波打ち際の考察

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波屋山人

警察派出所を暴徒が襲撃、4人死亡、デモ鎮圧への報復か―新疆

2011-07-19 23:37:45 | Weblog
以前、ゴビ砂漠を縦断するバスでウイグル自治区のウルムチからホータンまで24時間かけて南下したことがある。
ホータンに着いてから町中を散策していると道に迷い、市場で地元の人に道を聞いていたら、中国人の警官がやってきてパトカーで宿まで送ってくれた。

そのホータンで警官と人質が4人も殺害される事件が起こったらしい。
ニュースが気になるけど、日本のメディアが事件の背景にあまりふれていないことが物足りない。
中国政府系の新華社の報道を引用するばかりで、ジャーナリストらしい切り込みがない。

少なくとも、殺害された警察官が中国人(漢族あるいは漢族化した少数民族)で、加害者が中国国籍のウイグル人であるということや、
中国が長年ウイグルを武力で抑圧し支配しているせいで、ウイグル人たちの間に不満が鬱積していることを説明すべきではないだろうか。

ウイグルにはイスラム教徒のトルコ系民族であるウイグル人が多く、独立を求める彼らに対する弾圧は厳しい。
中国政府は、ウイグル人が中華民族として同化することを望んで支配を強めている。

ウイグル人は経済活動でも文化活動でも中国政府、漢民族の意に沿わない活動はできない。
新疆ウイグル自治区の奥地に行っても、ホテルやレストラン、商店の経営者やスタッフ、運転手、博物館のスタッフ、警察官などは入植してきた中国人がほとんどだ。
自転車タクシーの少年や屋台のおばちゃん、ナイフ屋のおじさんなどはウイグル人だったけどね。
中国人とウイグル人の権力格差や収入格差は大きい。

ウイグル人は漢民族に近い顔もあればアラブ人に近い顔もあるけど、基本的にトルコ系というか、東洋系と中東系のハーフのような、やや濃い顔立ちが多いので中国人と見分けることはむずかしくない。

「ウイグル人は法的に漢民族と対等の地位をもっているからウイグルを植民地ということはむずかしい」、などと言う人もいるけど、ウイグルの現実を見たことがあるのだろうか。
とてもウイグル人が中国人と同等の立場にあるとは思えない。

ウイグルが中国の植民地だと認めないことは、朝鮮半島や台湾が日本の植民地だったと認めないことに等しい。

植民地の存在は許せないと言う人のなかには、日本や欧米による植民地経営を断罪しても
中国によってウイグルやチベットが併合・植民地化されていたり、
沖縄によって宮古や石垣などが併合・植民地化されていたことを批判しない人がいる。

植民地からの搾取という構造的な問題に反対しているのではなく、別のものを攻撃したくて活動しているのではないかと疑ってしまう。

中国系メディアの見出しでは
「警察派出所を暴徒が襲撃、4人死亡、デモ鎮圧への報復か―新疆」
アメリカのニュースの見出しでは
「新疆ウイグル自治区で派出所襲撃=4人が死亡」
となっていた。
中国系のニュースでは、「暴徒」という言葉を使い、「ウイグル」という言葉は使っていない。

時事通信は記事の文中で「暴徒」と言う言葉を使っているが、毎日新聞は「何者か」という表現にとどめている。
それにしても日本の報道は新華社の報道に頼りすぎだ。
戦争中に大本営の報道に頼りすぎたことを反省していないのだろうか。

海外の報道では、事件の背景やウイグル人側のコメントも掲載してある。
海外の人たちだって中国の存在感の大きさは理解しているけど、
言うべきことはきっちり言う。
日本人みたいに周囲の雰囲気に合わせて波風立たないようにして動いていたら、
海外では意志あるジャーナリストとして認められない。

事件を報道するのであれば、事件の概要と背景、当事者双方の認識くらいはおさえておくべきではないかと思う。
中国政府に文句言われると面倒だから、と感じて及び腰になる人は、
きっと戦時中には軍部や好戦的な一般人に合わせた報道を行い、
戦後は手のひらを返したように民主主義や人権や平和の重要性を報道したのだろう。
そんな姿を見て、誰が信頼できるか判断する人もいる。


