細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

実構造物での研究

2017-08-30 14:06:08 | 研究のこと

研究が上手な研究者では全くありませんが、研究者として仕事をしているからには、少しでも意義のある研究ができるようになるよう、若いころから模索、苦闘を重ねてきました。

JR東日本構造技術センターでの経験や、2003年10月に横浜国大に赴任した後のJR東日本等との共同研究、2009年3月に出会った山口県のひび割れ抑制システム(その後、品質確保システム)等が大きな契機となり、実構造物を題材とした研究を少しずつできるようになってきました。

実構造物を題材に研究することの醍醐味は、検証が高いレベルで行われることです。維持管理に関する研究であれば、室内での実験と実構造物では結果が全く異なることも少なくありません。また、ひび割れ等のシミュレーションの場合も、実構造物が対象であればシミュレーションのモデル化も当然に高度になりますが、検証からも非常に多くのことを学びます。要因も増えるし、実構造物の品質向上にフィードバックしようと真剣に志すと、検討項目も増えます。

現在、力を入れて研究しているテーマの一つに、高耐久床版のひび割れがあり、高炉セメントを活用したRC床版のひび割れ防止・抑制について数値シミュレーションを駆使して研究しています。

すでに、新気仙大橋で研究を行いましたが、大型の連続鋼箱桁の橋梁としては2橋目の小佐野高架橋(釜石)でも大々的に研究を行っています。私の親友の東北地整の手間本監督官が監督している橋梁です。

実際の橋梁に使用されるコンクリートで、ひび割れに関連するコンクリートの物性を事前に実験で計測し、その結果も活用してシミュレーションを行います。小佐野高架橋に使われるコンクリートを使っての試験体の作製が9/18に予定されています。実構造物の床版の打込みは、来年の3月ごろの予定です。この実験メニューの策定も私が行って、実験を実施するコンサルタントと私が打ち合わせし、手間本監督官に承認していただく、という流れです。数百万円かかる実験ですが、実構造物で検証されるので非常に貴重ですし、やりがい・責任も大きいです。ですが、実験の費用は国交省から支払われることになります。

大学で研究者として活動を始めてもうすぐ14年になりますが、当初の夢であった、実構造物を対象に研究を行う、という点では少しずつですが現実になってきています。国交省の費用で実験を行い、実構造物で検証も行える、というような30代前半のころから思えば夢のような状況にあると言っても過言ではありません。まだまだ勉強の段階ですが、少しでも実構造物の品質・耐久性向上に貢献できることを念頭に勉強を重ねたいと思っています。

品質・耐久性確保の研究では、トンネルも私の役割が大きい対象で、トンネルについてもアンテナを高く張って、持ち前の行動力を最大限に発揮して、研究テーマを開拓していくつもりですが、こちらは同志を増やし、後輩を育てていく役割も大きいと自覚しています。

全国の地方整備局で品質確保の試行工事が行われることになりました。8/29-30と九州地方整備局での研修の講師として参加しましたが、3年連続で8月の研修に参加してきましたが(九州大学の佐川先生コーディネート)、いよいよ試行工事も始まるので、九州でも魅力的な取組みになるよう、私も役割を果たしたいと思います。

9/11~13が土木学会の全国大会@九州大学、ですが、9/12は宮崎の日南のトンネル現場(試行工事の対象)、9/13は熊本阿蘇の現場群の視察(トンネルの試行工事もあり)を予定しており、非常に楽しみです。


場と、自身の営み

2017-08-20 08:42:36 | 人生論

約4ヵ月ぶりに鞆に来ました。5年半近い鞆との関わりですが、これまでの中で一番長いブランクだったかもしれません。今は、鞆から帰宅する新幹線の中です。

鞆に来ると、いつも自身を客観的に見つめ直すことができます。「独立確保」なのでしょうか。今回も「大衆化」しかかっていた自身をぐいっと「非大衆」に引き戻すことができました。自分の大好きな方々と語り合うことが本当に大事なのですね。

私も、いくつかの、もしくはいくつもの、「場」を整備することが自分の存在価値となっています。お給料をいただいているのは、大学での場の整備でして、一番分かりやすいのは研究室です。研究室という場を整備することで、人が育っていきます。

何とか社会に貢献したいと思って日々を過ごしていますが、結果的には研究室で多くの学生が育っていったことが、私の人生における一番の社会貢献になるのだろうな、と今の時点では感じています。もちろん、コンクリートの専門家なので、コンクリート構造物を通して社会へ貢献したいし、少しはできると思いますが、私の本質的な貢献は教育であろうと思います。

場を整備するために、日々、ありとあらゆる努力を重ねます。進むべき方向は明確なので、少しでもそちらに向かうよう、大小の無数の努力を重ねます。自身の主戦場としての研究室の整備を始めて14年が経過しましたが、場は少しずつですが成長を続けてきました。

