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慢性腎炎の漢方治療 第31報

2013-01-31 00:15:00 | ブログ

岳美中氏医案 湿疹内陥案

45歳男性。慢性腎炎を患い、いろいろ治療を変えても効果が無かった。発病原因を問うと、8年前、皮膚湿疹が生じ、下肢に多く、鼠径(そけい)部に最も多く、痒みが酷く、出没を繰り返し、湿疹が引くと腰に不快感があり、また微痛があった。湿疹は長く治療したが治らなかった。検査:脈大かつ数、舌苔黄?。尿検査:蛋白(4+)赤血球2530/HP(毎視野)、円柱あり。

中医弁証:湿毒内陥。袪湿排毒を治則とする。

方薬:麻黄連翹赤小豆湯麻黄6g連翹12赤小豆24杏仁9g甘草6g生姜9g桑白皮9g大棗4枚。

煎じ4剤にて、発汗無く、麻黄を9gまで増量し、微汗を見た。さらに10剤服用し、湿疹は漸減した。出現しても、すぐに落屑した。鼠径部には基本的に湿疹は出なくなった。小便は清、汗が出やすくなったが、舌中心部はまだ黄であり、脈の数象は減じたが、大象はまだあった。

人参敗毒散に改め、数剤を服用したところ、湿疹は基本的に消失した。膝の外側に12個出現することはあったが、掻くとすぐに破れ消失した。検査では尿蛋白(2+)赤血球(1~15)/HP

評析

張仲景は麻黄連翹赤小豆湯原方を、瘀熱在裏の発黄症に用いた。(類聚広義)では、この方を疥癬内陥、全身が痒く、発熱し喘咳があり全身が浮腫む場合に使用している。今回、岳氏はこの方を湿疹内陥慢性腎炎に使用し、一応の効果を得た。方中、麻黄は経絡肌表の瘀滞を疏通し、連翹は経絡の積熱を瀉し、赤小豆、桑白皮は利水消腫に、杏仁は利肺透表に、甘草は諸薬を調和させ、生姜大棗は調和営衛を調和させ、以って袪湿排毒を助けるのである。

ドクター康仁の印象

 慢性湿疹と慢性腎炎の直接的な関係は少ないでしょう。湿疹部位に溶血性連鎖球菌などの感染により丹毒様病変が出現すれば、急性腎炎が惹起されることは良く知られています。それにしても、麻黄連翹赤小豆湯14剤、と、人参敗毒散の数剤で、慢性に経過した腎炎が改善されるとは早合点でしょう。尿蛋白の定量がなされていませんし、尿沈渣中の赤血球が1なら大いに改善ですが115とばらつきが大き過ぎます。急性腎炎の発症機序が繰り返し、患者を襲ったのかどうか?とも思える医案です。

人参敗毒散についてご紹介しておきます。

出典:太平恵民和剤局方

益気解表、散風祛湿に作用し、原則「気虚の風寒症」に用いられる方剤です。

組成:羌活 独活 柴胡 前胡 桔梗 枳殻 川芎 生姜 薄荷 茯苓 人参 甘草

君薬は羌活 独活であり、人参ではありません。白朮を去った四君子湯(人参 茯苓 甘草)が配伍されています。気機調整は柴胡↑前胡↓と桔梗↑枳殻↓の様にバランスが取れています。この気機調整と健脾薬である茯苓、人参の作用により、感冒性下痢症に対して止瀉に働きます。この止瀉作用は流れに逆らい舟を挽くという「逆流挽舟(ぎゃくりゅうばんしゅう)」と表現されています。「医宗金鑑」には、風寒を外感して痢となりたる者に使用すると記載があります。

「外科経験方」には、廱疽、疔腫、発背、乳廱などの症で憎寒壮熱し、甚だしくは頭痛拘急し、傷寒に似たる症状の者にも使用されると記載がありますので、本案もそれを真似たものでしょう。二活(羌活 独活)、二胡(柴胡 前胡)は川芎と共に、半表半裏の邪気を外へ出すなどと説明されますが文学的表現で、定量化できません。

