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真武湯 冷えの漢方治療 

2006-12-28 09:44:51 | うんちく・小ネタ

真武湯(しんぶとう)の位置づけ、附子湯との比較

真武湯(しんぶとう) 漢代「傷寒論」

組成は茯苓 白朮 附子 生姜 白芍の5生薬である。通陽利水剤の五苓散の組成が、茯苓 猪苓 澤瀉(利水滲湿)白朮(健脾燥湿桂枝(通陽)の同じく5生薬であり、五苓散の利水効果を通陽利水というのに対して真武湯は附子の温陽効果を強調して温陽利水という。赤は温薬、ブルーは涼寒薬、グリーンは平薬である。より体を温める効果はもちろん真武湯である。五苓散は全体として平の感じがする。五苓散の通陽利水は、陽気をめぐらして利水効果を高めるという意味で体を温めるという意味ではない。真武湯証は小便不利、手足重痛(重とは浮腫を指す)四肢冷痛 下痢、腹痛、めまいがして倒れる、心悸、舌質淡胖大、舌苔白?とあり、 

脾腎陽虚水湿泛濫が主治である。つまり、陽気不足と下痢、浮腫、腹痛に効果がある。平易に言えば、冷え症に下痢 眩暈 などの脾腎両虚証が加わった場合に効果があり、その眩暈の特徴は経験から、歩いている時に足元が頼りなくフワフワして雲の上を歩いているような感じがする。立っていてもクラッとして物につかまりたくなる人に適しているような眩暈である。

真武湯に似ている方剤に苓桂朮甘湯がある。

苓桂甘湯(りょうけいじゅっかんとう)漢代「金匱要略」

組成は茯苓 桂枝 ? 炙甘草の4生薬であり、五苓散から澤瀉 猪苓の利水剤2生薬を除き、炙甘草を加えたものである。通陽利水効果は五苓散より軽いと言える。炙甘草で益気脾胃効果を増している。

苓桂朮甘湯証は、体の上部の症候から、起即頭眩(起きるとフラフラする)、口渇なし、喘満、気短(理中丸証より重症)、動悸、胸脇支満(胸脇部まで結鞭がひろがる)心下逆満、清水嘔吐(水気上衝胸)胃部振水音、腹壁軟、小便不利(理中丸証では小便自利)、大便軟、身は揺揺として揺れるなどであり、真武湯証に近い状態といえる。各生薬の効能は、茯苓(滲湿利水)桂枝(通陽化気)?(健脾燥湿)炙甘草(補益中焦、調和)であり、全体として健脾利湿、温陽利水に働く。五苓散より利水効果が薄いが、冷えには効果がある。冷えに対する効果は真武湯より劣る。

苓桂朮甘湯は経験的に、学童期の起立性調節障害や乗り物酔いにも効果がある。

前稿で述べたが、桂枝を干姜に変えた苓姜朮甘湯もある。

苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅっかんとう) 漢代「金匱要略」

「金匱要略」の「腎着病(じんちゃくびょう)」に記載されている方剤である。

腰から下が水風呂に入っているように冷え、小便が近く、腰痛がある場合に使用された。組成は 茯苓 干姜  白朮 甘草 である。

茯苓の利水滲湿作用、白?の健脾燥湿作用、甘草の益気健脾作用を総合すれば、中国医学でいう脾虚湿盛の浮腫みのある状態である。干姜の温里散寒作用をあわせれば、浮腫みがあって冷えがある場合に使用されると推測される。補陽薬、補腎薬の配合は無い。最も基本的な方剤である。利水効果は苓桂朮甘湯より弱く、温里効果はやや強いといえるだろう。方意は散寒除湿であり、利水という効能は薄い。

 腎着病の概念は、原文を(  )内に添付すると、寒邪、湿邪の陰邪が腎の外腑の腰部に侵入するために①冷寒の感じ(腰中冷)②腰痛(腰以下冷痛) ③重い感じ(身体重)などの陽気が阻まれる為の証候と、④浮腫の脾虚の証候が出現する病の概念である。病は下焦(かしょう)に属するが腎の真臓ではなく外腑の腰部であるとする点が特徴で、結果⑤小便自利であるとする。

