私の町 吉備津

藤井高尚って知っている??今、彼の著書[歌のしるべ]を紹介しております。

おせん 96  南随神門

2008-08-11 11:09:43 | Weblog
 「今日は天気もよさそうやないか。そや、お園さんの十八番の説明を聞かしてもらいながら、秋の吉備津様でも拝ましてもいまひょ」
 大旦那様も朝からご機嫌です。
 「是非お園さんの十八番の話し聞きとうおす。あの少女と一緒に毬がころころと転げ落ちていったと言わはる深い地の底にまで続いていると思われる回廊もみとうおす。できたら、お月さんが急にいんでしもうたおにぎり山のてっぺんにまで登ってみとおす・・・あの明るい大きなお月さんまで吸い取るような大きな穴があのお山のてっぺんに開いておいでで、真っ黒い、その中であの少女だけがただ一人毬を突きながらくるりくるりと廻るように遊んでいる夢をみましたんや。不思議な夢でおした。ただ真っ黒い中を真っ白な女の子が舞いを舞っていまねん。何か知らんけど天女の舞みたいな人ではない人のような宙を舞うような舞ですねん。その女の子がしきりにおいでおいでを空からしているようどした。・・・なんかその回廊か、起きた途端に早くお出でと呼んでいるように気がしますねん」
 やや遅い朝食を頂いてから、3人は宿を出ます
 昨夜の喧騒を忘れたかのように静かな街を通り抜けると、そこには大人の人が一抱えもするほどの大きな石の鳥居が立っています。細谷川のせせらぎもちょろちょろと爽やかな瀬音を響かせながら流れていきます。鳥居をくぐるとそこはもう吉備津様です。小さな角を生やしている狛犬さんも左側に座って出迎えてくれます。今日は何時もの表情と違ってまろやかに、にっこりと微笑みかけているようにお園には思えました。
 
 「おせんさん、この狛犬の角にちょっと触ってみてくださいな。なんでも願いがかなうといわれております。この角だけはいつもつるつるに輝いているのもそのためなのです。今日の狛犬さんなんだかご機嫌がよさそうです」
 「おお、そんな話もあるのどすか。どれどれわしも」
 と、大旦那様も何かぶつぶつと唱えながら、角だけでなく鼻や顎の辺りまでを撫で回しておられました。おせんさんはそれでもその角にも触ろうともせず、ずんずんと進みます。
 暫らく行くと、いよいよ回廊に突き当たります。聞いた通りの北に真っ直ぐな長い長い回廊が続いています。その回廊を半町ばかり本殿のほうに上っていきます。お竈殿と書かれている案内板を過ぎると回廊の勾配が途端にきつくなります。 そのきつくなった一番上の辺りの両側に朱色の柱で出来ている随神門が「よくおいでたね」と言うように優しく遠来のお客を出迎えています。
 「このお社が南随神門で、このお宮さんでは一番古い建物だそうです。吉備津様の御家来がお祭りしてあり、今でも敵の襲撃に供えて吉備津様をお守りしているのだそうです。この地方では吉備津様は桃太朗だと信じられてきています。すると、このご門の主は、当然、サル、キジ、イヌの3匹のはずです。でも、ここでお祭りされている主はキジとイヌなのです。後一匹はサルどうなったと思われます。・・・・桃太朗が鬼退治をした時、サルは3匹の中でも一番目覚しい活躍をし、それ以後、桃太朗の特別の信任を受け、いつもすぐお側に仕えていたのだそうです。今も神殿の中の直ぐお側に仕えております。だから、ここにはいないのだそうです。大昔からある古い古いお宮さんだから言い伝えもたくさん伝わっているようです。ちなみみ。このサルの本当のお名前は、ササモリ彦というのだそうです。後に吉備津様のお妃さまになられたモモダユミヤヒメ命のお父さんです」