人参の役割は、補気駆邪、邪気の復入を予防、益気生津というところになります。

2013131日 記   


慢性腎炎の漢方治療 第30報

2013-01-30 00:15:00 | ブログ

岳美中氏医案 脾腎欠虚案

31歳女性 党幹部。

1973825日来診。患者自身が慢性腎炎を既に2年患い、常に、汗が出て悪風があり、微熱、腰酸腿軟、舌淡白。気虚表不固と診断、(金匱要略)防己黄蓍湯:黄蓍15g防己12g白朮9g炙甘草9g生姜9g大棗4g 14剤を処方した。長期に玉米須を毎日乾燥品60gを洗浄し、煎じてお茶の代わりに服用するように伝え、6ヶ月間で腎機能を増強することを狙った。(中国民間では蛋白尿の軽減に玉米須を用いる

920日 二診:脈は滑に転じ、歯痕あり、汗は既に止まって、悪風は無かった。尿検査では変化がなかった。前方に茯苓9gを加え、14剤を処方。

1016日 三診:右脈はまだ滑、全身の感覚は不快なくも、月経血に血塊があり、かすかな腹痛があり、食欲や睡眠が少し悪かった。検査:尿蛋白微量、白血球偶見。

(金匱要略)当帰芍薬散をせんじ薬にして調理経血を図った。処方:当帰9g川芎6g白芍19g澤瀉18g白朮9g茯苓9g 10剤を処方した。

115日四診:脈に虚数が現れた。舌白、咽頭痛、不眠。尿検査で蛋白(+)管型2個。脾腎が久病にて虚し、腎脈は咽喉を巡るので、咽喉痛、脈虚舌白は脾精不足である。すでに2ヶ月治療し、蛋白尿が消失せず、時々管型が出現し、長期的な治療に切り替えて、

芡実合剤を採用した。芡実30g白朮12g茯苓12g懐山薬15菟絲子24金桜子24黄精24g百合18g枇杷葉9g党参9g 14剤を処方した。

1123日五診:脈は依然として虚、左関は弦、舌白、歯痕あり。月経正常。尿検査:蛋白微量、赤血球1~2、白血球23。前方に山楂肉9gを加えて、蛋白尿の消失を強化した。

その後、19741月から8月まで、芡実合剤を服用し続け、病状は次第に好転し、少しずつ健康を回復した。経過中に咽喉痛が出現した時には、原方に牛蒡子連翹を加えるとすぐに快癒した。睡眠が不良の時には、酸棗仁合歓皮夜交藤にて随時効果が得られた。

1975216日、来院時には、活き活きとしており、面色紅潤であった。既に半日仕事が出来るようになった。  (岳美中医案医話集)

評析

芡実合剤方中、白朮、茯苓は益気健脾利水、運化を促進し、水気が内停しないように働く:芡実 菟絲子 懐山薬は脾腎双補に作用し、参、朮、苓を配合するは陰陽両補に治療し(党参の生津養血作用を補陰としたようです);百合 黄精 金桜子は肺、脾、腎の三臓に入り、その不足を補し、効力は比較的強い。枇杷葉は清熱入肺し、肺気を粛降させ、水道を利下、尿を膀胱に下ろす。

諸薬を合わせて用い、補腎健脾に共に奏功し、宣肺利水の効となる。

ドクター康仁の印象

粛降については評析中に記載がありますが、宣肺については記載がありません。それが、評析に突如として宣肺利水という解析が出てきます。一種の誤魔化しに近い評析です。

案中に、腎脈は咽喉を巡るので、咽喉痛、脈虚舌白は脾精不足である。との記載がありますが、疑問です。単に一過性の風熱と考えても間違いではないと私は思います。牛蒡子も連翹も原則風熱の治療薬だからです。咽頭粘膜の発赤等の所見の有無が案中に記載がありません。根拠と推察という肝腎なところが省略されています。

治標の手法が宣肺利水とすれば「標」としての浮腫があると思いきや、その記載は無く、歯痕のみを以って、水湿内停とする根拠は薄いでしょう。蛋白尿があれば腎炎、腎炎なら利水というワンパターンな思考経路しか見えてきません。

芡実合方は使える方剤でしょう。全体として薬性が平に近く、長期服用が可能だからです。

2013130日  記


慢性腎炎の漢方治療 第29報「総論」

2013-01-29 00:15:00 | ブログ

本稿でこれからお話することは、現代の中国伝統医学(中医学)で慢性腎炎はどのように捉えられ、どのような生薬治療がおこなわれているかの総論です。

現在までIgA腎炎(腎症)21報、隠匿性腎炎について7報をアップしました。この中には急性発症型IgA腎炎もあれば、隠匿性腎炎に分類していいものか迷う症例もありましたし、いわゆる慢性腎炎の範疇に入るものもありました。中国医療現場では、腎炎の分類に関してまだ混乱があるものと推察します