★★★★ウォールストリートジャーナル。事件の概要と背景、現状について言及。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110719-00000005-wsj-int
■新疆ウイグル自治区で派出所襲撃=4人が死亡
ウォール・ストリート・ジャーナル 7月19日(火)9時33分配信
【北京】中国国営新華社通信によると、新疆ウイグル自治区ホータン市で18日正午ごろ、数人の暴徒が警察の派出所を襲撃し人質を取って立てこもった.。このため、武装警察が出動し午後1時半ごろ事態を鎮圧した。襲撃で治安要員と人質の各2人が死亡し、治安要員1人が負傷した。しかし、暴徒のうち何人が殺害されたのかなど詳細は明らかになっていない。
ウイグル自治区では2009年に暴動が起きるなど、独立を求めるイスラム教ウイグル族による民族暴動やテロが散発的に発生している。ウイグル族の間では、中国政府は大量の漢民族を同自治区に送り込み埋蔵される石油を収奪するとともに、宗教の自由を厳しく制限しているとの不満が強い。中国政府はこうした批判を否定し、これら不満分子は国際テロ組織アルカイダと関係があると主張し、テロ撲滅に向け国際支援を呼び掛けている。
ドイツに拠点を置く世界ウイグル会議は、連絡をとったホータンの住民の話として、同地では土地紛争がらみで、警察が数カ所を家宅捜索し数人の若者の身柄を拘束、このため18日に約100人の住民が抗議行動を行ったという。
新華社がこの事件を報じた後、インターネット上では「ホータン」という言葉による検索が阻止されるようになっている。

★★★ロイター。事件の概要と中国政府とウイグル人双方のコメントを掲載。
http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-22254720110719?feedType=RSS&feedName=worldNews
■ウイグル自治区の警察襲撃で4人死亡、デモへの発砲端緒か
2011年 07月 19日 10:57 JST
[北京 18日 ロイター] 中国の新疆ウイグル自治区ホータン市で18日、何者かが警察署を襲撃し、人質を取って建物に放火した。新華社によると、犯人ら数人は警察に射殺されたが、制圧の際に人質と警察官ら計4人が死亡した。
 報道によると、襲撃があったのは同日正午ごろで、警官隊が直ちに現場に動員され、犯人らを射殺。人質のうち6人は無事解放されたという。
 国営テレビは、事件は既に制圧されたと伝え、政府の反テロ部門チームが現地に派遣されたという。
 一方、ドイツに拠点がある在外ウイグル人組織の「世界ウイグル会議」は、現地住民の話として、警察が平和的な抗議活動に発砲したことが事件につながったと明らかにした。

★★サーチナ(日本の中国情報サイト。BBCの報道を引用した記事)。事件の概要と背景に言及。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110718-00000036-scn-cn
■警察派出所を暴徒が襲撃、4人死亡、デモ鎮圧への報復か―新疆
サーチナ 7月18日(月)22時18分配信
 18日午後12時ごろ、中国新疆ウイグル自治区和田(ホータン)市で警察の派出所が数人の暴徒が襲撃し、人質を取り立てこもるとともに放火した。中国の警察、武装警察が現場に急行し、現場で頑強に抵抗する数人を射殺。人質6人を救出した。18日付新華社などが伝えた。
 警察側は午後1時半ごろには暴徒を制圧した。武装警察官1人と補助警察官が1人、人質2人が死亡した。
 公安部によると、国家反テロ弁公室が担当官が指揮のため現場に向かった。
 BBCによると、世界ウイグル会議の広報担当者は「抗議活動に対する当局の弾圧が招いた結果だ」と話している。担当者によると、ホータンのウイグル人は、漢人による土地の収用などに抗議し平和的なデモを行っていたが、当局が発砲して鎮圧し、死傷者が出たことが原因となっている。(編集担当:中岡秀雄)

★レコードチャイナ(日本の中国情報サイト。新華社の報道を引用した記事)。事件の概要のみ掲載。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110718-00000018-rcdc-cn
■暴徒が派出所襲撃、武装警官ら4人死亡=対テロチームが現地へ―新疆ウイグル自治区
Record China 7月18日(月)21時15分配信
18日、新疆ウイグル自治区ホータン市の派出所が暴徒に襲撃され、武装警察官ら4人が死亡した。暴徒数人は当局によって射殺された。写真は10年6月、同自治区で行われた対テロ演習。
2011年7月18日正午(日本時間午後1時)ごろ、新疆ウイグル自治区ホータン市の派出所が暴徒に襲撃された。新華社が伝えた。
記事によると、暴徒は派出所に入り込んで警察官を襲い、人質を取った上で放火した。人民警察や武装警察官が現場に駆けつけ、暴徒数人を射殺。事態は午後1時30分(日本時間同2時30分)ごろ収束したが、武装警察官ら4人が死亡し、1人が重傷を負った。
中国公安部によると、国家反テロ工作協調小組弁公室は事件の処理のため、現地に対テロチームを派遣した。(翻訳・編集/TH)