真武湯の温陽効果を増強させたものに附子湯がある。

附子湯(ぶしとう) 漢代「傷寒論」

組成は真武湯の附子、白?を倍量にして、生姜人参に変えたもので、茯苓 白朮 附子 人参 白芍である。「温陽益気」「除寒湿止痛」が効能であり、附子の温経散寒止痛作用、白?の健脾利水作用を強化し、人参を加えることにより補益の作用を加えたものであると理解できる。傷寒論原文には、附子湯証として、口中和(少陽病でも陽明病でもないことを意味する)、手足冷、身痛、骨節痛、背悪寒、脈沈細、舌苔白滑とあり、少陰身痛証の骨節の痛みに附子湯を使用すべきとある。嘔吐、下痢などの消化管の症状の指示は無く、四肢、骨節(関節)の水滞と冷えと疼痛に用いるように指示されている。つまり、陽気不足、浮腫、関節痛を伴う冷えに効果がある。

以上を総合すれば、陽気不足の冷えに対する効果は、強い順に附子湯、真武湯、苓姜朮甘湯、苓桂朮甘湯である。附子湯は特に関節や体の冷痛に効果があり、真武湯は冷え症に下痢 眩暈 浮腫などの脾腎両虚証が加わった場合に効果があり、苓姜朮甘湯は腰から下が水風呂に入っているように冷え、小便が近く、腰痛がある場合に効果があり、苓桂朮甘湯は下痢 眩暈 浮腫などがあるものの真武湯証より軽症なものに使用すると言えるだろう。

 人体の病状には必ず移行型が存在し、典型例というのはむしろ少ない。漢方でいう加減の必要性の所以である。心悸(しんき)の弁証のうち「水飲凌心」を例にとれば、方薬は苓桂朮甘湯を基本とするが、

嘔吐があれば半夏 生姜 陳皮を加味し、尿量が少なく浮腫がある場合には澤瀉 猪苓 車前子を加味し、浮腫が重く、心悸や呼吸困難などがある場合には真武湯に五苓散や車前子(しゃぜんし)? 子(ていれきし)などを加減することなどである。

    続く、、


疎経活血湯 冷え性の漢方治療

2006-12-27 11:38:27 | うんちく・小ネタ

少腹逐瘀 湯との比較

   症例から

現実の臨床では、方剤をそのまま使うことは稀である。

つい二ヶ月前34歳の女性で、下腹部の冷えと針で刺されるような痛みで漢方外来を受診された。脈象は沈細渋、暗青紫舌で舌下静脈怒張、皮膚が乾燥し、いわゆる鮫肌であり、下肢が冷え、靴下を履いて寝ないと眠れないくらい足先が冷えるとのこと。膝や手首が痛み、整形外科でリュウマチの検査を受けたが異常ない。生理痛があり、血塊が出ると痛みが軽減するとのこと、イブを服用して生理痛をコントロール、月経量は少なく、月経期間は3日と短めであった。また、友人に進められデトックス療法と称して「硫酸マグネシウム(下剤)」と「オリーブオイル」と「青汁」を毎日服用し、「ドクター○○水」というものを連日1リットル以上飲んでいるとのことであった。皮膚は鮫肌であるが、朝起床すると顔面や手足が腫れぼったい感じがあり、活動とともに軽減すると話しておられた。

中国漢方医学的な診断は血虚(けっきょ) 寒凝血淤(かんぎょうけつお) 風(寒)湿症(ふうかんしつひしょう)である。

養血剤として四物湯(当帰 白芍 熟地黄 川芎)、風湿剤として防己 防風 威霊仙 白芷 を、浮腫みっぽいことからやや水湿停滞が疑われるので湿剤として茯苓 ??を、血停滞の証には活血化剤として、桃仁 牛膝 紅花 莪? を、青汁と、苦寒剤である硫酸マグネシウムは体を冷やすので中止してもらい、代わりに和中導滞、散寒止痛の目的で陳皮 大腹皮 炙甘草 生姜 小茴香を、化熱温燥の防止の目的と活血目的に生地黄と益母草を加えた。「ドクター○○水」は中止してもらい、温めたほうじ茶や紅茶にしていただいた。治療開始後1ヶ月、生理痛も無く、下肢足先の冷えも改善、関節の痛みも消失し大変喜んでいただけた。