()慢性腎炎の概念

慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)は多種の病因によって惹起され、その病理も多彩であるが、腎糸球体を原発とする疾患群である。臨床症状の特徴は、病程が長く、病状は緩慢に発展し、蛋白尿あるいは血尿、円柱を含む尿および程度の異なる高血圧、水腫(浮腫)と慢性の進行性腎機能障害である。本病の発生年齢はまちまちであるが、青年期が多い。急性腎炎が慢性腎炎に発展するものがあるとはいえ、大多数の慢性腎炎は組織病理分類によって病状が決定される。

()慢性腎炎の病因病理

大多数の慢性腎炎の病因は不明瞭である。急性の溶血性連鎖球菌感染後の腎炎が遷延して1年を越えれば慢性腎炎に転入するのは可能である。慢性腎炎の中には明確な急性腎炎の病歴を持つものは1520%と少ない。

慢性腎炎は単一の独立疾患ではなく、発病のメカニズムは皆同じではない。大部分は免疫複合体(Immune complex 以下IC)病であり、循環血液中の可溶性ICの糸球体沈着によるものもあれば、或いは、抗原(外来性の生体に植えつけられた抗原、或いは腎糸球体固有の抗原)と対応する抗体が糸球体局部でICを形成し、補体などの炎症性メディエーターが関与し、組織損傷を惹き起こす。後期になり、IC由来の反応が終止し、非免疫性の腎傷害が慢性腎炎の発生と発展の中で一定の地位を占める。総合して言えば、以下のファクターが挙げられる。①腎糸球体病変が惹き起こす腎内の動脈硬化②血流力学による高ろ過(hyper-filtration)などが惹き起こす糸球体損傷③高血圧がもたらす加速的腎糸球体硬化④腎糸球体内の細胞増殖と、硬化。

以下の組織病理表現は日本のそれと異なっていますので、原文をそのまま載せます。

 系膜増生性、膜性、系膜毛細管性、局灶硬化性などが、慢性糸球体腎炎の典型的な病理変化である。

(三)              慢性腎炎の臨床特徴

慢性腎炎は密かに発病し、進展は緩慢で、症状には軽重がさらに経時的に変化する。一般論では、病状は停滞せず、経時的に段々と発展して腎機能低下になる。その主要な臨床特徴は以下のようなものである。

1. 水腫

患者は程度の違う水腫を持つ。程度軽重があり、寛解期には完全に消退する。

2. 高血圧

慢性腎炎患者の一部分には高血圧症状があり、血圧上昇が持続性もあれば、間歇的に出現することもあり、拡張期血圧が90mmHg以上になることが特徴である。

3. 尿変化

蛋白尿が常見される。程度はプラスマイナスから4+で各人異なり、尿沈渣には中程度の赤血球、白血球と顆粒、硝子円柱があり、急性発作期には血尿が明らかになり、はなはだしい場合には肉眼的血尿を見る。

4. 貧血

慢性腎炎患者で水腫が著明な時に、軽度の貧血があり、血液希釈と関係するとも言える。臨床症状では、眩暈、乏力、心悸、面色蒼白、唇爪色が淡などである。

5. 腎機能不全

糸球体ろ過値(GFR)、クレアチニンクリアランスCcrが下降するのが主要な証候である。臨床上で少ない尿或いは無尿、悪心嘔吐、食欲減退、嗜睡、皮膚掻痒などの症状が出現する。

6. 合併症

(1)心筋傷害:高血圧、貧血と併発する動脈硬化などの多種の原因で惹起される。心臓拡大、心電図異常、不整脈、重症化すれば心不全となる。

(2)感染合併:慢性腎炎患者は免疫力の低下により容易に感染症を併発する。尿路、気道感染症が多見され、臨床症状が常に明らかでないことがあり、診断と治療が困難である。

(四)慢性腎炎の診断と鑑別診断

診断

典型的な慢性腎炎の診断は難しくなく、診断の主要な根拠は病歴と症状、検査所見で確診する。その診断基準は以下である。

(1)発病が緩慢で、病状が遷延し、臨床症状に軽重があり、或いは経時的に悪化する。病状の進行と共に、腎機能が低下し、貧血、血尿、電解質異常などが出現する。

(2)水腫、高血圧、蛋白尿、血尿および管型尿などを伴う。臨床表現は多種多様でネフローゼ症候群や重症高血圧を伴う場合もある。

(3)病程中に腎炎急性発作を見るものがあり、呼吸器道感染症の如き常因感染により、発作時には急性腎炎類似症状を呈する。一部には自然寛解するものもあれば、一部には病状が加重するものもある。

