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環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

ライフスタイルの変更①

2007-09-14 20:56:07 | 社会/合意形成/アクター


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私たちは環境問題をこれまで、「公害」という認識でとらえられてきたために、環境問題への対応も技術的対応が主流でした。環境問題に対して技術的対応が難しいとわかったとき、 「ライフスタイルの変更」を唱える識者が現れました。この主張は正論ですので、多く異論をはさむつもりはありませんが、その前に社会システムや慣習を改善すべきです。


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「出来ること(ところ)から始めること」の危険性①(9/8)

「出来ること(ところ)から始めること」の危険性②(9/9)



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「出来ること (ところ) から始めること」 の危険性③

2007-09-10 05:39:35 | 社会/合意形成/アクター


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では、どうしたらよいのでしょうか。環境問題に対して、個人にできることはないのでしょうか。
 
私は、個人にできることはたくさんあると思いますが、「対処すべき環境問題の規模の大きさ」と「残された時間の短さ」を考えると、この種の発想は問題の解決をいっそうむずかしくすると思います。




私たちの社会では、さまざまな経済・社会問題が同時進行しています。そのほとんどは「相対的」であり「絶対的」ではありません。

ですから、これらの経済・社会問題の把握には、「全体」と「部分」、「目的」と「手段」、「長期」と「短期」、「質」と「量」、を混同しないこと、両側面を考えること、そして、「選択」と「優先順位の設定」です。



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「出来ること (ところ) から始めること」 の危険性②

2007-09-09 07:21:55 | 社会/合意形成/アクター


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ですから、市民の草の根的な運動だけでは環境問題の解決はおぼつきません。私たちがいまなすべきことは、経済拡大を目的とした古い考えや社会制度をそのままにして「身近なこと(ところ)から始める」「出来ること(ところ)から始める」ではなく、「現状をよく知ること」です。

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各人が「ことの重要性」に気づき、「出来ること(ところ)から始める」という考えは、日本ではきわめて常識的で合理的で一般受けする穏便な考えですので、とくに市民団体から好まれます。日本の社会の仕組みはきわめて強固で、目の前には困った状態が迫ってきているので、とりあえず「出来ること(ところ)から始める」とか、「走りながら考える」とかいった発想になりがちです。


この発想だと、むずかしいことは先送りすることになりかねません。このことはマスメディアが「政府の決定の先送り」を頻繁に報じていることからも明らかです。


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「出来ること (ところ) から始めること」 の危険性①

2007-09-08 21:41:31 | 社会/合意形成/アクター


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人類の歴史のなかで私たちが初めて直面する「少子・高齢化問題」「環境問題」への対応に、「共通のコンパスと最新の海図」がないまま、国民が国の将来を憂い、不安と焦燥感からそれぞれの立場で「出来ること(ところ)から始める」のはたいへん危険です。よかれと思ってやったことが、全体として、経済学者がいう「合成の誤謬)」を招きかねないからです。

自己啓発活動から 「魅力的なメッセージ」 が流れてきます。

「あなたが変われば、世界が変わる」「大海も一滴の水が集まってできる」「ちりも積もれば山となる」「千里の道も一歩から」「社会や政治が悪いという批判は誰にでもできることだが、自分は何ができるかを問える人は少ない」「私たち一人ひとりの力はほんとうにささやかであるが、そのささやかな力でも無数に集まれば、社会を動かすことができる。今までの社会の変革はすべて、ささやかな一歩の上に築かれたものであり、『そのささやかな思い』と『行動の集積の結果』がやがて、大きなうねりとなって社会に変化が起こる」などなど。

「気づき」が大切、そして「参加と行動」をそれぞれが出来ること(ところ)から・・・・

いま、皆さんは ほんとうに そうお考えなのでしょうか? 

こうしたメッセージには、「異議なし」といいたいところです。しかし、こと日本の環境問題に関しては、あえて異議を唱えなければなりません。このような発想からは、「環境問題の規模の大きさについての認識」「時間の観念」完全に抜け落ちているからです。






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進化してきた福祉国家⑫ スウェーデンを軽視する日本 

2007-09-07 22:00:41 | 社会/合意形成/アクター

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一昨日、昨日とスウェーデンのパフォーマンスが20世紀の経済大国よりも相対的に優れた成果を提示しているにもかかわらず、このようなスウェーデンに学ぼうと考える人は、日本の政財界には多くありませんでした。

経済産業省・経済産業研究所の小林慶一郎研究員が「現代」(2002年12月号)で、スウェーデンに対する典型的な日本の反応を報告しています。


上の記事の中に「1930年代の世界恐慌をいち早く脱出することに成功した経験を持つ・・・・」という記述があります。この部分の状況を補足するために、岡沢憲芙さんの著書「スウェーデンの挑戦」(岩波新書177 1991)の序章の当該部分を紹介します。当時のアメリカイギリスがスウェーデンをどのようにみていたか、その一端を知ることができます。今から70年以上も前のことです。




900万人と1億2000万人の人口の差、1%と16%の世界経済に占める割合の差は、たしかにスウェーデンが日本に比べれば、人口や経済の規模でまぎれもない小国であることを示しています。しかし、日本がいまだに処理しきれていない不良債権問題が、スウェーデンでは1年で解決したのは、「スピード」「政党間の協力」「透明性」があったからでこれらは明らかに日本にはなかった要因です。
 
