私の町 吉備津

藤井高尚って知っている??今、彼の著書[歌のしるべ]を紹介しております。

鮎の美学

2008-08-27 13:28:56 | Weblog
 昨日、料理されて食卓に並べられた鮎の姿をより美しく見せるためには、流れを泳ぐ鮎そのものの姿に刺して焼かなければならないと書いたのですが、写真にでも撮っておいてお見せすればと思ったのですが、気がついた時は、その鮎はとっくに頭と骨と尾鰭になっていました。仕方ないので、そのやり方を文章でご紹介したいと思います。
 
 近頃、料理屋などでお目にかかるステンレス制の金刺しでは情緒も何もあったもんではありません。今朝の新聞に「どうしても料理を美味しく作れない人種がある」と北大路魯山人が言ったと、でています。鮎を金刺しで焼き上げる料理人も魯山人の言う料理を美味しく作れない人種の一人だと思います。鮎の塩焼きはどうあっても青竹を使った竹刺しでなくてはなりません。
 まず始めに、鮎の頭が手前になるように持ち、右手の親指と人差し指で腹の辺りを軽く尻の方に押しだします。すると真っ黒い鮎の糞が出できます。それを2、3回繰り返します。それは済むと。今度は、竹串の先の尖った所で腹鰭のあたりから鮎のお尻まで切込みを入れ、内臓を総て別の容器に搾り出すように抜き取ります。このはらわたに塩を絡めたのが「うるか」です。真夏時分の鮎のはらわたにはやや大目の塩を振りかけておきます。秋の落ち鮎の時のはらわたと混ぜて自分の口に合う塩辛さに調節するのです。この塩加減も長年の経験と自らの口にあわせて造りこみます。だから個々の家でそれぞれ異なった味のうるかが出来上がるのです。最上のうるかを作るには何%の塩がいいなどという数字は今まで一度も、もう70年になるのですが、聞いたことがありません。
 さて、ここまで出来上がると、今度はいよいよ串刺しです。糞を取り出した時と同じように左手の手の平の真上に鮎の頭が来るように握ります(タカタカ指の付け根に鮎の背鰭が来るように)鮎の口から例の竹串を斜め上ぐらいの感覚で突っ込み、(口から背鰭の中央部分にめがけて)背骨に竹串が届いたと思われるあたりから、今度はその竹串がお尻の当りに向かって鮎の姿がくの字になるように刺していきます。お尻からちょっと尾鰭よりの辺りに3、4cmぐらい竹串が覗いたら出来上がりです。刺し上がった鮎の尾鰭は扇のように自然にぴんと広がっています。この広がりを作るのにはやはり1,2年では出来ないように思います。この刺し方が、一番鮎の姿を自然なままの美しさに見せるコツなのです。竹串の緑色と鮎の背の薄緑色とが一直線になって無限の鮎の美しさを引き出しています。それを腹側から見ると、今度は一変して竹の実の白と鮎の腹の部分の白とが、恰も交響曲を奏でているような幻想に取り付かれます。
 それらの串刺された鮎を、白でも黒でもどんな色でもいいのです、平べったい大皿に、青串を作った残りの竹のみずみずしい葉の付いた小枝一本を採りその皿に敷きます。そして、その上に串刺しされた鮎を並べていきます。大皿に描き出される鮎の姿は、どんな画家が描いた絵よりも美しさが浮き立ちます。おいしさが幾重にも重なるようです。
 うなぎ等の魚はただ味がよければそれでいいのですが、殊、鮎に限って言えば、味だけではありません、香も姿も3拍子そろった美味しさを兼ね備えております。この3拍子そろった美味しさは魚の王様、鯛も持ち合わせてはいません。ただ鮎だけが持つている特別の性質なのです。そんな高度な食の美を持つ魚なのです。この3つの鮎だけにしかない特性が見えるような調理の仕方が大切なのです。
 それが分らない不精者のなんて多いことか。ごまかすことしかしない不精者のなんて多いことか。それとも無知者なのか。