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細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

学生による論文(7) 『日常生活に潜む「ストック効果」的思考』 伊藤 紀奈(2022年度の「土木史と文明」の講義より)

2022-10-21 04:41:32 | 教育のこと

日常生活に潜む「ストック効果」的思考
都市科学部都市社会共生学科2年
伊藤紀奈

 私は、今回の授業で初めて、土木工事やインフラストラクチャーの「ストック効果」について知った。土木に関する知識は全くと言っていいほど持っていないし、専門的な内容を理解することは難しかったが、その「ストック効果」の重要性はよくわかった。
一つトンネルを通すだけで、人々の暮らしがぐんと良くなる。ものによっては、何百年も機能を維持して、社会に貢献し続ける。建設費は高くつくかもしれないが、インフラは一回限りの使い捨てではない。この先何年も利用できるという「ストック効果」を考え合わせれば、高額な建設費も大損ではなく、むしろ黒字の可能性すらある。もっとも、黒字のインフラにするためには、建設場所や方法など様々な要素を検討して、最善のやり方を模索する必要があるが。

 最初に述べたように、私は「ストック効果」という言葉を初めて知った。しかし、その意味について、驚くほどすんなりと理解できたのである。それは、この「ストック効果」によく似た考え方が、私たちの日常生活の中にも随所に見受けられるからだと考える。

 例えば、以前、家の洗面所の電球が切れた時のこと。今までは白熱電球を使っていたが、これを機にLED電球に変えようかと父が悩んでいた。白熱電球のほうが価格は安いが、電気代が高い上に、寿命も短い。一方LED電球は、価格が高いものの、電気代は安く、長寿命である。結局どちらが得なのか。父はあれこれ計算して、合計何時間以上点灯させたらLED電球のほうが得になるという結論を導き出していた。

 つまり、初めにかかる費用だけでなく、これから使用を継続していく上で支払うことになる電気代のことまで考慮に含めると、LED電球がより優れていたというわけだ。さらにこの場合、利益は金銭面のみに止まらなかった。白熱電球に比べて明るさの強いLED電球のお陰で、日々の暮らしが少し快適になったのである。

 このように、「初期費用はかかるが将来的には得になる」という選択肢を選ぶという経験は、誰にでもある、ありふれた日常生活の一コマだと思う。簡単に言えば、コスパ(コストパフォーマンス)が良いものを選ぶということである。この考え方は、土木における「ストック効果」の考え方と、非常に似ているのではないか。

 ここに共通するのは、「将来を見据えて考えること」である。土木の場合は、この場所にトンネルがあった場合、将来どのような「ストック効果」を見込めるか算出し、建設に踏み切る。日常生活においても、長く使い続けることを考えた上で、コストパフォーマンスがより良い商品を購入する。土木と日常では規模感は大きく異なるが、根幹となる考え方は、あまり変わらないのではないか。「将来を見据えて考えること」は、インフラ整備の一大プロジェクトにおいても、洗面所の電球選びにおいても、いつ・どのような場面においても大切である。そして、未来のことまで含めて考えると、必然と深い思考になる。

 初めにかかるコストだけでなく、この先どのような利益をもたらし得るか熟慮すること。最低限のコストで最大の利益を生み出す方法を探求すること。「インフラストラクチャーのストック効果」などと言うと堅苦しく、難しいことのように感じるが、それに類似した考え方に基づいて日々の選択を行っている人は多いと思う。逆に言うと、私たちの多くは、「コスパが良いほうを選ぶ」という行為をするが、それを土木に応用したものが「ストック効果」である、とも捉えられるだろう。土木において「ストック効果」という考え方があるのはもちろんだが、日常生活の中にも「ストック効果」的思考が潜んでいるのではないだろうか。

 


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