「同じ種類の問題」を同じ方針や手段で解決しようとするときには人口が少ない小国のほうが有利なのは当然です。しかし、こと不良債権処理に関しては、スウェーデンには、日本にはなかった発想や方法論や手腕がありました。似たようなことはアスベスト問題でも、原発問題でも、温暖化問題でも、ゴミ問題でも同じです。このようなときに、人口規模が違いすぎるとか、経済規模が異なるという表面的な言い訳は、成り立ちません。このような言い訳をする人の論理的思考の欠如が疑われます。


余談になりますが、スウェーデンも日本も議会制の民主主義の国です。900万人と1億2000万人の人口の差は紛れもない事実です。しかし、実際に両国の「国の政策決定」に携わるのは900万人でも、1億2000万人ではありません。

日本の憲法では、国会は「国権の最高機関」であって、「国の唯一の立法機関」と位置づけられています。日本の国会は、衆議院と参議院の二院で構成され、両議院は「全国民を代表する選挙された議員(国会議員」(衆議院議員参議院議員)で組織すると定められています。現在の(2007年の)衆議院議員の定数は480人で、うち300人は小選挙区制によって、180人は比例代表制により全国を11に分けた各選挙区から選出されます。 参議院議員の定数は242人で、うち96人は比例代表制によって、146人は都道府県を単位とする47の選挙区から選出されます。

一方、スウェーデンの国会は、現在、1院制です。1970年(昭和45年)、スウェーデン国会は1866年(慶応2年)以来の伝統を持つ二院制(第一院:150人 任期8年、第二院:230人 任期4年)を一院制(350人 任期3年)の直接・比例代表選挙に切り替えました。1976年の選挙から定員を1人減らして、349人に変更し、現在に到っています。

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スウェーデンの国会議員の投票率の推移(1/9)


ですから、現在の両国の国会議員の数は、日本が衆・参合わせて722人、スウェーデンは349人、つまり、 「国の政策決定」に携わる国会議員の数は、おおよそ日本2に対してスウェーデン1ということになります。



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進化してきた福祉国家⑪ スウェーデンについて私たちが、最近知ったこと

2007-09-06 06:28:15 | 社会/合意形成/アクター

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昨日のカテゴリー「スウェーデンあの日あの頃」では、「スウェーデンについて私たちが知っていることというテーマで書きましたが、今日の「スウェーデンあの日あの頃」では、「スウェーデンについて私たちが、最近知ったこと」と題して、2000年以降、この7年間の世界的な大きな流れの中でのスウェーデンの行動を書いてみようと思います。


20世紀のスウェーデンは他のほとんどの先進工業国と同じように、豊かさの向上、貧困や格差などの社会問題は経済が成長することで解決できると考え、フォアキャスト的手法で、「福祉国家(人にやさしい社会)」を建設し、維持してきました。

1972年にローマクラブが「成長の限界を」発表したちょっと前、1968年ごろに環境問題の重要性に気づき、72年には 「第1回国連人間環境会議」 の開催に漕ぎつけました。

1980年代後半からはそれらの経験と教訓から「持続可能な社会」の模索を始め、以後、地球の限界(地球の有限性)が科学的に明らかになってくると、他の先進工業国に先駆けてバックキャスト的手法を用いて「生態学的(エコロジカル)に持続可能な社会」への道筋を考え、96年には20世紀の「福祉国家」を「緑の福祉国家」(環境に十分配慮した福祉国家)を建設するという新たな政治的なビジョンを掲げたのです。

2000年以降、経済のグローバル化の進展が高まるにつれて、国際機関で様々な国際比較が行われ、それらのデータに基づいて、国際ランキングが公表されるようになりました。ランキングの生命は「判断基準の的確さ」ですので、国際的に試行錯誤がなされ、改善が加えられています。

2000年以降に公表された国際ランキングの事例のいくつかを、ご参考までにあげておきましょう。一般に、21世紀の社会を左右するようなデータのランキングでは、スカンジナビア3国を先頭に北欧の国々の活動が目立つようになってきました。2000年以降の国際社会におけるスウェーデンの経済的パフォーマンスは、例えば、

●2001年10月 国際自然保護連合(IUCN)の「国家の持続可能性ランキング」(180カ国)
1位スウェーデン、ドイツ12位、日本24位、米国27位

●2004年、2007年 OECD30カ国の「持続可能性ランキング」
2004年 1位スウェーデン、 米国30位
2007年 1位スウェーデン、 米国30位

●2004年 UNDP(国連開発計画)の「一人当たりのCO2排出量」(先進工業国)
1位スウェーデン(2000年5.3トン、日本9.3トン) 

