祖母が亡くなる前日、一冊の本を読み終えました。
梨木香歩の『西の魔女が死んだ』です。
中学生の”まい”が、ママのママ、大好きなおばあちゃんの元で過ごす、ひと月あまりの物語。
「西の魔女」こと、英国人のおばあちゃんから、魔女修行を受けるまい。
魔女修行で大切なことは、「何でも自分で決める」ということ。
文章の雰囲気がとっても良くて、自然と共に暮らし、自然体で生きる、このおばあちゃんの優しさが、こちらにも伝わってくるかのようです。
題名からもわかる通り、「死」と向き合うことになるまい。
彼女の心を包んでいた繭が溶け、成長していく姿は、感動と共に共感を強く胸の奥に湧き上がらせてくれます。
読み終わった次の日。
まさか自分の祖母が亡くなるとは思いませんでした。
冷たくなっていく体を見つめ、八十年以上、祖母の体として動きまわってくれたことをありがたく思いながら、もうここには祖母はいないんだ、と実感しました。
人は死んだらどうなるのでしょう?
病室の陰、ろうそくの炎、ゆれる煙の中に、祖母の「サイン」を目で探してしまう自分がいました。
でもきっと、好奇心旺盛な彼女のこと、自分の葬式の様子を眺めながら、人の着ている着物や帯、履物などの品定めをしたり、娘や孫達が、きちんと悲しんでいるかどうかを見てまわったり、落ち着かなくフラフラしているに違いないんです。
「葬式の時ぐらい、しおらしくしていてくれよ」
と心の中でいつものように話しかけたりして。
死んでしまった後でも、つい習慣で心配してしまいます。
祖母が亡くなった時、心に浮かんだのはこの本ともう一冊。
吉本ばななの『キッチン』でした。
祖母の末娘といっしょに、よく世話をしてくれたその友達という人がいたのですが、出棺の折、その人が泣き崩れるのを見て、自分にこの人程の感情がないのはどうしてだろうと、『キッチン』の主人公みかげが感じたのと同じ感慨を受けました。
確かに悲しいのですが、半面、おばあちゃんの存在の気配が、消えてしまったという感じはなくて、不安は感じないのです。
こんなこと、ただの感傷だと思われるかもしれませんが、おばあちゃんは、生きていた時よりも、私の気持ちをわかってくれている。
言葉にすることはできないけれど、感情なんかでは表せないけれど、もっとダイレクトに伝わっているはず。
そうだよね、おばあちゃん。
返事なんかもちろんありません。
肉親を失ったことでの一時的な気分なのかも知れません。
現実逃避? それもいいでしょう。
だから私は私に返事をします。
本当は地元の言葉なんでしょうが、ここは『西の魔女…』の中のプロの言葉をおかりして。
まいとおばあさんのこの言葉が、今の私にはピッタリなものですから…
「おばあちゃん、大好き」
『アイ・ノウ』
梨木 香歩 著
新潮文庫
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