鑑別診断

慢性糸球体腎炎と以下の疾患鑑別

(1)慢性腎盂腎炎:慢性腎盂腎炎の晩期には大量の蛋白尿と高血圧を見ることがあり、鑑別が困難な場合がある。女性に多く、多くは泌尿器系感染症の病歴がある。腎機能障害は多くは尿細管型傷害を主として、過塩素酸中毒、低燐性腎性骨病もあるが、高窒素血症と尿毒症は比較的軽度で、進行は大変緩慢である。静脈性腎盂造影、放射性同位元素を使用するシンチグラムは有効な補助診断である。

(2)原発性高血圧症に続発する腎傷害:腎炎は青壮年期に多く発生する。高血圧症に続発する腎傷害は中年以上の病人に発生する。病歴が非常に重要である。高血圧が先に存在したのか、蛋白尿が先に存在したのかが、鑑別上重要である。高血圧症に続発する腎傷害患者では蛋白尿の程度は比較的軽度で、持続性血尿や赤血球円柱は稀であるが、腎機能の傷害が比較的重い。腎生検が有効な鑑別補助となる。原発性高血圧と最初に診断された症例の20%に、後に腎生検を経て慢性腎炎と確定診断を受ける症例がある。母集団の人数などの記載はありません。

(3)SLE腎炎:SLE腎炎(ループス性腎炎)の臨床症状と組織学的変化は慢性腎炎と類似するものがある。女性に好発し、発熱、皮疹、関節炎などの症状を示す。末梢血液細胞の減少、免疫グロブリンの増加、LE細胞と抗核抗体が陽性となる。血清補体は水平か減少する。腎の組織学的検査にてICの糸球体沈着を見る。IC中にはIgGが強く免疫蛍光検査で認められる。

(4)その他:過敏性紫斑病性腎炎、糖尿病性腎症、通風腎、多発性骨髄腫などによる続発性の腎傷害は、臨床症状は慢性腎炎と類似するものがあるが、これらの疾患には腎傷害の他に原病の症状があり、病歴を詳細に検討し、細心の検査により鑑別が可能である。

慢性腎炎に対する中医(学)的認識 原文では中医の認識です。

()病因病機

慢性腎炎は中医の「水腫」「腰痛」「虚労」の範疇に属する。本病の発生は外邪侵襲により、脾腎が内傷することによる。脾腎の効能が失調し、気陰虚損により、体内の水津散布、気化に傷害が発生し、水液が肌膚に泛溢して腫満をみる。よく見られる原因①潮湿の所に居住したり、水や暴雨の中を歩いて渡るような生活をしていると、水質が内侵し、或いは平素飲食不節により、湿が中焦に内蘊し、脾失健運になる。湿鬱加熱の如く、湿熱は中焦に蒸燻し、上に満ちて下に注ぐ、それで正気は更に虚損され症状は次第に加重されるようになる。②労倦傷脾となり、飢えや飽食の異常が加わると、脾気が日増しに虚損し、脾虚が腎に及び、脾腎両虚になる。③素体腎虚、或いは病後で体が弱って、腎気が内傷されていると、次第に腎陽不足となり、脾陽を温養うことが出来ずに、病状は加重する。

 本病は初期には虚実挟雑であり、肺腎気虚、水湿内聚の証を見る。病状が進展すると、慢性化により傷陰となり、気陰両虚に転


慢性腎炎(特にnon-IgA型腎炎)の漢方治療 第7報

2013-01-28 00:15:00 | ブログ

黄振鳴氏医案 脾腎不足 湿瘀互結型案

女性32歳。

初診:1991312

病歴:近年1年間ぐらい月経時に腰部のだるさや痛みと、下腹部の下垂感を伴う張痛が出現した。199010月に、閉経2ヶ月のために、某病院受診し、尿蛋白(3+)を指摘され、その後の検査の後で「隠匿性腎炎」の診断を受けた。服薬治療を受けたが根治せず、来診となった。