●2005年1人あたりGDP 内閣府
7位米国、8位スウェーデン14位日本

●2006年 民主主義の成熟度ランキング(Economist Intelligent Unit EIU)
1位スウェーデン、13位ドイツ、17位米国、20位日本

●2006年のODA実績(GNI比:ODA額の国民総所得比) 
 OECD(開発援助委員会DAC)
1位スウェーデン、ドイツ13位、18位日本、21位米国

●2006年 世界競争力ランキング(世界経済フォーラム WEF:ダボス会議)
3位スウェーデン、6位米国、7位日本、8位ドイツ

●2007年「世界IT報告書」 IT活用世界ランキング(世界経済フォーラム WEF:ダボス会議)122カ国ランキング
2位スウェーデン、7位米国、14位日本

●2007年 温暖化対策(CO2削減と国の政策)ランキング German Watch
1位スウェーデン、5位ドイツ、26位日本、53位米国

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温暖化対策実行ランキング:スウェーデン1位、日本42位(12/9)


●RCI(Responsible Competitiveness Index)ランキング 2007
グローバルな市場における持続可能な開発ランキング(英国のAccounfAbility 社によるCSR国際ランキング)
1位スウェーデン、11位ドイツ、18位米国、19位日本
  
さらに様々なランキングのデータを、インターネット上で見つけることが可能でしょう


現在は20世紀型の「経済規模の拡大」から21世紀の「経済の適正規模化」への時代の転換期ですので、判断基準の変更によって20世紀の経済大国(具体的にはG8の国々)がランキングの順位を落とす現象も見られるようになってきました。



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進化してきた福祉国家⑩ スウェーデンについて私たちが知っていること

2007-09-05 11:54:08 | 社会/合意形成/アクター

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ところで、私たちはスウェーデンという国について、どんなことを知っているのでしょうか。まず、今年4月、前期の講義の初日に、大学生75人に聞いてみました。彼らの回答は次のようでした。


上の図で、青字のものはスウェーデンではなく、ノルウェーやフィンランドと関連します。

マスメディアを通じて断片的に紹介されるスウェーデンの姿を、次の図に示しました。この図は私の本 『スウェーデンに学ぶ持続可能な社会』(朝日選書 2006年2月発行) の13ページに掲載されているものと同じです。




「ノーベル賞の国」「福祉国家」「森と湖の国」。これらは、多くの日本人が抱くスウェーデンのイメージです。このようなイメージとは裏腹に、スウェーデンは科学技術と社会制度のバランスがよくとれた懐の深い国です。図の中央の略図でスカンジナビア3国(スウェーデン、ノルウェー、フィンランド)の位置関係がわかります。

スウェーデンの福祉政策に詳しい訓覇(くるべ)さんによればこの3国は「社会保障国家」ではなく、 「福祉国家」です。

すなわち、他の欧米の先進工業国とは違ってすべての国民を対象とし、「一定の生活水準」を保証する というわけです。

スウェーデンの様々な社会事象が新聞、雑誌、テレビなどのマスメディアを通じて断片的に日本に紹介されています。その多くは好意的であり、福祉先進国(時には福祉大国:以下同じ)、環境保護先進国、原発先進国/脱原発先進国、人権先進国、科学技術先進国、開かれた民主主義の国、女性の社会進出が盛んな国など様々なイメージが登場します。

次の図はその一例を示したものです。前の図と内容的にはほとんど同じものです。毎年10月になりますと、「ノーベル賞の国」となります。これらの従来からのイメージに、1990年頃から、「出生率(合計特殊出生率)の増加」、国連の平和維持活動(PKO)の関連でスウェーデンの「国連平和維持軍」などの新しいイメージが新たに加わりました。



これらの表現方法は様々な社会事象を総合的に判断しないで、それぞれを個別的なテーマとして取り扱っているという点で非常に日本的だと思います。福祉、環境、原発、人権、科学技術、民主主義などは一見独立した事象のように見えますが、これらの事象ははたしてバラバラに起こるものなのでしょうか?

 実はそうではないのです。本来、これらはお互いに密接に関連しあっているはずです。多少の濃淡はあるものの、外交政策、経済政策、交通政策、農業政策、住宅政策などの国の重要政策も相互に関連しており、直接あるいは間接的に福祉政策、環境政策、エネルギー政策に連動します。

一般に、日本のスウェーデンに関する記事や書籍はテーマごとにその分野の専門家の記述によるものが多く、分析的で、社会事象全般を包括的にとらえるという視点に欠けています。このことは何もスウェーデンを理解するときの視点に限ったことではなく、日本の様々な社会事象を理解するときも同様です。

ですから、それぞれの事象を個別的にとらえるのではなく、この図に示したように、「福祉国家」という概念を中心として「それぞれの事象の多くが有機的に関連しあっている」と理解するのがよいと思います。スウェーデンが福祉国家だから、長年かかつて築き上げた福祉国家の維持・発展のために「環境保護」が必要であり、「原発先進国」と言われながらも「脱原発先進国」でもあるわけです。

240年を超えると言われる運用の歴史を持つ「情報の公開制度」、190年を超える「オンブズマン制度」に加えて、福祉国家建設の過程で醸成され 「開かれた民主主義」など、いずれもスウェーデンの現実主義から生まれたものです。福祉国家であるがゆえに、「人権尊重」の関心が高く、男女平等を含めた様々な「平等社会」を理想として掲げ、その実現のために努力してきたのです。 



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なぜ先駆的な試みを実践し、世界に発信できるのだろう⑫      プライバシーの保護

