LE REGARD D'ALAIN DELON

アラン・ドロンさんの魅力を探ります。

L'OURS EN PELUCHE (3)

2007-06-02 | THE 90'S CINEMA
アシェット・コレクションズDVDのライナー・ノーツより
後半をご紹介します。

-----------------------------------------------------------

撮影の現場はジャック・ドレー監督とアラン・ドロンにとって正に悪夢のようなものとなった。
クランク・インの初日、Francesca Delleraは
有名な撮影監督であるルチアーノ・トボリに対してライトの位置を変えるよう要求してきた。
さらに監督のジャック・ドレーに対してはキャメラの位置を変えるよう指示してきたのだ。

時が経っても一向に彼女の横柄な態度に変化は見られなかった。
常にエージェントに付き添われながら、
彼女は大衆が観たいと思っている私はこんなものではないなどと息巻いていた。

アラン・ドロンはこの彼女の態度に激怒し、
イタリアのプロデューサーに対してキャストの変更を申し入れたが
聞き入れられることはなかった。

毎晩イタリアの脚本家たちがジャック・ドレー監督の滞在するホテルに押し寄せ
シナリオの書き直しを命じたり、
また一方ではベルギーの製作スタッフとイタリアのスタッフとの間に
不和によるこぜりあいが勃発していた。
そして撮影現場の状況はどんどんひどくなるばかりで
やる気を失った技術スタッフたちは早々と引き上げていってしまった。

撮影隊は映画を完成させるためにブリュッセルからローマに早急に移動した。
いよいよ財政的に危機に瀕してきたからであった。

ジャック・ドレーはブリュッセルでの撮影シーンとの違和感が発生しないよう
ローマでの新しいセットに自然光を入れる工夫を
来る日も来る日も繰り返さなければならなかった。

このように映画が完成するまでには
ドレー監督の外交手腕とたゆまぬ情熱が必要とされたのだった。

そのようなひどい現場の中にあって唯一のなぐさめは、
ドロンの妻役を演じたラウル・キリングと
娘役を演じたアレクサンドラ・ウィニスキーの見事な演技であった。
彼女たちはドロンとドレー監督とは非常に良い関係を築くことができた。

アレクサンドラ・ウィニスキーについては、
彼女の写真を見たドロンが自分に似ているという理由からこの役に抜擢した。
そういう彼女にとってこの映画の撮影はよい思い出となっている。
「ドロンさんと最初のミーティングの日、私は緊張して怖気づいていました。
そのせいで私は階段の途中でこけてしまい、
体を支えるために広げた手のひらに傷を負ってしまいました。
手に大きな包帯を巻いてランチの場に現れた私の姿を見たドロンさんは
すぐさまレストランの主人に救急箱を持ってこさせ、やさしく看護してくださいました。」
「私が初めて演じたシーンが終了すると、
ドロンさんは撮影スタッフ全員に拍手喝采を要求してくださいました。」
(Le Jounal du dimanche 07/08/1994)

またジャック・ドレー監督はローマでのポスト・プロダクションにおいて
作曲家のロマノ・ムスマラにこの作品のスコアを依頼した。
二人はドレー監督作ナスターシャ・キンスキー主演の『恋の病い』
以来のコンビとなった。

「ドロンはなぜこの作品を8月10日に公開したのか、全くの謎である。」
この作品の公開時Le canard enchaine誌1994年8月17日号がこうコメントしている。
『テディ・ベア』は9月公開と事前に告知されてきたにもかかわらず、
新聞発表も試写会も予告編もなく突然8月10日に公開されたのだ。
イタリアで3ヶ月前にほんの数枚のポスターが貼られていたのみであった。

ジャック・ドレーは公開を早めたことについて
Le Figaro誌にこう説明している。
「公開前のPR活動の時間は十分にあったと思う。
私はセミバカンスの為にパリを離れていたんだから。
ところが突然パリの10館の劇場でこの映画を同時に上映するチャンスがやってきた。
フランス側の共同プロデューサーのアラン・サルドがこれを喜んだのさ。」

映画を観た批評家たちからはそれほどの賛美の言葉もなく
この作品はやがて公開されていたパリの劇場から消えていった。

ジャック・ドレー監督の記憶の中で、この作品は苦い思い出となっている。
「自分の監督した24本の作品の中で
この『テディ・ベア』は成功作でもなく失敗作でもない。
結局はこの作品からは何も起こらなかったというだけだ。
ロバート・レッドフォードが『コンドル』の中でしゃべった台詞を思い出すよ。
"私は昨日のことは何も思い出さない。そして今日は涙の雨が降っている。”」
Comments (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

