細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

「スランプ保持型の混和剤の活用について」

2024-06-18 04:52:04 | 研究のこと

「スランプ保持型の混和剤の活用について」

 本稿では,スランプ保持型の混和剤を用いたコンクリートの土木分野での活用の状況や今後の方向性について,筆者が知る情報をお伝えする。

 筆者の学部の卒業論文の指導教員である小澤一雅先生の博士論文は,自己充填コンクリートの開発であった。しかし,土木分野では長らくスランプ8cmが当たり前とされ,ようやく12cmに標準的な値が移行するような状況であり,スランプの比較的小さなコンクリートが今でも用いられている。そして,スランプロスの問題が当然に品質確保の達成を阻害する大きな要因となる。

 筆者が2009年から関与する山口システム(品質確保システム)の発端は,田村隆弘先生(当時,徳山高専)をリーダーとするコンクリートよろず研究会(一期目)であるが,長い休止期間を経ての二期目(筆者もメンバーの一人)の活動テーマが混和材料であった。その動機は,コンクリートに関わる産官学の様々なプレーヤーのほとんどが,混和材料についての深い知識をほとんど持っていないことであり,今後のコンクリートは混和材料なしには成り立たないことは自明であろう。

 コンクリート用化学混和剤を使用する際,現場で重視される機能は何かについて,コンクリートよろず研究会が業界関係者へ幅広くアンケートを実施した。約2ヶ月間の実施期間で全国から521件の有効回答を得た。「化学混和剤を使用する際に重視している項目」,「化学混和剤について機能を追加,強化して欲しい項目」への回答を集計したところ,いずれの問いにおいても,最も多くの回答が寄せられたのが「スランプ保持性能」であった。スランプロスの問題が業界で大きな課題になっている証左であろう。

 筆者は,2023年に改訂された土木学会コンクリート標準示方書の施工編の改訂部会の代表幹事を務めた。その改訂において,スランプロス問題に風穴を開けるため,暑中コンクリートの35℃問題に取り組んだ。コンクリートの打込み温度が35℃を超え,38℃以下の極めて厳しい暑中環境において,十分なスランプ保持性と適切な凝結遅延性を与える混和剤の使用を条件とすることとした。暑中期にスランプロスの問題が顕著になり,施工時の不具合が発生するリスクが極めて高くなるからである。JIS規格が十分に整備されていない領域の混和剤であったため,JSCE-D504「暑中環境下におけるコンクリートのスランプの経時変化・凝結特性に関する混和剤の試験方法」を制定した。この試験方法による試験を実施し,示方書の施工編に示される判定基準を満たした混和剤を用いる仕組みとした。

 この改訂は,土木分野で深刻化するスランプロスの問題を改善するための重要な一手,というのが筆者の認識である。筆者は個人的には,フレッシュコンクリートの世界からスランプロスという問題が無くなることが理想と思っている。一気にその状態に飛ぶことはできないため,今回はその出発点としてでき得ることをやったという認識である。

 上記の改訂のための準備は,土木学会コンクリート委員会の3種委員会である「養生および混和材料技術に着目したコンクリート構造物の品質・耐久性確保システム研究小委員会」(356委員会,委員長は筆者)のWG2(菅俣匠主査)で行い,JSCE-D504の叩き台を作成した。その叩き台が土木学会コンクリート委員会の規準関連小委員会での度重なる審議を経て,制定された。

 現在,コンクリート委員会の2種委員会である「暑中コンクリートの設計・施工に関する研究小委員会」(253委員会,委員長は筆者)が指針の原案の初稿が出来上がり,常任委員会での審議にかけられるよう段取りを進めている。この指針には,スランプ保持型の混和剤の活用がさらに進む社会となるような仕組みが盛り込まれるよう,全力を尽くしているところである。

 ここからは,国内外でのスランプ保持型の混和剤の活用状況について事例を紹介する。

 筆者は,2021年12月に,広島県の生コン工場を視察した。この工場では,2021年6月にJIS A 6204(コンクリート用化学混和剤)に規定され,JSCE-D504に準拠した試験で示方書の施工編の判定基準も満たすスランプ保持型混和剤(暑中対策用混和剤)を社内標準化した。同工場では土木配合による暑中期の打設において,スランプロスの慢性化が課題となっていた。更に山間部の災害復旧現場では運搬時間だけで60分以上を要するため, 汎用の高機能AE減水剤ではスランプロスが生じ現場での品質確保が困難となる事例があった。そこで,スランプ保持型の混和剤を採用し,その結果,フレッシュコンクリートの性状は極めて良好な状態が保持され,スランプ値は製造直後から2時間経過後においてもJISの規定範囲を維持する品質となった。筆者は,生コン工場を視察した同日に,災害復旧現場の砂防堰堤を視察した。コンクリートの仕上がりは素晴らしく,筆者らが開発した目視評価法で私が点数を付け,非常に素晴らしい出来であることを定量的な数値でも確認した。なお,この工場では,混和剤を切り替えた後は,厳しい暑中環境下においてもスランプロスによるクレームはゼロであったとのことである。