 先日福岡での国際薬膳シンポジウムで来日された上海中医科大学の朱教授と趙博士と私の3人で神戸での食事の際に、「鈴木先生の処方は疎経活血湯に似ているね」と中国の先生方が指摘された。

疎経活血湯(そけいかっけつとう)明代「万病回春」の組成は

当帰 白芍 熟地黄 ?? 牛膝 陳皮 桃仁 威霊仙  防己 羌活

防風  龍胆草 茯苓 甘草 生姜であり

効能 風湿 養血活血

主治 風湿症 血虚

血虚の脈絡空虚に乗じて風湿の邪が侵襲し、気血を阻滞した状態に対して用いる。

関節痛 痺れがあり、長期になると血淤が生じ夜間に疼痛が強くなる。湿盛であれば浮腫み、関節痛、関節が動かしにくく、四肢が重だるい、風盛であれば遊走性の痛みを呈する。血虚のために皮膚に艶が無く、筋肉のやせを伴う。と清書にある。

 なるほど、私の処方は、疎経活血湯から龍胆草を除き、紅花 莪? 益母草 生地黄 小茴香 大腹皮を加えたものである。大腹皮には腹満、腹張の時に下気作用にて、中焦を気持ちよくさせる下気寛中作用の他に利水消腫作用もある。中国医学では一般に上半身の痛みには羌活を、下半身の痛みには独活をという使用方式があるが、独活には独自の臭気があって日本女性には向かないので私は羌活にしている。

少腹逐(しょうふくちくおとう) 清代「医林改錯」と比較してみると

小茴香 干姜 延胡索 没薬 肉桂 当帰 赤芍  蒲黄 五霊脂の組成である。清代の王清任の方剤で婦人の生理痛の9割以上に効果があるとされる。

方意は活血化瘀 温経止痛であり、温里剤の小茴香 干姜 肉桂、理気止痛剤の延胡索、更には活血祛瘀剤の「失笑散(蒲黄と五霊脂)」と赤芍、鎮痛剤の没薬の配合になっている。 少腹とは下腹部のことであり、その痛みは血に特徴的な固定性の刺痛であり、舌診で斑舌などや舌下静脈の怒張などが見られることもある。

ただし、関節痛(中国医学で症という)への適応が無い。何故なら、羌活 威霊仙 防風 白などの配合がないからだ。

日本女性の場合は圧倒的に「寒症」が多い?

中国留学時代の経験と帰国して臨床に携わってから感じることを比較すると、日本女性の場合は圧倒的に「寒症」が多い気がする。加えて、日本の場合はその「寒症」を悪化させる要因が多い。 たとえば冬場でも薄着を好むとか、冷たいものを多く飲むとか、真冬でも氷入りの水を飲むとかの類である。体を冷えさせすぎる気がしてならない。

       

       続く、、


当帰生姜羊肉湯 冷え性の薬膳

2006-12-26 12:42:00 | うんちく・小ネタ

当帰 羊肉のスープ

漢代の医学書「金匱要略(きんきようりゃく)」には当帰(とうき)と羊肉を使った現代で言う薬膳の始まりのような当帰生姜羊肉湯という方剤がある。

製法

当帰三両(1両が50gで150g)生姜5両(250g)羊肉一斤(500g)に水八升を加えて三升に煮詰めて、7合を温めて日に3回服用すると原文にある。日に一升以上飲むのはやや難儀な感じがするが、腹が冷えて、痛みがある場合には服用すべしとある。

羊肉は肉類の中でも体を温める作用が強く、中国では冬場に愛される肉である。夏場は体が火照るということで中国人は食べない。さて羊肉は寒を除き、陽を補うとされる。冷え性の他にも、冷え性を伴う下痢や下肢の浮腫みにも効果がある。

養血活血の当帰、温中散寒の生姜を用いている。唐代「千金方」には白芍を加えて腹痛を軽減する方や、宋代「済生方」には補気薬である黄耆(おうぎ)と人参(にんじん)を加え、当帰と共に養血を促す当帰羊肉湯がある。中国では産後の冷えと貧血に羊肉と生姜、当帰を使った民間料理がある。