L'OURS EN PELUCHE (2)

2007-05-27 | THE 90'S CINEMA
昨日以下のサイトをブックマークに追加しました。
フランス映画全般についての幅広い情報が楽しめるブログです。
Virginie Ledoyen et le cinema francais

-----------------------------------------------------------

アシェット・コレクションズDVDのライナー・ノーツには
この作品の舞台裏がジャック・ドレー監督の手記を下に綴られています。
今回と次回はその中からの抜粋を意訳も含みますがご紹介します。

-----------------------------------------------------------

ジョルジュ・シムノン原作の『テディ・ベア』は1960年に発刊された。
そして1982年に一度テレビ・ドラマ化されている。
ジャック・ドレー監督は当初このプロジェクトに参加していなかったが、
アラン・ドロンが急遽彼を呼び寄せた。

ドレー「もともとこの企画はアラン・ドロンの発案であり、
彼がフランスの製作者アラン・サルドに話を持ちかけ、
さらにイタリアのプロデューサー、Pino Auriemmiが加わった。
当初はピエール・グラニエ・ドフェールが監督をする予定であったが、
彼にはそのときすでに撮影中の映画があり、
どうしても時間の調整が付かないということで、
私が途中から参加することになったのだ。

そもそも私は昔からシムノンの小説の大ファンだったので、
この企画には大いに興味を持った。
主人公の教授の内面に起こる心の葛藤が
映画に大きな可能性をもたらすであろうと信じたのだ。
そして原作のままではやや時代遅れな箇所があるので、
現代の物語に脚色しなおす必要もあった。
私は都会を愛する人間として、シムノンに敬意を表し、
彼の出身国ベルギーの首都ブリュッセルを舞台に選んだのだ。」
(フィガロ誌1994/8/8号より)

一方アラン・ドロンはと言えば
すでにバレリオ・ズルリーニ監督の『高校教師』において
教授役を演じ観客を魅了していた。

ドレー「映画の全ては主人公の心の奥の変遷に基づいて進行する。
彼はいつも“仮面”をかぶっており、真の素顔を見せることはない。
やがて彼は自分に対する脅迫によって自分自身と向き合い、
真の自分を発見することになる。」(フィガロ誌1994/8/8号より)

アラン・ドロンにとってシムノン原作の映画は1971年の
ピエール・グラニエ・ドフェール監督『帰らざる夜明け』以来2度目であり、
またジャック・ドレー監督とのコンビは
この作品が9作目であり最後の顔合わせとなった。

しかしながらこの撮影の準備期間には苦労が絶えることはなかった。
ドレー監督は当初書かれていた脚本の出来が非常に悪いと感じたのだ。

ドレー「当初のシナリオには説得力がなかった。
さらに困ったことに書き直しを依頼した新しい脚本家Jean Curtelinに対して、
たった2ヶ月間の猶予しか与えられなかったのだ。
製作者側にもっと時間を与えてほしいと頼んだが受け入れられなかった。」
("Jacques Deray,J'ai connu une belle epoque"2003より。)

もうひとつの問題は共演女優のFrancesca Delleraの態度だった。
彼女はイタリアの製作者が推薦してきた女優で、
彼女の起用がこの作品への資金提供の条件でもあったのだ。
彼女は1991年マルコ・フェレーリ監督作"La Chair"のヒットにより
当時のイタリア本国でスターとなり、
それにより彼女の気まぐれな性格は増幅していたのだった。

パリのHotel Royal Monceauで彼女とドロン、ドレー監督3人の初めての顔合わせの日、
何と彼女は何時間も遅刻してやってきた。
彼女が到着する前にドロンが怒って帰ってしまったことにも
彼女は驚くばかりだったと言う浅はかさだ。

彼女の疑うような行動に悩まされたばかりでなく、
ドレー監督が後にもう手遅れになってから気づくのだが、
この女優との契約は大きな誤解に基づいてなされていたのだった。
何と彼女は自分が主演女優扱いとしてこの作品に出演するものと考えて
すかさず契約書にサインをしていたのだ。

イタリアの製作者は彼女が単に脇役の一人に過ぎないと言う正確な情報を伝えようとぜす、
そのため脚本家はシナリオにおけるアンバランスさが増すことをわかっていながら
ドロンとの絡みのシーンを過剰に増やす必要性に迫られたのだ。

------------------------------------------------------------

Comments (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

L'OURS EN PELUCHE (1)

2007-05-23 | THE 90'S CINEMA
今日はドロンさんが1994年に主演した日本未公開作
L'ours en peluche(1994)をご紹介します。