2007-09-03 21:44:33 | 社会/合意形成/アクター

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昨日のブログで、世界最初の「情報公開制度」をつくったスウェーデンでは、公開を制限される情報として、国家の安全、外交関係、民族関係および個人のプライバシーに関する情報などがあることをお話しました。

今日は、そのような中から個人のプライバシーを保護する法律についてお話しましょう。今日の話は、「スウェーデンあの日・あの頃」というカテゴリーに分類されていることからおわかりのように、15年前(1992年)頃までの話です。

工業先進国24か国で構成するOECD(経済協力開発機構)加盟の24か国のうち、17か国が1989年末までになんらかの形で個人情報を保護するための法律を制定していました。

1980年9月、欧州評議会で「個人データの自動処理に関する個人の保護のための条約」が締結され、スウェーデン、フランス、スペイン、ノルウェー、西ドイツの5か国がこの条約を批准しましたので、1985年10月にこの条約は発効しました。
 
加盟国24か国の先頭をきって、1973年にスウェーデンで「Data Act(データ法)」という法律が成立しました。ついで、アメリカで「Privacy Act(プライバシー法)」と呼ばれる類似の法律が作られ、その他の国々でも、相次いで、同様の趣旨の法律が制定されました。

日本では、スウェーデンに遅れること15年、1988年になってこの分野の関連法が制定されました。この法律は「行政機関の保有する電子計算機に係わる個人情報の保護に関する法律」という名前の法律で、法律の名前が他国の類似の法律に比べて、大変、長くなっています。


法律の名前が長いということはこの法律の適応範囲が狭められていることを意味します。法律の名前からおわかりのように、この法律は「規制対象を行政機関の保有するものでなければだめだ」と限定しています。

ですから、民間機関の保有するものはこの法の対象外なのです。それでは、行政機関が保有しているものはすべて規制対象になるのかといいますと、こんどは「電算機に入っていなければだめだ」と言っています。この様に、日本の法律は、一般に、問題が起きた後にその問題に対処するために制定されることが多く、運用中に新たな関連の問題が起きた時にはじめて、既存の法律を改正して規制対象を広げることになるのです。

スウェーデンでは法律の制定当時から行政機関の保有しているものと民間機関が保有しているものとを区別せず、両者に規制の網をかけています。私たちのプライバシーをこれまでに犯してきたものが何か、これから犯す恐れのあるものは何かを考えれば、当初から両者に網をかけるのは当然のことだろうと私には思えます。

一方、日本の法律では、行政機関の保有する個人情報のみがとりあえず規制対象になっておりますので、おそらく、何年かこの法律を運用している過程で、民間機関の保有している個人情報で私たちのプライバシーが犯された状況が生じた時に、つまり、何らかの犠牲者が出た時になって、はじめて法の規制対象に「民間機関の保有する情報」が追加されることになるのでしょう。

すでに、日本では予期せぬところからダイレクトメールが届くような状況にあり、近々、民間機関の保有する個人情報による様々な被害がでてきそうな徴候がすでにあると思います。このような心配をしておりましたら、1991年12月23日付けの毎日新聞に「生命保険の連絡票、通知票:個人データ原本、出回る 契約者リストも、都内の情報会社に」と題するニュースが掲載されました。今後、日本のプライバシーに関する法律がどの様に展開して行くか注目したいと思います。
 
以上の話は、15年前、つまり1992年ごろまでの話です。世界初の「個人情報保護法」(1973年成立、98年改正)を持つスウェーデンは、日本の近未来を考えるときにこの分野でも参考になるでしょう。ちなみに、日本の「個人情報保護法」が全面施行されたのは、2005年4月1日からでした。


法治国家では法律が社会のシステムを構成する重要な要素の一つであり、国の機能、自治体の機能や国民が法に縛られることを考えますと、法のたて方、法の制定時期、法の内容などが重要なことがおわかりいただけるでしょう。日本は「治療志向の国」であるために、法律の制定が遅いこと、法の対象が狭いことが特徴と言えるでしょう。


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なぜ先駆的な試みを実践し、世界に発信できるのだろう⑪    「情報公開制度」と「オンブズマン制度」

2007-09-02 23:16:23 | 社会/合意形成/アクター

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「福祉国家」スウェーデンを維持していく上で重要な様々な制度があります。その中から「情報公開制度」と「オンブズマン制度」に触れておこうと思います。





国、自治体などの公的機関の持つ情報は原則的に一部の情報を除き公開されています。逆に、公開を制限される情報としては、国家の安全、外交関係、民族関係および個人のプライバシーに関する情報などがあります。この情報公開制度ができたのは、1766年といわれていますから、240年以上の歴史を持った制度ということになります。

もう一つ、日本でもおなじみになってきた「オンブズマン制度」があります。この制度も実は1810年にできたと言われておりますので、190年以上の歴史があります。オンブズマンは国会に属しており、行政機関の独走や逸脱行為をチェックする機構です。オンブズマンのチェックの対象になるのは中央、地方を問わず、すべての行政機関およびそこに働くすべての公務員です。