当帰(とうき)の中国薬理学

当帰には独自の匂いがあり、「あああの匂いか」と思い出される人も多いと思う。噛みしめると甘味と共に、少し辛味を感じる。私は「おいしい」と感じる。

当帰は補血、養血の要薬と呼ばれ、血虚による月経異常を補血調経する。有名な補血養血方剤である四物湯の組成は 当帰 川 白芍 熟地黄である。

当帰の活血止痛作用は血(おけつ)と関係する痛みに有効であり、打撲、慢性関節リュウマチに使用される。

中国薬学理論では一般には当帰のような補薬は滋?が多く(平たく言えば胃にもたれる)補中不動といわれる。しかし、当帰には滋?の性質が無く、補中有動と称される。一般的に理気薬は有動であり行中有働といわれるが、当帰は「補薬の気薬」と言われている。

当帰の副作用ともいえる作用は潤腸作用であり、このことが血虚に伴う便秘に当帰を配合する理由である。中国漢方医は腎陽虚の便秘には補腎剤であり潤腸作用のある肉?蓉、血虚に便秘が合併した場合には当帰を配合することが多い。

当帰には尾の部分の当帰尾と主根部分の当帰身に分けられ、中国医学では当帰尾は活血に働き、当帰身は養血に働くとされている。中国漢方医はわざわざ「全当帰」と処方箋に書く場合がある。それは当帰尾と当帰身を全部使用するという意味である。

当帰(とうき)の明代伝説

当帰(とうき 中国語でダングイ)の名称は漢代以前にさかのぼる。ずっと後世の明代に面白い伝説があるので紹介したい。

甘粛省(州都 蘭州)は西に新疆ウイグル自治区、東に?

西省、北に内モンゴル自治区、南に四川省に接する内陸部である。黄河が省中央部を横断し、省域は西北に向かって長く延びる。これを河西回廊という。 王維(おうい)の詩、「渭城の朝雨は軽塵を潤す客舎青青柳色を新たにす 君更に一杯の酒尽くすを勧む 西のかた陽関をいでれば故人なからん」で有名な黄河支流の渭水(いすい)の南に位置し、人跡未踏の深山で「大山」という名の山があった。

結婚して一年もたたない王勇という若者が、村人男仲間の青年同士の度胸比べの話題の際に「大山に分け入っていく」と断言した。

「お前は女房がいるんだ、無茶なことはするな」

という親友の諌めも聞かず、母親と女房のいる家にかえるや否や

「もし私が、三年以内に帰ってこなかったら、妻よ、それ以上私を待つ必要はない。自由に再婚して、新しい家族を得るように」

と、嘆き悲しむ家人をのこして、旅立った。そして3年が過ぎ、心労と悲しみに打ちひしがれた妻は、食事は喉を通らず、夜は眠れず、精神は不安定になり、顔色も青ざめ、病床に臥すようになった。漢方医学で言う気血両虚、心脾両虚の状態になり、生理も止まってしまった。王勇の母は嫁の看病に明け暮れた。母親はついに、嫁の再婚の相手を探し、

「これほど待っても王勇は帰ってこない。おそらく大山で獣に襲われ白骨と化しているだろう。王勇の残した言葉に従って、、」

と再婚を勧めた。運命のいたずらか、実直で初老の男と再婚し、体調も徐々に快方に向かいつつあった女のもとに、なんと王勇が生還したという知らせが入った。最愛の夫の生還に驚くと共に、もう再婚してしまった自分を叱責すると同時に、王勇のもとに帰れないわが身を嘆く毎日が続いた。友の計らいで再会を果たした二人であったが、ただただ泣くばかりで、この日を境に、幾分快方に向かっていた女の容態は悪化の一途をたどり、臥して起き上がれなくなってしまった。医師も嘆息するのみで、良薬の持ち合わせが無かった。

女の再婚相手は女の事情をすでに母親から聞かされていた。なんと、王勇が帰ってきたことを聞き及んだその日から、再び王勇のもとに女が帰るよう、妻と王勇の母親に申し出た。王勇は大山で採取した薬草の一つを友人に託して男に届けた。薬草の根を煎じて飲んでいた女は、二、三もすると快方に向かいだし、しばらく飲み続けるうちに完全に回復したのである。そして、別離数年の歳月の後、王勇と妻は再びもとの夫婦となった。この話から、この薬草の根は、この話を聞いた人々が、

