ジャンポール・ベルモンドの最新主演作"
Un homme et son chien (2008)"(=「男と犬」)をご紹介します。
この作品は日本未公開のイタリア映画「
Umberto D.」のリメイク作品で、
ベルモンドにとっては2000年の“Les Acteurs”以来久々の映画復帰作品となります。
------------------------------------------------------------------------
【あらすじ】
ベルモンドが扮するのは元大学教授の孤独な老人シャルル。
人生に挫折し、今はパリのアパルトマンに愛犬(名前はない)と共に一人暮らし。
年金改正を訴えるデモに参加するも群衆の波の中で傷を負い、
ようやく部屋に帰ってくると大家の女主人から部屋を出ていってほしいと懇願される。
この女主人は亡くなった親友の未亡人で、近々再婚することになったという。
住み込みの若いお手伝いの女性に慰められながら部屋を出て行こうとするも、
先のデモで傷つけられたけがの回復が思わしくなく、
女主人の再婚相手の医師(監督のフランシス・ユステール)の手配で入院することになる。
病院で同室となった隣のベッドの男には家族(ニコール・カルファン)らが見舞いに来るが、
そんな喧騒状態にうんざりしながらもやがてその男は静かに亡くなってしまう。
住み込みの女性に預けていた愛犬と一緒に彼女が見舞いに訪れてきて彼女の身の上話を聞くうちに
ほのかな愛情のような気持ちが芽生える。
退院後愛犬の待つアパートメントに帰ると彼が住んでいた部屋は女主人によって改装工事中で、
作業人(ジャン・デジャルダン)が目を離したすきに犬は出て行ってしまったという。
野犬を集めて飼育している場所まで愛犬を探しにタクシーに乗って向うが、
ポーランドから出稼ぎに来ている運転手(ダニエル・オルブリフスキー)と
一緒に仕事をしている息子は車の中で口論ばかり。
ようやく着いた犬の預かり場の主人に冷たくあしらわれるが、
横で事情を聞いた若い妻(故ロミー・シュナイダーの娘サラ・ビアシーニ)が
主人をさえぎって親切に対応してくれる。
そして彼女のおかげで愛犬と再会できたシャルルは愛犬をそっと抱き締める。
アパートを出たシャルルと愛犬は行くあてもなくパリの街をさまよいながら、
時に昔の友人(ピエール・モンディ)に偶然にバス停で一緒になったり、
ホームレスの男たち(ジョルジュ・ジレ、ロベール・オッセン)が集う場所で食事をしたりと、
様々な人々とすれ違っていくことになるが、決してそれ以上に関係が発展することはない。
孤独にさいなまれながら将来の行く末に絶望したシャルルは、
愛犬を街で出会った少女に譲ろうとするが、少女の母親にたしなめられる。
もはや生きる希望を失ったシャルルは愛犬を置いて一人姿を消す。
シャルルがいないことに気付いた愛犬は必死になって彼の行方を追う。
ようやく見つけたシャルルの鞄、それは電車の線路の上にあった。
正面から向かってくる電車に相対して静かに立っているシャルルを発見した愛犬は
彼を止めようと必死に吠え続けるが・・・・
--------------------------------------------------------------------------------
フランス映画らしい静かな流れとパリの街並み、俳優たちの上質な演技を楽しめる名作です。
豪快でユーモアたっぷりのタフガイを演じ続けてきたベルモンドのファンにとって
このような役柄での彼に映画で再会することになろうとは
『ハーフ・ア・チャンス』の頃から考えれば全く想像できないことでした。
しかしこの作品のベルモンドに違和感はありません。
それは彼自身が大病を患い、回復後もリハビリ活動を続けてきたこと、
そしてそこから立ち上がってもう一度スクリーンに帰ろうとした彼の心意気を知っているからです。
彼の帰還を祝うかの如く、この作品では数多くの有名俳優がカメオ出演して画面を豪華なものにしていますが、
とりわけ感慨深いのが故ロミー・シュナイダーの娘サラ・ビアシーニの登場です。
彼女の話し方、声色、目線は亡くなった母親そっくりで、ロミーがまるでよみがえったかのようです。
またこの作品の監督は、出演も兼ねているフランシス・ユステールですが、
彼をスクリーンで初めて見たのがクロード・ルルーシュ監督の大作『愛と哀しみのボレロ』
Les uns et les autres (1981)でした。
本作にはその『ボレロ』の主要キャストだったロベール・オッセンやダニエル・オルブリフスキーも出演し、
(同じ画面に登場することはありませんが)一種の同窓会のような雰囲気も楽しめます。
ドロンさんは以前出演したテレビ番組の中でこの映画の映像を観て涙し、
ベルモンドのこんな姿は見たくないと発言していましたが、
それは彼のベルモンドに対する深い友情の印でしょう。