ただし、閣僚、国会議員、地方議会議員は対象外です。「なぜ、閣僚、国会議員、地方議会議員が対象外なのか?」といいますと、その理由は簡単で一部の例外を除いて、国民が自らの意志で選挙を通じてこれらの人々を選ぶことができる機会があるからです。これに対して、国民は個人の意志では公務員を選ぶ機会がありません。ですから、オンブズマンが国民に代わって公務員の独走や逸脱行為をチェックするのです。

スウェーデンの様々な行政組織にはこのオンブズマン制度をはじめ様々な形のチェック機能が働く仕掛けがついているのですが、日本には行政をチェックするこの種の機能があまりないように思われます。

1990年頃までに、

(1)議会オンブズマン
(2)消費者オンブズマン
(3)プレスオンブズマン
(4)人種差別撤廃オンブズマン
(5)男女機会均等オンブズマン
(6)公正取り引きオンブズマン
(7)児童オンブズマン

などの制度がつくられました。



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進化してきた福祉国家⑨ 「現実主義の国」vs「現状追認主義の国」

2007-08-31 11:58:15 | 社会/合意形成/アクター

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今年6月のハイリゲンダム(ドイツ)のG8サミット以降、 「気候変動(日本では、地球温暖化)」に関する報道の数が際立ってきました。その理由はいよいよ来年2008年が京都議定書が示した期限の最初の年であること、そして、来年のサミットが日本で(洞爺湖で)開催されることになっているからでしょう。

「気候変動(地球温暖化)」は確かに21世紀の経済活動を制約する最大の環境問題ではありますが、もっと重要なことは、次の図が示すように、気候変動(図の中央の赤網をかけたところ)を含めた様々な同時進行する「環境問題」に対応できる社会、つまり、「生態学的に(エコロジカルに)持続可能な社会」を構築することではないのでしょうか
 


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「生態学的に持続可能な社会」を構築するという視点に立って、「私の環境論」に基づいて、日本とスウェーデンを比較してみたのが次の図です。

この図の「現実主義の国」というスウェーデンの姿勢を示唆しているパルメ首相の言葉「現実は社民党の最大の敵である」(Reality is the Social Democrat’s worst enemy.)を、「現状追認主義の国」という日本の姿勢を示唆していると考えられる高名な政治学者・思想史家の丸山眞男さんの言葉「現実とは」を紹介しておきましょう。



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(7/22)
 




小泉前首相を引き継いだ安倍首相は、ことあるごとに、 「持続的な経済成長」を口にします。安倍首相を支え、去る7月29日の第21回参議院議員選挙の結果、「自民党の歴史的大敗」の責任をとって辞任した自民党の前幹事長の中川秀直さんが、著書「GDP1000兆円計画 上げ潮の時代」 (講談社 2006年10月発行)
の「はじめに―――GDPが2倍になる必然」で次のように書いておられます。

「成長なくして日本の未来なし」を掲げる安倍晋三政権が発足した。「改革なくして成長なし」をキャッチフレーズにした小泉純一郎政権は、「マイナスからゼロ・プラスに」「不正常から正常に」に持っていくことに成功した。その改革の松明を引き継いだ安倍政権は、「確かなプラス」という明確な方向性を示して、日本を成長軌道に乗せていくことになる。「改革」の小泉政権から、「成長」の安倍政権へ―――

中川さんはさらに続けます。

・・・・・名目4%成長で成長していけば18年でGDPはいまの500兆円から1000兆円に倍増する。生まれたばかりの赤ちゃんが大学に入るころ、あるいは、いま20歳の青年が38歳の社会の中堅層になったころ、そして、50歳の壮年は68歳で、まだ働き続けるか年金での悠々自適の暮らしを選ぶかを考えているころ、日本の生活水準は2倍になっている。そして経済成長は、格差是正の良薬でもあるのだ。・・・・・

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そして、次の図は21世紀前半のスウェーデンと日本のビジョンを比較したものです。

先進工業国の中で、21世紀前半に「あべこべともいえるビジョン」を掲げた両国ですが、そのビジョンの目標年次はどちらも2020~30年となっています。

去る8月27日に発足した安倍改造内閣の閣僚は18人で、その平均年齢は60.4歳(ちなみに安倍首相は52歳)ですから、今年6月にドイツのハイリゲンダム・サミットで合意した「2050年までに温暖化ガスの排出量を半減させること」を見届けるのは無理かもしれませんが、この内閣の閣僚の多くはこの内閣がめざす「持続的な経済成長」というビジョンの結果に立ち会うことはできるでしょう。「上げ潮の時代」を書いた中川秀直さんも、そして、私も大丈夫だと思います。

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進化してきた福祉国家⑧  「福祉国家」スウェーデンを理解するために

2007-08-30 20:43:16 | 社会/合意形成/アクター

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ジャーナリスト、専門家、評論家、大学教授などスウェーデンの社会、特にスウェーデンの福祉制度や福祉政策等を紹介したり、論評される方々が多くおります。しかし、私はその紹介の仕方にある種の疑問を感じています。日本のジャーナリストや専門家の多くの方々のものの見方があまりにも狭すぎるという感じがするからです。

通常、福祉の話をする方は福祉の話だけしかしませんし、環境の話をする方は環境の話を、エネルギーの話をする方はエネルギーの話だけしかしないと言ってよいでしょう。紙面の制約や時間的な制約はあるでしょうが、話の多くは断片的で、現象面の解説が多く何故そうなのかといった背景の説明がほとんどありません。