 JIS A 6204に規定されているスランプ保持型の混和剤は,ある混和剤メーカーにおいては,全国で使用されるAE減水剤の年間数量ベースで1割程度(西日本では2割)の使用とのことで,普及が進んでいる状況にある。生コン工場数の減少は,生コンの安定供給の観点からはゆゆしき事態であると認識しているが,荷卸しの時間制限,土木分野での打込みに関する時間制限,打重ね時間に関する時間制限などの緩和についても,構造物のコンクリートが品質確保されることが前提で,慎重な検討が重ねられることを期待したい。

 国外での動向を述べる。シンガポールなどの日本より厳しい暑中環境の国では,このような化学混和剤の活用について日本よりも進んだ状況にあるようであり,生コンの製造会社にヒアリングを行った。

 ヒアリングは,2023年7月18日(火)に,シンガポールの第2番目の規模の生コン会社であるISLAND CONCRETE (PTE) LTD.のSenior Technical Managerに対して筆者が行った。ISLAND CONCRETE社は,シンガポールで2番目の規模の生コン会社であり,7工場で,一月の出荷量が200,000m3/月程度をほこる。ちなみに,シンガポール最大の会社は,350,000~400,000m3/月程度の出荷量とのことであった。

 暑中コンクリートの温度について尋ねたところ,コンクリートの温度に対して付加価値が認められており,28℃以下の場合に+12ドル(シンガポールドル),30℃以下の場合に+8ドル,32℃以下の場合に+4ドル,とのことであった。ちなみに,コンクリートの単価はおよそ100ドル/m3とのことであった。フレッシュコンクリートの温度を下げるために氷が使用され,練混ぜ水の35%程度を氷で置換することもあるようで,氷はマレーシアから輸入しているとのことであった。1トンの氷が90ドル程度とのことであった。

 水和熱を低減するために,高炉スラグ微粉末を70%以上置換したコンクリートも出荷されているようで,+5ドルの付加価値とのことであった。フライアッシュは,産業廃棄物との扱いで近隣の国からは輸入できない状況のようで,日本からフライアッシュを輸入しているそうである。フライアッシュを30%程度置換した,水和熱抑制型のコンクリートが出荷されているとのことであった。

 スランプ保持型の混和剤についても,スランプ保持時間の付加価値が付いたものが流通している.日本のJIS製品に近いと思われる”Concrete Family”と呼ばれる一般的なメニューには無いそうであるが,発注者が希望すれば,通常2時間程度のスランプ保証が,4時間,6時間,8時間,10時間といった長時間のスランプ保持が可能なコンクリートが出荷されている。また,アジテータ車が9~12m3を積載可能なものがシンガポールのRoad Authority(道路管理者)のルール変更により許可されており,生産性が向上しているとのことであった。工場のミキサーも4.5m3の容量とのことであった。自己充填コンクリートの普及率は5%程度であろう,とのことであった。ヒアリングを通じて,シンガポールの生コン会社に大きな活力があることが感じられ,コンクリートの温度やスランプ保持時間などの品質に明確な付加価値を認める市場が形成されていることに大きな刺激を受けた。

 以上,筆者の知る情報を述べた。読者の何らかの参考になれば幸いである。

 

 


豊穣な社会研究センター 爆走?体制が構築

2024-05-24 03:39:42 | 研究のこと

豊穣な社会研究センターが設立されて1年1ヶ月が経過しました。

準備に時間がかかりましたが、2024年度に入ってメンバーも変更となり、体制も構築され、3つの研究所の所長も確定しました。

メンバー表に掲載されているメンバー以外にも、学外に無数の連携者がおり、さらに増えていきます。豊穣Cのメンバーは今後、どんどんと充実していきます。

豊穣Cの本質は、「コンサルティング」です。お悩みに寄り添い、必ず解決策を提示します。不安が解消します。

「困ったら?」

「豊穣センターへ!」

あなたが知っている豊穣Cのメンバーや関係者に、なんでも相談してください。様々なプロが、どんなお悩みにも相談に乗り、具体的な解決策をご提示します。

行政、民間企業、大学関係者、一般の方々、
インフラや、数値シミュレーションなどに限らず、
(インフラについては、すでに「元気なインフラ研究所」のコンソーシアムが設立。申し込みはいつでも)

