函館市とどほっけ村

法華宗の日持上人にまつわる伝説のムラ・椴法華。
目の前の太平洋からのメッセージです。

啄木と私

2010年10月03日 12時11分46秒 | えいこう語る
朝6時、NHK日曜短歌から。
明治時代、石川啄木が北海道に来た時の歌。

真夜中の
倶知安駅に
下りゆきし
女の鬢の
古き痍あと

北国の田舎の駅舎。それも真夜中。生活の糧を探し彷徨う啄木。
それでも若き天才歌人の視点は正確だ。
まるで、映画のワンシーンではないか。

10年ほど前、私は北の港街、釧路に出かけていた。
この街にも啄木が住んでいた。仕事が終わったあと啄木ゆかりの場所を散策した。
※啄木も見たに違いない北海の朝焼け。


翌朝、釧路から札幌に汽車で移動した時、同年代の女性と同席になった。
私は風邪気味で、少し咳き込んでいた。
その女性からのど飴をいただき、札幌まで数時間の会話が続いた。
女性は炭鉱の離職者、一家で札幌に移住するという。
夫が先に札幌に職を求めたので、自分は家の整理を済ませ、住み慣れた土地を離れるのだという。
生まれた環境、炭鉱マンに嫁ぎ華やかだった時代、家族のことなど、見ず知らずの私に語りかける。
それは過去への決別を自分に納得させる、一人舞台だったに違いない。
戦後のエネルギー政策の転換とともに、衰退していった炭鉱の歴史に思いを馳せ、私は静かに観客に徹した。
終点が近いというアナウンスが流れた。
女性は席を立ち、化粧室に向かった。
札幌という新しい街で暮らす、そんな決意を胸に、化粧を整えるのだろう。
席に戻り荷台から荷物を降ろしかけたので、私は手伝った。
その時、煙草のにおいが強く漂った。
テレビを観ながら、そんなことを思い出し、一句ひねってみた。

終点の
札幌駅に
下りゆきし
女のあとに
煙草のにほい
                  下人 口川木鐸でした。