「場」があって初めて人は活動ができるし、育てていただくことができます。インフラ、です。

場のありがたさは、現役の学生たちも感じているでしょうし、卒業したOBOGも感じていることかと思います。

私たちの研究室を一言で表せば、自由です。鞆の浦で研究させていただいていることが自由の象徴かと思います。これだけ自由に研究、教育をさせていただく場、チャンスをいただいていることに私を含め構成員一同が感謝し、努力すべきと思います。

学生たちが育つこと、そして育った方々が社会をしっかりと支えていくこと、それが一番大切なことですが、おまけに私もこの場で育てていただいています。育てていただいたからには少しでも社会に貢献する必要があります。

研究室、という場が主戦場ですが、ここを基盤に様々な他の場の創出にも乗り出すことが可能となります。それこそ無数の場が拡がってきています。そして、それぞれの全ての場で人が育っていきます。それらの場の整備、改善にも関わらせていただけるということは、本当に恵まれているということを再認識しました。当然ですが、責任が伴います。

場があって、自身の営みが初めて可能となる。そして、自身の、そして周囲の方々と連携しての日々の営みがあって初めて場が成立する。循環です。

場と自身との循環。社会基盤と人間社会の循環。国土と国民の循環。

私が心から尊敬する羽田冨美江さんと昨夜もお話し、夕食も羽田ご夫妻と、私の学生二人(鞆研究の昨年担当の石橋さん、今年担当の平塚君)と、もはや教え子となってしまった福山私立大学OBの鷲野君と6人で語り合いました。羽田さんの地域共生の実践を今回も目の当たりにし、この方のすごさに今回も震撼しました。私も実践を信条とする研究者、教育者、技術者のつもりですが、まだまだ甘ちゃんです。私には多くの師匠、同志がいますが、羽田さんも私の最良の師匠であり、同志、親友でもあります。

研究室とともに私にとって最大の主戦場である家族、の大切さも鞆に来ると再認識できます。これから家族の元に帰ります。家族、家庭も、構成員が育つための最重要の場なので、父親としての(夫としても)役割を最大限果たすべく、これまた地道な努力です。


全国展開と自分の役割

2017-08-01 10:48:43 | 研究のこと

7月が終わりました。体調管理の難しい時期でもありますが、至らない自分自身と向き合いながら過ごしました。

私にとっては、7月28日(金)に開催された、2016年度の土木学会重点研究課題の「コンクリート構造物の品質・耐久性確保マネジメント研究小委員会」の成果報告会が大きなイベントでした。この委員会の幹事長を務めましたが、軽い任務ではありませんでした。報告書のとりまとめにおいても多くの方々のご協力、ご支援をいただきました。しっかりした報告書が発刊されて、安堵しています。

私も様々な仕事に携わってきましたが、1年間で成果を出さなくてはならない「研究」の委員会ですので、常に現場で実践するフィールド・仲間を産官学協働で培ってきた我々のやり方の真価が問われると思い、私も幹事長として全力を尽くしました。

成果は常に持っておく。求められて成果を作り出すのではなく、常に成果を持った状態で前進し(成果は常に上積みされ)、いつ成果を求められても対応できる状態で任務に当たる。そういう仕事のやり方をこの委員会では実践したつもりです。

成果報告会の数日前に、我々の取組みが全国に展開されるというニュースも入ってきました。

委員会報告書に包含された、品質・耐久性確保のマネジメント的課題に関する座談会(5月8日実施)も、ほとんど読まれないであろう委員会報告書にとどめておくのはもったいない、という声もあって、日経コンストラクションで連載的に紹介されることになりました。

皆が連携してインフラの長寿命化と人財育成を実現していきます。「新設コンクリート革命」の出版を記念してのセミナー(9月5日)も予定されています。その前日の9月4日には、山口県の第11回目の品質確保の講習会も開催され、9月11日の土木学会全国大会の初日の午後(13時~15時)には、研究討論会(パネルディスカッション)として私が司会で「コンクリート構造物の品質・耐久性確保マネジメントシステムの社会実装 -長持ちするインフラづくりと人財育成-」を開催します。

私自身も一人では何もできないことは深く自覚しており、同志の方々との連携があって初めてできる挑戦、実践であり、しかしその中で私自身固有の役割があることもまた自覚しています。

熊本県で私たちの同志が勇気と信念をもって品質確保の取組みを推進している報告も入ってきました。熊本県では着実に展開がなされると思いますので、私たちの最重要フィールドの一つとして全力でバックアップしていきたいと思います。

四国でも熱気が高まっており、冒頭の委員会の地方報告会の第一弾として四国での開催の具体的構想を練る段階に入っています。

7月28日の報告会には、まさに日本全国から、すなわち北は北海道、南は沖縄から熱意を持った参加者に参加いただき、全国展開を形だけに留まらせない同志がすでに全国にいることを私も力強く思いました。

さて、8月に入りました。今日一日は、終日、夏休み中の娘二人と過ごす日ですが、でき得る仕事をしながら子どもとコミュニケーションです。