「つながり方研究所」という、人と人のつながりについてもプロ集団がそろっていますので、「孤立と分断」という近代社会の象徴的な現象の中で苦しんでおられるあなたも、ぜひご相談ください。

様々なイベントも展開していきます。

1) 「和のAI・コーチング」をYNUから発信!2024年5月27日(月)15:00~17:30
https://note.com/hojo_ynu/n/n541acf5e9d59

2) 真に我が国が発展するためのインフラのありかた 2024年5月28日(火)13:30~15:30
https://note.com/hojo_ynu/n/nd5eaeeea0395

3) YNU dialogue 「福島の今を知り、100年後の豊穣な社会を考える」のご案内  2024年5月28日(火)18:00~
https://note.com/hojo_ynu/n/n952e35a34a31?magazine_key=m76da01fc3a4f

今後の豊穣Cの様々な展開に、乞うご期待!


豊穣センターのニュースレター

2024-04-18 11:39:58 | 研究のこと

豊穣な社会研究センターのニュースレター第1号が、発刊されました。

広報担当の古川さんが、デザインしますので、細田のテイストとはかなり異なった素敵な感じになります。。。

豊穣センターでは、様々な魅力的なセミナーやイベントも開催していきますので、ぜひ、ご興味のあるものに参加いただき、仲間になってください!


「品質確保物語」から「元気なインフラ物語」へ

2024-04-10 09:05:43 | 研究のこと

道路構造物ジャーナルNETという、ウェブ上の専門誌にて、「品質確保物語」という連載を続けてきました。

私が2009年3月3日に出会って衝撃を受けた「山口システム」(当時は、コンクリート構造物のひび割れ抑制システム。現在は、ひび割れ抑制も含む品質確保システムへ拡張。)が立ち上がる経緯や、発展していく経緯、2011年の東日本大震災の後に復興道路で多くの構造物の品質確保や耐久性確保へとチャレンジが展開していった状況を、物語として連載してきました。

連載は、49回まで続き、皆さんが見やすいように、私自身が運営しているHPに集約してあります

ところが、出版社の事情で、道路構造物ジャーナルNETは今後、更新がなされないことになってしまいました。というわけで、「品質確保物語」も終了となります。

ところが、ところが、同様のウェブ専門誌が別途立ち上がり、私の連載も新装開店で4月下旬ごろにオープンすることとなりました。

新連載の最初の原稿はすでに書き上げ、編集者に送りました。

新連載の名称は「元気なインフラ物語」としました。なぜ、このような名称にしたのか、どのような内容を発信していく予定か、も初回の原稿に記しました。オープンになったら、皆さんが読みやすいように私のブログや、豊穣な社会研究センターのHPからも発信していきます。

引き続き、ご愛顧のほど、よろしくお願いいたします!


「和のコーチング」をYNUから発信! 2024年5月27日(月)15:00~17:30

2024-04-04 15:50:38 | 研究のこと

豊穣Cのセンター長の細田です。

豊穣な社会研究センターの「つながり方研究所」の具体的な活動の一つとして、「和のコーチング」(細田の付けた暫定タイトル)というプロジェクトを立ち上げます。

5月27日(月)に、横浜国立大学のメディアホール(中央図書館内)にて、「和のコーチング」の公開セミナーを開催することが決まりました。学長も参加されます。

今回は無料の公開セミナーとしますが、今後、これを契機にプロジェクトを進め、上手く運べば、大学で受講できる講義として「和のコーチング」が実装されるヴィジョンを私は描いています。

さて、「和のコーチング」とは何か?

このプロジェクトは、プロのコーチたちと連携します。東京コーチング協会のつわものたちです。

私も彼らとしっかりと対面したのは2023年7月末の「コーチング祭り」というイベントにおいてでした。コーチングの達人たちは、プロスポーツ選手や、誰でも知ってる大企業の重役さんなどをコーチングしたりしています。クライアントの持っている能力をフルに引き出すための伴走者、というイメージです。コーチング祭りでは、まさにコーチング界のレジェンド級の方々4名の講演をたっぷり生で聴かせていただき、私自身は講演者たちの考え方やメソッドに共鳴するところが多々ありました。

私も大学教員として、まさに学生たちをコーチングしているわけだし、「コーチング」というものはもっと社会に開かれ、活用されていくべきものであると感じたのです。私の認識では、コーチングとは、対話であり、傾聴、質問力、内省力、思考力であり、人間のポテンシャルをフルに引き出すための考え方です。

「和」と付けたのはなぜか?

