夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

今年観た映画から(2)

2012-12-29 00:21:55 | 映画
さて、今年のベスト5を選ぶとすると、1位はやっぱり『ワン・デイ~23年のラブストーリー~』かな。

雑誌などでの評価はあまり高くなかったけれど、今の自分の興味関心には合っていたので、2度も見に行ってしまった。エジンバラの美しい風景、セリフの面白さ、主役2人を初めとする配役と演技のよさ、細かいところまでその時代を再現した舞台設定(ファッション、インテリア、音楽など…)を作り込んでいることなど、単なる恋愛ものに終わらない映画だったと思う。



お互いに好きなはずなのに、大学卒業から20年もすれ違い続けてようやく結ばれて、というやきもきさせる話だった。映画では1988年から2011年まで23年間の、2人の7月15日を毎年律儀に追っていくので、どうしても間延びした感じが否めないのだが、そのあたりはたぶん原作に忠実に脚本を作っているのだろう。パリでの場面で、なぜエマが今彼を捨ててデクスターを選ぶのかがわかりにくいとか、エマに訪れる悲劇がやりきれないとか、不満ももちろんあるけれど、現在の邦画ではなかなかこういう、しっかり作られた作品がないように思う。

以下、2位は『アンネの追憶』。少女を見舞った境遇の変転と、あまりの運命の苛酷さは、涙なしには見られなかった。しかし、人間はどんな絶望的な状況にあっても、希望を持ちうることには感動したし、人は死んでも、書かれたものを通して永遠に生き続けることもあるということに勇気を与えられた。私も強制収容所に入れられて、人間の尊厳も認められない扱いを受けるばかりか、鉛筆とノートもなく、書くことができない生活を送らされれば、死ぬよりつらい思いをするだろう。事務員のミープが言った、「アンネは日記の中に生きています」という言葉が印象的だった。アンネにとっては、現実に生きている日常生活での不全感の代償として、日記を書くという行為があり、言葉の世界で自分の魂を解放させ、より十全に生きていたのだろうという気がする。単なる反戦の映画ではなく、戦争とは、善悪とは、人間とは…といった本質的な問いを考えさせる作品だったと思う。

残りの3作品は、順位など関係なく(やはり、格付けは苦手だ)、まず『サニー 永遠の仲間たち』。鈴木杏さんが「今年1番のお勧め」と言っていたが、女子校時代のおバカな仲間たちが巻き起こす騒動に大笑いして、現在の彼女たちの境遇との落差に身につまされたりして、でも今ではおばさんになった彼女たちのしたたかなパワーに元気をもらえる。ヒロインが、昔の失恋した自分を抱きしめてやりたくなるところなどは、思わずホロッときた。

『ファミリー・ツリー』は見ていて何度も泣いた。人生には悲しいことも、つらく理不尽なことも多いけれど、真剣にそれらと顔つきあわせ、向かい合っていけば、人生は生きるに値するとわかってくるということが、じわじわと伝わってくる。『幸せへのキセキ』は、今でもタイトルがどうかと思うし、ご都合主義的な展開という感は否めないが、最後のシーンで、主人公のベンが子どもたちに、「お父さんとお母さんは、ここでこうして出会ったんだよ」と話してやっているところがとてもよかったので、お勧めに加えたい。
この2作も、「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」も、母(父)の死とその後の家族の絆の再生というテーマが共通していた。今年はそういうものが求められていたということだろうか?


というわけで、お気に入り映画というにはあまりにも地味なラインアップとなってしまったが(普通、「アヴェンジャーズ」とか「テルマエ・ロマエ」とか「るろ剣」を挙げる人が多いのだろうな。授業中の雑談で時々映画の話もするのだが、生徒からは「マニアックなジャンル」と認識されている)、来年もまたよい映画に出会えることを期待している。


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