検査:血圧16.6/10kPa(126/75mmHg),面色は暗く艶が無く、耳垢が黒く、唇色は紫暗、舌暗、舌辺に瘀点があり、苔は白?、脈は細渋であった。末梢血液検査で、白血球7000、血小板14000かなり低い、出血傾向が出現するレベルまで到達している。全身性に紫斑が出現しても不思議の無いレベルです。原文では14x10の9/Lになっています。或いは誤植かも知れません。):BUN 7mml/L(42mg/dl), Cre110μmol/L(1.24mg/dl)(クレアチニン濃度に比較してBUNが上昇している体内での出血機序が考えられる)炭酸ガス結合力30mmol/L(原文を直訳したのですが、炭酸ガス結合力の意味付けと評価が私には不明です)

弁証脾腎不足 湿瘀互結

治則:補腎健脾 袪湿化湿(袪湿と化湿はほぼ同意ですので、前後の文脈から判断して袪瘀化湿あるいは袪湿化瘀の誤植でしょう。)

方剤補腎化瘀湯加減 黄蓍24g丹参18g 崩大碗24g赤小豆30g紅花12g鉄樹根15牡丹皮12g茯苓18g熟地黄24土狗干12g 以上が煎じ薬

黄氏本院作成の消蛋白食毎日2回 そのつど煎じ薬を飲む。

(黄氏の消蛋白食は黄耆30薏苡仁30赤小豆30g米30gに水を1500ml加え煮て粥にしたもので日に3度、一回2碗を食する、を原則としたものです。)

再診1991320日。7剤を服薬後、面色は暗く艶が無く、耳垢は黒く、舌暗、舌辺に瘀点あり、苔白、脈弦細。尿蛋白(1+)。上方から、崩大碗を去り、菟絲子15gを加え、さらに30剤を連服させる。消蛋白食は継続。

血小板数が14000ですと即入院し血液学的な検査が必要になりますので、原文は14万であったろうと思います。製本の段階での誤植でしょう。)

三診1991421日。面色紅潤、舌紅苔白。脈弦細。尿検査正常。

上方と消蛋白食2ヶ月継続。6回の尿検査は正常。さらに1年後再発無し。

補足 鉄樹の功能
性味:甘、平、渋,有小毒。
功用:葉は収斂薬で止血の功能がある。花は鎮咳鎮痛の功能がある。根には強壮薬としての功能があり,最近抗癌作用が注目されています。私は現物を見たことも無ければ使用経験もありません。

仏教用語での「鉄樹開花」の意味:仏教語で「鉄樹」は鉄でできた木。また、広西に産し、六十年に一度、花が咲くという木のこと。ありえないこと、また、めったに来るものではないことの意味と、あり得ないことも「起き得る」の意味があるらしいです。

評析

本案の患者には腰酸腹張、面色は暗く艶が無く、耳垢が黒く、唇色は紫暗、舌暗、舌辺に瘀点があり、苔は白?、脈は細渋であったことを結合すると、脾腎両虚、湿熱内蘊の他に、血瘀の証が比較的明らかである。故に、方中、黄蓍、熟地黄、赤小豆の補益脾腎、利水袪湿の剤の他に、先ず丹参、紅花などの活血化瘀の品を用いることによって、治療効果に万意を得たのである。

ドクター康仁の印象
再び、崩大碗 土狗干さらには鉄樹根も新登場してきて、黄氏の独壇場の
様相です。
さて32歳女性の生理はまた来たのでしょうか?何の記載もありませんね。
評析も深い考察がありません。真似が出来ず、誤植の多い黄氏医案と
薄っぺらな評析からは、しばらく遠ざかるのが、時間と体力のロスを未然に
防ぐために賢明な策と言えます。

次回からはいわゆる「慢性腎炎」の医案解析に移りたいと思います。


慢性腎炎(特にnon-IgA型腎炎)の漢方治療 第6報

2013-01-27 00:15:00 | ブログ

黄振鳴氏医案 腎陰不足 湿熱蘊阻案

20歳男性。初診1990613日。

病歴3年来、常に咽頭部の刺すような痛みがあった。3ヶ月前に、咳嗽が加わり、医院(病院)で検査を受けたところ、尿蛋白(2+)潜血反応(2+)顆粒円柱が沈渣に認められた。末梢血液検査で、白血球12000で、上気道感染と隠匿性腎炎と診断された。抗炎症剤、対症療法とステロイド治療後に症状はすぐに改善したが、顕微鏡学的血尿と蛋白尿が持続し、プレドニゾロン一日10mg維持量となっていたが、病状は一進一退であった。