福祉、環境、エネルギーは私たちが生きていく上で誰にとっても大切なことですから、それぞれを個別に考えるのではなく、それぞれが直接的に、あるいは間接的に関連し合っているというように幅広い見方をする必要があります。

日本には、日本の考え方があるし、日本の土壌があり、その土壌の上に日本は日本に適したと思われる福祉制度やエネルギー体系を持った社会システムを作ってきたわけですから、これらを考える際には日本の歴史を考慮に入れて考える必要があります。同じように、スウェーデンには、スウェーデンがめざした「福祉国家」というものがあります。

それぞれの国がそれぞれのめざした目標に対して努力してきた結果を現時点で比較してみた時に、両者に大きな相違が生じていたことがわかったのです。この相違はそれぞれの国の価値観とそれに基づく考え方の相違、そして国内外の諸問題に対する対応の相違によるものだと思います。

そして、両国は今、それぞれが築き上げてきた社会システムに修正を加える必要があることに気付いたところです。スウェーデンはすでに10年以上前から社会システムの修正に踏み出しました。

私たちは、便宜上、ものごとを事象別に考えますが、「現実の社会」はそうではなく、様々な事象が相互に影響しあっているのです。ですから、ですから、システマティックな考え方が必要です。

環境政策、エネルギー政策などの国の重要な政策の出てくる背景には、核になるその国の社会というものがかならず存在します。次の図はこれらの関係を示したものです。

ですから、エネルギーの話をするときにも、政治とか行政、法制度などの社会の基本的な要素を考慮に入れた社会システム全体を考える必要があります。私たちはこのような当たり前のことをすっかり忘れて、エネルギーの供給や研究開発と言う狭い枠の中で議論しがちです。

このことは何も外国を理解するときばかりではなく、日本の事象を理解するときにも言えます。特に、スウェーデンを考える場合には、上の図の中央にある社会システムが「福祉国家」になっていることに注意しなければなりません。
 
その場合の「福祉国家」はもちろん、昨日検証した「すべての国民を対象とし、一定の生活水準を保証する」スウェーデンの福祉国家であって、日本国憲法第25条が規定する「健康で文化的な最低生活」や「日本の福祉制度によるもの」ではないことは言うまでもありません。

私が言いたいことは、これまでの日本のジャーナリストや専門家がスウェーデンの事情を考えるときに、あまりにも「日本の頭」で、つまり「日本の視点」だけでスウェーデンを考えていたということです。ですから、スウェーデンの様々な事象を理解するには、日本の視点を越えた幅広い視点が求められますし、そのような幅広い視点を持つことがこれから日本の考え方を変えることに通じると思います。

これまでの日本の伝統的な考え方である「ものごとを細かく分けて分析するような方式」では福祉問題や環境問題、あるいはエネルギー問題などのように国民生活すべてにかかわってくるような問題には対応できないと思います。私たちは、どうも、ものごとを小さく狭く考える傾向があります。

日本で、現在、社会問題となっている「働き過ぎ」の話にしても、労働時間の短縮にばかり意識が集中しているように感じます。私はもっと幅広く見なければいけないと思いますし、労働の問題も社会とのつながりの中で考える必要があると思っています。特にスウェーデンの労働問題を考えるには、福祉国家との関連で理解するよう努める必要があります。



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なぜ、先駆的な試みを実践し、世界に発信できるのだろう⑦   スウェーデン人のイメージ④

2007-08-24 07:16:09 | 社会/合意形成/アクター

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私たちの身のまわりには、スウェーデン人が発明したり、実用化したり、商品化した技術や生活用品がかなりあります。電気冷蔵庫、電気掃除機、卓上式電話機、マッチ、ファスナー、心臓のペースメーカー、自動車用シートベルト、コンピュータのマウスなどはその代表的な例です。

「自然愛好」「ほどほどの精神」「協力」「勤勉」などスウェーデン人を語るときによく使われる表現は、つい最近まで日本人の好ましい特徴として、国際的にもよく知られてきたところです。 

スウェーデン人が自分たちスウェーデン人について語るとき、多くの人が共通してとりあげる言葉が2つあります。一つは「森」で、もう一つは「ラゴム(lagom)」です。スウェーデン人には、森に対するある特別な感情があり、それが環境保護に熱心な理由だといわれています。基本的人権の一つになっている「自然享受権」に従って野山を歩き、野いちごを口にするとき、もし、その野いちごが農薬や放射能で汚染されていたら、それは「権利が侵された」ということだ、と語るスウェーデン人もいます。
 
ラゴムとは「ほどほどに(節度を持って行動する)」というような意味で、この「ほどほどの精神」が、争いや対立を避け、意見が違っても話し合いを通して問題の解決に向かうスウェーデンの伝統やユニークな社会制度をつくってきたのかしれません。
 
スウェーデンの「福祉国家」を、別の言葉であらわせば、「協力社会」ということになるでしょう。年金、医療保険、介護保険、失業保険など、日本でもこれからますます必要とされるさまざまな安全のセーフティ・ネットや安心のためのさまざまな社会制度は社会を構成する老若男女の協力があって初めて完成されるものです。「競争」よりも「協力」という考え方は、本来、日本人の性(しよう)に合うはずです。 

