一般に痘痕(あばた)といえば、天然痘の後遺症の皮膚の凸凹の瘢痕を指すのですが、本稿では、活動性の残存する成人型ニキビ痤瘡(ざそう)の長期化によって生じた皮膚の凸凹の瘢痕に対して、漢方薬と西洋薬を併用して、非常に良い治療経過を得ることができた症例を報告します。
患者:49歳 男性
初診年月日:2014年1月11日
主訴:顔面から下顎部の痤瘡と色素沈着、いわゆる「あばた顔」を治して欲しい。
病歴と治療経過:顔面の痤瘡は青年期からあったが、いろいろな治療を受けたが治らず、ここ数年来顔面の「あばた」の「印象」が悪化した。
某皮膚科医院での処方内容(2009年以前は詳細不明)
2009年5月23日:ミノマイシン50mg 1日4錠、2009年6月13日からルリッド150mg 1日2錠に変更、6月27日よりディフェリンゲル外用併用、10月3日から再度ミノマイシン50mg 1日4錠経口投与、ディフェリンゲル外用併用はそのまま、2010年1月16日より、ディフェリンゲル外用をニゾラールクリーム外用に変更、2012年2月よりアクアチムクリーム、ニゾラールクリーム併用、経過中一時期、荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)、治頭瘡一方(ぢづそういっぽう)を処方されたが効果がなかった。食事指導は一切無し。イオウカンフルローションも効果が無かった。
初診時所見(写真下)2014年1月11日
いわゆる「あばた顔」であり、痤瘡は一部活動性があります。若干の痒みが存在する時もあると訴えていました。左頬部から鼻梁にかけての色素沈着が目立ちます。
下顎部には活動性の痤瘡と軽度の色素沈着があります。下顎直下の痤瘡には皮脂栓が観察されます。 初診時に漢方医として感じたこと: 抗生物質の長期投与が無効である以上、(常に、私は痤瘡に対して経口抗生物質を投与しないので)勿論、抗生物質の経口投与は続けるべきではない。ディフェリンゲルは理解できるものの、抗真菌薬のニゾラールクリームに至っては苦し紛れの処方ではないか?治頭瘡一方は大いに疑問。慢性の炎症で結合織が増生した状態、つまり痤瘡はあるものの、痤瘡を併発した慢性皮膚炎として治療すべきではないのか?以上のように感じました。 初診時処方内容: 荊芥連翹湯7.5g、(痒みを意識して)清上防風湯7.5g(以上1日量、午前、午後食間、眠前に3回に分けて服用)、(色素沈着、慢性皮膚炎を意識して)シナール(ビタミンC製剤)3錠、ビオチン1.0g(以上1日量)、ナジフロキサシンクリーム外用(1日1g)ビオチンの薬効については省略します。 食事療法は当院慢性皮膚炎禁食方に準じました。 五診(4月5日)所見
皮膚炎の改善が著しく、色素沈着も軽度になってきました。「あばたの印象」の改善も著明です。
下顎部の痤瘡は大幅に改善され、色素沈着も改善されつつあります。 八診(6月7日)所見
「あばた」の印象は消失、鼻梁の色素沈着も大いに改善しました。初診時と比較すれば一目瞭然です。
下顎部の痤瘡は消失、色素沈着も消失。ほぼ正常な皮膚に改善しました。
直近、8月30日では、さらに改善傾向が持続しています。
皮膚科領域では効果が一目瞭然ですから、「論より証拠」なのです。臨床家としての経験が決まりきった「標準的治療」より大切な分野です。
皮膚の表面を削り取るような洗顔の後で、べったりと薬剤を塗りつける方法はもちろんお勧めできません。
ドクター康仁
2014年9月14日(日)