私の認識では、コーチングという方法も西洋から入ってきたものです。それはそれで良いのですが、現在は日本が大ピンチの状況で、日本人としての誇りも失いかけている危機的状況。日本人や日本が本来持っている強さ、美しさ、誠実さ、などを前面に押し出して、もしくは取り戻して、社会を良くしていきたいと私は思っています。そこで、「和のコーチング」。

5/27の公開セミナーでは、「つながり方研究所」に集う、本物の僧侶の方も参画予定。私も大ファンの素敵な僧侶の方々です。

近代という社会は、個人がそれこそバラバラの砂粒のようになってしまいかねない、生き方を見失いやすい難しい社会です。

宗教と科学もこれまでは別物だったのかもしれませんが、物事の真理を追究していくと、同じところに行き着くのではないかと我々は議論しています。

つながる、ということは、我々が人間らしく生きていく上での根幹と思います。

プロのコーチたち、現役の僧侶、つながり方の研究者、学長、学生、豊穣な社会への挑戦に興味のある方が集い、つながって、「和のコーチング」を一緒に模索していきませんか?

皆さんのご参加、心よりお待ちしております!


元気なインフラ研究所 第2回セミナー(3月22日(金)15:30~、オンライン)

2024-03-15 07:56:53 | 研究のこと
3/22(金)15:30~、
元気なインフラ研究所の第2回セミナー(オンライン)を実施しました。動画は、こちらです。

元気研のコンソーシアムの情報もポスターの下にありますので、ご覧ください。



今後もセミナーは何度も重ねて実施していきます。膨大な既設インフラの維持管理はもちろん、新設インフラの品質確保と長寿命化、圧倒的な環境負荷低減型の建設材料の開発と実装、などを推進していきます。

セミナーなどで語られる哲学に基づいて、着実に実践、実装を重ねていきます。粘り強いこと、しつこいこと、良いことはいつまでも続けること、などが我々の取り得と思ってます。。。

元気なインフラ研究所のコンソーシアムへの行政機関の会員が増えてきています。民間企業の会員も増えてきています。

コンソーシアムが軌道に乗ってくると、会員限定のセミナーを開催したり、共同研究やコンサルティングなどもどんどん増えていくと思いますので、ご興味のある方はぜひ、コンソーシアムへの入会をご検討ください。こちらを参照ください

豊穣Cのプロモーションビデオ

2024-03-11 11:48:36 | 研究のこと

豊穣な社会研究センターのPVが出来上がりました。

豊穣Cのつながり方研究所の河野さん(客員教授)のコーディネートで、右脳に働きかける映像作成のプロが創り上げた作品です。

センターの目指すところが魅力的に伝われば幸いです。



都市基盤学科の卒論生たち5名の発表会

2024-02-23 06:43:18 | 研究のこと
3/5(火)の12:30~15:30の予定で、都市基盤学科の卒論生5名の発表会・対話会を実施します。ハイブリッドでの開催で、部分参加も可能ですので、ご興味ありましたら参加いただければと思います。



YNU都市基盤学科の卒業論文で、豊穣な社会研究センターの関連の皆さんに聴いていただいて議論したら面白いものをピックアップして、発表会をしてみることにしました。YNUの教員、豊穣Cの研究者や学外の豊穣Cの連携者たちを招いて聴いてもらい、対話できればと思います(基本、どなたでも参加可能です)。学生一人に発表・質疑・対話で30分ずつは確保できるかと思います。

1. 落合君(細田指導):分野横断・ビジョンドリブン型組織における参画者の意識変容・行動変容について → つな研
2. Yan君(細田指導):混和剤もしくはスラッジ微粉末を用いて製造した造粒ポーラスコンクリートの圧縮強度および透水性の比較 → 元気研

3. 渡さん(比嘉先生指導):社会生態システムを考慮した都市沿岸環境デジタルツインのフレームワーク構築 → もしも×可視化研、つな研

4. 李君(小松先生指導):地震応答解析を活用した建築物の倒壊リスク評価 → もしも×可視化研

5. 小林航汰朗君(比嘉先生指導):日本沿岸における自然共生社会に向けたインフラベストミックスのための地域特性の評価

会場:横浜国立大学の土木工学棟セミナー室を予定(変更になる可能性あり)

オンライン参加はZoomで
トピック: 豊穣な社会研究センター セミナー
ミーティング ID: 838 4255 1766
パスコード: 702778

研究の幅

2024-02-12 14:35:43 | 研究のこと

2月3日の土曜日に、毎年恒例の研究室の冬合宿を実施しました。過去、コロナ禍の時期を除いて、宿泊付きのまさに合宿での開催をしてきましたが、今年は現役学生たちの意向もあり、大学で実施し、宿泊なし、でした。今後、どのような形式で開催するかは、学生やスタッフともよく話していきたいと思います。私は宿泊付きが好きですけど。ちなみに、昨年、2023年2月の冬合宿についてのブログはこちら