★時事通信社。新華社(中国政府系)の報道だけ引用。事件発生の背景について言及なし。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110718-00000062-jij-int
■新疆で派出所襲撃、4人死亡=容疑者数人を射殺―中国
時事通信 7月18日(月)19時17分配信
 【北京時事】新華社電によると、中国新疆ウイグル自治区ホータン市で18日正午(日本時間午後1時)ごろ、公安局の派出所が暴徒に襲撃された。暴徒は人質を取って立てこもり、放火するなどして武装警察官ら4人が死亡、1人が重傷を負った。武装警察隊などが出動し、午後1時半までに容疑者数人を射殺。人質6人を救出し、事態を鎮圧したとしている。
 襲撃で死亡したのは武装警察1人、治安要員1人、人質2人。国家反テロ工作協調小組弁公室は事件処理を指導するため、同自治区に作業チームを派遣。警察を狙ったテロ事件とみて、動機や背後関係などを調べる。

★毎日新聞社。新華社(中国政府系)の報道だけ引用。事件発生の背景について言及なし。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110719-00000001-mai-cn
■<中国>新疆の警察で立てこもり…人質、警官ら4人死亡
毎日新聞 7月19日(火)0時33分配信
 【北京・成沢健一】新華社通信によると、中国新疆ウイグル自治区ホータン市で18日正午(日本時間午後1時)ごろ、何者かが警察の派出所を襲撃し、人質を取って立てこもった。警察などが出動し、襲撃した数人を射殺して約1時間半後に制圧したが、襲撃した者が放火するなどし、人質や警察官ら4人が死亡、1人が負傷した。人質はほかに6人いたが、救出された。襲撃の背後関係や要求など詳しいことは不明。
 中国政府はテロ対策の調査チームを現地に派遣した。新疆ウイグル自治区では08年8月にカシュガル市で警察施設が襲撃されるなどテロが相次いだほか、09年7月には区都ウルムチ市でウイグル族による大規模暴動が起きている。


時事通信とか毎日新聞は何をしているんだろう。
民族問題がからんでいることを知らないはずはない。
中国政府の目を気にしてややこしい問題はスルーしたのだろうか。
それは言論の自由をみずから返上する行為だ。

「新疆で派出所襲撃」「新疆の警察で立てこもり」という見出しも不用意。
「新疆」は新しい国土、ニューテリトリーみたいな意味で、中国人の視点だ。
ウイグル人の視点には配慮してませんよ、という姿勢を見せつけているようなものだ。


後追いで、時事通信はウイグル人側の認識も報道していた。
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2011071900779
■抗議活動の20人が死亡=中国新疆派出所襲撃に反論-ウイグル組織
 【北京時事】中国新疆ウイグル自治区ホータン市で18日、公安局の派出所が襲撃され、人質ら4人が死亡、容疑者数人が当局に射殺されたと新華社が伝えた事件について、ドイツに拠点を置く在外ウイグル人組織「世界ウイグル会議」は19日、「抗議活動に参加していたウイグル族少なくとも20人が警察との衝突で死亡したものだ」と主張し、中国側の報道を否定した。
 同会議によれば、ウイグル族のグループが拘束されている家族らの釈放を求めて抗議活動をしていたところ、警察部隊が発砲したという。ほかにも11歳の少女を含む12人が重傷を負い、70人以上が拘束されたとしている。(2011/07/19-20:11)

中国共産党と仲のわるい産経新聞は、アメリカでの報道を引用している。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/110719/chn11071913310001-n1.htm
■中国新疆の派出所襲撃、当局によるデモ阻止が原因か 
2011.7.19 13:30
 中国新疆ウイグル自治区ホータン市で起きた派出所襲撃事件で、米国の海外向け放送、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)などは19日までに、デモを阻止しようとした警察と、群衆が衝突したのがきっかけだとの見方を伝えた。海外に拠点を置く亡命ウイグル人組織「世界ウイグル代表大会」の話として報じた。
 同組織によると、ホータンでは18日午前、地元のウイグル族が、外部からの企業進出が相次ぎ、自分たちの土地が奪われていることなどに抗議するデモを計画。これに対し、公安当局が発砲してデモの実施を阻止したため、警察と群衆が衝突。その後、事件に発展したとみられる。
 18日の新華社電は、ホータンの派出所で暴徒が人質を取って立てこもり建物に放火、人質ら4人が死亡したと報道し、テロの可能性を示唆。しかし同組織は新華社の報道について「完全に事実をねじ曲げている」と反論している。(共同)


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