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本好き人の365日

十二月の本棚 2 『アンをめぐる人々』

2007-12-24 19:04:00 | モンゴメリ

「崇拝者」って言葉を恋人たちの間の言葉として初めて読んだのは、村岡花子さんの翻訳された『赤毛のアン』シリーズの中ででした☆

「求婚者」ってうより断然「崇拝者」っていう方が、アン・シリーズの中に出てくる女性たちには似合います♪

40歳の誕生日をむかえ、今までの人生で一度も「崇拝者」を待ったことがない”かわいそうな”シャーロット。

さて今回ご紹介するのは、『赤毛のアン』の作者、ルーシー・モード・モンゴメリが、アンの舞台アヴォンリーに住む人々を主人公にして描いた短編集。

『アンをめぐる人々』です☆

その中でも私のお気に入りの一編、『偶然の一致』を取り上げます♪

私はどうして誰とも恋におちないのか、ちっとも不器量ではないのに…

子どもの頃からずっとアヴォンリーで暮らすシャーロットはいわゆる「オールド・ミス」。

でもシャーロット自身は、自分が結婚していないことについて、実はそんなに気に病んだりはしていません。

ただ一人も「崇拝者」があらわれなかったという事実だけは、時たまチクチク彼女の胸を刺します。

オールド・ミスを憐れむ村の人々。

シャーロットが何より嫌なのは、昔かたぎのこの人々に”かわいそう”なんて目で見られること。

「酔いどれの亭主を持つ」アデラ・ギルバートにまで憐れみの目で見られ、憤慨したシャーロットは、

「私だって(あんたのように)男心をそそろうとばかりしていたら…」

なんてついつい皮肉の一言も言いたくなりますが、すぐに「まあまあ、そんなことは考えてはならない」と自分で自分を落ち着かせます。

こういう人間味のある女性を書かせたら、モンゴメリにかなう人はいませんね♪

主人公だからって聖人君主なわけじゃない!

でもこのシャーロット。
本人が言うように、決して不器量というわけではなく、生活もきちんとしているし、思いつく時にそっと一人で詩を書いて喜びを感じるなど、感受性も豊かな女性。

豊かすぎていろいろ考えてしまい、ちょっと他人に対する評価が厳しいところもあるにはありますが☆

村の女性が集る「お針の会」。

夫や子どもたちの話ばかりの既婚女性に、ひとかたまりになって自分の「崇拝者」の話しをする三十娘たち。
若い娘たちは相変わらず騒がしいし、シャーロットと立場の同じオールド・ミスの連中は何かと言えば人のウワサばかり。

そんな村の女性たちに囲まれて、シャーロットはせっせと針を持つ手を動かしていました。

その家の敷居にからむバラを眺め、美しい想像に思いをめぐらせながら…

そんな時。

自分たちの話を聞いて微笑んでいると思った崇拝者の話をしていた一団から(実際は自分の空想に思わず微笑んでしまったのですが)「崇拝者をお持ちになったことがあんなすって、ホームズ(シャーロット)さん?」と聞かれたシャーロット。

その時。
運命のいたずらか神の奇跡か、シャーロットは思わずこう言ってしまうのです。

「ええ、一度だけありますよ」

ウソだ~~~~~!!

重ねて言いますが、シャーロットは生まれてから一度も「崇拝者」なんて持ったことはありません!

でもその場の勢い。
つい「持ったことがない」と言いたくないばっかりに、普段はウソなんて心底きらいなシャーロットが、一世一代の口からでまかせをすらすらと言ってしまうのです。

もちろん、シャーロットのことはおろか、村での出来事なら本人以上に詳しい年配の女性たちはあやしむし、知りたがり屋の若い連中は根ほり葉ほりシャーロットに質問の嵐!

シャーロットはその場にあった雑誌からその「崇拝者」の名前を作りだし、なぜ結婚しなかったのか、その悲恋の様子を語って聞かせます。

多少の罪悪感はあるものの、もともと空想好きなシャーロット、みんなの注目をあびることにもちょっと得意な様子。

しかし、神さまはちゃんと見ていたんでしょう。
ウソをついた女にとんでもない事態が降りかかります。

その「お針の会」から数日後。

また別の家での集まりで、シャーロットはホントにとんでもないことを聞かされるのです。

あの、彼女が作り上げた架空の「崇拝者」が、なんとこのアヴォンリーに来ているというのです!!

「そんなことはありえないわ!」

思わず叫ぶシャーロット。そりゃそうだろう☆

でも、その人物は本当に実在しました。

その日から、彼に会わないよう、教会にも行かず、招待も断わり続け、家に引きこもるシャーロット。

会ってしまえばウソがバレてしまいます。

それをまた村の人々は、シャーロットが昔の恋人を避けているのだと勘違い☆

でもいつかみんなの前で本当のことを話さなければならない…

根が真面目でちょっと勝気なシャーロットがオタオタする様が、本人には気の毒だけれど、読んでいてちょっと楽しい♪

そして偶然が偶然を呼び、訪れる最後の審判の日。

モンゴメリがその筆の力でどんなラストシーンを用意するのか。

もちろん素敵なロマンスも忘れない彼女の魅力はここでも健在です♪

『赤毛のアン』の主人公、アン・シャーリーはこのお話では登場しませんが、他にも魅力あふれるお話が、この短編集の中には収められています。

そのどれにも、アヴァンリーの人々が登場し、「アン」の「腹心の友」のみなさんはもちろん、それ以外の方々にもきっと楽しいで頂ける作品ばかりだと思います。

シャーロットのウソがどんな結末を迎えるのか?

たくさんの人に読んでもらいたい作品です☆








ルーシー・モード・モンゴメリ  著
村岡 花子  訳
新潮文庫





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