ジャック・ドレー監督と前作"UN CRIME"に続いてコンビを組んだこの作品は
近年ようやくフランスでDVDで発売され観ることができるようになりましたが、
最初に観た時は、覇気のないドロンさんの演技やストーリーのいいかげんさに、
ほとんどお蔵入り状態だったのもやむなしの作品と感じたものでした。

しばらく観ることはなかったのですが、GWに久しぶりに棚から一掴みで観て見ると
いろいろと過去の作品とリンクするようなシーンが多々あり、
けっこう楽しんでみることができました。

字幕なしのフランス語オンリーでも、
ストーリーはいたって単純明快でわかりやすいです。

地位も名誉も十分にある産婦人科医院の院長として患者の対応に日々追われ、
また大学病院で自分の授業も受け持つドロンさん演じる有能な医師ジャンが主人公です。
美しい妻や音楽学校に通いプロのピアニストを目指す優秀な娘を持つ家族の前での顔とは別に
この男には夜のクラブでダンサーを勤めている愛人の家に通いつめては
欲情におぼれるという俗物的な側面も同時に併せ持っています。

こういう表と裏の二つの顔を持ち、いつも忙しく動き回っている男というのは
昔からドロンさんのもっとも得意とする役どころです。

ある日から毎晩のようにかかってくる脅迫電話に悩まされる主人公は
自らその原因究明に乗り出しますが、
その過程の中でかつて関係を持った自分の教え子の存在が浮かんできます。

教授と教え子との悲恋という設定はかつての『高校教師』とよく似ていますし、
その教え子の住むアパートを探し当てドアを蹴破って中に入るシーンなども
『個人生活』での主人公を思い出させてくれます。

ベルギーの首都ブリュッセルでロケ撮影された風景もフランスのそれとは少し趣を異にしており、
その街中を謎の解明のため歩き続けるドロンさんの『歩く演技』も、
地味ではありますがファンには十分に楽しめる作品です。
Comments (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

LE JOUR ET LA NUIT

2006-03-11 | THE 90'S CINEMA
Jour et la nuit, Le (1997)

1996年に製作されたアラン・ドロン主演作で、例によって日本では未公開の幻の作品でしたが、
今年の1月にDVDがアメリカで再発売されてようやく観ることができました。

この作品は1997年のカンヌ映画祭に出品されて初上映されたものの、
そのあまりの出来の悪さに批評家から激しく非難を浴びたというレビューを読みました。
また興業的にも大失敗したとの事でドロンも失望をかなり感じたことでしょう。
ですので、いったいどれほどお粗末な作品なのかと
半分怖いもの見たさのような心境で画面に向かいましたが、観終わった感想としては、
全体として切り捨てられてもやむを得ない作品なのは確かなのですが、
予想以上にドロンが熱演していることもあり、ある程度楽しめるフィルムでした。

本作の監督は本業が哲学者で監督するのはこれが2作目となるベルナール・アンリ・レヴィ。
共演女優には監督の実生活での婦人であるアリエル・ドンバール。
そして若き日のドロンがその仕草を完璧にコピーしていたとされる
(『ロミー・シュナイダー、恋ひとすじに』より)
ハンフリー・ボガードの未亡人であるローレン・バコールが
主人公の影に寄り添うミステリアスな役柄でドロンと初共演しています。
このバコールとドロンとの関係にいまひとつ深みがなく、
せっかくの二人の共演が無駄になってしまったのが残念なところです。

オープニング・タイトルはメキシコの海岸風景をバックに
コール・ポーターの名曲『ナイト・アンド・デイ』が流れる快調なもので、
この後のドラマの展開に大いに期待させられます。
ところがアラン・ドロン扮する引退した映画作家の家に舞台が移ってからはとたんに映画のテンポがゆるくなり、
同時並行で描かれるメキシコの現地の人々の武装反乱の描写もまるでB級アクション映画のようです。
ところどころに出てくる露骨なラブシーンも映画のペースを乱しており、
監督の狙いどころが一体どこにあるのか、正に迷走しています。

そんななかで我らがアラン・ドロンは、人生に絶望しながらも一人の女性と出会い、
新たな船出を決意する主人公をいつものように思い入れたっぷりに演じています。

監督は恐らくドロンのことをよく研究していたのでしょう。
主人公が昔からボクシングの練習を行っていることや、
酒びたりになって妻とその愛人に当り散らしたりする場面を見ていると
ドロンの過去の作品(『真夜中のミラージュ』『若者のすべて』など)
を思い起こさせる効果が十分にあります。
またジャンピエール・カルフォーン演ずるドロンの元秘書だった男の存在も、
『プレステージ』『シネマ』『個人生活』などに出てきた
ドロンを常に冷静にサポートするブレーンたちの忠実な再現でもあります。
またここからはネタバレになってしまいますが、
妻を捨てて新しく運命的に出遭ってしまった女性と共に生きていく決意をしながらも
最後は悲劇に見舞われる主人公というのは正に『高校教師』のダニエレのようです。
(無精ひげを生やしたその姿も)