今年の冬合宿も、前川先生がフル参加してくださいました。日常の研究室ゼミには参加されないため、特別感があり、M2や4年生の各研究に対する前川先生のコメントからは、私もいろんなことを感じさせていただきました。大変、贅沢な時間ですね。

一つ、感じたことに、「研究の幅」という観点がありました。前川先生のコメントで、研究に取り組む場合は、研究の当事者はどうしても視点が狭くなりがち、というものがありました。工学的な成果を出そうとすると、どうしてもある範囲の条件を設定し、その中で最適な解を見つける、というようなスタンスを取りがちです。あえて両極端の視点を持ってみて、物事の本質に迫る、というようなスタンスを持ちましょう、というようなコメントでした(より広い範囲に適用できる知見、技術であれば、真実に近いのでしょうね)。そうすることができれば、研究すべき課題はたくさん見つかるし、研究テーマに困ることもない。

研究すべきテーマが無くなる研究者が少なくないが、上記のような視点で取り組んでいないからではないか、と前川先生はコメントされました。

私自身も、40代半ばを過ぎるころに、研究者としての自信を失いかけた時期がありました。いろんな理由が複合していたように思いますが、今はその状況は脱し、現時点で研究者として自信がある、ということでは決してなく、研究すべきことがたくさんある、という状況にあると感じています。人間、やるべきことがたくさんあると、元気になります。

前川先生のコメントにあるように、視点を広く持つ、ということは以前から心がけてはいるつもりですが、今はさらに心がけるようにしています。

人との出会いによって、研究テーマが開拓された、という経験も何度もしました。生コン業界の猛者たちとの出会いで、オワコンやイワモルの研究テーマが拓け、このテーマだけでやるべきことがたくさんあります。また、以前から暑中コンクリートの研究をすべき、とは思っていましたが、これも私自身から身近な信頼できる研究者たちに発信したり、様々な周辺状況が折り重なって、一つの大きな動きになっています。豊穣な社会研究センターの設立により、挑戦すべき領域が大きく拡がり、様々な研究にいろんな優秀な方々と取り組める状況になり、逆にその拡がりに驚いている状況です。

私のような凡人で、根っからの研究者ではない人間でも、誠実に努力を重ね、真実に近づこうとし、心を開き、多くの方々と出会い、社会の課題を解決するという強い意思を持ち続ければ、工学の研究者として50歳になっても幅を拡げていける、ということを自分の人生で学びました。

今の私がそのように感じている、というだけで、人生は無常ですから、今後、どのように変化するか分かりません。私自身の状況も、周囲や社会の状況もどうにでも変わり得ると思っています。禅のマインドで、その瞬間瞬間を生きる、ということに尽きるかと思います。


元気なインフラ研究所 第1回セミナーと、能登被災地の調査

2024-02-07 08:09:35 | 研究のこと

2月6日に、高岡市役所から、豊穣Cの元気なインフラ研究所の第1回セミナーを開催しました。テーマは、「挑戦的なローカルモデルの創出と展開」でした。

動画はこちら

登壇者は、玉名市の木下義昭さん、愛知県の宮川洋一さん、豊穣C客員教授の松永昭吾さん、と私でした。私が共同研究をしている高岡市役所の橋梁担当者もパネルディスカッションに登壇いただきました。

私たちの目指すところが伝わったのではないかと思います。これからどんどんと実践を重ねていきますので、ご興味のある方は是非是非コンソーシアムの会員になってください。特に、行政関係で参加にご興味のある場合は、個人で加入するのか、組織で加入するのか、会費はいらないという情報があるが本当なのか、いろいろ気になるかと思いますが、遠慮なくお問い合わせください。

2月6日は、松永さん、木下さんとともに、朝6時に高岡駅前のホテルをレンタカーで出発し、能登の被災地に向かいました。14時までに高岡市役所に戻るという制約条件のため、今回は、穴水まで到達し、そこから能登島の橋梁などをしっかりと調査し、七尾を経由して戻ってきました。

大変な広域での災害である、ということが第一印象でした。家屋の倒壊や損傷も極めて数が多いですが、土砂災害や道路、鉄道、港湾などの被害も甚大で、上水道が機能していないエリアも広範であり、復旧、復興は相当に大変であることが直観的に分かりました。一方で、写真にもあるように、崖崩れの対策を施工してあった箇所ではグラウンドアンカーがきちんと機能しているなど、強靭化対策をしっかりと打ってあったところでは被害が抑えられており、改めて、地域、社会、国土の強靭化が極めて重要であることを認識しました。