このように、両国民の資質には共通な部分がかなりあるのですが、 両国が長年にわたって築き上げてきた現実の社会制度と法体系、将来に対する見通しには、大きな違いが認められます。現象的にみると、両国はあべこべの国、正反対の国、と言ってもよいカかもしれません。その象徴的な違いが「予防志向の国」(政策の国)と「治療志向の国」(対策の国)
なのです。

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自然科学や社会科学に基礎を置く理念のもとで、適正な技術、ほどほどの精神、現実へのすばやい対応など、スウェーデンが20世紀後半に実践してきた考え方や行動は、21世紀の「安心と安全の未来」への道を開くことになるでしょう。



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なぜ、先駆的な試みを実践し、世界に発信できるのだろう⑥    スウェーデン人のイメージ③ 

2007-08-23 06:54:16 | 社会/合意形成/アクター

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元駐スウェーデン大使であられた戸倉栄二さんは、訓覇(くるべ)さんの著書『スウェーデン人はいま幸せか』(NHKブックス 1991年)の「刊行によせて」の中で、「私は長い外国生活を送ったが、最後に駐在したスウェーデンについては殊のほか印象深いものが多かった。特に感じたのは、平和への努力と福祉とが密接不可分の関係にあるということである」と述べて、次のような趣旨のことを書いておられます。
      
(1)1813年のナポレオン戦争以来170年余、全く戦争に参加しておらず、今日の先進各国の歴史を顧みるとき、これは驚くべきことといわざるを得ない。いかなる軍事同盟にも参加しない「中立国」スウェーデンは、平和に役立つ良い具体策があれば次々にこれを国際場裡に提示して、その実現に向かって不断の努力を重ねてきた。
      
(2)このスウェーデンが現在世界で最も進んだ福祉社会の一つを実現している。この福祉社会は、1976年まで実に44年の長きにわたり、政権の座にあったスウェーデンの社会民主党政府の下に築き上げられたものである。
      
(3)高福祉、高負担の福祉政策の行き過ぎとして、社民党内閣を批判する声も多い。しかし、スウェーデンの政治を観察してみると、そこでは与野党というものが、いわば同じ土俵で相撲を取っている。特に、外交問題については与野党の間に政策上の差異は存しないと断言できる。福祉政策についてもスウェーデンの与野党間には、その大綱においてコンセンサスが出来上がっている。福祉社会を維持し、強化していくことについてスウェーデンの政財界有識者の間に ネガティブな見解はほとんどないのである。


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なぜ、先駆的な試みを実践し、世界に発信できるのだろう⑤    スウェーデン人のイメージ②

2007-08-22 07:32:36 | 社会/合意形成/アクター


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1995年1月1日のEU加盟後のことはわかりませんが、それ以前のスウェーデンは平等社会の実現」を理想としていたと思います。その実現のために、スウェーデンは社会の弱いグループを保護する政治と平等を軸に、連帯により様々な社会的問題を解決してきましたし、これからもそのような伝統的方法で社会的問題の解決をめざしていくでしょう。

ストックホルム大学社会福祉学部で社会福祉の研究を続けてこられた訓覇法子(くるべのりこ)さんによれば、スウェーデン人一般の国家や公共部門に対する見方はかなり積極的かつ信頼をともなった肯定的なもので、スウェーデンでは、国民の中に公共的なものに反感を持つという伝統はほとんどないそうです。このことはなぜスウェーデン人が社会保険制度や福祉制度のために「自助努力的解決」ではなくて、「公共的解決」を選択したかという説明にもなるとのことです。
 
「国家や公的なものへの信頼感」という点も、日本とスウェーデンの間にある大きな相違の一つです。私はここで、1986年4月26日のチェルノブイリ原発事故後にスウェーデンの生協(KF)を訪問した日本のある生協グループが、帰国後書いた次のような趣旨の感想文を思い出しました。
   

X X X X X
「スウェーデンの生協(KF)を訪問した時に、チェルノブイリ原発事故後の食品中の放射能の検査体制について質問したところ、国の機関が検査をしているので、生協としては特別の検査をしていないという返事であった。わが国では、私達が独自の検査体制をもって、検査をしているというのに。また、食品添加物についても、同様の質問をしたところ、同じように、国の機関が検査しているので、生協では検査していないという返事であった」
X X X X X 

私がおもしろいなと思ったのは「わが国では私達が独自の検査体制をもって検査をしているというのに」という箇所です。ここに、公的な機関への信頼感の相違を感じます。
 


訓覇さんの著書『スウェーデン人はいま幸せか』の最終章の一部を、以下のように引用させていただきます。
   

X X X X X 
日常生活のなかで育まれてきた「福祉の思想」が一人一人の心の中に常識として深く息づいていることである。福祉とは、単に選挙の公約でもなく、政治討論の議題でもない。行政処理でもなければ、企業のマーケットでもない。スウェーデンという共同体の、ひいては国民一人一人の幸せの前提であり、生活そのものである。

