夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

蒼太の包丁 旭川編

2013-04-27 23:08:42 | 『蒼太の包丁』
以前(2/24)、『漫画サンデー』に連載されていた「蒼太の包丁」の最終回の話題を何気なく取り上げたところ、それから二ヶ月経った今でも、ちょくちょく読んでくださる方がいるようである。私自身、通読したわけでもなく、さほど熱心な読者というわけでもないのに、長い期間にわたって記事を閲覧していただけるというのは、それだけの人気作だったということなのだろう。連載終了後、しばらく遠ざかっていたが、先日刊行された「蒼太の包丁」37巻を遅ればせながら読んでみた。

この37巻は「旭川編」としてまとめられており、単行本帯に俳優・津川雅彦(旭川観光大使)の、「『旭川』を知るにこれほど素晴らしいガイドブックはない」というコメントが寄せられている。

蒼太が板長として働く銀座「富み久」が、耐震検査と補強工事を行うことになったため、若女将のさつきが従業員全員に二週間の休暇を与えることにし、蒼太が旭川へ旅立つところから、この話は始まる。


(マンサンコミックス「蒼太の包丁」第37巻。以下同じ)
蒼太がまず向かったのは、「上野ファーム」。日本屈指のガーデニングが楽しめる場所で、TVドラマ『風のガーデン』(2008)のロケ地にもなった場所だそうだ。蒼太が園内にある射的山から、市内の様子を眺めていると、オーナーの上野砂由紀さん(ガーデニングの第一人者らしい)が不意に現れ、旭川一帯はアイヌ語で「カムイ・ミンタラ」、神々が遊ぶ庭と呼ばれることを教えてくれる。

蒼太は旭川で神々に導かれるように、様々な人々や料理、食材などとの出会いを果たすが、その中には実名の人物(旭山動物園の前園長なども出てくる)や店や場所も多く登場する。
蒼太は北海道・静内の出身だが、旭川はよく知らないため、同郷会のツテで市役所観光課の大西が色々と案内をしてくれることになる。


蒼太は初め大西から、居酒屋「独酌 三四郎」を手伝いながら旭川に滞在してはどうかと勧められる。だが、その翌日、昼食で大西に案内された和食料亭「花まる亭」の料理と、店主の料理人としての姿勢に蒼太は感じるものがあり、その場でこの店で働き、勉強させてもらえないかと頼み込む。


数日後、「花まる亭」で働いている蒼太の前に、「富み久」で共に働く女性料理人・雅美が現れる。蒼太を慕う雅美は、旭川へ食材探しの旅に出た蒼太の後を追って、自身も北海道の食を知る体験をしようと、稚内から旭川に下って来たのだ。
さらにそこに、蒼太の幼なじみで今は静内にいる純子(一時期、「富み久」の仲居をしていた)、はたまた若女将のさつきも東京からやって来て、旭川での様々な食材や人々との出逢いはますます盛り上がりを増す。


彼らが旭山動物園を訪れる場面も出てくる。普段は勝ち気な純子が意外に恐がりだったり、おとなしそうな雅美がいちばんはしゃいでいたりするのが面白い。この動物園には、私も昨年行ったので、なんだか懐かしい気分になってしまった。


蒼太は旭川での滞在でたくさんの収穫を得、また、旅のもう一つの目的であった人探し(これが「幸せの黄色いハンカチ」のようないい話)もうまくいって、無事に東京に帰っていく。
この「旭川編」で印象に残ったのは、市役所観光課の大西の存在だ。無愛想でとっつきにくい男だが、実は誰よりも旭川を愛し、蒼太の案内も、職場には有休や半休を取ってエスコートしていた。不器用だが誠実で誇り高い大西の生き方が、特に心に残った。

また、雅美推しの私としては、この旅行で雅美が蒼太にとって、しだいにかけがえのない存在になっていくのを、とても嬉しい思いで見た。人探しで悩んでいることを蒼太が打ち明けると、雅美は自分のことのように蒼太と一緒に考え、提案をしたり積極的に行動したりする。蒼太を支えたり、共に喜び合ったりする場面もあり、この旅が後に結ばれる二人にとっての転機になったのかな、というふうに感じた。

この一巻で完結した内容になっているので、「蒼太の包丁」を読むのはまったく初めて、という人でも大丈夫。ぜひ多くの方が手にとって読んでいただければと願う。

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