私的図書館

本好き人の365日

七月の本棚 3 『女生徒』

2007-07-31 23:32:00 | 本と日常
朝起きて、考えたことを、あなたは覚えていますか?

コロコロと気分が変わるように、頭の中もコロコロと変わる。

そんな女子学生の心の内を、あの文豪、太宰治が女子学生の語り口で書いた小説があります。


…私は、王子さまのいないシンデレラ姫。あたし、東京のどこにいるか、ごぞんじですか?


足の不自由な犬にカア(可哀想な犬だからカア)と名前を付け、その目の前でもう一匹の犬を可愛がり(こちらは白くて毛並みも美しい)、カアなんて死んでしまえばいい、醜いお前は生きてさえいけないのだ…

とわざと意地悪をし、その自分の行為に涙する。(涙は出ないのだけれど…)

今回ご紹介するのは、39歳目前でこの世を去った作家、太宰治が29歳の時に発表した作品、*(キラキラ)*『女生徒』*(キラキラ)*です。

高校生の頃。
SFやファンタジー、サンデーやジャンプばかり読んでいた私は、教科書に載っていたこの作品を読んで、いっぺんで太宰ファンになってしまいました♪

教科書に載っているような作家なんて、どうせ堅苦しいものを、もったいぶって書いているに違いない、そう思っていたのに、この作品はぜんぜんそんなことない☆

独白体というらしいですが、一人の少女の視点で一日の様子が語られます。

朝起きて、身支度し、掃除をして朝食にキュウリを食べる。

電車に乗って学校に行き、帰って来て母親のお客のために食事の用意し、お風呂に入ってから庭に出て、亡くなった父のことを少し思う。

それから母親の肩をもんであげ、洗濯をして、同じ空の下、同じように洗濯しているであろう、パリの裏町に住む、同じ年の女の子に思いを馳せ、寝床に入る。

事件らしい事件も起きない。
恋も始まらない。
悲劇もない。

それでも、とっても魅力的な少女の一日♪

朝は犬のカアに意地悪をしたり。

電車の中ではサラリーマンや子供を背負ったおばさんを、ほんとうに嫌だと思ったり。

「死んだ妹を、思い出す」なんて言う伊藤先生にゲッとなりそうになったり。

そのくせ、夕焼けの空を見て、涙が出そうなほど「みんなを愛したい」と思ったり。

大人になっていく自分をいたたまれない気持でながめ、いつまでも子どもでいられないことを悲しく思ったり。

庭の草取り。
神社の森で見た麦の穂。
新しい下着に刺繍した小さい薔薇の花。

現代の小説にも負けないくらいあっけらかんとした、それでいて共感してしまう文章☆

文豪だなんてダマされてはいけません。

とってもとっつきやすく、読んでいて楽しくなってしまいました♪

「美しく生きたい」、なんてしおらしく思った矢先に、もう「美しさに内容なんてあってたまるものか」とロココに憧れ、美しさは「無意味で」「無道徳」だと決め付け、だから私はロココが好きだ、と宣言する。

ウキウキしたかと思うと、お米をといでいるうちに悲しくなったり。

本当、一日のうちで気分も考えもコロコロ変わる♪♪

太宰治と聞いて、ちょっと敬遠してしまう人もいるかも知れません。

教科書に載っている写真なんか、いかにも”文豪”という感じで、あれを見るとやっぱりとっつきにくいかも。

でも、太宰治なんて、聞いた話によると、写真を撮られる時、自分でポーズを作って、わざと、あんな感じに写っていたらしいです。

そう、イメージ戦略なんです、あの写真。

なかなか文豪も油断できませんよ。

しかし、さすがは文豪、とにかく人間をよく見ている。
もう他にすることがないんじゃないかというくらい、人間を見て、人間について考えてないと、たどりつけないものを感じました。

初めて太宰治に挑戦!
という方にはもってこいかも知れません。

どうです、この夏、日本の文豪に挑戦してみては?

きっと、新しい発見があると思いますよ♪






お庭をカアの歩く足音がする…
カアは、可哀想。けさは、意地悪してやったけれど、あすは、かわいがってあげます。











太宰 治  著
角川文庫



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