まったり まぎぃ

愉快な仲間たちの事、日常生活で思う事、好きな事あれこれ。

雑文 砂山

2005-04-30 16:05:25 | 雑文
あれは何歳の私だったのか。小さな、せいぜい5m位の砂山の上で、あちこち掘っては時折遠くを見る、そんな動作を繰り返していたのは。
視線の先には、グランドを駆け回る白いスポーツシャツの父が居た。ボールを打っては捕り、投げては打つ、草野球に興じる父が居た。
私のそばには、ひたすら砂を掘り返す小さな弟が居た。弟は私の様に父を探す事も無く、ただ自分の興味のままに足元を掘り返していた。
暑い日だった。早く迎えに来てくれないかと私は幾分砂遊びにも飽きていた。しかし、ゲームはなかなか終わりそうになかった。父も私達の方を気にかける様子は無かった。
もしかしたら父は私達の事を忘れてしまったんじゃないか、このまま一生この砂山の上で弟と二人過ごす事になるんじゃないだろうか。幼い私には、とてつもなく恐ろしい現実として、その情景が思い描かれていた。
泣きたくなって来ていた。何の不安も無く遊んでいる弟に無償に腹が立ってきた。
不安を打ち消すために、弟に対するちょっとした意地悪をするために、砂山から降りて、近くの松林に入った。散策するうちに不安も意地悪心も消えていた。その時、遠くから弟の泣き声が聞こえてきた。
「あ!泣かせてしまった。」
怒っている母の顔が目に浮かんだ。弟を泣かせると決まって私がしかられた。
あせって弟の所へ戻ると、そこには父が居た。弟を抱き上げて私の方を見た。
「どこ行っとったん?」
汗が光る顔で心配そうに言った。
私はとっさに思い浮かぶ言葉も無く、ただ黙って父の顔を見た。しかられると言う怯えと、やっと父が迎えに来たと言う嬉しさとがない交ぜになっていた。
「そろそろ帰ろか。待たせたな。」
叱られないと言う事がわかって、ほっとしたとたん、鼻の頭がじん・・・とした。
弟を抱いた反対の手で私の手を取った。嬉しかった。もう、この砂山で待たなくて良いんだ。堰を切ったように父に向かっておしゃべりを始めた私は、うんうんと頷きながら歩く父を時折見上げた。何度も見上げた。
車に乗り込む時、ふと砂山を振り返った。あの砂山も遊び場としてはなかなか面白かったと思った。また来てもいいな、とも、その時初めて思えた。
コメント
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