元気なインフラの果たす役割とは、

〇 元気なインフラが、豊かで持続可能な社会を支えます。

〇 元気なインフラが、地域や社会の防災・減災力を向上させます。

〇 計画的で適切なインフラ整備が、都市への過剰な集中を緩和し、都市・地方が均衡的に発展できる国へと導きます。

〇 元気なインフラ研究所は、インフラが健全であるための技術、サステイナブルな材料技術、人財育成システムの構築に貢献します。

以下、被災地で撮影した写真です。


穴水の道の駅に。穴水が自衛隊の拠点となっており、災害支援チームなどの最前線の拠点というイメージでした。


家屋が潰れ、車も押しつぶされています。


倒壊した家屋の撤去なども進んでいません。


神社にもお参りいたしました。この神社の被害はそれほど大きくはなかったですが、今回の視察は、かなり多くの寺社が甚大な被害を受けている状況が見られました。


能登長寿大仏もお参り。


長大橋梁では被害が甚大であった、ツインブリッジのと。


PC桁の桁端部の損傷は、これまで見たことのないような損傷形態でした。詳細なコメントは、このブログでは避けますが、このような損傷を防ぐためのもう少し適切な補強筋等の配置が必要に思います。


崖崩れの対策がなされていた箇所は被害が生じていません。強靭化の重要性が一目瞭然です。


七尾の駅前にあるビルに入っている、災害支援のチームの拠点。熊本支援チームの拠点です。
私の教え子の赤間遼太さんが関与しており、このチームの活動を知っていたので、訪問しました。ボランティアの方々が頑張っていました。


元気なインフラ研究所 コンソーシアム セミナー第一弾!

2024-01-26 14:51:43 | 研究のこと

元気なインフラ研究所のコンソーシアム(元気コンソ)のセミナー第一弾を開催します!

どなたでも、事前登録なしで参加できます!

テーマ:挑戦的なローカルモデルの創出と展開

日 時:令和6年2月6日(火)15:00〜17:00
会 場:オンライン(下記のZOOMを使用)

https://us06web.zoom.us/j/84104173153
Zoom ID:841 0417 3153

配 信:富山県高岡市役所会議室


自律分散的な研究活動とイノベーション

2024-01-13 09:55:35 | 研究のこと

「自律分散」というキーワードが一番適しているのかは分かりませんが、私は自分たちの研究プロジェクトのやり方を説明するときによく使うキーワードです。

プロジェクトや組織運営にはいろんなやり方があるのはもちろんです。

私も一つのやり方でやっているわけではありません。私にもいろんな役割があるし、すべての役割がリーダーというわけでももちろんありません。

自律分散的で活発な活動を展開するチームを組織するためには、チームメンバーが共鳴する明確なヴィジョンや目指す方向性があることと、チームに集まるメンバーの能力が高いこと、が必要と思います。もちろん、集まるための手段(今であれば、便利な交通手段やWeb、SNSをフル活用するのは当たり前)や、最初から能力が高くなくてもそのチームの中で能力を養成できること(学生はその好例)なども、もちろん重要です。

豊穣な社会研究センターは、「自律分散」的に運営したいな、とは思っていますが、今のところ、強いリーダーシップによるけん引と、自律分散的な動きが混ざってきている状況です。

豊穣Cの中の、元気なインフラ研究所は、自律分散的な動きが活発なチームであり、これからどんどん進化していくと思います。
特に、元気なインフラ研究所の中のチームである、HAYN隊(ヘイン隊、すなわち変態の集まり)は自律分散の極致かな、と当事者の一人として感じます。逆に、制御しようにも、抑えて留まるような連中が集まってません。。。HAYN隊は、建設材料の技術開発チームですが、得意とするのは、生コン、セメントやコンクリート系の環境負荷低減型の建設材料です。実行力のある生コン会社の社長たち、工場長など、ポンプ会社の社長、学生、地方自治体のエース技術者、コンサルタント、学者、などが自由な組織を形成し、まさに現場から生まれるイノベーションを連発していくチームです。会議も臨機応変、誰と誰がどこで会っているかも勝手ですし、横浜国大の留学生は日常的に静岡県伊豆長岡の生コン工場で実験している。学術論文も発表するし、開発した材料はすぐに社会実装。。。

HAYN隊は一つのモデルと思いますが、このような超自律分散的なチームのエネルギーも活用して、元気なインフラ研究所(長いので、「元気研」)や、豊穣Cをドライブしていきます。

一応、HAYN隊の名前の由来は、「細田(H) 暁(A)と愉快な(Y)仲間たち(N)」から来てます。というわけで、一応のリーダーは私。。。(のはず。。。)