ドロンの衣装はいつものようにゼニヤを着用しています。
また音楽はモーリス・ジャールが壮大なオーケストレーションを聴かせてくれますが
ややエモーショナルすぎて画面とは不釣合いな場面がいくつかありました。

『エアポート’80』のときもそうでしたが、
映画自体の出来がどんなにトホホなものであっても
製作する側がドロンの魅力をよく考えて作っていることが観客に伝わってくればファンはそれに満足しますし、
それこそがスターというものの実力なのではないかと再認識させられた作品でした。
Comments (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

DANCING MACHINE

2005-06-30 | THE 90'S CINEMA
Dancing Machine (1990)

アラン・ドロンが『ヌーヴェル・ヴァーグ』と『カサノヴァ最後の恋』の間に主演し、
日本未公開作(ビデオも未発売)であった幻のこの作品が先日フランスでDVDで発売されました。

早速取り寄せて初めて観ることができましたが、
なぜ今まで日本で無視されてきたのか疑問に思えるほど、意外に面白い作品でした。

バレエ教室の主催者で、独裁者のように生徒たちに振舞う元著名なダンサーで、
カリスマ性はあるが怪我のため今は杖を手放すことが出来ない足の不自由な男を
アラン・ドロンが久々に怪しさ満天に演じています。(役名はアラン・ウルフ!?)

生徒たちのダンスのシーンはだらだらと無駄な描写も多く、映画館で見たらきっと退屈するでしょうが、
DVDだと一瞬のうちに早送りできるので、そう気にはなりません。

共演のクロード・ブラッスールもドロンを連続殺人の犯人ではないかと追い回す刑事役で、
これも『愛人関係』を想起させるキャスティングで、懐かしくなります。

ドラマの結末は意外なものなのでここでは書けませんが、これを知ってからもう一度見直すと
ドロンの演技がまた違った印象を受けるような作りになっています。
(それをドロンが計算した上で演じているのかどうかわかりませんが。)

詳しいライナーノーツのご紹介はいずれまたの機会に。
Comments (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

UN CRIME (3)

2005-04-01 | THE 90'S CINEMA
この作品の主な舞台は、ブランに無罪判決が言い渡されて釈放された後、
ブランの無実を疑い始めたドロンがブランの家に乗り込んで真実を追究していく一晩の出来事であり、
まるで舞台劇を見るようなドロンとブランの1対1の演技合戦が繰り広げられます。
撮影当時57歳のドロンですが、前作『カサノヴァ最後の恋』に比べて若々しく、
(ダークスーツにボタンダウンのシャツ、そしてネクタイを緩めた着こなしも粋です。)
若手のブランの演技を受け止めながら実に様々な表情を見せてくれます。
字幕なしで観ますので意味不明なところばかりですが、
ドロンの表情を観ているだけでストーリーが何となくわかってくるから不思議です。
70年代にドロンが演じたクールなキャラクターを思い起こさせてくれることもファンにとって嬉しい収穫でした。
Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

UN CRIME (2)

2005-04-01 | THE 90'S CINEMA
ドロンの役柄は有名な弁護士という設定で、
法廷でのシーンでは、あの独特な弁護士の衣装を身にまとって登場します。
『暗黒街のふたり』では法廷で犯罪者として出廷していたドロンですが、
本作では容疑者役で共演のマニュエル・ブランにその席を譲り、
今回は前に出て彼の弁護役に回ります。
Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

UN CRIME (1)

2005-04-01 | THE 90'S CINEMA
Un crime (1993)

1992年のドロンのこの未公開作品を、先日フランスで発売されたDVDを取り寄せてようやく観ることができました。
監督は1980年の『ポーカーフェイス』以来8本目の顔合わせとなるジャック・ドレーです。
ドレーはこの間ベルモンドと『パリ警視J』と『LA SOLITAIRE』の2本の刑事アクションなどを撮っており、
ドロンとは少し距離を置いていたようですが、
本作とこの後もう1本『L’OURS EN PELUCHE』でドロンとのコンビを復活させ、
それがドレーの映画の監督としての遺作となりました。
何かこの監督と俳優二人の不思議な因縁を感じることが出来ます。
Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする