夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

五島美術館

2012-11-26 21:06:18 | 日記


昨日は、昼過ぎまで新宿でのんびりと過ごした。その後、渋谷から半蔵門線~東急大井線と乗り継いで上野毛(かみのげ)駅で降り、徒歩5分ほどで五島美術館へ。『産経新聞』の朝刊で紹介されていた、「時代の美② 鎌倉室町編」を観てきた。

五島美術館の新装開館にあたって、同館が所蔵するコレクションを、来年の3月まで会期ごと・時代順に公開していく特別展で、今回は鎌倉・室町時代の名品を紹介する期間の前期(~12月7日まで)であった。




小さな美術館だし、展示品の数自体は少ないが、書籍・絵画・墨筆・彫刻・調度などの優品が目白押しなので、そのひとつひとつに感心したり感動したりで、正直とても疲れてしまった。これからご覧になる方は、体力が充実している時に行かれることをお勧めする。(笑)

来館者があまり多くなかったので、じっくり作品に見入ったり、メモをとったりしながら、1時間半ほどかけて存分に展示を味わうことができた。

今回の一番の目玉は、国宝『紫式部日記絵巻』であるが、写真のものの他、三段を見ることができた。今まで写真や図版で見慣れてはいたが、実際にこの目で見ると、細かな筆遣いや彩色、あるいは褪色や劣化などの様子までが手に取るようにわかる。私としては第二段の絵がいちばん印象に残った。これは、寛弘5年(1008)11月1日、皇子誕生から50日目の祝いの様子を描いたもので、中宮彰子が敦成親王(後の後一条天皇)を抱いているところが描かれており、赤子の敦成親王の表情がなんともかわいらしい。

一休宗純の「梅画賛」や重要文化財の延慶本『平家物語』、重文『白氏文集』(金沢文庫本)など、貴重な書画や典籍ばかりで、時間を忘れる。『白氏文集』は巻子本で、ちょうど「長恨歌」の部分が広げてあった。内容はわかっているのに、詩の最後の部分は、何度読んでも悲しくなる。かつて七月七日の夜、長生殿で玄宗皇帝と楊貴妃はひそかに、「比翼の鳥、連理の枝」と永遠の愛を誓い合ったのに、貴妃は今は幽明界を異にしている。「天長地久時有りて尽くるも、此の恨みは綿々として絶ゆる期(とき)無けむ」。



今回の展示では歌書類も充実しており、重文『上畳(あげだたみ)本三十六歌仙絵 紀貫之像』、同『佐竹本三十六歌仙絵 清原元輔像』が見られたのは眼福というべきであった。ただし、私としては、『時代不同歌合絵』(断簡)が見られたのが最も嬉しい出来事であった。

『時代不同歌合』は隠岐晩年の後鳥羽院の手に成る秀歌撰で、時代の異なる歌人百人の代表歌三首ずつを、歌合のように番えた作品で、絵巻も多く伝存している。今回見られたのは、藤原兼輔・藤原俊忠の番いと、伊勢・九条良経の番いの断簡だった。

  思ひ河絶えずながるる水の泡のうたかた人にあはで消えめや(伊勢)
  もらすなよ雲ゐる峰の初時雨木の葉は下に色かはるとも(良経)

といった私の好きな歌たちに、こういう形で出会えるのも感激する。


ところで、出品目録を見ると、後期の展示の中に、重文「熊野懐紙(後鳥羽天皇筆)」、「小倉色紙(藤原定家筆)」などが挙がっている。後期もぜひ見たいのだが、なかなか決心がつかず、迷っている。