さて、HAYN隊も包含する、元気研のターゲットは、日本中(いや、世界も含む)のインフラであり、私が得意とするのはコンクリートが関係するインフラです。コンクリートのインフラは種類も多く、数も膨大にありますが、インフラを新たに建設するときに、長持ちするように造るための技術やシステムの研究が一つの核です。「山口システム」はその発端であり、私がすでに15年近く関わってきたものであり、この発展や展開もまだまだ続いていきます。

元気研のもう一つの核は、すでにある膨大なインフラの維持管理を良いものにしていくことです。何も課題がなければ放っておいてもよいのですが、とにかく課題だらけ、なのです。特に、地方自治体が管理するインフラの維持管理の問題は、相当に根が深く、手ごわい問題と思いますが、それと格闘していく心強い同志たちが集まってきていますので、私も人生の一部をかけて(ミッションがたくさんあるため)チャレンジを続けたいと思います。

豊穣Cの3つの研究所の1つである、つながり方研究所(つな研)も、自律分散的な運営が向いているチームと認識しており、様々な自律分散的な研究プロジェクトが生まれてきています。今のところ、つな研も私が所長を兼務している状態ではありますが、まずもって、私はつながり方の専門家ではありません。つな研に集う方々はまさに多種多様なプロであり、私も彼らから数多くのことを学ぶことのできる自律分散的なサロンができてきています。

すでに、つな研のつながりの中には、僧侶も二人おられます。私は、お二人ともかなり懇意になりました。まさか、土木工学の研究者と、僧侶が、一緒に研究をすることになどなるとは思っていませんでしたが、今は自然体で仲間がどんどん増えてきています。

つな研では、例えば、次のような研究がスタートしようとしています。

・「和のコーチング」の開発と大学との連携
 コーチング、という仕事があります。つな研は、東京コーチング協会と連携を始めていますが(コーチングの詳しい説明は、Webをどうぞ)、細田の認識は、コーチングという、人の能力を最大限に発揮させるための、伴走者的役割(コーチ)は、社会の様々な場面で必要とされる、というものです。それこそ、私のような大学の教授は、学生の指導もコーチング、企業や行政などに対してもコーチングしているわけです。(コーチングというしっかりした手法を学んだわけではありませんが。)
 そこで、東京コーチング協会に所属するメンバーと、「和のコーチング」プロジェクトを始めようとしています。日本の魅力・ポテンシャルに気づき(もちろん腐りきった日本の課題もしっかりと把握)、日本由来の手法(日本的仏教などもその一つ)もふんだんに取り入れたコーチングというものを開発し、大学で情報発信し、ゆくゆくは横浜国立大学の都市科学部の正式な講義にしたい!と思っています。コーチングって、コーチをする側にも、コーチをされる側にも、いろんな方がなり得ると思っています。母親もコーチだし、少しくすぶっている大学の准教授とかそれこそ教授だってコーチを受ければよいし、大学の学長だってコーチを受けた方がよい場合もある。
 さてさて、どんな展開になりますでしょうか。

・センサーによる心身の活性度等の計測・評価と、それを活用した・・・?
 これも、とりあえず、センサーを4つ購入して、1つで私自身のデータを計測し始めました。いろいろ規定もあるので、まだ詳細は書けませんが、私自身大変魅力を感じています。
 例えば、上記のコーチング。コーチの達人たちはもちろんいますが、彼らのコーチングの本質とは?同じように、カリスマ教師っていますよね。予備校とか大学とかにもいます。とにかく講義が面白い、講演が面白い。聴いていてワクワクする。授ける側と受ける側、どちらもセンサーで計測できます。分析するといろんな情報が出てくるのは当たり前ですが、さてさて、これもどんな展開になりますやら。

他にもつな研では、様々なプレーヤーが、様々な動きを、自律分散的に実践していくことになるでしょう。

豊穣Cの活動は、豊穣Cに所属するメンバーが、センターの外、大学の外の方々と縦横無尽に連携して展開していきますので、ご興味のある方は遠慮なくお問い合わせください。


豊穣C、元気なインフラ研究所のコンソーシアム設立! 会員募集しています。

2023-12-31 12:00:21 | 研究のこと

私がセンター長を務めております、豊穣な社会研究センターの中にある3つの研究所の一つ、「元気なインフラ研究所」のコンソーシアムが設立されました。

元気なインフラ研究所の目指す方向性は、上記のリンクでもすでに発信しています。

コンソーシアムがどのようなものなのか、4分程度で分かる動画も公開しています。

コンソーシアムの規約はこちら

2023年度は会費は無しです。会員資格は各年度の年度末までで、新年度になると更新の手続きが必要となります。2024年度以降は、基本は年会費5万円(1法人ごと)。会費を請求しない場合(例えば行政機関など)もあるので、センター長の細田にお問い合わせください。