症状:口干咽燥、睡眠が浅く不足気味で、小便が赤く、大便は乾燥していた。

血圧16/9.6kPa(1kPa=7.5mmHgで換算すると120/72mmHg)、面色が暗く艶がなく、精神的にも芳しくなく(活き活きした感じが無く)、舌紅苔少 脈細数であった。末梢血液検査で白血球6800、好中球0.75 リンパ球0.24 好酸球0.01 血沈20mm/;尿検査で蛋白(2+)赤血球(2+)。

弁証:腎陰不足 湿熱蘊阻(うんそ)

治則:滋陰補腎 清熱化湿

方薬:滋腎化湿湯熟地黄24山茱萸15崩大碗24澤瀉15茯苓露蜂房18

牡丹皮12女貞子15g川萆薢24g 以上が煎じ薬 1日量

土狗干60水亀250350g 以上が食剤として毎週2~3回

再診:1990629日。服薬14剤後に諸症状が好転。睡眠が安定し、小便大便の調子が良くなり、(しかし、依然として)舌紅苔少、脈細やや数。尿蛋白(1+)赤血球(1+)。上方に黄耆18g、薏苡仁18gを加えた。

三診:1990714日。14剤服用後尿蛋白(1+)赤血球(-)。上方を継続服用させた。

50剤服用後、尿蛋白、赤血球は消失した。

六味地黄丸毎日2回一回9gに変更し、土狗虫湯を常服3ヶ月。幾度も尿検査を行ったが尿検査正常。2年後再診したが再発は無い。

 (奇難雑症続集)

評析

本案の症状、口干咽燥、夜寝欠安、小便赤、大便干、舌紅苔少、脈細数などは、典型的な腎陰不足 湿熱内蘊と診断するのは難しくない。腎陰不足を本とし、湿熱内蘊を標とする。ゆえに標本兼治となる。

熟地 山茱萸 女貞子は腎陰不足に滋補腎陰に働き、茯苓 澤瀉 崩大碗 萆薢 牡丹皮 露蜂房は清熱化湿に働く。

久病入絡になっているので、土狗虫湯を以って活血養陰、利水祛湿を行い、後期に六味地黄丸に改め滋補腎陰して、一歩一歩さらに治療効果を固めるのである。

ドクター康仁の印象

黄氏医案に、再び土狗干崩大碗が出現してきました。いずれも中国の生薬商店でお眼にかかったことはありません。黄氏のお気に入りだったのでしょうが、現在では入手は困難です。

土狗干?:咸寒で利水通便 活血化瘀に作用する。

崩大碗 苦、辛,寒 清利湿,解毒消 湿黄疸にも効能がある。

土狗虫湯冬虫夏草を意味します。中国では単に「虫」と記載してある場合は、冬虫夏草です。土狗干と、冬虫夏草のでバランスが取れていますね。

土狗干60水亀250350g 以上が食剤として毎週2~3回

水亀も現実的に陸生の亀を丸ごと入れるのか、或いは現在流通している亀板(きばん)を用いるのか判然としませんが、黄氏はおそらく丸ごと1匹を入れて使用したのでしょう。これも現在では、日本では真似はできません。水亀は中薬学では極めて強い陰の性質である至陰と表現される性質を持ちます。この食材は大寒に偏るものでしょう。

評析に、本案の症状、口干咽燥、夜寝欠安、小便赤、大便干、舌紅苔少、脈細数などは、典型的な腎陰不足 湿熱内蘊と診断するのは難しくないと記載がありますが、湿熱内蘊に関しては弁証に耐えうる症状がありません。この点に関しては、いわゆる「腎炎に対する弁病論」が大きく関与しています。評析には、腎陰不足を本とし、湿熱内蘊を標とする。ゆえに標本兼治となる。とありますが、一般に「本」よりも把握しやすい「標」の証候を示しているのは小便赤と尿検査異常だけなのですから、通常の湿熱弁証からは離れています。思うに、腎炎は下焦の湿熱であるという弁病論がない限り、簡単に湿熱内蘊と弁証し、断定することは出来ない筈なのです。

露蜂房(ろほうぼう):私は免疫力の改善目的で悪性腫瘍の患者さんに使用しています。過去の記事を参考にしてください。

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20061023

原文を読み進めるうちに、真似のできない自慢話を聞かされている気がしてきます。もう1例ぐらい解析してみましょう。真似ができない内容なら、黄氏医案から一時、離れることにします。経過中に補気薬の黄耆を加えていますが、徹底的に滋陰清熱、活血化瘀(当初は利湿も)を行ったと言えるでしょう。