波打ち際の考察

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波屋山人

アイヌ文化を継ぐ人

2011-12-30 22:48:03 | Weblog
テレビを見ていたら俳優の伊吹吾郎さんが京都を旅していた。
彫りが深く、モンゴル系っぽくない目元。まつ毛も長い。

何十年か前に読んだ本に、伊吹さんはアイヌ系の混血だという記述があったことを思い出した。
アイヌ系ではないのかもしれないけど、アイヌだと名乗っても違和感はない容貌だ。

日本人との混血が進み、関西人か中国人みたいな容姿の自称アイヌ人も増えた。
アイヌや朝鮮の血をひいていることを公言しているあるミュージシャンは、アイヌというより韓国人のような顔をしている。
阿寒湖のアイヌコタンでも、ひと目でアイヌ人だと分かる人は少ない。
アイヌ的な容姿の人たちが好きなので残念。

アイヌレブルズを解散して、イメルアというユニットで音楽活動を行っている酒井美直(みな)さんはエキゾチックな顔立ちの美人だ。
http://www.youtube.com/watch?v=edhpdsnFE64

母親は日本人で、父親はアイヌ人の酒井衛(まもる)。
両親共にアイヌ人の衛さんは非常に彫りの深い顔立ちで髭も濃く、アイヌ人の中でも目立つ強い顔をしていた。
彼が生きていれば、美しく育った娘の姿をうれしそうに眺めていただろう。

ぼくにとっては、酒井衛さんのほうが有名人だった。
彼の娘さんが美しく育ち、力強く活動している姿は感慨深い。

酒井衛さんは1988年4月、出稼ぎ先の東京で水死体となって発見された。
仲間たちの手によって編纂され、彩流社から1991年に発行された
『イフンケ[子守歌] あるアイヌの死』という本には、美直さんのことも出てくる。

衛さんが萱野茂さんに電話して娘の名前を決めるシーン。
P200
> 「ミナってどうだべ?」「ああ、ミナならいいな、笑うっていう意味でいいアイヌ語の
> 名前だぞ」と言ったら、翌日か翌々日に「美直という名前に決めました。」という電話が
> かかって来た。

衛さんの妹が兄の死に際して美直さんを迎えたシーン。
P234
> 帯広から兄嫁のハルミさんと娘のミナが(ミナ=アイヌ語で笑うの意)駆け付けたのは
> 夕方でした。羽田に迎えた私にミナが「パパ死んじゃった?」と小さな体で、悲しそうな
> 目で尋ねられたのには心が痛みました。
(略)
> 最愛の妻とかわいい子供を残して逝くことは心残りであったでしょう。
> 四十五歳の誕生日を迎えたばかりでした。

衛さんの奥さんの証言。
P260
> 夜中に酔っぱらって、東京から電話してきたりね。生活は苦しくてね。仕事が無い時は
> 一週間何百円で家族四人暮してて。私と彼はいつもケンカしてたね。

親族の証言。
P262
> 若い頃は酒も飲まずに真面目に働いて仕事も休まなかったのに、東京に行ってから
> 酒をおぼえて、やっぱり酒が良くなかったんだね。ハルミちゃんもかわいそうだったよね。
> 下の子が生まれた頃から飲んでは働かないようだったから。


衛さんは晩年、アル中のようになってあまり働かず、16歳年下の奥さんとも離婚していた。
もしかしたら、本当に別れたわけではなく、生活保護か何かを得るための偽装離婚だったのかもしれない。
東京に出て、山谷で肉体労働をして酒におぼれ、反差別運動や左翼活動などに関わり、闘争やケンカも行い、そんな中で何度か逮捕されることもあった。

闘争仲間の証言。
P273
> キタさん(注:活動家としての名前)はプロ革派ではあったが、連赤敗北以降、
> 赤軍派再建に携わった少数の人々の中の一人に数えられるだろう。


美直さんも気が強いところがあるみたいだけど、長く活動を続けてほしいと思う。
アイヌの伝統や文化を継いで発展させているアイヌ人は少ない。
アイヌ語を覚える意志のある人はあまりいないし、アイヌ語やアイヌ文化を活用して何か表現しようとする人は数えるほどしかいない。
数少ないアイヌ語話者の多くもアイヌ人ではなくて平たい顔の日本人だ。

歴史学的には、アイヌ文化やアイヌ人は1000年前には成立していなかったと言える。
当時北海道は続縄文時代が続いていた。
縄文人の後継者が、海洋民族や大陸民族や縄文人の混血である日本人と交流を持って
成立したのがアイヌ文化だと言えるかもしれない。
アイヌ文化が成立してからも陶器作りや金属加工などは発達せず、
交易によって日本から輸入する品物が多かった。

アイヌ国家もアイヌ共通語も成立せず、未開人扱いされていた時代が長く続いたけど、
日本列島の最初期の住民の末裔、石器時代人や縄文時代人の子孫として
彫りの深さや体毛の濃さ、酒の強さや神話世界の豊かさ、文様の豊富さなどを堂々と誇っていい。
現代の人にとっては、アイヌというのはとてもかっこいいことだ。

ぼくは、自己否定するアイヌの人を見ると残念に思う。
かつてはひどい扱いも受けたことがあったけど、現代ではアイヌの伝統を誇っても、
アイヌ語を学んでもアイヌ文様を商品化しても邪魔する人はいない。
何でも好きな表現ができるこの時代に、自己否定して、やる気のなさを正当化するのはもったいない。

アイヌはかっこいいのだから、そのかっこよさをどんどん表現してほしい。
容姿、文様、神話、人柄。どれも魅力的だ。

飲んだくれや、彫りの深いことや毛深いことを引け目に感じる人や、公金を横領する人や
被害者面ばかりしてネガティブな思考に支配されている人には魅力を感じないけど、
堂々と表現をする人には魅力を感じる。

90年代以降だろうか、反差別運動に携わっていた人たちが、自分たちの行動に疑問を持つようになってきた。
差別者を非難したり、被害者意識を前面に出すのもいいけど、いつまでも差別者を目の上のタンコブのように意識する必要はない。
自分たちなりの価値観を表現していけばいい。
差別者の価値観に影響されて引け目を感じるなんて、他人に自分が支配されているようなものだ。
自分で価値を作って、差別者に対抗する方法だってある。

やがて古い人類の骨格を備えたアイヌ人種は完全にいなくなってしまうのかもしれないけど、
アイヌ文化は継承・発展が可能だ。
アイヌ人として生きるのか、アイヌ系日本人として生きるのか、人種や民族にこだわらないのか、それは人それぞれだろうけど、活動を楽しみにしている。

特にイメルアには注目。何度見てもやっぱりいい。
http://www.youtube.com/watch?v=edhpdsnFE64

OKIさんにも引き続き注目。大人のかっこよさ。
http://www.youtube.com/watch?v=-Gy2Saaa5gM

コメント (4)
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