コンソーシアムへの参加申込書も、ワードで一枚ですので、お気軽にお問い合わせください(ims-hojyo@ynu.ac.jp まで)。申込書の提出先も、同じメールアドレスで大丈夫です(ims-hojyo@ynu.ac.jp)。

2023年度中に少なくとも1つ、できれば2つ、コンソーシアムのイベントを開催する見込みです。

初回は、おそらく2024年2月6日午後に開催予定で、発信は富山県の高岡市から。オンラインで視聴できるようにする予定です。テーマは「地方自治体のインフラの維持管理を元気に!」という感じ。

熊本県玉名市の素晴らしい橋梁維持管理と、これからスタートする富山県高岡市の橋梁維持管理のスマート化(細田がアドバイザー)のコラボとなります。玉名市の木下義昭課長補佐(博士(工学))とそのブレーンの松永昭吾さん(横浜国立大学客員教授、もちろん豊穣Cの重要メンバー)と、細田とで高岡市に応援に駆け付け、その場で元気なインフラ研究所のコンソーシアムの初回イベントをやっちゃいます。

コンソーシアムの会員になれば、公開セミナー以外の情報もどんどん入ってくるようになると思いますし、コンソーシアムの中で立ち上がる共同研究や、コンサルティングなども利用しやすくなりますので、「開かれた大学」のモデルとして、フル活用していただければと思います。

インフラはもちろん橋梁だけに限りません。人々の暮らしを支える様々なインフラが元気になるように、そしてインフラに関わる人々も元気になるように、できることは何でもやろうと思います。

維持管理はもちろん、新設インフラの品質確保・長寿命化や、将来のインフラに活用する建設材料の技術開発、維持管理に活用する材料・技術の開発、インフラに関する制度やシステムの研究、そして人材育成のための活動などなど、ガンガンやっていこうと思いますので、ぜひぜひ仲間になってください!


成果報告会(11/27(月)午前):土木学会356委員会(養生および混和材料技術に着目したコンクリート構造物の品質・耐久性確保システム研究小委員会) 

2023-11-13 09:48:12 | 研究のこと

土木学会の356委員会(養生および混和材料技術に着目したコンクリート構造物の品質・耐久性確保システム研究小委員会)の成果報告会が、11/27(月)午前に開催されます。

申し込みは、下記です。ハイブリッド開催です。
https://committees.jsce.or.jp/concrete26/

以下が、詳細なプログラムです。委員会報告書もPDFで入手できますので、ぜひぜひご参加ください!

土木学会356委員会成果報告会(司会:渡邉幹事長)

 10001010 委員長挨拶(細田委員長)

WG1 (養生による品質確保技術について)(伊代田主査他)

 10101013 はじめに・養生の重要性(2.1):(伊代田主査)

 10131017 養生日数の延長と物質移動抵抗性(2.32.4):(伊代田主査)

 10171021 低熱・高炉高含有セメントなどの養生の考え方・実験例(2.2.1-2.2.2):(伊代田主査)

 10211027 低熱セメントの養生日数の検討(2.2.3):(渡邉幹事長)

 10271033 寒中コンクリートの養生の考え方(2.5.1):(吉田委員)

 10331039 寒中コンクリートの養生の実例(2.5.2):(音道委員)

 10331040 養生WGのまとめ(2.6):(伊代田主査)

WG2 化学混和剤による品質確保について(菅俣主査他)

 10401045 WG2活動のoverview (混和剤の活用による各種品質確保技術):(菅俣主査)

 10451055 スランプ保持剤の紹介,性能,用途,効果の基本情報:(齊藤委員)

 10551105 事例紹介(筒井委員)

 11051120 暑中コンクリート用混和剤の試験規準案制定および2023年版施工標準への反映についての調査活動:(菅俣主査)

WG3(現場における品質確保について)(子田主査他)

 11201123 はじめに(4.1):(子田主査)

 11231138 施工記録データベースの活用(4.2):温品委員

 11381143 目視評価法の評価方法の改善(4.3):吉村委員

 11431153 北海道における品質確保の取組み(4.4.2):吉田委員

 11531158 東北地方における品質確保の取組み(4.4.3):佐藤委員

 11581203 東北地方の地場橋梁メーカーが挑戦した RC 床版の高耐久化(4.4.4):音道委員

 12031208 国土交通省近畿・中国地方整備局の試行工事(4.4.54.4.6):三方委員

 12081218 沖縄県における品質確保の取り組み(4.4.7):風間委員

 12181220 まとめ(4.5):子田主査

 12201225 閉会挨拶(渡邉幹事長)