自由学園の英語の先生は、ハーバード大学出だった。人格が大物と皆が尊敬してたが、私は、いくつかおかしな点を感じていた。6年の時、昼食で、何か生徒に好きな事を話させる、ということをやっていた。ある時、話す人がいなかった。たまたま私を見て、「喘息について話してくれない」と言ってきた。私は笑って断わったが、腹の中では、無神経なヤツだと思っていた。喘息持ちにとって、喘息というものが、どんなに劣等感を感じていることか、わからないのか。4.5kmのマラソンも出来ず、3000m級の登山も出来ない。サッカーやラグビーなどの激しい運動もダメである。自分の恥を語ってくれ、などと要求するデリカシーのなさ。また変な主張を持っていた。それは。「人間は言葉でものを考えるから、言葉を正しく使える人が頭がいい」という主張である。これを何度も主張していた。これには二つの誤りがある。一つは、人間は、言葉によらない、言葉以前の思考をする、という事である。たとえばスポーツでは、言葉にして、あれこれ考えてなどいる時間はない。しかしスポーツをする時、人は考えている。スポーツでは瞬間的な反射でものを考えているのである。本田宗一郎は自らが語るほど読書が嫌いな人だった。ショパン、その他、全ての作曲家の即興演奏にしたって、そうである。直観力やインスピレーションは、言葉によらない思考である。もう一つは。じっくりものを考える時には、人間は言葉にして考えることも、もちろんある。しかし。言語とは。話す。聞く。読む。書く。の四つがある。このうち師は、話す、ことだけに重点を置いていた。これは誤りである。言語能力と頭の良さ、という事を考えるなら、読む、書く、能力こそが一番、大切なのである。私がお世話になった医者の先生で、たいへんな吃音の先生がいたが、先生は頭の回転は速い。また、私は作家にしても口下手な人ほど、文章がうまい、ケースが非常に多いと思っている。というのは、口が達者な人は、上手く話せるから話す事で満足できてしまい、文章は力が入らなくなる可能性があると思うからだ。その点、話下手な人は、上手く話せない。しかし自分の気持ちを表現したいという欲求は皆と同様、強く持っている。だから、そのエネルギーを文章にぶち込むため、文章が上手くなるのである。人間は何かの機能が低下すると、別の機能が発達する。盲人では位置感覚、聴覚、嗅覚、が健常者より発達しているのは誰もが認めるところである。運動が苦手な生徒は勉強で見返してやろうと、勉強に力を入れる。
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