「夫を想う妻は、当然帰するべきところに帰すべきである」として当帰(とうき)と呼び始めたと言う。現在も、中国の多くの地方でこの話は語り継がれている。

当帰の養血調経(血を養い月経異常を治すこと)、活血化

(血液の循環を改善し、体内の鬱結状態を改善すること)の作用は、多くの処方に用いられている。

私流脚色

妻を王勇に返した初老の男は多分医師であったのではないだろうか。もちろん当帰の持ち合わせは無かったから十分な治療効果が得られなかった。当帰という神薬があったのは言うまでもないが、死んだと思っていた最愛の夫のところへ帰れるという精神的な喜び、生きる意欲が病状を全快させることを知っていたに違いない。もし医師であったら、気血双補(気と血を両方補い養うこと)の目的に、人参や黄耆を当帰生姜羊肉湯に加え、粥を炊いて食べさせたであろう、、、、

続く、、


八味地黄丸 腎陽虚の冷え性の漢方治療

2006-12-25 10:42:27 | うんちく・小ネタ

八味地黄丸 右帰丸 牛車腎気丸の比較

陽虚とは?

虚による冷えは高齢化社会になって増えてきました。陽虚とは、

ある病態を陰陽弁証し場合に陽が不足していることを意味します。

中医学が陽虚としてあげている症候群は以下のようになります。

陽虚症は気虚症が前提となります。

一般症状としての気虚症

①神疲乏力(倦怠無力感)

②気短(息切れがする)

③声低(話し声が低い)

?言(疲労して話したくない)

⑤面色淡白無華(顔色が淡く、つやが無い)

⑥眩暈(めまい)これは気虚、血虚、陰虚ともに共通しています。

⑦淡(白)舌 薄白苔(舌の色が淡く、苔は薄く白い)

⑧虚無力脈(脈が虚弱で力がない)

⑨自汗(覚醒時に自制不可能な汗を多量にかく)

⑩動即更甚(動くと上に挙げた症状が悪化する)

    から⑩ぐらいの症状の組み合わせを気虚証としています。

陽虚症はこれらに加えて、気の温煦機能失調(虚寒証)と、臓腑の機能低下の症候があります。

⑪畏寒肢冷(いかんしれい):寒がりで、手足が冷たい。

臥嗜睡(けんがしすい):身を縮めて横になってうとうとと眠る

⑬顔面淡白 口淡不渇:顔色は血色が無くて白く、喉が乾かない。

⑭大便溏滑:水様便がでる。

⑮小便清長:薄い小便がだらだらと出る。

⑯淡白舌白苔:舌質が淡く、白い苔がある。

⑰沈遅無力脈、細脈:脈が細く、無力である。

以上が陽虚(症)です。

腎陽虚症とは?

中国漢方医学での腎病(腎陰虚、腎陽虚、腎精不足、腎気不固、腎不納気)のうちの一症候群と考えられます。生体の陰陽の本家本元は腎陰と腎陽です。このうち腎陽が不足することによって引き起こされる症候群を腎陽虚証と考えてよいでしょう。腎陰虚、腎陽虚、腎精不足、腎気不固までの共通の症候は、①腰酸膝軟(腰や下肢がだるく痛む) ②耳鳴耳聾(耳鳴りや難聴がある) ③尺脈沈取無力(脈診で腎の機能を示す尺脈が弱い)の3症候です。

そこに、腎の性機能を主る機能の低下として、男性の④陽萎(ようい)(インポテンツ)早泄(そうせつ)(早漏と同意)、女性の⑤宮寒不孕(きゅうかんふよ)(子宮が冷える為の不妊症)が加わります。さらに、陽虚の7証候

    畏寒肢冷⑦ 面色淡白⑧口淡不渇⑨大便溏薄(溏白)(溏滑)⑩小便清長

    沈遅無力脈 或いは細脈 が加わります。以上の症候の集まりを中国医学で

腎陽虚症といいます。

治療原則は温補腎陽であり、腎気丸(八味地黄丸)や右気丸(うきがん)を使用します。

陽虚タイプの冷えとは?

