LE REGARD D'ALAIN DELON

アラン・ドロンさんの魅力を探ります。

太陽がいっぱい PLEIN SOLEIL(3)

2015-07-20 | THE 60'S CINEMA
【画像リニューアルの為、2005年7月26日の記事の再投稿】

ルネ・クレマン監督のこの作品での演出は、すでにこの時点(1960年)で映画芸術のひとつの完成形と言っても過言ではないほど、完璧なものを私たち観客に見せてくれます。

特に素晴らしいのはその映像の美しさで、どのカメラ・アングルひとつ取ってみても、それぞれが一枚の絵画として十分成立する完成度です。
前半の海の描写はもとより、後半の地上の場面で出てくる数々の建物やインテリアの映像も、一度見たら目に焼きついて離れないものばかりです。

また前半のヨットで食事中“魚料理をナイフで食べるな”とフィリップに注意されたり、ヨットで寝ながらナイフでパンとハムを切って口に入れたり、魚市場のエイの顔や魚の首のアップ、フレディを殴殺したあと部屋に散乱する野菜や鶏肉の描写などなど、この作品には『食べ物』が演出の中で重要な小道具としてたびたび登場します。
これは主人公リプレイが持つ「富」に対する渇望が少しずつ満たされていく過程を、彼が口にする食物を通して映画を観る観客が同時に疑似体験できることを狙ったクレマン監督の演出の仕掛けであることがわかります。

さらに音響面では、フィリップの友人フレディをアパートで殺害した直後、リプレイが偽装工作を行う最中(チキンを食べる有名なシーンまで)、部屋の外で静かに流れているピアノの演奏の音が、不思議な効果を観客に感じさせてくれます。
このピアノの音は夜中に螺旋階段を下りながらリプレイが遺体を運ぶシーンにも一瞬流れてきます。
恐らくアパートのどこか別の部屋で誰かがピアノの練習をしているのでしょう。
目の前で2回目の殺人事件を犯してしまったリプレイの耳にはこのありふれた日常の音がどのように聞こえているのかと想像力を掻き立てられる見事な演出です。

ドロンさんは後年の自身の初監督作品『危険なささやき』の中で、ドロンさん演ずるシュカス探偵が、殺された依頼人の家を訪れて中を調べている最中に、この『太陽がいっぱい』と同じように、どこかで誰かが弾いているピアノの音が静かに流れてくるという演出をさりげなく行っています。
これは恩師クレマン監督の『太陽がいっぱい』での演出意図をドロンさんが理解し、これを忠実に再現したものではないかなと思います。

最後に主人公の寂寥感、孤独感を描写するために随所に挿入されるドロンさんが街を徘徊するシーンは、特に魚市場でのそれが大変有名ですが、その他にもマルジュの家を訪れる際に町で開かれているお祭りの列を逆向きに歩いていくシーンなども大変印象的です。
このただ“一人で歩く”だけの演技は後年アラン・ドロンさんが主演する数多くの作品の中でもたびたび登場し、ドロンさんにとっては十八番の演技となりました。
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