一人一人の生活を大切にすることが、自分の生活を大切にし、ひいては共同体を発展させていくことにつながるという認識は自然発生するものではない。教育などを通して、子供達に福祉の思想を伝えていくのは大人すべての責任である。たとえ疾病手当ての受給額が10%あるいは20%引き下げられても、医療負担が少し増えても、スウェーデン人は損をするだろうとは考えないだろうし、スウェーデン社会の追い求めてきた理想社会、そしてそれを支える理念は崩壊しないであろう。

弱き人々と共に歩むことができるスウェーデン人はほんとうの「豊かさ」の原点を知っているからである。築き上げてきた「豊かさ」は一時的な経済危機によって簡単に失われるものではないであろう。
     
90年代のスウェーデンは揺れに揺れながら、社会科学の実験国として構築してきた「豊かさ」を検証し、 「すべての国民にとってより平等の社会」をめざすためのたゆみない努力を、忍耐強く続けていくと私は思う。
X X X X X


訓覇さんの著書『スウェーデン人はいま幸せか』は1991年、つまり、近年ではスウェーデンが最も経済的に苦悩していたときに書かれたものです。現在のスウェーデン経済は絶好調と言ってもよいでしょう。すでに何回も書いたように、スウェーデン政府の報告書(2007年1月4日公表)によれば90年から2005年までの15年間にCO2を7%削減しながら36%の経済成長を遂げています。このスウェーデンの現状を、訓覇さんは現在どう評価しておられるのでしょうか。

スウェーデンのCO2の排出量の推移を掲げます。


スウェーデンの最新の経済成長率(GDP)と失業率を掲げます。







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なぜ、先駆的な試みを実践し、世界に発信できるのだろう④    スウェーデン人のイメージ①

2007-08-21 12:41:35 | 社会/合意形成/アクター

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スウェーデン滞在が長く、その間にストックホルム大学社会福祉学部大学院研究員であられた訓覇法子(くるべのりこ)さんは15年以上前に出版した 『スウェーデン人はいま幸せか』 (NHKブックス 1991年4月)の中で、スウェーデン人のイメージを次のように述べておられます。

     
(1)争いや対立を避けようとする意識が高く、理想として同じ考え方や意見でもってまとまれるよう、話し合いを通してできる限りの努力をする。     

(2)スウェーデン人はどちらかというと芸術家タイプというより、自然科学的思考をし、合理的かつプラクティカルなタイプである。

(3)不法・不正に対して妥協せず、高度の遵法精神を持つ人道主義である。
     
(4)個人尊重と連帯思想の見事なバランス。日本人における「個」というものが全体あっての「個」として存在するなら、スウェーデン人の場合は、独立した「個」があって、全体が存在するといえる。この国の人々は嘘がなく、意見が異なっても感情を害することなく、相手を尊重しようとする努力をおこたらない。そのうえで意見を尊重し、全体としての見解および結論にできる限り歩み寄ろうとする。

訓覇さんによれば、今から120年以上前の1884年(明治17年)に設けられた労働者保険委員会が1888年にスウェーデンで初めての階級分析を行っており、このときの調査分析の結果はなんと国民の94.4%が労働者階級あるいはそれに等しいというものであったそうです。つまり、当時のスウェーデン人のほとんど全部が労働者階級に属していたというわけです。この事実が基礎になって、年金などの普遍的供給の原則が打ち立てられたのだそうです。

訓覇さんはさらに続けます。
     
(1)スウェーデンでは首相、大臣だろうが、会社の社長だろうが、地下鉄に乗ったり、自分の車を運転して通勤するのである。国王もプライベートの旅行の時は自分でカバンを持って歩き、迎えもなしに自分でサッサと車を運転して帰る。首相官邸などなく、ごく普通のアパートに住んでいるし、フットボールだって、映画だって、お供なしでバスや地下鉄に乗って気軽にでかける。つまり、必要でないものは必要でないのである。     

(2)生活困難などの問題は個人の責任によって起こるのではなく、社会構造が引き起こすものだとして、個人レベルでの問題解決よりも社会変革という構造的視野からの問題への取り組みに焦点があてられる。つまり、問題として表面にあらわれた個々の現象を見るのではなく、その背後にひそむ根本的問題への対処を重視すべきであるというものである
     
(3)共通の問題に対してこれを個人的に解決しないで、集団的に、あるいは共同体として解決する方法を選択し、それをシステム化していく。
 
資本主義社会の貧困についての1991年6月3日付けの朝日新聞のインタビュー記事の中で、「日本では、生活保護の厳しい運用が続いています」というインタビューアーの発言に対して、東大教授の岩井克人さんは「レーガン、サッチャー流の『貧乏は本人の責任だから自助努力で立ち直れ』というイデオロギーを、中曽根臨調路線が単純に輸入したあらわれだ。この結果、日本ではそれでなくとも隠れている貧困が、さらに見えにくくなっている」と答えています。

この記事の岩井さんの応答と(2)と読み合わせると、スウェーデンと米国、英国および日本との間に「生活困難」という共通の問題に対する対応の仕方の相違があることがわかります。

それにしても、日本の現在の状況は1991年の状況より改善されたのでしょうか。私にはインタビュアーへの岩井さんの応答が今でも妙に新鮮に感じられます。



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