Piscine, La (1969)
Cercle rouge, Le (1970)
先月フランスで発売された
『LE CINEMA DE MICHEL LEGRAND』です。
1950年代から現在に至るまで、
ミシェル・ルグランが手がけた膨大な映画音楽を4枚組のCDにまとめた
正にルグラン・シネマ・ミュージックの決定盤と言える本作の中で、
ドロン出演作品からは2作品の音楽を聴くことができます。
まずは恐らくこれが世界初CD化となる『太陽が知っている』のメイン・テーマです。
ルグランと姉のクリスチャンヌ・ルグランとのスキャットで始まり、
前半の二人のアドリブ合戦の後、アップテンポなリズムに変わってからの後半は
コーラス隊のスキャットをバックに、
ステファン・グラッペリのめくるめく音色の変化が美しいバイオリンン・ソロに移り、
最後は再びコーラス隊も交えた二人のスキャットで幕を閉じます。
ちょうど今のこの蒸し暑い季節に聴くには一服の清涼剤となる一曲です。
そしてボーナス・トラックとしてCD4枚目の19曲目に収められている
『仁義』(未使用バージョン)は本作の最大の目玉といっていい大変珍しい一品です。
『仁義』の音楽は当初ジャン・ピエール・メルヴィル監督がルグランに要請していたものの、
結局出来上がった作品がメルヴィル監督のお気に召さず、お蔵入りとなりました。
そしてその後を引き継いだのが『影の軍隊』でメルヴィル作品の音楽を担当した
エリック・ドマルサンだったのです。
『仁義』サントラ盤のライナー・ノーツによりますと、
当初自分に依頼が来るものとばかり思っていた『仁義』の音楽が
ルグランに要請されたことに大変失望を感じたドマルサンは、
それまで私生活でも交流を深めてきたメルヴィルと距離を置くようになりました。
しかしその後メルヴィルから突然の呼び出しがあり、
「『仁義』の音楽をルグランに替わって担当して欲しい。」との要請があったとのことです。
しかしながらルグランとの友情関係にひびが入ると懸念したドマルサンは、
その要請をいったんは固辞しました。
そのときにルグランからドマルサンに直接電話がかかり、
「『仁義』の音楽については気にしないで取り組んで欲しい、
アレンジなどで自分が協力できることは何でもする。」
と言ってくれ、ようやく引き受ける決心がついたそうです。
ドマルサンはこのときのルグランの大きな心にいたく感銘を受けたと書かれています。
正に映画の内容を彷彿とさせるような舞台裏の男の友情劇にこちらも感銘を受けました。
さてそのお蔵入りとなったルグラン版『仁義』の音楽の中身について。
基本的にはビブラホンを使ったモダン・ジャズで、この曲自体の出来は素晴らしいのですが、
ルグランの持つ独特のセンスと明るさがどうしても顔を出してしまっており、
『仁義』にある“乾いた暗さ”を表現するには至っておらず、
ここはメルヴィル監督の判断が正しかったと言わざるをえません。
このCDには上記のドロン関連2作以外にも
イーストウッド監督作『愛のそよ風』、
『真夜中の向こう側』、『面影』、マックウィーン遺作『ハンター』、『モン・パリ』など
これまでCD化されていなかった作品が多数収録されており、
ルグラン・ファンにとってはもとより、20世紀映画音楽の記録として大変貴重なアルバムです。