一般的に腎陽虚による冷えと理解していいでしょう。その症候の特徴は、高齢者に多く、畏寒肢冷 精神不振 腰酸膝軟 尿が薄く多い 夜間頻尿 または高齢者でない男性では年齢不相応のインポテンツがあり、女性では不妊があり、消化器症状としての下痢がある場合もあり、舌質は淡で、舌苔は薄く、脈は細弱であることが多いものです。腎気丸(八味地黄丸)加減などで治療します。

腎気丸(じんきがん)(八味地黄丸はちみじおうがん

腎気丸は補腎陰の六味地黄丸に附子と桂枝を加味したものです。そもそも腎陰を補う六味地黄丸に附子と桂枝を加味すると何故、補腎陽に働くのかと言えば、中国医学の治療経験によるものですが、中国医学の理論では、附子桂枝の配合で「少火生気」といい、温薬である二生薬を六味地黄丸に加えることによって、「気(陽気)を生む」とされています。

基礎となる六味地黄丸の組成は?

3つの補薬である補腎陰の作用の熟地黄、補肝腎の山茱萸、補脾固精の山薬と、

3つの瀉薬である泄腎濁防滋?の作用の澤瀉、山茱萸の対薬としての牡丹皮、健脾利水の茯苓の計6生薬からなる方剤です。六味地黄丸は中国漢方で最も有名な方剤と言っても過言ではありません。古来から、①腎陰虚②陰虚発熱③小児発育不全

④消渇病(糖尿病)に使用されてきました。

右帰丸(うきがん)

組成は

熟地黄 山茱萸 山薬 枸杞子 鹿角膠 ? 当帰 肉桂 杜仲 炮附子であり、温熱薬が主体で、腎気丸の補腎陽作用を強めたものである。枸杞子、熟地黄などの補陰剤に鹿角膠、附子などの補陽剤を加えることによって、より強い補陽作用が得られることを中国医学は経験的に知っていたらしい。 それで、後世、中医学理論の「陰中求陽(いんちゅうきゅうよう)」の処方例とされています。ともかく、冷え、夜間頻尿、インポテンツなどに腎気丸よりも強い補腎陽効果があるとされます。当帰が配合されていることから血虚による老人性の乾燥性皮膚掻痒にも効果があります。

牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)

腎気丸の桂枝を肉桂にかえ、活血利水の牛膝(ごしつ)と滲湿止瀉の車前子(しゃぜんし)を加味したもので、比較的年齢の高い人 下半身や手足の冷え 寒がり 腰酸膝軟 夜間頻尿 冷え症 歩くのが億劫 下肢の浮腫などがある場合に使用されます。また、腎陽虚の著しい場合の下痢傾向に対して、尿量を増やして便を硬くするという中国医学の「利小便実大便」の理論に基づいて処方されます。糖尿病性腎症によって浮腫が出現した場合などにも使用されます。

  

実際の診療の感想

日常の臨床では、腎陽虚で冷えが強い場合には、干姜(がんきょう)茱萸(ごしゅゆ)烏薬(うやく)などを、夜間頻尿には仙霊脾(せんりんひ)仙茅(せんぼう) 益智仁(やくちにん)金桜子(きんおうし)実(けんじつ)などを、冷えを伴う下痢には補骨脂(ほこつし)益智仁、肉豆?(にくずく)などを加味します。とにかく、高齢者の冷えには、必ず腎陽虚の関与を前提に診察を進めます。しかしながら、同じく冷えを訴えられている高齢者でも、便秘を訴えられる場合も多く、その場合には、腸を潤し便通を整える潤腸通便作用のある肉? 蓉(にくじゅよう)、菟? 子(としし)、鎖陽(さよう)などの補陽薬を配合するようにしています。また、胡桃(くるみ)にも優れた潤腸通便作用があります。

患者さんは一人一人さまざまです。方剤そのままが当てはまる教科書的な症例は少ないのが事実です。

      続く、、


苓姜じゅっ甘湯 冷え性の漢方治療

2006-12-22 12:15:41 | うんちく・小ネタ

苓姜? 甘湯 独活寄生湯 羌活勝湿湯の比較

高齢者が腰周りの冷え、頻尿、腰痛を訴えて漢方外来を受診することが多い。大別して、腎陽虚によるものは腎気丸(八味地黄丸)加減を行う。浮腫がある場合には、牛車腎気丸、あるいは腎気丸に五苓散などを加減する場合がある。日常の診療で想起する有名な方剤を挙げて、「思考の流れ」を述べてみたい。

苓姜? 甘湯(りょうきょうじゅっかんとう) 漢代「金匱要略」

「金匱要略」の「腎着病(じんちゃくびょう)」に記載されている方剤である。

腰から下が水風呂に入っているように冷え、小便が近く、腰痛がある場合に使用された。

組成は

茯苓 干姜  ? 甘草 である。

赤は温薬、(ブルーは涼寒薬)、グリーンは平薬である。

茯苓の利水滲湿作用、白?の健脾燥湿作用、甘草の益気健脾作用を総合すれば、中国医学でいう脾虚湿盛の浮腫みのある状態である。干姜の温里散寒作用をあわせれば、浮腫みがあって冷えがある場合に使用されると推測される。補陽薬、補腎薬の配合は無い。最も基本的な方剤である。

方意は散寒除湿である。

 腎着病の概念は、原文を(  )内に添付すると、寒邪、湿邪の陰邪が腎の外腑の腰部に侵入するために①冷寒の感じ(腰中冷)②腰痛(腰以下冷痛) ③重い感じ(身体重)などの陽気が阻まれる為の証候と、④浮腫(形如水状)の脾虚の証候が出現する病の概念である。病は下焦(かしょう)に属するが腎の真臓ではなく外腑の腰部であるとする点が特徴で、結果⑤小便自利であるとする。腎気丸が虚労腰痛、小便不利に用いられるのと対照的である。

独活寄生湯(どっかつきせいとう)唐代「備急千金要方」

独活 防風 秦艽 細辛 桑寄生 肉桂 杜仲 牛膝 人参 茯苓 甘草 

当帰 熟地黄 生地黄 白芍 川芎 が組成である。

中国医学では、膝や腰の痛みなど、痛みを伴うリュウマチ様疾患を症(ひしょう)というが、症日久、つまり症が慢性化し、肝腎不足に陥り、気血ともに虚してきた場合に使用される。

独活 防風 秦 細辛は風湿、鎮痛に働き、桑寄生 肉桂 杜仲 牛膝は益肝腎に働き、人参 茯苓 甘草は補気に働き、熟地黄 白芍 当帰 川芎 は四物湯であり養血に働く。生地黄を加える場合もあるが、これは温薬による「燥」防止の「滋陰」の意味である。

方意は、風湿、鎮痛、益肝腎、益気養血である。 温薬が多いため、やはり冷えを伴う症(ひしょう)に効果的である。冷えが強ければ附子 干姜を、湿が強ければ防己などを加味する。

苓姜?甘湯(りょうきょうじゅっかんとう)に比較して、生薬の数も多く、関節、腰の「慢性の痛み」を伴う冷えに効果的である。風湿薬と共に、白? を除いた益気養血の八珍湯(はっちんとう)(四君子湯と四物湯)が加味されていること、直接の補肝腎薬が配合されているのが特徴である。

羌活勝湿湯(きょうかつしょうしつとう)清代「内外傷弁惑論」

寒湿が原因の症(ひしょう)や頭痛に用いられる方剤であるが、冷えを伴う場合に適宜、干姜 肉桂などを加味すると頭痛、関節痛、冷え共に改善する場合がある。頭痛、関節痛などの特徴は、冬季や雨天の際の増悪であり、舌苔が厚く白?苔(はくじたい)を呈することが多く、胸悶(むなぐるしさ)眩暈(めまい)などの他に、悪心 下痢または軟便などの消化器症状を伴う。四肢には軽度の浮腫が見られることもある。風湿頭痛という中国医学の概念があり、頭痛の特徴は物がかぶさっているような感じのする頭痛である。

組成は

羌活 独活 炙甘草 藁本 防風  蔓? 子である。蔓? 子(まんけいし)は頭痛に効果がある勝湿剤である。冷えとは関係なく、高温多湿な夏場に症状が悪化する場合もあり、この意味では「冷え」を主症にする病態ではない。その場合には、胸苦しさや頭痛、軟便、悪心嘔吐などの消化器症状を伴うことが多い。

以上挙げた方剤は、いずれも「湿」と「痛み」と、多くの場合「寒=冷え」を伴う症候に用いられる。明らかに腎陽虚の証を呈する場合以外に考慮すべき方剤である。

    続く、、