上野の西洋美術館で松方コレクションの特別展を開催している。暑さにも拘わらず毎日大勢の人が見に来ている。昨日は混雑していたがまあゆっくりと鑑賞できた。この美術館はフランス政府から返還された近代フランス絵画・彫刻等370点を基礎として、1959年に開設された。特にモネの絵画、ロダンの彫刻(『地獄の門』など)がまとまって収集されている。しかし、20数点フランス政府が返還しなかったものもあり、今回の目玉はゴッホの「アルルの寝室」(オルセー美術館)だろう。アルルへ行くと今でもこの寝室は絵と同じようにゴッホの下宿に残されている。
最初、入口には松方がモネのジベルニー邸に直接おもむき交渉して買った睡蓮が出迎えてくれる。
展示は松方がロンドンに滞在していた時に買い付けた作品から始まり、その後パリに行って約800点買った最盛期、北欧訪問時と時代別に展示されている。もちろん圧巻はパリ時代に買った傑作で、モネの雪のアルジャントゥイユ、ポプラ並木、エトルタでの風景画、ゴッホのアルルの寝室、ばら、ゴーガンの扇のある静物(オルセー美術館)、ルノワールの帽子の女、セザンヌの船にて、シスレー、ピサロの風景画、などきら星のごとく、あっという間に時間が経つ。ゴーガンのタヒチへ旅立つ前の傑作が3点あるのも目を引いた。面白かったのは、北九州市立美術館が所有するドガが描いた「マネとマネ夫人像」でマネが夫人の顔部分右端を切り取ってしまいそのまま保存されている。
2次大戦前に買い付けたルノワールのアルジェリア風のパリの女達(ハーレム)が燦然とお色気をかもしだしている。
今回私のお気に入りはモネの「雪のアルジャントゥイユ」と「ラヴァクールのセーヌ川」(個人蔵)の2点。
この特別展、入口に展示されている睡蓮に始まり、終わりはたて2m横4mの大きな「睡蓮、柳の反映」で終わる。最後の絵は上半分が損傷しており、下の部分しか見ることが出来ない。しかし、初めての試みだが、AI技術でモネの色使い、筆運びなど他の作品からデータを取り込み、再現画が横のスクリーンに映し出されている。
松方コレクションは英国での作品は火災消失、フランス政府に押収された松方コレクションの返還交渉は、1951年のサンフランシスコ講和会議の際に、吉田茂首相がフランスの外務大臣に要求し、返還されることが決まり、世界遺産となったコルビュジエ設計の西洋美術館で体裁を整え、1959年に成った。モネの絵一つでも40億円台、どのくらい価値があるか判らない我が国の至宝といえよう。