良。
初診時所見:尿蛋白3+、全身浮腫、脈沈舌紫
中医弁証:脾虚気滞水蓄
西医診断:慢性糸球体腎炎
治法:健脾 行気 利水
方薬:茯苓導水湯加減:
茯苓20g 檳榔20g 澤瀉20g 白朮15g 姜黄(破血行気 通経止痛)15g 陳皮15g 木香7.5g 萹畜20g 瞿麦20g 海藻(消痰軟堅 利水退腫)30g
二診:1982年6月1日
腫脹倶消、食欲増加、精神状態改善、尿蛋白±、顆粒円柱(-)、RBC0~1個/HP、WBC0~2個/HP。
ドクター康仁の印象
1982年の症例ですから、西洋医学的なデータは全くありません。ネフローゼ症候群を示していたのかどうかも不明です。
さて、本題に戻って、
茯苓利水湯2000年度:木香10g 檳榔25g 青皮10g 陳皮15g 紫蘇15g 茯苓40g 白朮30g 党参20g 海藻30g 川厚朴15g 乾姜10g 砂仁15g 澤瀉20g 猪苓20g 益母草30g 黄耆30g(計315g)
茯苓導水湯1982年度:茯苓20g 檳榔20g 澤瀉20g 白朮15g 姜黄(破血行気 通経止痛)15g 陳皮15g 木香7.5g 萹畜20g 瞿麦20g 海藻30g(計202.5g)
海藻(消痰軟堅 利水退腫)30gの配伍は腹水があるばあいに張琪氏は愛用するようです。
結論は同じものです。1982年度には黄蓍 党参の参耆(益気固摂)の組み合わせがありませんでしたが。萹畜(利水通淋)瞿麦(活血利水通淋)は2000年度には益母草(活血利水消腫)に変更されています。利水と導水と区別したのはやはり理由があったのでしょうが、漢文の講義では有りませんので、市民講座としては「同じ」ということで落着させていただきます。
弁証治療だけでも充分に効果が現れていますね!
2014年 3月13日(木)